父娘
元亀三年(1575年) 九月中旬 播磨国飾東郡姫山 姫路城 小寺孝隆
叔父休夢斎と共に父の隠居部屋に赴こうとすると父の部屋の前で九郎右衛門と善助が密かに部屋の中を窺うような素振りを見せている。はて、一体何を……。そう思っているとこちらに気付いた九郎右衛門と善助が口元に人差し指を立てた。静かにという事か、二人は可笑しそうな表情をしている。さては……。叔父を見ると叔父も可笑しそうな顔をしている。二人で足音を殺して近付いた。
「どうじゃ、太兵衛。これは」
「これは、花入れでございますか? 御隠居様」
こっそり覗くと父が黒い小振りの花入れを太兵衛に見せていた。やはりこれか。この二人は時々焼き物で意気投合しているらしい。俺が見るのは初めてだ。多分叔父もだろう。
「なかなか良さ気であろう。備前焼じゃ」
太兵衛が小首を傾げた。
「備前焼でございまするか? はて、御隠居様、備前焼に黒は無かったと思いまするが?」
詳しいな、太兵衛。何時の間に詳しくなった? 善助と九郎右衛門が必死に笑いを堪えている。
「古い備前焼きに黒い物が有るのだ。黒備前と呼ばれていてな、珍重されているらしい。少々値が張ったわ」
父が軽く笑い声を上げた。
「なるほど」
太兵衛が頷く。父は得意げだ。
「この花入れなら緑の葉の色と赤や白の花の色がくっきりと映えよう」
「左様でございますな、寒椿などが似合いましょう。今から楽しみにござる。……しかし余り大きな物は難しゅうございまするな」
「そうじゃのう。残念じゃ」
父が嘆き太兵衛が頷いている。
「そなたの壺は如何じゃ」
「先日の御月見様でススキを入れてみました」
「ほう、太兵衛は風流じゃのう」
父が楽しげに声を上げた。ススキをあの壺に入れた? 叔父が口元を抑えている。善助と九郎右衛門も同様だ。太兵衛は父に褒められて嬉しげだ。
「中々に風情が有りましたが少しススキでは線が細う感じられました。やはりあの壺には桜や梅の枝、或いは松の枝の方が似合いましょう」
「なるほどの、では儂の花入れに寒椿を入れそなたの壺に梅を入れるか。並べてみたいの、それぞれに趣が有りそうじゃ」
「はい、冬が楽しみにござる」
そろそろ良いか。
「なかなか楽しそうなお話ですな、父上、太兵衛」
声をかけて入ると叔父、善助、九郎右衛門が笑いながら後から付いて来た。
「何じゃ、聞いておったのか。何処から聞いていたのだ?」
「某と叔父上は父上がその備前焼の花入れを太兵衛に見せる所からです。善助と九郎右衛門はその前からですな」
「太兵衛、楽しそうであったな」
「あの壺にススキか、いや風流じゃ、畏れ入ったわ」
「冬が楽しみだのう」
叔父、九郎右衛門、善助にからかわれて太兵衛が真っ赤になってもごもごと何か言っている。
「官兵衛、何かあったか?」
「はっ、近江少将様から文が」
父が“ほう”と声を上げた。そして善助、九郎右衛門、太兵衛が座を外そうとしたが押し留めた。三人の顔が引き締まった。
「何と書いて有った」
「はい、関東管領輝虎公の御容態と御養子上杉喜平次景勝様に少将様の御息女、竹姫様を嫁がせると」
シンとした。皆で顔を見合わせあっている。
「輝虎公は半身に軽い痺れが有るそうです。口は些か不自由ですが話す事は出来ると文に書いて有りました。来年には竹姫様を越後に送るそうです、婚儀も行われるので今から忙しくなりそうだと書かれてありました」
「半身に痺れか」
「戦は難しかろう」
