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この作品には 〔ガールズラブ要素〕〔残酷描写〕
〔15歳未満の方の閲覧にふさわしくない表現〕が含まれています。
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アマゾネス
作者:雪芳
挿絵(By みてみん)
 この作品は春の競作企画春エロス2008参加作品です。
 是非、他の春エロス作品もご覧になられて下さいね。
 イラスト作成:<a href=http://509.mitemin.net/>Mick様</a>
 森の中を、馬に跨った一人の戦士が疾駆する。
 木の仮面で覆った頭部からは長い黒髪が流れ、短刀を握り締める腕は筋肉により無駄なく引き締まっていた。なめし皮で覆った鎧を纏った皮膚は焼けていて汗が滲み、森の木漏れ日を反射させながら躍動している。

 戦士は群れを追っていた。
 驚くことに、鉄鎧で頭の先から爪の先まで完全武装した騎士騎馬兵団である。馬までも別の生き物のように甲冑を纏い、雄雄しく息を鳴らしていた。

「二手に分かれろ、退避!!」
 群れの中央にいる人物が命令を出すと、群れが一斉に千切れ真逆に走り出した。

 無言のまま、戦士は追尾する。命令を出した人物の紛れる右の群れに狙いを定める。短刀をしまいこむと、戦士は背中の短弓を外し、矢を持ち、流れるような動作で引いた。

 風を切る音。
 放たれた矢が、見事に群れの一人に突き刺さる。それも首、鉄と鉄の接合部に深々と刺さり、鮮血が高く散った。
 それを見て、群れは恐慌状態に陥った。

「馬鹿なっ、くそ!」
 隊列が乱れ、散り散りに逃げ惑う群れ。群れの中心人物は舌打ちをすると、一人、手綱を翻し、戦士へと向かった。

「素晴らしい。気に入った!」
 戦士は高らかに笑うと、短刀を握りこみ、騎士の突撃に対峙する。ふたつの銀色の円弧が空に舞い、鉄の悲鳴が二人の間に爆ぜた。交差する、二人。
 更なる攻撃をと、騎士の馬が身を返す、が、それは叶わなかった。
 騎馬兵の首から突如として鮮血が噴出し、馬が崩れ始めた。咄嗟に騎士は馬から飛び降りる。馬は大木に自らぶつかると、拉げる。

 受身を取って地に転がる騎士、瞬く間にけつ然と立ち上がる、しかし。
「終わりだ」
 騎士の首下に、冷たい銀の光が当てられていた。俊敏な戦士は恐ろしいほどの腕を持ってニタリと笑うと、剣を握らぬ左の手で仮面の淵を握り、取り払う。
 仮面の下に現れたのは正に美貌。凛々しく目鼻の整った、女だった。

 アマゾネス。広大なスティキュイアの大森林に住む部族は、軍神を祖とする女ばかりの部族である。
 豊かな恵みをもたらす大滝の傍に里を置き、狩猟を主とするこの部族は、森の外の人間たちにはこう呼ばれていた。
 屍を踏みしだく民、と。

 広葉樹と枯れ草を組んだ簡素な家々。それに囲まれるようにして、石の宮殿ニュンペスはあった。
 最も奥にある王の間。
 緑多い森の中で唯一、白亜で統一されたそこから、湿った音が絶え間なく響いている。

 くぐもった声、卑猥な肉の音。耳にしたものであれば誰もがそこで何が行われているかは分かるだろう。その部屋の、石灰で出来た扉を、戦士は丁寧に開いた。
「いま、帰りました」
「おかえりなさい……、アリア」
 寝台の形をした玉座には金の長髪を真っ直ぐ伸ばした女が、はぁはぁと激しい息遣いで跨っていた。
 まるで小便でもしているかのような体制、手枷足枷で繋がれた男の上で、激しく腰を動かしているというのに、そこには美しさがある。

 肩越しに振り向き、戦士を見た面容もまた、髪に負けぬほど美しい。
 睫毛の長い目は宝石のように輝き、可憐な匂いを漂わせている。完璧な曲線を描く顔は幼げで、身体は女としての瑞々しさに満ちている。白い陶器のような肌は薄く紅潮し、艶やかにほてっていた。

