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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外250 遊撃部隊の噂

「――身体を固定するものがない場合、しっかりと床に座っているようにお願いします」

 シオンが伝声管を使って艦内アナウンスが行う。

「乗っているみんなの様子は?」
「落ち着いてるように見える」
「少し、窮屈そう……。だけど……みんなちゃんと座ってる」

 マルセスカとシグリッタが水晶板モニターを見回して教えてくれる。
 良し。では、そういうことなら問題ないだろう。

「それじゃあアルファ、なるべく揺らさないように行こうか」

 操船席に座るのは俺だ。できるだけ急ぎながら乗っている援軍の将兵らに負担をかけないように、それから、積み込んだ荷物が崩れないようにしなければならない。
 俺の言葉に、アルファは操船席の隣に座ったままに静かに尻尾を振っている。いつでも行ける、というわけだ。

 では、出発といこう。伝声管で再度アナウンスを行い、シリウス号をゆっくりと浮上させながら北の前線へと針路を取る。荷物も人員も満載で、浮遊炉への負担もその分大きくなる。
代わりに高度を低めに設定にすることで負担を軽減。光魔法と風魔法のフィールドを纏って迷彩を施しつつ、緩やかな加速度で目的地へと進んでいく。

「こんなところかな」

 十分に加速したところでそのまま速度と針路を維持し、集中を解いて顔を上げる。

「ホウシンは既にショウエンの陣営と何度か交戦していると聞いておるが」

 と、御前が首を傾げる。

「これから向かう先の砦と一帯は……一度ショウエンの侵攻で奪われ、それをまたホウシン殿が反攻で押し戻し、奪い返したという形ですね。そこから、睨み合いが続いている状態です」

 御前の質問にセイランが答える。

「儂らが集めた情報ではな。ショウエンの侵攻前に盗賊団が暴れおったそうじゃ。霧の夜に盗賊団が村を襲い、火を放ったので、そこから逃げてきた民達が都市部に駆け込み……都市と砦から討伐のための派兵が行われたのに合わせて敵軍が動いたというわけじゃな」
「それは……どう考えてもその盗賊が正規軍の別働隊ですね」

 ゲンライの言葉に、アカネが眉を潜めた。
「陽動のために村を焼くとは……」

 ユラが目を閉じてかぶりを振る。そうだな……。手段を選ばないにも程がある。水晶板モニターの向こうにいるホウシンに目を向けると、寧ろ静かに言った。

『盗賊団を取り逃がしてしまったために結局のところ証拠がありませんからな。盗賊に襲われた際に焼け出されただけで領民から死者が出なかったのは幸いですが……。これは敵の作戦ではあるのでしょうな』

 作戦。敢えて近隣に逃げ込ませるために、だな。死者を出さないようにした、というのは良心が咎めたからなどではなく、村を使い物にならないようにして、焼け出された民を庇護させることで更に負担を強いる作戦だ。
 そういった裏事情が見え隠れする上に、混乱があったとはいえホウシン旗下の訓練された軍勢から首尾よく逃げおおせるあたり、単なる盗賊団ということはあるまい。

「確か……ゲンライ殿のお弟子さん達の調査では、ショウエンが盗賊団を動かしてあちこちで混乱を招いているのでは、というお話でしたね」

 グレイスが尋ねると、ゲンライはそれを受けて答える。

「話を総合してみると、そう推測する理由がいくつかあってのう。これを少し借りてもよいかの?」
「どうぞ」

 チェスの駒を示すゲンライに頷く。
 テーブルの上の地図に――ゲンライはチェスの駒を置いていく。それは、各地の陣営に跨ってのものであった。
 それは――ショウエンが禅譲を受けて以後、各地で起こった盗賊襲撃事件の発生地であるらしい。

「各地で現れた盗賊の手口に、共通している部分が見られるのじゃな。襲う対象が輸送隊や農村等違いはあれど、突然現れて物資を略奪、いずこかへ去る。頭目と見られる人物も目撃証言を集めると同じなのではないかと見ておる。それと、盗賊団襲撃の発生時期にズレがあってのう……」

