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ゴッド・アイズ《水晶の剣》
作:月島愛夜



03.森で 壱


 「なんだかなあ」
誰にも打ち開けることができないこの思いを、神楽は森の草木に語りかけるようにつぶやいてみる。せめて、コメントはしてはくれないけれども、唯一聞いてくれる物だ。
「俺はどうしたらいいんだよ」
消えろ、といわれてはいそうですかって聞ける立場でもない。今はこの一族の当主なのだから。
 これだったら、なる前に消えておいたほうがよかった。だが、母親は別として、神楽には慕ってくれるものはたくさんいる。それを捨てて、消えるなんていう勇気もない。
 儀式の際、当主だけが受け取ることができる、『水晶の首飾り』を手に持ってみる。重さもあって、細工も細かいとても価値がありそうな首飾りだ。
 だが、神楽にとってこれはただの『首飾り』だ。別にこれが欲しいから当主になったわけでもない。
 当主になった理由なんて、元々ないのだ。他のものが、当主は神楽様と決めつけ、そして勝手に、決めた。それだけのこと。
 「頭痛い」
神楽は木に寄りかかり、頭を抑えてみる。しかし、どうにもならない。そう、もうなってしまったのだ。『当主』に。一族を背負わなければいけない立場に。後悔、なんて山ほどある。十八歳のいう身で囚われの身になってしまった。これなら、もっとやりたいことをしとけばよかった、と思ってみるが、どうせ出来はしない。あの母親の監視の元にいるかぎり、自由なんてなかった。
 言葉にできない苦しみと、もう誰も助けてくれる人間はいないのだという絶望のふちに、神楽は立たされていた。
 「なっさけねえ顔すんなよ」
どこからか、声が聞こえた。男の声。神楽は木から離れ、辺りを見回してみる。
 「おいおい、神宮の当主様だろ、あんた。気配もつかめないのか?」
少し馬鹿にされたのだと神楽は思い、拳を軽く握る。
「うるさい。姿もあらわせない奴に言われる筋合いはない」
「別に現してもいいけど、お前腰抜かすんじゃねえぞ?」
 そう声の主が言った瞬間、森の中の草木が揺れ、音を立てて騒ぎ出す。神楽は木から離れ、地面の上に立つ。いくら力がないとは言え、この感じはけっこう大物だと感じる。しかも、『悪』の力が強いなとも思う。
 だが、どうとでもなれ、という風に考えている神楽には、必要のない。ここで本物の化け物が出てきて殺してくれたら、誰に恨まれることもなく、消えれる。そしたらあの母親は、声を上げて喜ぶのだろうかと想像すると、少し腹が立つ。

 現れたのは、黄金の長い髪を腰まで垂らし、白い着物のような服を着た、青紫の瞳をした若い青年であった。神楽より、十センチほど背が高い。顔も人間離れしていて、思わず口を閉じるのを忘れてしまうほど、それは見事であった。まさに、『完璧』という言葉がふさわしい。
 自信に満ちた、その青年は、俺は、俺だ。これですべて。それに文句があるのかと問うように、神楽の前に立ちはだかる。それは怖いという感じよりも、正反対のもの、と認識してしまった。『こちらの方が、綺麗な生き物』とでもいうように。
 そう認識してしまった自分に対して、神楽は馬鹿馬鹿しいとさえ思う。向こうは正真正銘、『悪』なのに。
 「どうだ。びびったか」
まるで小さい頃よく言った言葉だと神楽は思う。神楽は苦笑いしながら、
「まあね」
とだけ言った。
「ほう、さすがは神宮の当主だけあるな。肝が据わっているらしい」
それは違うよと思いながらも、もう反論する気力はない。この目の前の本来なら敵になるだろう男も、自分を殺そうとは思っていないらしい。
 「どうした、神宮の当主。俺を殺さないのか」
「殺せるはずがないだろ。あんた、強そうだし。それとその当主ってやめてくれない?神楽って呼んで」
 その人ではないものは首をかしげ、さも驚いたげに訊ねる。
「それは、名か」
「そうだけど」
 そう答えると、人ではないものは、ほう、とだけいい、神楽の隣に行く。少し警戒しながらも、神楽は動こうとはしない。
「そなた、本当に俺様を殺そうとしていないのだな。神宮一族の人間が、悪のものに名を教えるなど、ありえないことだ」
 その言葉を聞き、神楽は苦笑する。
「人間じゃ、ないかもね」
その言葉を、人ではないものは重く受け止めたらしく、そのまま黙る。そして数秒沈黙が続いた後、急に喋りだす。
「俺の名は、白夜ハクヤだ」


白夜のほうが、神楽の母親より人間らしいですね。











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