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ゴッド・アイズ《水晶の剣》
作:月島愛夜



04.森で 弐


 「お前も、変わり者だね」
神楽が、少し驚きながら、白夜にそういうと、白夜は苦笑する。
「お互いにな。それより、なんであんな顔してたんだ?」
白夜はなれなれしいなとも思ったが、なんだか人ではない、ということが負担ではなく、逆に話しやすく感じる。
「いや、ちょっと・・・」
「なにかあったのか?当主になりたくなかったとか」
「・・なぜ分かる」
白夜は当たったの、と首をかしげる。
「まあ、無理やりされたっていうか」
「なりたくなかったのか。俺だったらなりたいなって思うけどねえ」
 そりゃあ、普通は思うだろうけど。それだけの実力があったのならば。
「俺は、お前が神宮の当主でいいと思うけど。なんか、前のおっさんは気に喰わないし」
神楽はその言葉に疑問を感じる。
「おっさんって・・叔父さん知ってるの」
あっけらかんと白夜はそうだけど、というので、こんな悪の類のものでも、知っているのだと関心、いや、驚く。
「ああ。あいつはやな奴だよ、なんせ、俺の嫌いな奴に媚売ってたからな。それが気に食わなかった」
 叔父さんが媚を売っていた相手なんていたのか。しかも、あの自己中心的な叔父さんが、媚を売るなんて驚きものだ。
「誰、それ」
聞いてみると、白夜は黙る。聞いているのか、それとも無視しているのか分からないが、言いたくないことなのかもしれないと、神楽は話題を変える。
「あのさ、白夜さんは何族なの」
 唐突すぎるかと思ったが、白夜は笑顔で答えてくれた。
「俺?俺は・・・さあ。まあ、悪鬼の類ではあるけどね」
 やはり、と神楽は笑った。


「んでさ、その首飾り、何?」
白夜は指を指してそう問う。
 「これは・・・」
つい答えようとしてしまい、神楽は口をきつく閉める。おもわず悪鬼の類に話すところだった。
「なんだよ、答えてくれよ。別にいいじゃねえか、これぐらい」
 だだを捏ねるように白夜は神楽を見つめる。どうもこの悪鬼にみつめられると苦しくなる。それと同時に、別にいいかという安易な考えが脳を横切る。
「・・これは儀式の時に貰う奴。神宮に伝わる巻物と一緒にもらうんだ。当主の印、みたいな感じかな」
 なぜか神楽は話していた。わかってる、この男が敵の一種だってことぐらい。
「へえ。それでその巻物って何」
 今度は巻物の方に興味が湧いたらしく、白夜は先ほどよりも顔を綻ばせて、安心しきっているような顔をする。今なら、あまり剣術が得意ではない神楽でも、倒せるのではないかと思うほどだ。
 「・・・巻物・・は、俺達にしか解読できないように書いてる呪文みたいなもの」
あまり詳しくは答えないようにする。この次の質問が、とても予想できるものだったから。
「どんな事が書いてるの」
やっぱり、とため息をつく。この悪鬼、本当に自分が神宮の人間、すなわち神に仕える一族だと言うことが分かっているのだろうか。悪鬼ならさっさと殺すだろうから。
 別に殺して欲しいわけでもないが、殺さないことに疑問を感じる。
 「あのね、俺が神宮だって分かってる?白夜さんとは敵なのかも知れないよ。いや、本当に敵なんだから。もし俺がここで刺したらどうするの」
 白夜はきょとんとし、目を大きく開ける。青紫の瞳は、濁りもしなかった。
 殺気などが芽生えたりすると、瞳の色が動く。これは大昔から言われていることだ。だから一応防御するために白夜の瞳を見ていたのだが、まるっきり動かない。
 「だって、そなたは刺さないだろう」
その言葉は、神楽にとって信じられないものだった。本当に、悪鬼なのか。そして、その悪鬼を前にして一度も刺そうともしなかった自分に、はっきり言って呆れる。
 白夜は何も疑おうともしていなかったのだ。確かに殺気も出していなかったけど、悪鬼なら・・。
 その先の言葉を頭に浮かべようとして、やめた。
『悪鬼なら』。この言葉が、妙にこの白夜には似合わない。まるで神楽自身が、この目の前にいるのは悪鬼なのだと認識したいように、自分で唱えていただけだった。
『この男は悪鬼で、俺は人間』。そう、思いたかったのかもしれない。
 神楽は情けなくて、髪をクシャリとつかんでみる。今の自分は情けなく、恥じるべきものだと考えてしまう。白夜は顔色を変えた神楽を、心配そうに見つめながら、声をかけるかかけまいか、迷っていたようだ。
 だが、次の瞬間神楽は顔を上げ、白夜を見る。
 「教えてやるよ・・呪文。どうせ、解けはしないだろうけど」
そうつぶやいて、神楽は語りだした。