 各陣営に跨って、ショウエンに対抗するために動いていたゲンライ達だからこそ気付けたこと、だな。

「以上のことから、ショウエン配下の遊撃部隊のようなものが各地を転戦しているのではないかと、私達は推測したのだが……サイロウの黒旗のような宝貝があるとなると、少し考え方を変えた方が良いのかも知れないな」

 カイ王子が思案しながら言った。

「あの黒旗と同じように、その場に手勢を呼び出すような宝貝がある、可能性でしょうかね」
「そう。それを危惧している」
「その可能性は高いでござるな。盗賊団がここまで上手く逃げおおせているという事実を考えれば、戦力を出したり消したりできるのではないでござろうか」

 黒旗から呼び出せるのは魔獣なので同一の宝貝、ということはあるまい。副官の使っていたキョウシを収納していた、あの宝貝は……逆に規模が小さい。手札があるのなら出し惜しみしなかっただろうし。
 ともかく、北西部の襲撃は妖魔に見せかけるため。こちらは盗賊風に振る舞って生存者を残す事で負担を増やす戦略。適材適所の人材配置をしている、ということになる。

「そういった遊撃部隊については、我らは知らされておりません」

 ゴリョウ達が言う。ふむ。ショウエンはゴリョウ達の集めてきた情報を活用する側だから、情報を密偵に渡す意味がない、と見ているのだろう。

「サイロウ達に聞くのが一番手っ取り早いでしょうね」
「……それだけ具体的な事情が、分かっているなら……たとえ、心身を鍛えた者であれ、心の表層に現れる……だろう」

 ローズマリーの言葉に、サトリが心得ているというように頷いた。

「上手く情報が拾えれば、各地を移動している時に発見出来るかも知れないな」
「ん。目撃者の証言があるなら似顔絵も作れる、はず」

 シーラが言う。ああ。盗賊ギルドの似顔絵職人に協力してもらうか。それもありだな。物資積み込みはゴーレムのお陰で短縮できているし……。移動中のどこかのタイミングでタームウィルズと水晶板モニターでやり取りをすると言うのが良さそうだ。
 日程は決まっているが、どうせ各地を回るのだ。盗賊団こと遊撃部隊の動向は気にかけておくとしよう。頭数をその場に呼び出せる、黒旗系の宝貝を持っているというのなら、やはりショウエンと戦う前に潰しておきたい部分はあるしな。

 そんな話をしている間に、目的地が近付いてくる。先程の話にあった砦が真正面。右手方向に目を向ければ……焼け落ちた農村らしき廃墟も遠くに見えている。
 ああいう光景に……色々思うところはあるが、まずは兵員と物資の輸送の仕事を完了させてくるとしよう。



 砦は――対岸が見えない程大きな河を望む崖の上に作られていた。下流付近に都市部があるらしい。
 要するに河を挟んで向こう側がショウエンの支配域。こちら側がホウシンの治める土地、ということになる。

 攻略しにくい砦の地形と都市部とで侵攻に対応する、都市に攻撃があった場合、上流から河を下ったり、陸地を通ったりして、都市に侵攻してきた敵を挟撃できる拠点となる、というわけだ。逆に砦が攻められた場合も、都市部からの出撃が行われる、というわけだ。

 シリウス号も目的の場所に到着したので緩やかに速度を落とし――。
 まずは将兵達の主だった者を連れて砦へ向かう。
 ホウシンからの書状等々を渡し、物資と増員を連れてきたことを現場の責任者に伝えてからシリウス号を横づけする、ということになる。

 すでに砦を守る将軍にはシリウス号についての通達もいっているそうだからな。
 後は……念のためだ。物資を降ろしている間、時間が許す限り、砦の修繕であるとか敵が放棄していった時に何かしら術による罠などが残っていないか調べておくことにしよう。
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