誘引
元亀二年(1574年) 二月中旬 近江国蒲生郡八幡町 八幡城 朽木基綱
「御屋形様」
「それは止せ、小兵衛」
八幡城の一室、俺が咎めると黒野小兵衛影昌が困った様に頭を下げた。困った奴。
「この格好だ、弥五郎と呼べ」
「はっ、では弥五郎様」
また頭を下げた。
「そうではない、弥五郎だ。様を付けては変装の意味が無いではないか」
俺と小兵衛の遣り取りに周囲が失笑した。勿論、周囲に居るのは八門だ。
飛鳥井の爺様は駄目だった。俺と綾ママが京に着いた時にはもう息が無かった。そこから先は葬式という名のお祭りだ。飛鳥井の一族だけじゃない、縁戚関係、親交のある連中をも巻き込んでの一大イベントだ。帝からは大典侍が、公家は近衛、九条、一条を中心にかなりの人数が来た。武家も畿内の大名家は殆どが来た、もっとも使者を代理として寄越しただけだが。幕府からは細川藤孝が義昭の名代として来た。
個人で来たのは伊勢親子を始めとして幕府の実務に携わっている人間が多かった。河内守護三好左京大夫義継は使者を送って来たが九条稙通は自ら葬儀に参列した。そして丁重に左京大夫義継が自ら参列出来ない事を詫びてきた。微妙だな、当然だがこの事は義昭にも伝わった筈だ。義昭が如何思ったか……。頼りにならぬと思った筈だ。毛利を始めとして遠国への声掛けも畿内の諸大名が頼りにならないと見ているからだろう。
喪主である伯父は早速悲鳴を上げた。銭が無いってな。だから銭は朽木が出すから遠慮せずに思いっきりやれと言ってやった。何と言っても飛鳥井の爺様は准大臣、飛鳥井家の家格を上げた偉大な人物なのだ。葬儀に来た弔問客を失望させる事は出来ない。当然だが俺も挨拶をした。弔問外交って言葉が頭に浮かんだよ。御爺が死んだ時も凄かったが飛鳥井の爺様程じゃなかったな。疲れたわ。だが疲れてばかりもいられない。今度は伊勢で首脳会談だ。
伊勢に行く途中で波多野の忍びが襲ってくるだろうという事で二手に分かれて伊勢を目指す事になった。重蔵は千種街道、俺は小兵衛と共に八風街道。それぞれ一千の兵で動く。敵は重蔵の顔を知っている可能性が有るらしい。だから重蔵が千種街道を行く事で千種街道を移動する行列に俺が居ると思わせようというのが重蔵の目論見の様だ。その隙に俺は小兵衛と共に八風街道を桑名を目指し海路、大湊へ行く。流石だよな。
そして俺なんだが一般の家臣の恰好で移動する。勿論俺の影武者も同行する。八門から六人。千種街道、八風街道に三人ずつだ。それぞれ南蛮鎧を纏って距離を置いて並ぶ。遠くからでは判別は付け辛い、相手を混乱させようという事だ。ちなみに俺は徒歩、鎧は桶側胴で頬に大きな黒子を付け口の中に詰め物を入れて下膨れの顔にしてある。ちょっと見には俺とは思わない。小夜、雪乃も分からなかった。
特徴の無い顔って便利だよな、簡単に別な人間に化ける事が出来る。小兵衛に俺の顔は忍者向きだと言われた。俺の周囲にはこれまた八門が付く。そして八風街道の者達には俺は重蔵と共に千種街道で伊勢に向かっていると出発後に教える事になる。敵が探りを入れても誤情報を掴まされるだけだ。
重蔵から改めて八門の頭領の座を降りたい、後を息子の小兵衛に譲りたいと願いが有った。丹波での失態も有るが年齢的にも息子に譲って引退する時期だと。八門の内部では合意が出来ているらしい。最後の試験がこの伊勢行きだそうだ。俺を無事に八幡城まで連れて帰る、それが出来れば次の棟梁は小兵衛だと。厳しい試験だ。もっとも相談役、それとも目付なのかもしれんが小頭の石井佐助、 佐田弥之助が小兵衛の側に付く。手抜かりは無い。それにしても俺の命が最終試験の題材か。これってどうなんだろう?
