ここで眠ってはいけない (霊なんて、要らない! その4)
夏ホラーにあわせたのに、あまり怖くならなかった・・・
まあ、オカルト気分を味わっていただければっ!
小学校からの友人が、京都の大学を卒業し、大学院に行く為に、奈良へ引っ越した。
生まれた時から東京で、関西に出かけたのは修学旅行位という私は、友人が奈良に居を構えたのをいい事に、そこを拠点に遊び回る計画を立てたのだった。
建築学を専攻していた彼女が選んだのは、戦前から建っている古いアパートメント。
そこは、昔、耳鼻科医院だった為、一階が診療室と待合室に大きく取られ、二階が医師たちの休憩や、住み込み用に部屋が分かれていて、間貸しとして貸し出すには丁度よかったらしい。
少し小さめの部屋は、6室。近くに女子大があるせいか、女性ばかりが入居している。
深夜、おしゃべりをしていた友人は寝てしまい、私も特になんということもなく、だらりと寝ていた。
そのうち、眠りに落ちたらしい。
しかし、意識だけはクリアで、眠っているといっても、目を閉じているだけの状態だった。
やがて、部屋に何かがやってくる気配がした。
それは、部屋に入ってきて、布団の周りをぐるぐると歩き回りだした。何周かした後に、
私と友人を見比べていたようだった。
土地の霊が、珍しくその場にいる人を見に来る事もままあるので、この場は知らん顔をしておこうと寝ているフリを続けた。
やがて、気が済んだのか、それは足元の方へ消えていった。
やれやれ、帰ったか、と思ったその時、
がしっと両足の足首を持たれ、それにズルズルと引きずられていく!
一体何が起きている!?
怖くなった私は、渾身の力を込めて両足をバタつかせ、持つそれを振り払った。
急に抵抗をした私に、それが戸惑ったように感じられた。
相手は、感情があるものなのか?
振り払えてほっとしたのも、束の間で、安堵して横たわった私の両足を再びそれが掴んできたのだ。
・・・半ば睡眠に落ちながらも、頭の中では必死に回避方法を考えていた。
このままでは、それ(・・)に連れて行かれてしまう。
一時しのぎの方法は効かないことがわかった。では、どうしたらいい?
それは、再び私の両足を持つと、部屋の中を一周引きずった後、ドアから部屋を出ようとした。
その後は、廊下。そして、階段を降りていく・・・その先は一体どこへ行く?
だめだっ!と唐突に閃いて、めちゃくちゃに足をばたつかせて、振り払った。
そして、
「起きろ、起きろ!、自分っ!! ここで寝ていたら・・・その先は、『死』?」
深い海から上がってきたような感覚で目が覚めた。
周りを見渡せば、日常の風景。幼馴染の部屋だ。
しかし、夢というには、余りにもリアルな感触と恐怖。
結局そこからは、一睡もしないで朝を迎えることとなった。
○~○~○~○~○~
「それで、俺がここに呼び出されている理由が解らないんだが?」
老舗Nホテルの喫茶ルーム。重厚感あふれるロビーが見える観光客にも人気の場所だ。
そんな場所に、グレイのスーツを着こなし、淡い青のシャツにストライプのネクタイが映える黙っていれば美形な友人、藤原 楓太が不機嫌そうに座っている。
この友人が仕事で、こっちへ来ていることは知っていた。
彼とは友人を介して知り合ったのだが、今ではその友人を通り越して付き合っている。もう10年位の付き合いになるだろうか。しかも、彼はこの手の話にめっぽう強いのだ。
これを幸運と言わずになんとしよう!
「とにかく、変だと思うなら、そこには近寄るな。その友人の部屋にも泊まるな!」
とりつく島もなく、あっさりバッサリ。酷いよ・・・。
でも、私は知っているのだ。結局彼は、研究者として「知りたい」という好奇心には勝てない。
だから、彼が断れない理由があれば、いいんだ。
「今回出てきた奴は、『地獄の獄卒』に似ているんだ」
めでたく、彼と私はチームになった。
○~○~○~○~○~
彼、藤原 楓太は、私の友人の中でも、かなりの変わり者だ。
何故か、神職を持ち、陰陽道に通じているクセに、医師なのだ。余りにも関連がなさすぎて、何故こうなったのかと聞いたら、彼曰く「必要なものを集めたら、こうなった」のだそうだ。蛇足だが、彼の従兄弟は僧籍を持っている。・・・新興宗教でも始められそうだな。
彼には、今回の内容を話て、どうしても見解が欲しかったのだ。
今回に出てきたものは、普通では考えられない。
・意思を持っているようで、持っていない。
・その場で何かをするのではなく、連れて行こうとした。
・連れて行くというより、まるで死体を運ぶように、無感動に作業をしているようだった。
「一体、アレは、なんなのか?」
恐怖よりも、好奇心が勝ってしまった。アレの正体が、どうしても、知りたいっ!