「イリア王、具合がよろしそうですね」
「ええ。貴女が捕まえてくる男たちは皆、たまらないわ」

 嘆息すると、王は優しく男を撫でた。しかし、男の表情は胡乱である。目の焦点は合わず、だらしなく唾液を垂らしている。媚薬を使いすぎ、狂ったのだ。
「でも、足りないの。アリア……」
 強請るように、王が上目遣いでアリアを見詰める。柔らかな笑みをたたえ、アリアは王の要望に無言で応えた。

 狩猟と戦闘で鍛えられた腕が王を後ろから抱きすくめ、幼顔には似つかぬ豊満な乳房を掴む。アリアは丁寧に、腋の下から乳の先へと揉み解すように指をわななかせた。
 アリアの指に呼応するように、王の腰つきがうねる。湿り、吸い付くような肌が次第に、強張ってゆく。激しさを増す。

「もっと、もっとよ」
 精悍なアリアは、王の命令に従う。
 王の顔を左に逸らせ、華奢なうなじに、瑞々しい耳たぶに、熟した唇に舌を這わせる。開かせ、歯をなぞり、口内を吸い上げる。
 熱をもった口付けの合間、王は懸命にか細い息をつなぐ。

 やがて王は、左の乳房を揉んでいたアリアの手に手を添えると、下へと導いた。
 薄く浮かぶ肋骨を過ぎ、儚げなくびれを過ぎ、悩ましげな骨盤を過ぎ、身体の中心へと流れる。金色に茂るものを掻き分け、轍をゆく。

 ぴくりと王の身体が乱れる。その様を見られた恥ずかしさか、王は不満げに俯くと、
「アリアは裸にならないの?」
 甘えるように頬を皮鎧の胸元に摺り寄せた。
「まったく」
 そうこぼしつつも、アリアに呆れたような表情はなかった。恋慕の情に目を細めると、皮鎧を繋ぐ紐に手を伸ばす。
「我侭な人だ」
 アリアはそのまま、王の唇に自身の唇を寄せた。



 情事を終えた王座の下に、皮鎧を纏った女たちが集う。
 王は裸体のまま、尚も男の上に横たわっていた。しかしながら、男に息は無い。精が費えたと、戯れに王が首を絞めたのだ。

「屈強なアマゾネスの戦士長たちよ」
 若き女の王が声を放つ。その声色は先ほどとは打って変わって、鷹揚と、王の威厳を持って王の間に響く。

「西の民が北のカトリアと手を組み、この地を攻めようとしている。アリアが捕獲した先兵の情報によると、一週間の後、夜襲をかけるとのこと」
 王座の周囲が囁きを散らす。王は平静を留めたまま、続ける。

「カトリアも愚かではない。捕虜を取られたことに警戒するだろう。襲撃の機を別に回すに違いない。一月先か、一年の後か分からぬがな。これは消耗戦だ」

「では!」
 王の言葉に、一人の女が声をあげた。弓隊を抱える長、メイサである。
 彼女は大柄な身体を揺らして一歩踏み出ると、
「地下牢に捕縛している男たちを全て殺しましょう。子を孕んだ者が民に多くては速やかな戦闘は出来ません」
「ならん」
 割って入ったのは、アリアであった。

「子は必要だ。男を殺しても、一時的な兵力強化にしかならない。未来を見据え、産み、増やすべきだ」
「その通り」

 颯爽と王は立ち上がると、自身を取り囲む勇ましい者たちに告げた。
「あえて、先手を打ちます」
 どよめいた。戦士たちは皆、王の指示に耳を疑い、目を瞬く。当然の動揺である。

 しかし王は、そんな彼らに冷眼を注ぐと、
「消耗戦では、不利だ。我々は、力はあるが数はない。時に力を奪われれば、数に負けてしまう。ならば先手を打ち、敵の数を減らしていく。森の淵に置かれた奴らの駐屯地を攻めるのだ。……アリアよ」

 王の、可憐ながら猛々しい面容が向けられる。アリアは跪き、両の手を組んだ。主従の誓である。
「勇敢なアリア、その下の戦士たちにこの運命さだめをやる!」
「王の御心のままに」
 応え、深く頭を垂れた。



 夜襲には夜襲を。この命令は単純にして深い意味を持っていた。
 アマゾネスにとって、森は庭である。地の利は当然のこと、彼らの身体に深く刻み込まれている。
 そして、森の朝は夜である。夜にこそ森の生き物たちは活発に動き、獲物を狙うのだ。アマゾネスに森の闇を与えることは神の鉄槌を与えること。そのことに敵は気付いていない。