「惜しいのう、軍神とまで謳われた輝虎公が戦場に立てぬとは……」
善助、九郎右衛門、太兵衛が話すのを父と叔父が複雑そうな表情で聞いている。父も叔父も年齢的に中風を身近に感じる年になった。思うところが有るのであろう。
「官兵衛、竹姫様は御幾つかな?」
「七歳とか、喜平次様は二十歳だそうです」
「七歳と二十歳……」
父が呟くと皆が其々に反応を示した。唸る者、溜息を吐く者……。
「如何見る、官兵衛」
父が低い声で訊ねてきた。
「喜平次様の御立場を少しでも良くしようとの事でしょう。上杉様の御容態は手足に軽い痺れが有る、喋るのが少し不自由との事ですが実情はもっと御悪いのかもしれませぬ。喜平次様は陣代との事ですが少しでも早く家督を、関東管領職を継がせたいのでしょう」
「しかし二十歳なれば家督を継いでもおかしくは有りますまい。それが陣代とは……、いささか訝しゅうござる」
「余程の愚物か、或いは上杉家中に何らかの事情で喜平次様に素直に従わぬ者が居るのであろう。しかもその者達の力は決して小さくは無い、無視出来ぬという事であろうの」
叔父と父の遣り取りに皆が頷いた。
十代での家督相続など珍しくも無い。経験が足りぬというなら親族の後見を受けつつ経験を積むというやり方も有る。近江少将様がそれだ。未だ幼い時期に父を失い祖父の後見を受けて家督を継いだ。だが十代の前半には自ら兵を率い近隣に武威を振るっている。後見を受ける事は何ら恥ではない。まして上杉程の大家なら……。二十歳にも拘らずそれが出来ぬという事は父の言うとおり反対する勢力が有るという事なのであろう。だからこそ竹姫様が嫁ぐのだ。近江少将の娘婿、未だ若く実績の少ない喜平次様には大きな援護の筈。そして……。
「竹姫様は妾腹の出ですが母親は確か氣比神宮大宮司家の娘の筈」
「氣比神宮?」
叔父が訝しげな声を上げた。
「はい、北陸では大きな力を持つ神社です。越後にもその影響力は及んでおりましょう」
皆が唸り声を上げた。
「これはまた、なんとも強力な護符じゃ」
「喜平次様に面白くない感情を持つ国人衆達も簡単には動けますまい」
「そのような護符なら小寺家にも欲しいもので」
善助、九郎右衛門、太兵衛の会話に父と叔父が笑い声を上げた。これで越後は一安心、そう思ったのであろう。
「如何した、官兵衛?」
父が訝しげにこちらを見ていた。父だけではない、皆が見ている。
「いえ、此処まで手厚く上杉に手当する以上、少将様の西国攻めは間近だろうと思いまして」
敢えて笑みを浮かべて答えると皆が頷いた。
「そうよの、ようやく九字の旗が播磨にはためくの」
「楽しみにござる」
父と太兵衛の会話に皆が満足そうにしている。
護符か……、諸刃の剣になりかねぬ護符ではある。これまで朽木と上杉は東西に分かれて協力体制を取ってきた。侵さず、侵されず、ほぼ対等な関係と言える。だが竹姫様を受け入れれば越後、越中の氣比神宮縁の者は上杉家よりも竹姫様を主と見做すのではあるまいか。そうなれば上杉領内に竹姫様を基軸とした親朽木の勢力が誕生する事になるであろう。それが一体上杉に何をもたらすのか……。
単純に少将様の後ろ盾を得たとは喜べまい。いずれ上杉の上層部は今まで以上に朽木に配慮しなければならぬ事に気付こう。その状況が改善されるのは喜平次様と竹姫様に子が生まれるまで、世継ぎが生まれるまで続く事になる。竹姫様は七歳、となれば今後約十年はそういう状態が続くという事だ。……考え過ぎだろうか?