再度の願いだ、八門の代替わりは認めた。但し、重蔵には八門の頭領を引退した後は俺の相談役になれと命じている。忍びの頭領ではなく朽木の重臣として俺を助けろと。禄高は一万石だ。兵を集めるも良し、新たに流れ者の忍びを集るも良し。なんなら商人を集めても良いと伝えた。泣いてたなあ、過分に過ぎるなんて言ってたけど朽木が大きくなれたのは八門の働きが大きかった。当然の事だと俺は思う。
「では、弥五郎」
「うむ、何だ、小兵衛」
「先ずは永源寺までは別働隊と共に行く。そこからは別行動だ」
「分かった」
小兵衛、そんな遣り辛そうな顔をするな。こっちだって遣り辛いんだぞ。
「特別扱いは出来ぬ。遅れずに付いて来い」
「勿論だ」
とは言っても久々に徒歩だ。ちょっと心配だな。小兵衛も不安そうに見ている。やれやれだ。
元亀二年(1574年) 二月中旬 近江国神崎郡山上村 永源寺 龍野実道
朽木の行列が進んでいく。その数、およそ二千。石川三左衛門、雑賀五郎兵衛と共にそれを見送った。動きに無駄が無い、おそらくは選び抜かれた者達なのであろう。行軍しているだけだがそれでも分かった。
「如何見た?」
石川三左衛門が俺と五郎兵衛を見た。三左衛門の表情は険しい。
「鰻を捕まえるのは難しそうじゃ。何処にいるのか分からぬ」
「同感だ、簡単には行かぬ。分かっていた事だがな」
三左衛門が頷くと視線を行列に向けた。行列は少しずつ小さくなっていく。
「二手に分かれるそうじゃ、千種街道を黒野重蔵が宰領し八風街道を倅の小兵衛が宰領するとか。さて、どちらが鰻を運ぶのか……」
語尾が消えた、三左衛門が俺と五郎兵衛を見ていた。答えろという事であろうな。
「常道で考えれば重蔵が鰻を運ぶ。だが……」
「八門の頭領を常道で図るのは危険であろう」
俺と五郎兵衛が答えると三左衛門が頷いた。八門、元は羽黒の山伏の流れを引く者達、或いは楠木、大塔宮に仕えた山の民の末裔とも言われている。足利の世になると共に地に潜んだが世が乱れると朽木と共に走り出した忍びの一族。頭領の重蔵は調略・流言飛語で朽木に敵対する者を惑わせてきた……。
「鰻らしき人物が六人居たな」
「南蛮鎧を着けていた。敢えて目立たせようとしたのかもしれぬ」
「有り得るな。だとすれば真の鰻は供の中に隠れている、或いは密かに先に行ったか」
三左衛門が息を吐いた。五郎兵衛が目を閉じた。行列は遠くなっていく。
「後を追おう、鰻を見つけ、襲う」
俺の言葉を聞いても二人は動かない。五郎兵衛が目を開けた。
「焦るな、善太郎」
「しかし」
反駁すると五郎兵衛が“落ち着け、気を静めろ”と言った。
「襲撃場所は八風街道なら八風峠、千種街道なら根の平峠と決めた筈。先ずは鰻を見つけるのだ。先に行ったのならあの中には居らぬ事になる」
「それは分かるが……」
「五郎兵衛の言うとおりだ、焦ってはならぬ。あれだけの備えをしている以上襲撃は一度きりだ、二度は出来ぬ。失敗は許されぬ」
三左衛門に肩を揺す振られた。
「……三左衛門」
「大湊に行こう」
「……大湊?」
三左衛門が頷いた。
「鰻は隠れている。だが大湊では必ず姿を現す、そこを押さえる。捕えるのは帰りだ」
なるほど、五郎兵衛、三左衛門の言う通りだ、少し焦ったかもしれぬ。
「善太郎、鈴鹿峠を使って大湊に先回りしろ。鰻が姿を現しそうな場所を押さえるのだ」
「分かった」
「俺は千種街道を行く、五郎兵衛は八風街道を行け。鰻の痕跡を追うのだ。だが五郎兵衛、見つけても襲うなよ」
「承知」
五郎兵衛が頷いた、そして俺を見た。
「気を付けろよ、善太郎。伊賀は勿論だが甲賀も我らには好意を持ってはおるまい。鈴鹿峠を越えるとなれば注意が必要だ。抜かるな」