「光り輝く元にあり、水晶のごとく透けてみて 中に見えるは宝玉 輝く天の向こうで。水晶の剣持てれば 天を見つめ 仰ぎける。草木植えれば森と成 水汲みければ 海となる。すべては幻か 決めるは天 それは我と成。運命の導き 否か? 青・紫・金。 すべてが木となり根となれば 我は 天となる」

 それは聞いた後の白夜は、まるで意味が分からないと首をかしげた。
それを見た神楽は、少し安心する。
 「なんだよ、今の。巻物に書いてある呪文か。まったく意味が分からない。特に・・セイ・シ・コン?だっけか。あれなんていうんだ?」
 「・・・セイコンっていうんだ。要するに、青と紫と金だよ。この世の中の、人外のものを示しているんだ。これが解読するには、ちょっと技が必要でね、簡単には解読できないようになっている。それだけ、大事なものなんだ・・・」
 このもっている首飾りよりは、遥かに大事。なんたって、この呪文が解けたら、神宮の幻の『あれ』が手に入るのだから。
「難しいな。俺はあまり頭がいい方じゃないからさ。よく分からない」
白夜は黄金の髪を手に絡め、まるでいたずらをした後の子供のような顔をした。
 「それに、大事なんだったら、俺なんかに見せてよかったのか」
 神楽は少し肩を震わせる。なぜこんなに簡単に喋っているのかは知らない。自分でも分からない。

「俺が決めたことだ。別に・・・誰に・・なんといわれようと、俺の成すべきことに口は出させない」
 白夜は神楽が言った事に、反対はしなかった。それどころか、そうか、と笑っていた。
 本当に、おかしな奴だと神楽は改めて感じる。
 だが、急に白夜の顔つきと目つきが鋭くなった。何かに神経集中させているようで、どうしたのか言おうか迷ったが、聞こうとした瞬間、白夜の方が語りかける。
「・・・敵が、いる。『あいつ』の使いだ。ちっと厄介だぜ。お前のその首飾り、狙ってるんじゃないか」
 神楽はその言葉にすぐさま反応し、辺りを見回す。確かに。こんなことぐらいなら、分かる。『殺気』が混じった、殺し、もしくは盗みを働く前の空気だ。
「敵は五人だ。おそらく、奴らは俺が俺だと知っている。そして、お前も。どっちも倒す気でいるんだろうな。馬鹿な奴らだ」
 さっきからあいつ、だの奴らだのと、妙に知っている風にいうので、神楽は聞きたくなった。が、それどころじゃない、と思い返して首をふる。
 白夜の金色の髪がふわりと宙に舞う。青紫の瞳が、より一層濃くなってゆく。
「神楽」
「何」
呼び捨てか、と思いながらも、神楽は冷静に話を聞く。
「自分の身、守れるか?ちょっとだけ」
「ま、ちょっとだけなら。これでも当主だしね」
「頼もしい限りだ」
白夜は苦笑いし、すばやく顔つきを変える。来る。そう白夜がつぶやいた時には、数人の黒い服を着た刃物を持った男達が、上から落ちてきた。












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