元亀三年(1575年) 十月上旬 近江国蒲生郡八幡町 八幡城 朽木基綱
自室で一人壺を磨く。あー、いつもは心が段々落ち着いてくるんだがなあ。今は駄目だ、全然落ち着かん。というより落ち込むわ……。七歳の娘使って安全保障の確立って屑な父親だよ。竹には越後なんかに行きたくないって泣かれた。宥めるのが大変だった。カステーラには見向きもしないし綺麗な衣装にも見向きもしない。この城に居たい、俺の傍に居たいと言われた。春日山城は大きくて立派な城だと言ったんだがなあ。俺が思っている以上にファザコン娘に育ってしまった。一緒に風呂には入っていないんだが……。
唯一の救いは綾ママ、小夜、雪乃が状況を理解してくれている事だ。雪乃には俺が話した。何度も頭を下げて謝った。雪乃も朽木を守るためには上杉が必要だという事は理解してくれた。綾ママと小夜には雪乃が説明してくれた。俺が話したら反発しただろうな。だが雪乃が話した事で、納得している事で二人も何も言わなかった。苦しんでいるのは俺も同じなんだと言ってくれたらしい。有難い話だよ。
でもなあ、俺は責められた方が楽だった様な気がする。酷い父親だ、お前は人でなしだと胸倉掴まれて引っ叩かれた方が楽だったと思うんだ。その通りだ、俺は人でなしだ。人間の屑だ。だからどうした、朽木を守るためには仕方ないんだと開き直れただろう。でもなあ、皆優しいんだ。俺を気遣ってくれる。女達だけじゃない、家臣達もだ。だから余計に辛い。
落ち込むわ、立ち直れない。何処かの馬鹿が戦争でも仕掛けてこないかな。そうすれば鬱憤晴らしに叩き潰してやるんだが。俺の方からは動けないんだ。小夜と雪乃がもう直ぐ出産だしちょっと外に出ると竹が寂しがる。……いかんなあ、ついつい壺を磨く手が止まる、溜息が出る。俺、何やってるんだろう? 気合い入れて壺を磨こう。
関白殿下から竹を近衛家の養女にしては如何かと打診があった。殿下も上杉とは縁が深い、輝虎の病気には胸を痛めているようだ。それに殿下は義昭とは対立関係にある。朽木の天下獲りが揺らぐのは拙いのだ。上杉の混乱を出来るだけ最小限に抑えたいと考えている。
やるもんだねえ、竹は戦国の天璋院篤姫か。流石と言うべきかな、近衛家の価値を十二分に認識している。そして近衛家と朽木家、近衛家と上杉家の絆を強めようという事だ。上杉にとっても竹が近衛家の養女になれば鬼に金棒だろう。京の五摂家の一つ、近衛家を通して朝廷と強い繋がりを持つ事が出来る。まさに竹姫サマサマだな。
竹が近衛家の養女になれば義昭の馬鹿が怒りまくるだろうな。いや、もう怒っているか。勝手に婚姻を決めるとは何事か、事前に伺いを立てるのが筋だろうと一色藤長、細川藤孝の前で栄養失調のプロレスラーがうろうろしながら怒りまくったらしい。まあ、藤長が煽った部分も有るがな。馬鹿じゃないの? 大名間の私婚の禁止なんて制度化されたのは江戸時代からだろう。一々お前の許可なんて取る必要は無いんだ。上杉だってお前の許可を取りましょうなんて言ってこないぞ。上杉と朽木の間では来年婚儀を上げた後に事後報告で終わりと調整済みだ。
理由は簡単、お前が素直に認めるとは思わないからだ。上杉も朽木もこの婚姻が必要だと理解している。特に上杉は切羽詰まっている。朽木憎しで凝り固まっているお前は邪魔なのだよ、義昭君。これで義昭は朽木だけじゃなく上杉まで敵に回す事になった、阿呆な奴。元々阿波三好は義昭に良い感情を持っていない。朽木、上杉、阿波三好の絆はより強まるだろう。
