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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外246 迷宮核と日程と

「――では、その一件については順に解決しにお伺いします」
『かたじけない』

 ガクスイ達、各陣営の太守達と水晶板モニター越しに会話をして予定を立てていく。
 具体的には兵站に関する問題をまとめて解決してしまおう、というわけだ。前線の後方への物資や人員の輸送等々、迅速な兵力展開を行いつつ、逆にショウエンの兵力展開は陰から兵站周りの邪魔をして回る、と。例えば――川が増水して輸送が滞ったりだとか。

「これで、一通りの問題は出尽くした感じでしょうか?」

 箇条書きにしてみると案外少ないな。

『問題ありませんぞ。元々準備を進めていた部分もありますので、シリウス号が無ければ間に合わない、という問題は意外と少ないものでしてな。そこに増強と加速をして頂けるのですから』
『ガクスイ殿に同じく。他の些末な問題は、こちらで動いて解決できる範囲。試算した上で余裕を持たせていますからな』
『我らは都市部の守りがありますからな。懸念は解決しているのでいつでも動けますぞ』
『我らの兵も既にシガ殿と共におります。後方の食糧、物資備蓄に関しては――まだ解放できる余裕も幾分かはありますな』

 モニター越しに居並ぶ太守達からそれぞれから返答がある。では、こちらの行うべき仕事は大体決まったと言える。物資や人員、積み下ろし等々の時間も考えてスケジュールを組んで予定を伝えることになるが……まあ、許容範囲ではあるだろう。

「では、予定が組み終わったらお知らせします」
『我らはシリウス号の訪問に合わせて動く、ということですな』
「そうなります。予定については――そう。明日の朝にでもお伝えできる形にしておきましょう」

 ガクスイの言葉に頷いて答えると、太守達が目を丸くした。

『明日の朝には予定が組み終わってしまう、と?』
「そういった予定を組むにしても補助の手段があるのです」
『な、なるほど……』

 スウタイが目を丸くする。
 具体的には迷宮核の事だ。時差の関係でこちらの時間では深夜に転移魔法でサイロウ達を送る必要があるわけだが……俺もその際、少しタームウィルズに行って迷宮核に補助をしてもらい、シミュレートをした上で無理のない予定を組んでしまおうというわけである。

 物資の積み込み等の所要時間に関しては、シリウス号であちこち動いたり、ベリオンドーラ迎撃のために色々動いていた経験上から、規模等々からおおよその試算をするのも難しくはない。
 対魔人戦用として作りに作ったポーションとマジックポーションの在庫もまだあったりするしな。これらも活用してフル稼働だ。

「では、それが終われば――」

 カイ王子が表情を引き締める。

「はい。決行の日を決めて動くとしましょう」

 味方には支援。敵には妨害と攪乱。そうしてショウエンが迂闊に開戦できないようにパワーバランスを微調整しながら、期間内に可能な限りこちらの陣営に有利な状況を整え――その後に俺達と4太守が同時に動く、ということになる。

 そう……。パワーバランスだ。古今東西、戦力が不均衡になった場所に戦いは生まれる。
 敵とて斥候は放つだろうが、攻めて勝てない兵力が敵拠点に結集しているのなら、どうするか。それでも攻めようと考えるのなら、対抗できる兵力が後方から結集できるまで守りを固めた方が良い、と考えるだろう。つまり敵の兵力を引きつけつつ開戦を引き延ばす事が出来る、というわけだ。

「してみると、今の状況でサイロウ達を押さえられたのは大きいのう」

 ゲンライがにやりと笑う

「サイロウが敗北している可能性を考慮すると、下手に側近を動かすと各個撃破される可能性も視野に入りますからね」

 出奔したのか敗北したのか。確信に至る材料はないが、サイロウと副官が帰ってこないとなればショウエンとて側近達を動かすのも慎重にならざるを得ない。
 サイロウの破壊工作のやり方から考えても、なるべく自分の正体を隠しておきたいとショウエンは考えているのは間違いない。だからもう少し追い詰められない限り堂々と自分達の正体を現して矢面に立っての攻勢に出てくる可能性は低い。

 勿論楽観視は禁物で、相手が側近を送り込んで状況を崩そうとしてくるという事態も想定しておくべきだ。
 しかし転移魔法での移動を可能にし、各陣営との連絡手段を構築しておけば……どこに側近が現れても各個撃破が可能になる。そのためにも各陣営と渡りをつけて、信用できることを互いに確認する必要があった。だから、そのための下準備はもうできていると言っても良い。

『――では、ここからは連絡を緊密にして情報を共有していく、ということで』
「はい。よろしくお願いします」

 そうしてその他諸々の手順等々、作戦を確認し合ったところで頷き合い、香鶴楼における通信での太守会議は無事に終わったのであった。

「いや、無事に纏まって良かった」
「カイ殿下が決意を表明したことで、殿下に協力してショウエンを打倒する、という共通した目的と理念が生まれているからでしょう。太守達同士がショウエン打倒後の事を気にして、利害関係で牽制し合う必要も薄くなったわけですし」