 こんな愚かな兵ども、造作ではないわ。

 口に笑みを浮かべながら、崖上から駐屯地を俯瞰するアリア。後ろには十の歩兵。皆、戦闘に戦闘を重ね鍛え上げられてきた狂戦士たちである。

 アリアは駐屯地を囲むように戦士たちを配置させると、機を待った。

 森の空がアマゾネスに微笑む。
 先ほどまで鮮やかな光を下ろしていた月光が暗雲に隠れた。辺りが見る見るうちに漆黒へと変化する。

 アリアは暗闇の中で麗しき獣となって剣を握り締めると、一気に崖を駆け下りた。
 戦士たちが続く。アリアは豹を思わせる俊敏な動きで見張り台に上ると、一瞬のうちに敵を専断した。戦士たちはまるでアリアの触手のごとく滑らかな動作で、下々に散らばる火を消してゆく。

 襲撃に気付き、戦闘態勢に入る敵兵たち。しかし統率は微塵も無い。

「下らん、消し去ってくれる!」
 荒々しい咆哮。
 戦士の雄叫びをあげると、アリアは見張り台から飛翔した。人の背丈を遥かに凌駕した見張り台から、まるで猛禽のように着地し、敵兵の前を塞ぐ。

「覚悟!」
 敵兵の群れへと、アリアの肢体が突撃する。短刀が流れる楕円を描き、流れる。
 木霊する、絶叫。飛散する、血飛沫。敵兵にとっての恐怖の一瞬は、アリアにとって泥のよう。
 次々となぎ倒し、やがて血と肉塊の海が広がった。

「眠気は、覚めたか?」
 漆黒の闇に溶け込む、森の死神。
彼女の周囲を囲む敵兵は、恐れおののき、一歩また一歩と後じさる。

「これだから、男は」
 くっくと笑い、彼女は短刀を握る力を強めた。早々に終わらせてやろう。アリアは軽く腰を沈め、剣舞の姿勢を取った。

 刹那……!

 爆裂音が鳴り響いた。光が炸裂し、アリアのすぐ傍で火柱が燃え上がる。
 舌打ちをして、アリアは横に飛んだ。追撃する、火柱。壁の裏に隠れるも、壁に噛み付き、木屑が舞う。

「くそ、目が……」
 暗闇で剣を振るっていたアリアの目は、突然の光に耐えられず、眩む。勘と気配を頼りに、彼女は目蓋を閉じて走った。辺りは絶え間なく爆ぜている。

 四面楚歌、一切の隙もなく駐屯地に火が吹き荒れる。その様を風と熱で感じ、アリアは動揺した。
 これは内の攻撃ではない、外の攻撃だ。

 自分たちは囲まれている――。

 視力が徐々に戻る。あえて涙を流し、視界を鮮明にする。
 アリアの感覚は正しかった。周囲の小高い丘を見やると、駐屯地は石弓に囲まれていて、次々と火のついた大槍が投げ込まれていた。まるで味方の兵もろとも消し炭にするかの如く。

「罠……」
 直感的に悟る。なんということだ、これは罠だったのだ。駐屯地に置かれた兵は餌であり、この場所は落とし穴だったのだ。

 敵兵の行為がアマゾネスの戦士アリアの逆鱗に触れる。憤怒に身体を燃やし、彼女は雄叫びをあげると、崖へとひた走った。
 飛び交う槍は闇を切り地面をえぐる。その中をくぐり抜け、アリアは猛然と立ち向かう。

 剥き出た岩肌、絡みつくツタ。それらを足蹴に、アリアは崖を登った。

 死角に入ったアリアを打ち落とそうと岩が放たれる。しかし素早いアリアにとって、そんなものは無意味だった。

 駆けるように上がると、岩を押す敵兵の首を掻っ切り、アリアは岩の上に屹立した。

 激しい、野生の勇姿。生まれた場所が異なれば、傾国に値していただろう美しさを露わに、睨みつける。

 敵兵たちは陶酔したように立ちすくんだ。月すら彼女の姿に惹かれ、身を乗り出した。
 戦女神の飛来に、恐れおののいて。
 だが、一人の女は、悠然としていた。

「まさかここまでとはね、アリア」

 石弓の間から、何者かが姿を現す。
 アマゾネスの戦士、弓隊長メイサであった。

「メイサ……、まさか貴様」
 敵の罠にはしては出来すぎだと感じていたが、まさか戦士長に密通者がいたとは。
 思えば王の間でのメイサの言動はいささか不自然だった。まるで戦力をあえて減らさせようと目論でいたかのように。