面白くないんだろうな、義昭は。本願寺との和睦の後、朝廷からは金銀の交換比率は朽木に任せるとの委任状が来た。それを受けて交換比率を発表した。これにも大分御怒りだったらしい。朝廷も朽木も幕府を蔑にしていると。その通りだ、目指すところが違うんだよ。誰もが発展と安定を求めている。だが義昭は分裂を求めている。足利が力を発揮するには大勢力なんて要らないからだ。だがな、世の混乱には皆がうんざりしているんだ。だから朝廷は朽木を頼りにしている。
もしかすると後世ではこの金銀の交換比率の委任状は朝廷が足利から朽木に大政の委任を切り替えた日とか言われるのかな? 朽木政権はこの日をもって誕生したとか。ちょっと気が早いか、でも朽木政権誕生へ向けての第一歩とかは言われるかもしれない。本当にそうなると良いな。竹を嫁がせるのも無駄じゃなかったという事になる。となると問題は織田だな。
信長からも輝虎の状況確認の文が来た。だから半身に痺れが有る事、口が不自由だが聞き取れない程ではないと返しておいた。実際補佐は必要だろうが政務が全く執れないとも思えない。娘を嫁がせるから朽木と上杉の絆は強まるだろうと書いて送った。さて如何思ったかな。
今織田は遠江を攻略し駿河攻めにかかろうとしている。甲斐の武田と相模の北条は今川と共にそれを防ごうと必死だ。越後の上杉は当分動けない。関東も信濃も先ずは様子見だろう。となれば北条、武田はかなりの戦力を対織田に投入出来る。今川、武田、北条、一万五千前後かな?
織田、徳川は三万は堅い。先ず負ける要素は無いだろう。だが盤石にするには朽木から応援を出すか? 陸ではなく海、水軍を使って駿河、伊豆から相模の海岸を攻撃する。北条を脱落させる事は出来なくても焦らせる事は出来る筈だ。今川の国人衆も気もそぞろだろう。信長に提案してみよう。如何出るかな? 受けるか、拒否するか……。
「父上」
声のした方を見ると竹が戸から首だけ入れてこちらを見ていた。やれやれ、これでは嫁に出せんな。
「御行儀が悪いぞ、竹。用が有るのなら入りなさい、遠慮は要らぬ」
“はい”と答えて竹が部屋の中に入って来た。トコトコと歩いてきて俺の前に坐る、まるで御人形さんだ。胸が痛んだ。
「如何した? 何か用かな?」
出来るだけ穏やかに和やかに声をかけた。
「母上が父上の御側に行きなさいって」
「雪乃が?」
竹がこくりと頷いた。駄目な父親だけじゃなかった、夫としても最低だ。雪乃だって辛いのに気遣われている。そうだよなあ、落ち込んでる暇なんて無いわ。来年には竹は越後に行く。今しか一緒にいる事は出来ないんだ。
「こっちにおいで、此処に」
竹が嬉しそうに立ち上がるとトコトコ歩いて胡坐をかいている俺に背中を向けて腰を下ろした。頭を撫でてやると俺を見上げてニコッと笑った。昔はこうして良く頭を撫でてやったなあ。最近は妹や弟達が居るから遠慮していたのかもしれない。駄目だなあ、また鼻の奥がツンとして来た。何か話さないと……。
「もう直ぐ弟か妹が生まれて来るな」
「はい」
「竹が生まれた時な、父は戦で半年ほど城に戻らなかった。だから竹が生まれた事を知らなかったのだ」
「まあ」
「それだけではないぞ、竹が雪乃のお腹に居る事も知らなかった」
「本当ですの」
竹が吃驚している。
「本当だ。雪乃は戦場で苦労している父を気遣って子供が出来た事を報せなかったのだ。だから城に戻った時に雪乃が竹を抱いて現れても父は竹が自分の娘だとは思わなかった。どこか余所の赤子を抱いているのだと思ってしまった」
「……」