 そうカイ王子に言うと、だとすれば役に立てたようで嬉しい、と穏やかな表情で頷いていた。



「では、飛ぶわ」

 クラウディアの言葉と共に光の柱に包まれる。
 梱包したサイロウを引き渡し、スケジュールを組むために通信機で連絡を入れ……向こうの準備が整うのを待ってから転移魔法でクラウディアと共に転移魔法でタームウィルズに飛ぶ。
 あちらは夜だがこちらは朝だ。ただ、迷宮入口に飛んだために陽光の眩しさに顔をしかめるという事もなかった。

「おお、テオドール。戻ったか。ショウエンの側近との戦いがあったようだが、怪我がなさそうで何よりだ」
「はい。陛下。この通りです」
「やあ、こんばんは、テオ君」
「うん。おはよう、アル」

 迷宮入口にはメルヴィン王とアルフレッドが迎えに顔を出しに来てくれたようだ。アルフレッドは時差がある事が分かっているので妙な挨拶を交わす結果になったが。
 護衛と輸送役として、騎士団のミルドレッドとメルセディア、チェスターも来ている。
 サイロウ達を引き取るため、ということか。封印術はかかっているが、梱包を解けば封印術も時間経過で解除されてしまうからな。それを防ぐために隷属魔法をかけて半永久的に術等々の行使を封じてしまおうというわけである。

 というわけでサイロウ達をミルドレッドに引き渡す。

「では、この者達は確かに預かりました」
「はい。よろしくお願いします」

 騎士団も梱包された相手を輸送するのは手慣れたもので、十分な人数を以って、手早くも慎重に連中を運んで行った。

 うん。後は任せておけばいいだろう。梱包されている間は眠り続けて封印術も維持され、魔力も消費される仕様だし。梱包が何かの拍子に解けたとしてもそれらの術の効果が切れるまでには十分に時間的な余裕があるからな。隷属魔法をかけておつりが来る。

 さて……。それでは迷宮核へ向かい、仕事をこなしてしまうとしよう。



 満点の星空が周囲に広がる――天も地もない術式の海――。
 深奥の迷宮核内部に一人、浮かぶように佇む。ここの雰囲気は独特ではあるが、相変わらずだ。前回訪れた時のままで異常もないようである。

 軽く手を横に振るうと様々なデータが空中に浮かぶ。
 地理関係、シリウス号の移動速度、輸送や妨害工作等の活動。それらを元に要する時間の見積もり。更に個々の仕事に重要度を割り振る。
 これらを並べ替えて、できる限り最適化、効率化されたスケジュールを組むのに迷宮核を利用させてもらおう、というわけだ。まあ、仕事の補助としてPCを使わせてもらうようなものか。

 迷宮核自体がある程度こちらの意図を組んでくれるので、比較検討等も手伝ってくれるし、必要なデータが目に見え、所用時間等の計算もやってくれるので作業効率が段違いなのだ。

 勿論予定は予定。アクシデントや遅延があっても対応できるよう、まずは重要度の高い仕事のみはこなせるように、骨組みとして大体の順番を決めてしまう。
 それからその合間合間に優先度の高い順に仕事を割り振っていく、といった感じだ。余裕がなさ過ぎても戦いの前に消耗してしまうし、ある程度のゆとりを持たせて休息時間等々も組み込んで考えていく。

 そうして暫くデータが俺の周囲を乱舞していたが――やがてかなり納得のいく形に落ち着いた。しばらく出来上がったスケジュールの雛形を見て無理や破綻がないかチェックする。実際にスケジュールに従って動いた場合どうなるかもシミュレート。

 ふむ。これなら……4人の太守達も、シリウス号の動きに合わせての準備等々も無理がないし、俺達の負担も軽減されるはずだ。これらのスケジュールは太守達にも伝えておこう。
いつも拙作をお読みいただき、誠にありがとうございます!

とうとう連載開始から1000話の大台に乗せる事ができました!

振り返ってみれば長いようで短くも感じます。
ここまで連載を続けて来れたのも、ひとえに読者の皆様の閲覧、感想、ポイント等々の暖かい応援に
原動力を頂いたからこそだと思っております。改めてお礼申し上げます!

更に1000回を迎える記念ということで、
本話掲載と同時に、活動報告にて記念SSを掲載する予定でおります。
割とゆるめな内容ではありますので、
そちらもあわせて気軽に楽しんでいただけたら嬉しく思います!

今後ともウェブ版、書籍版共々頑張っていきたいと思っておりますので、よろしくお願い致します。
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