「承知した。お主らも気を付けろよ」
俺が返すと二人が頷いた。行列がまた一段と小さく見えた。
元亀二年(1574年) 二月下旬 伊勢国度会郡朝熊村 金剛證寺 朽木基綱
伊勢国度会郡に大湊は有る。その少し離れた場所に朝熊村が有った。“あさくまむら”では無い、“あさまむら”と読む。この朝熊村に金剛證寺という寺が有る。臨済宗の寺なのだが創建は欽明天皇の命によるものと言われている。当然だがその当時は臨済宗では無かっただろう。しかしね、仏教伝来の事を考えると欽明天皇っていうのはちょっと怪しい。
平安時代に空海が真言密教道場としてこの寺を中興したと伝えられている。だがその後また寂れたらしい。鎌倉時代に臨済宗の坊さんの手によって再興され臨済宗に改宗したのだとか。宗教の世界も侍の世界と変わらんな、国獲りならぬ寺獲りだ。そしてこの戦国では伊勢神宮の丑寅(北東)に位置する事から『伊勢神宮の鬼門を守る寺』として伊勢信仰と結びつき伊勢・志摩最大の寺になっている。
土佐の三位少将一条兼定との会見はこの金剛證寺で行われる。大湊で会見すると思ったんだけどね。実際大湊の商家に会見のために部屋を用意して欲しいと頼んでいた。だが重蔵、小兵衛親子は密かに金剛證寺に話を付けていたようだ。会見場所は急遽、金剛證寺に変更された。俺だけじゃない、影武者六人も同行した。
控室で着替えて会見場に向かった。黒子も取ったし口の詰め物も取った。会見場には既に権大納言一条内基、三位少将一条兼定が揃っていた。でも空気が硬い。この二人、親族なのだが義兄弟でも有る。一条兼定は内基の父、一条房通の養子になっているのだ。年齢からすると兼定が五歳程上らしい。だが状況から察するに仲が悪いようだ。遅参を詫び席に着いた。
「権大納言様、三位少将様、遠路伊勢までお運び頂き有難うございまする」
同じ少将でも俺は正四位下だからな。三位と四位では天と地の違いが有るというのがこの時代の常識だ。案の定、様付されて兼定が満足そうに頷いた。単純な奴、煽てに弱いと見た。一条と言えば五摂家の一つだが兼定には公家の持つ柔弱さは感じられない。身体は決して大きくないが精悍さと覇気が全身から溢れている。如何見ても武家だ。内基と仲が悪いのもこの覇気と精悍さが一因として有るだろう。
「金剛證寺で会見とは驚いたぞ」
「権大納言様、実を申せば某もでございまする」
権大納言内基が声を上げて笑った。少し空気が解れたかな。
「挨拶が終ったのなら話を始めたい。如何かな、権大納言」
駄目だな、あっという間に固まった。なるほど、歳は上だが官位は下、その辺りが影響している様だ。しかしねえ、俺は無視かよ。
「近江少将、鉄砲、弾薬を土佐に送って欲しい」
一応頼んではいるが命令口調だな。
「朽木は三好とも盟約を結んだと聞く、三好に毛利を攻めさせよ」
出たよ、命令だ。
「儂は伊予に兵を出す。義父と力を合わせれば毛利など忽ち音を上げよう」
自信満々だな。要するに此処に来たのは大友の使いか。婿殿の力で朽木、三好に毛利を攻めさせて欲しいと頼まれたのだろう。上手く煽てられたわけだ。何と言っても大友は九州探題だからな。頼られて満足なわけだ。覇気は有るが頭は弱そうだ。今一番大事なのは足元の土佐を固める事なのにそれが分かっていない。伊予なんかに出てみろ、あそこは大友、毛利、三好が争う場なのだ。一条なんて弱小勢力は小突き回されて終わりだ。
「伊予に出るというのであれば援助は出来ませぬな。三好に毛利を攻めさせたいと御考えなら御自身で三好に頼まれれば宜しいでしょう」
兼定が凄い眼で俺を睨んだ。そして権大納言がザマーミロみたいな目でそれを見ている。会見は無謀だったかな?