「怒られたなあ。雪乃だけではないぞ、小夜にも母上にも怒られた。御爺にはお前は抜けていると笑われた。あの時の赤子がこんなに可愛い娘になるとは……、不思議な事だ」
いかん、俺は何を言っているんだろう。
「竹は塩津浜の城を憶えているか?」
竹が首を横に振った。
「そうか、竹が生まれた城だ。生まれてから直ぐに清水山城に移ったから覚えておらぬか」
「はい、どのような御城なのです」
「小さい城だ。この八幡城や清水山城に比べればずっと小さい」
「まあ」
竹が“まあ”と声を上げた。不思議そうな顔をしている。そうだろうな、竹が生まれたのは朽木が大きくなってからだった。信じられんだろう。
「だが父はあの城から北近江を獲り越前、加賀、能登、若狭、南近江、伊勢を攻め獲った。あの城は朽木が大きくなるのを見守ってきた城だ」
「……凄い」
「そうだな、凄い城だ。あの城を獲った時は嬉しかった。これで朽木は大きくなれる。北近江は俺が制したと思ったからな」
竹がじっと俺を見詰めていた。おそらく俺の言った事の意味など半分も分かるまい。だがそれでも一生懸命理解しようとしている。愛おしかった。
「行ってみるか? 船を使えば直ぐだぞ」
「はい!」
竹が嬉しそうな声を上げた。
「では子が生まれたら行ってみよう。小夜や雪乃を心配させてはならんからな。それと朽木谷にも連れて行ってやろう」
そうだ、この娘を越後に送る前に朽木谷に連れて行かなければ。
「朽木谷?」
竹が不思議そうな顔をした。
「朽木一族が代々暮らしてきた場所だ。朽木の名字もその朽木谷から取って名乗るようになったと聞いている。父も十歳ぐらいまでは朽木谷に居た」
「本当ですの?」
「本当だ。竹を御先祖様に引き合わせなければならん。俺の自慢の娘だとな」
「はい」
竹が嬉しそうに笑って頷いた。
「竹……」
「父上?」
「いや、その日が来るのが楽しみだな」
俺は馬鹿だ。もう少しで越後に行きたくないと言えと言うところだった。どんなことをしてもお前を守ってやる。上杉、織田を敵に回してもお前を守ってやると。俺はそう言いたかったのだ。度し難い馬鹿だ。俺が滅べば竹は後ろ盾を失うのだ、それを忘れてどうする? 朽木は強く大きく無ければならん。
竹を近衛の養女にする、手続きを進めよう。竹の側にはそれなりの者を付けなければならん。八門、伊賀は駄目だ、上杉の不快感を招きかねん。朽木、氣比神宮大宮司家から信頼出来る者を選ぼう。輿入れは三万の人間を動かす。武田から北条への輿入れの行列が確か一万人だからな。その三倍だ。輿入れの準備は進藤山城守、目賀田次郎左衛門尉に任せよう。あの二人は旧六角の家臣だからこの手の事にはなれている筈だ。
それと嫁入り道具は海路でも運ぼう。船には朽木の水軍が護衛として付く。直江津の湊に若狭、丹後水軍を勢揃いさせてやる。俺を怒らせるなよ。足利なんぞどうでも良い、天下に手をかけているのは俺なのだ。京の朝廷と密接に繋がっているという証が要るな。……あれをやるか、竹の嫁入り道具に持たせてやろう。
年が明けたら戦だ。播磨に攻め入る。俺は立ち止まる事は許されんのだ。荒ぶれ! 荒ぶるのだ! 朽木恐るべし! そう天下に思わせるのだ。竹の後ろには俺が居る、喜平次景勝の後ろには俺が居る。そう思わせる事が竹のためになる。年が明けたら播磨攻めだ、官兵衛に伝えよう。
「父上?」
竹が俺を見上げていた。
「ん、如何した?」
「御顔が怖いです」
「……済まん」
娘を怯えさせて如何する! 俺って本当に駄目な奴……。