「やはりあんたを舐めずにかかって正解だったよ」
「王を裏切るとは、……恥を知れ」
「恥を知るのはあんたたちさ!」

 アリアの侮蔑に、メイサは噛み付いた。
「アマゾネスは古いんだ! 良いか、これからは男と女の時代なんだよ」
「男に惑ったか。そういえば、やけに世話を焼いていた男がいたな」

 メイサの表情が朱に染まる。

 眉間に皺を寄せ、わなわなと身体を震わし、
「そうだよ。あのクソアマが犯して殺した……、まるで玩具のように。私は、あんたたちアマゾネスを許さないよ!」

「貴様、王を侮辱したな?」
 メイサの罵声がアリアの堪忍袋を切る。瞬く間にアリアの怜悧な目には怒りの血脈が浮いた。
 獣のたてがみは逆立つ。
 アリアは短刀を両手にすると、大地を蹴り上げた。俊足がアリアの喉に歯を向ける。

「あんたを舐めてないと言っただろう」

 刹那、アリアの後ろから何者かが投げ出された。流れる金の髪、麗しい容貌。

「王!」

 刃の勢いを殺すためにアリアはあえて体勢を崩した。土ぼこりを足に絡めながら、アリアが止まる。受身をとって、大地に転がり、すぐに立ち上がる。

「貴様!」
「なんとでも言え。王の命が惜しければ、短刀を捨てるんだな」

 メイサは王の喉下に剣を押し付けながら唇を歪めた。
 刃の傍には、涙を浮かべ恐怖にうち震える王。アリアの頭にはこれ以上ないほど血が上っていた。出来ることならば敵を八つ裂きにし、砂になるまで叩き壊してやりたい……。

 空しく、硬質な音が静かに鳴り響いた。

「いい子だね」
 メイサが顎をあげるのを合図に、敵兵がアリアに近づき、その身体を掴んだ。アリアはなすままになって、鎖を巻きつけられながら、ただただメイサを目で刺した。

 それを見やって、メイサは……、剣を王の喉から外した。

 唖然とする。アリアが息を呑んで凝視する中、王はすっくと腰をあげると、落ち着きのない動作で小首を回した。その所作に、違和感を覚える。

「まさか」
「あんたが猪みたいに素直で助かったよ」

 偽者――。

 アリアは臍を噛んだ。
 青ざめ、己の失態を恨む。慙愧の念に襲われる。
 そんな彼女に、メイサは優越を隠さずに含み笑いを浮かべると、ひとつの提案を差し出した。

「なぁ。こちらの軍に入らないか。あんたが抜ければ、さすがのアマゾネスも戦意を喪失するだろう」
「何を」
「別に可笑しな話じゃない。きっとあんたはアマゾネスを抜けたら幸せになるよ。男は安らぎをくれるんだ」
「馬鹿が。男など、ただの種にすぎん」

 アリアの失笑。メイサは、落ち着き払って次の言葉を放った。
「まさか、あんた男を知らないんじゃないだろうね」
「……それがどうした」

 狩猟に勤しむアリアにとって、男との性交は無意味だ。子は他の女が孕む。
 そしてなにより、彼女は王の寵愛を受けていた。性欲を男で満たす必要などどこにもない。男を知る必要もまた、ない。

「ふぅん……」
 なにか思いついたように、メイサの眉があがった。兵士の群れに目を配り、一人の青年に顔を向ける。

「よし、あんたで良い。アマゾネスの女戦士を抱きたくはないか」

 その言葉に、アリアの心臓が跳ねた。彼女を囲む兵士たちも互いの顔を見合わせる。
「なあに噛み付きやしないよ。この通り。よく見るんだ、なかなかいない美しい女だぞ」

 メイサがアリアに指を差す。確かにアリアは、戦士であるが、一方で見目麗しい絶世の美女である。
 涼しげな眼と通った鼻筋、薄い唇、黄金比に愛された輪郭。緩いウェーブを描く髪は戦いの最中においても艶やかで、柔らかそうだ。

