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【習作】描写力アップを目指そう企画 作者:描写力アップ企画管理者

第二回 因縁のラストバトル企画(2017.7.22正午〆)

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49/63

 (水浅葱ゆきねこ 作)

※作者本人ページでも同作品の完全版を公開しています
 唐突な浮遊感に続く、強烈な落下感に、腰がぞくりと震える。
 次の瞬間には、彼らは冬枯れた大地に立っていた。
「うわ、た、たた」
 バランスを崩し、淡い水色のローブを着た少年が尻餅をつく。
「大丈夫か」
 隣からの声に、眉を寄せながら、うん、と返す。
 連れの青年は、真剣な眼で前を見据えていた。
 その、視線の先には。

 赤紫色の、全身鎧が立っている。
 噂によれば、火蜥蜴の鱗を生きたまま剥ぎ、造り上げたという。
 どんな炎の刃も通さぬ鎧を。
 それを身につける者は、世界に一人しかいない。

 魔王。


「憐れな。またもその卑小なモノを我が前に引き出すとは」
 地の底から這い出てくるような声が、ひび割れ、くぐもった声が、ねっとりと耳に入りこむ。
 座りこんだままの少年が、息を詰まらせた。
 あれは、存在自体が穢れだ。在るだけで、人を、生物を、世界を汚濁に侵していく。
 今までにも、幾度か姿を見たことがある。だが、決して慣れはしない。
 呻き声を堪えていた少年の視界が、すっと蔭った。
 連れの青年が、魔王からの視線を遮る位置に立ったのだ。
 汗の滲みた目を、上げる。
 厚い雲に覆われた空の下、黄金の髪を鈍く光らせ、彼は堂々と立っていた。
「俺の仲間を侮辱しないで貰おうか」
 魔王の存在感を、その引力をものともせずに、言い放つ。
 世界で唯一、魔王の魔力が及ばない人間。

 勇者。


 青年が、すらりと剣を抜く。
 合図だ。
 少年は、慌てて両掌で大地に触れた。
「虚空の翼!」
 周囲の幾百の石塊が揺れ、宙に浮く。
 そして一気に上昇し、魔王へ向けて放物線を描いた。
 勇者が、手にした剣を水平に振る。鈍い銀色に光る刀身は瞬時に真紅に変わり、軌跡に添って陽炎が揺らめく。
 剣より放たれた熱線が、(つぶて)を炎塊に変えていく。
 その威力は、並の魔物なら掠っただけで溶けてしまうほどだ。
 魔王を倒すための炎の剣の脅威を、敵はよく知っている。
 だからこそ、それは動かなかった。
 降り注ぐ炎の石を、平然とその奇怪な鎧に受ける。
 そして、その間に距離を詰めてきた勇者の剣を、悠々と自らの剣で弾いた。
「小賢しい真似を。刃でなければ通用するとでも?」
「試してみただけだよ。そいつの性能をな!」
 振り抜く刀身から迸った炎が、周囲の枯れ草を燃え上がらせる。
「どんな炎の刃も通さぬ鎧だ。それから発する、如何なる脅威をもこれは防ぐ!」
 斬撃を、勇者は一歩引き、剣の腹でそれを受けた。
 魔王は鎧を信用し、斬撃を回避しないことすらあった。ただ、ひたすらに勇者を攻め立てる。
「試してみた、だと? だが、失敗したからといって、逃げられるとは思わぬことだ!」
 上段から叩きつけられた刃を受け、勇者は一歩退いた。
「俺はいつだってお前を出し抜いてきたろうが。そっちこそ、俺を殺せるなんて思うなよ」
 不敵に笑んで、煽る。
 虚勢だ、と魔王は看破する。
 剣が放つ、魔滅の、浄化の炎は、もう魔王には通じない。
 魔王の魔術は、もとより勇者には届かない。
 自然、二人の戦いは、純粋に武力によるものとなる。
 だが人間である勇者は、持久戦となればそれだけ勝機が減っていく。
 今でさえ、魔王の剣を防ぐのに幾度もよろめいている。
 先ほど空間を渡って現れたのは、共に来た人間の術だろう。今は炎に囲まれ、蹲り、ぶつぶつとうわごとを呟いている。
 あれに近寄らせなければ、逃げ出せまい。
 魔王は、また、大きく剣を振るう。

 ……と、おそらく考えている。
 少年はじっと数えていた。瞳で、距離を。唇で、数を。
 場所と、時間を計っていた。
 がしゃん、と鎧が鳴る。
 その、継目の、位置。
「今だ!」
 少年が高く叫んだ。同時に勇者は敵の得物に剣を叩きつけ、鍔迫り合いに持ちこむ。
 深く、息を吸う。熱気が喉を灼くことも厭わずに。
「堕天の鋲!」
 上空から、微かにきぃん、という音が降る。
 そして、三メートルはある槍が、魔王の背を貫いた。

「……お……?」
 ぎし、と、鎧が軋む。
 最初に放った石礫。幾百ものそれのうち、一つを上空に留めておいたのだ。
 雪を降らせそうな厚い雲は、氷の粒でできている。高速でその中を飛び回る礫は、やがて、長く鋭い氷の槍と化した。
 如何なる炎の刃も通さぬ鎧を貫く、槍に。
 魔王が緩慢に腕を振り上げる。
 勿論、この程度では動きを止めることすらできない。
「白檄の閃!」
 再度の叫びに応じ、轟音と共に、槍へ雷撃が落ちる。
「がぁあああああああ!」
 避けられない衝撃に、魔王が叫ぶ。
 氷の槍は流石に持ち堪えられず、弾けた。ぼたぼたと零れる体液が大地を穢し、そのただ中に魔王が膝をつく。
「あいつに出し抜かれたな、魔王?」
 視界が、蔭る。
 魔王を滅する、炎の剣を手にした勇者が、横に立っているのだ。
「貴様……」
 息を荒げ、憎しみに満ちた声で、視線で、魔王は見上げてくる。
 青年は躊躇わず、剣を鎧の穴に突き立てた。待ちかねたように、炎が勢いを増す。
 体内をくまなく蹂躙する魔滅の炎は、鎧に阻まれて体外に放出されることも許されない。
 魔王の絶叫は、先ほどの比ではなかった。
2017/07/24 作者本人ページで完全版を公開のため、注を追記
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