「儂を援けてくれるのではないのか? そのために集まったのではないのか?」
昔はそうだったが今は違う。世の中は動いている、状況は変わったんだ。この場の討議は分担だ。一条は土佐、三好は伊予、大友は九州に専念すれば良い。
「土佐一条家を援ける気持ちは有りますが大友家を援けようとは思いませぬ。土佐一条家にとって今一番厄介な敵は長宗我部の筈、伊予に出る? 話になりませぬな。そうではございませぬか、権大納言様」
「近江少将の申す通りよ、麿も同意見じゃ」
あらあら、嫌いな義弟にまで反対されて唇を噛み締めている。悔しさ満載、面子丸潰れだな。大友から来た嫁に泣かれるだろう。
「大友は我が妻の実家、儂が援けるのは当然であろう」
「確かに大友家は土佐一条家とは縁続き、三位少将様がどうしても援けたいと仰られるのであれば止めは致しませぬ。御随意になされませ。しかし朽木には大友家を援けねばならぬ義理は有りませぬ。土佐一条家の御力のみで為されれば宜しゅうございましょう」
そんな恨みがましい眼で見るなよ。援助を受けるって事は言う事を聞くという事なんだ。金は出せ、口は出すななんて事が通用すると思ってんのか? 甘いよ。
「朽木家は当家を使って琉球と交易しておろう」
「しておりますな、しかし何時でも止められますぞ」
「馬鹿な」
愕然としている。そう、馬鹿なだよな。琉球との交易はそう言いたくなる程に利が大きい。
「朽木は敦賀で明、南蛮船と交易をしているのです。琉球の産物も入ってくる。何時でも土佐一条家を捨てられます」
分かるか? 朽木家にとって土佐一条家は必要不可欠の存在ではないのだ。交易を人質にされて譲歩などはしない。
「権大納言様、土佐は或いは失う事になるやもしれませぬ。しかし御心配には及びませぬ。今後は朽木家が権大納言様、そして一条家を御支え致します」
「頼もしい事だ」
権大納言が軽やかに笑った。あらあら、これで皆から見捨てられたな。兼定は唸り声を上げながら俺と権大納言を睨んだ。
「三位少将様、大友を取るか朽木を取るか、良くお考えなされよ。ですがこの基綱の見る所、大友は長くは持ちませぬぞ」
「何を言うか!」
兼定がいきり立った。
「大友は肥前の龍造寺を抑える事に失敗しましたな。その結果大友は毛利と龍造寺によって東西から攻められる有様、領内の統治も上手くいかずに苦しんでいる。それ故三位少将様を通してこちらに援助を求めている、違いましょうか?」
「……」
今度は沈黙した。
「いずれ南からも大友は攻められましょう」
「南だと?」
兼定が訝しげな表情をした。現時点では島津の脅威を感じろというのは無理なのだろうな。
「薩摩の島津が大隅を攻め獲りましたな。この後は日向攻めに本腰を入れる筈。日向の伊東氏は先年の負け戦以来振るいませぬ。日向は忽ち島津に攻め獲られましょう。その次は豊後、大友は東西に加えて南からも攻められる。持ちませぬな、それに付き合えば一条家も滅びましょう」
「馬鹿な……」
兼定の顔が蒼褪めている。ようやく現実が見えて来たようだ。
元亀二年(1574年) 二月下旬 伊勢国度会郡朝熊村 龍野実道