彼と一緒に、友人のアパートメント周辺を歩いた。奈良の古い町並みに昔からの寺が残る古都だ。
たまに、街中で鹿に出くわして慌てる事もあるが、それ以外は、どこにでもある地方都市だ。
(近くにN○K放送局があったりして、結構大きい街なのか、と実感もする)
かなりの時間、歩き回った私たちは、幼馴染の部屋を訪ねることにした。
幼馴染には、私が体験した事を朝のうちに話していた。彼女は、今までそんな事は起きたことがないし、他の人からも聞いた事がないと、困惑していた。
「ご心配なく、これは、住んでいる人間には、問題のない話ですから・・・」
と笑顔で、藤原 楓太は答えた。
一体、いつの間に答えを知ったのかと、思わず彼を問い詰めてしまった。こんなに知りたいと言っている私に何故教えてくれないのか!
「いや、僕も先ほど、この建物に入ってようやく確信したので、解ったのは、ほんのさっきなんだよ」
と彼は苦笑混じりに答えてくれた。本当だろうか。とはいえ、彼がその場のごまかしで言うとも思えない。
「で、結局、アレは何なんだ?」
「うん、聖域がいつも綺麗なのは、どうしてだと思う?」
は?その質問は、一体・・・。
「聖域には、悪いものが入れないようになっている。
だが、もし入ったら?
そして、聖域内にゴミが出たら、どうなる?」
「それは、誰かが片付けるんだろうねぇ。多分」
彼は、にっこりと笑って、小学生に言い聞かせるように説明をしだした。
「誰か、が片付けるのを待っている訳にいかない場合、
更に言えば、見えないモノには片付けられないモノをなんとかする為に、
どこかの誰かさんが『呪』を施した」
それは、遠い昔の話。
この場所に、霊的な物が溜まらないように「彼」は自動で動く「式」を配置した。
主が望まないものが入った場合には、夜にやってきて、それを排除するように。
この場所の者ではないもの、他の神や、眷属に関わるものは、ここには置いておかないように。
彼はそういう「式」を書いたのだ。
「君は、東の人間で、東の神の加護を抱き、更に古き神ではなく、新しき神の加護も持つ
つまり、ここの「式」にとって、君は「排除対象」なんだよ」
残念ながらね、と彼は笑いながら言った。
「もう一つ、君、ここに直接寝ていたでしょう?」
「あ〜、マットレス位はあったかもしれないけど、どうして」
「・・・君、落ちていたゴミ扱いされているよ」
「・・・それは、なんとも」
クスクスと藤原 楓太は笑うが、あんまりな気がする!
ちゃんと、もう少し高い位置に寝れば結果は違うかもね。と彼は言った。
残念ながら、この「呪」の「式」を破ることはできないが、考えようによっては、ここには悪いものが溜まらない、大変に安全な場所でもあるので、安心して欲しいと、我が幼馴染に説明していた。
幼馴染は、上機嫌で私たちを送り出し、私と彼は、駅に向かって歩き出した。
藤原 楓太は、唐突に私に話だした。
「・・・とりあえず、君はもう、あそこで、寝てはいけない」
「なぜ、理由がわかれば問題はないだろう?」
「理由がわかったからだ。今までは寝入っていなかったので、連れ去られるまでしなかったが、
もし、あの部屋で君が熟睡した場合、どうなるか僕にも解らない・・・」
「最悪の事態もあるということ?」
最悪の事態、それは死、という事か。
「君が地獄の獄卒に感じが似ていると言ったのは正しいよ。
地獄の獄卒は、亡者をそれぞれの地獄へ連れて行く。それが仕事
淡々とそれを繰り返す。
ただの人がそのサイクルに巻き込まれた場合、
戻ってくることは、不可能、だろう?」
彼とは奈良駅で別れた。東京に戻ってきてからはお礼方々何度か飲みにも行っている。
しかし、あれ以来、幼馴染の部屋には泊まっていない。
END
なぜだー、何故、怖くならないー。
怖い要素は、入っているんだけどなぁ。(泣
滝に打たれて修行でもしてきますー。