 青年が喉を鳴らした。ゾッとして、アリアは抵抗したが、がっちりと鎖が身体に食い込んでいるために、ろくに動けない。
 無力にも身じろぐ女戦士の肢体をくるむ皮鎧。胸と腹と腰を守る。それ以外は、引き締まった体を健全に晒す、アリア。
 年齢はまだ二十に達していないが、見事な女の肉をしている。男ならば誰もが、申し分ないと思うだろう。

「さぁ、やるんだ」

 メイサに促され、青年はアリアの身体を包む簡素な胸当てに触れた。脇にのびる、きつく締められた紐を乱暴に引きちぎり、胸が曝け出される。
 アリアは唇を噛んで、次の瞬間を耐えた。

「なんと……!」
 メイサは驚愕した。
 アリアの胸当ての下。そこには成熟した女の乳房が揺れていた。しかし、それは片方だけ。信じられないことに、右の乳房は切り落とされ、醜い傷跡となっていた。

「メイサよ、お前は弓隊を率いているな」
「何を……」
「弓を引いていて、右乳が邪魔だと思ったことはないか」

 その問いかけの意味成すところに、メイサは恐怖し、口元を押さえながら後退した。その顔に張り付くのは怯え。闘争の極限を住処とする狂戦士への畏怖が、そこにはあった。

「分からぬだろうな。石弓に頼りきり、アマゾネスにとっての夜襲を忘れるほどだ」
 アリアは吐息をくゆらせ、
「抱くなら抱け。しかし男が抱く身体に、私の魂はない」
 目を瞑り、目蓋の裏に愛しい人を浮かべた。

 アマゾネスの偉大なる王、イリア。白き宮殿に住まう絶対的な存在。
 自身の、腹違いの姉。

 その高貴な微笑を思い浮かべてから、歯と歯の間に舌をのばした。
 忠誠を心から誓う。永遠に。そう、永遠に。

「アリア様!」

 はっと、目を開いた。怒号があたりに木霊し、再び火花が弾けた。
 眩い視界。その中に、傷を負いながらも果敢に立ち向かう戦友たちが飛び込んだ。

 あっという間に、アリアを束縛していた兵士たちが一陣の風に伏せる。身体が軽くなり、士気が漲る。
 アリアは兵士の剣を奪い取ると、次々と斬りかかった。
 もはや独壇場であった。距離をつめてしまえば、石弓を倒すことなど歩兵にとって赤子の手を捻るように容易なこと。

 蜂の巣を叩いたような戦場を戦友たちに任せると、アリアは脱兎と逃げるその背を追い、斬りつけた。
「ぎゃあ!」
 絶叫をあげて、メイサがつんのめる。尻をつき、ひいひいと恐怖に顔をひきつかせ、アリアを仰いだ。

「アマゾネスは戦乙女の民。戦いのために産まれ、戦いのために生きる」
 気高い戦士の腕が、高らかに剣を持ち上げる。
「私は男を愛さない。私が愛する者は、一人。……ただそれだけのことだ!」
 そして一気に、振り下ろした。



 ……朝日が昇る。
 石の宮殿ニュンペスの背後には滝がある。
 豊かな冷たい飛沫は清い光を照らしながら、瑞々しい緑に注がれる。漂う深く芳しい薫香。可愛らしい木漏れ日の舞。
 自然の敬愛を一身に受けて、王は背を反らし、高く喘いだ。
 茂みの中に横たわる、アリアに白く眩い裸体を預ける。肩を揺らして息をして、少しずつ高まりすぎた身体の熱を空に逃す。

 アリアは儚げな王の中心から濡れた指を抜き取ると、静かに口角をあげた。

「ねえアリア、どうして笑ったの」
 王が首を傾げ、アリアを覗き込む。
「愛しいと想って」
「そう。私が好き?」

 アリアの胸の傷に頬を寄せて、王は問いかけた。
 無邪気な子どもの声色。一人の戦士にだけ幼さを晒す痩躯を、アリアは強く抱きすくめ、その耳元に囁く。
「ええ、あなたは私の王だから」

 その声はどこまでも甘く響き、二人のアマゾネスを包んでいった。
挿絵(By みてみん)
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