「金剛證寺で会見か、かなりの用心だな」
「六人全員が入った」
「その中に本物の鰻が居ると思うか? 追ってみて如何であった?」
問い掛けると三左衛門、五郎兵衛は難しそうな表情をした。
「三左衛門、千種街道は如何であった?」
五郎兵衛が問うと三左衛門が“うむ”と答えた。
「三人のうち二人の警護はおざなりであったな、残りの一人の警護はかなり厳しかった。但し本物かどうかは分からぬ」
「こちらの目を引き寄せようとしているのかもしれぬ」
俺の言葉に二人が頷いた。
「五郎兵衛、八風街道は?」
「三左衛門、そちらと違って三人の警護はいずれも厳しい。そこからは真偽の判断は着かぬ。だがな」
五郎兵衛が俺と三左衛門の顔を見た。
「八風街道の者達には鰻は重蔵と共に千種街道を進んでいるという噂が流れている。その所為かもしれぬが三人の警護以外は緩やかなような気がした。何度か気を引き締めろと命が出ていたな」
三人で顔を見合わせた。鰻は重蔵と共に千種街道を進んでいる、……誘引か、それとも真実か……。
「真実やもしれぬ」
三左衛門が呟き俺と五郎兵衛を見た。
「変な予断を与えたくなかったので先程は言わなかったが千種街道で妙な男が居た」
「妙?」
五郎兵衛が問うと三左衛門が頷いた。
「一度だけだが行列を宰領している者に命を下していた」
「重蔵にか?」
「多分な、年恰好からするとあれは重蔵だと思う。命を下したのは未だ若い男だ。中肉中背、目立たぬ男だな」
「一度だけか?」
「そうだ、一度だけだ。善太郎。あとは普通に警護の兵として振舞っていた」
三人で視線を交わした。五郎兵衛、三左衛門の視線は強かった。
中肉中背、目立たぬ若い男か。条件は合う。三人の偽鰻の中で一人だけを厳重に警護しこちらの視線を引き付けた。そして真の鰻を行列の警護の兵の中に隠した……。一度だけか……、上手の手から水が漏れたな、重蔵。
「見つけたかもしれぬ、その男を追おう」
五郎兵衛、三左衛門が頷いた。
元亀二年(1574年) 二月下旬 伊勢国度会郡大湊村 黒野影久
「あの御方は行かれましたか?」
「行った」
「追う者は?」
「居らぬ。どうやら狙いをこちらに定めたらしい」
俺の言葉に男は満足そうに頷いた。男は立ち俺は片膝を着いている。おそらくこの姿を村雲の者共が何処かで見ているだろう。そして御屋形様だと思っているに違いない。
「その方の命を狙ってくる。覚悟は出来ているか?」
「勿論、あの御方の代わりに死ねるのなら本望にございます」
「……」
「二度目の山科の戦いでございました。あの御方に“その方の報せで勝てた、武功第一である”と皆の前で褒められました。名も無き忍びが……」
御屋形様は忍びだからといって差別はせぬ。その事が我らにとってどれほど有り難い事か……。他家では人として扱われぬ、だが朽木ではそのような事は無いのだ。
「返事はせずとも良い、俺が立ったらその方は俺の肩を叩いて“重蔵、頼むぞ”と大きな声で言うのだ」
「……重蔵、頼むぞ」
肩を力強く叩かれた。目の前には男の顔が有った、怯えは無い。
「必ずや御期待に添いまする」
男が爽やかな笑みを浮かべた。