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亡命者

永禄十五年(1572年)  一月下旬      近江国高島郡安井川村  清水山城  朽木基綱




永禄十五年ももう一カ月が過ぎようとしている。永禄を使うのは今年が最後になるかもしれない。義昭が改元をしたがっている。将軍が代わったのだという事を周囲に表明したいらしい。朝廷も将軍宣下は渋るかもしれないが改元は受け入れるかもしれない。しかし義助は認めないだろう。天下は永禄と新たな元号を使う二つの勢力に分かれる事になる。どちらの元号を使うかで誰を支持しているかが分かると言う事だ。後世の歴史家が喜ぶだろうな。


子供が生まれた。雪乃が先に女子を、小夜が後から男子を、一日違いで生んだ。男二人でない事に安心したよ。一つ間違えば正室腹を兄に、側室腹を弟になんて話が出かねない。今回も出産に立ち会えなかった事には申し訳なく思っているが男女で産み分けてくれた事には正直に言えばホッとした。恨み言の一つぐらい出ても仕方ないと思うが二人とも俺が屋形号を貰った事、守護に任じられた事を素直に喜んで祝ってくれる。益々申し訳ない気持ちが強くなる。小夜と雪乃を大事にしないと。


小夜の産んだ男子は亀千代、雪乃の産んだ女子は鶴と名付けた。雪乃は男子が生みたかったらしい。次は男子をと意気込んでいる。小夜も同様だ、男子が三人続いたからな、次は女子をと願っている。舅の平井加賀守は大喜びだ。竹若丸に同腹の弟が二人居る。将来はもっとも頼りになる親族衆になると考えているようだ。そうなって欲しいよ、間違っても六角みたいな事は御免だ。目指せ、毛利三本の矢だな。さて暦の間に行くか、今日は九鬼、堀内が会いに来る筈だ。楽しい話し合いになるだろう。





「二人とも雑賀の件では良くやってくれたな、おかげで上洛はかなり楽に出来た」

新年の挨拶を受けた後、九鬼孫次郎嘉隆、堀内新次郎氏善を労うと二人が嬉しそうに笑みを見せた。良い傾向だ、二人とも俺に褒められて喜んでいる。

「二人に恩賞をと思ったのだが適当な土地が無い。という事で銭を用意した。それぞれ一千貫だ。後で受け取ってくれ」


二人が顔を見合わせた。

「如何した?」

「いえ、我ら雑賀の船を奪い随分と儲けましたので」

「これ以上貰っては何やら申し訳なく」

「二人で競争でもしたか?」

二人がちょっと困った様な顔をしている。どうやら図星か。


「構わぬ、仕事は楽しくやるものだ。ま、楽しみ過ぎるのも問題だがな」

敢えて笑い声を上げると二人も笑い声を上げた。暦の間に三人の笑い声が響いた。蒲生下野守が苦笑を浮かべている。正月なんだから領地に戻れば良いんだが清水山城に詰めている。今年は色々と忙しくなると見ている様だ。実際にその兆候は出ている。


「雑賀が泣き付いて来たぞ。これ以上は勘弁してくれと。はっきりと釘を刺しておいた。畠山の陰に隠れて坊主や三好の味方をするのは許さんとな」

「守りましょうか?」

新次郎が小首を傾げた。

「どうかな、だが警告はした。多少はあの連中の動きを鈍らせる事が出来よう」

三人が頷いた。二人を傍に呼び小姓共を下がらせた。俺、下野守、孫次郎、新次郎の四人が部屋に残った。孫次郎、新次郎の表情が引き締まっている。大事な話だと思っている。その通り、大事な話だ。


「三好が動いている」

「……」

「密かに軍備を整えている。そして摂津に手を入れているようだ。多分摂津から山城へと兵を進め義昭様の命を狙うつもりだろう」

二人が頷いた。

「連中には安宅水軍と淡路国が有る。摂津へ兵を送るのは難しくない」

また二人が頷いた。


淡路国、こいつが厄介なのだ。畿内、四国、中国地方の丁度中間に有って東瀬戸内海を制する位置にある。つまり明石海峡、鳴門海峡、紀淡海峡を押さえ紀伊水道、大阪湾、播磨灘を睨んでいるのだ。淡路国を押さえ安宅水軍を所持している三好は播磨、摂津、和泉、紀伊に対していつでも攻撃出来るという事になる。阿波、讃岐、淡路から兵力は一万は出せるだろう。摂津には大きな勢力は無い。守護の和田氏も摂津には地盤が無いから抵抗するのは難しい。摂津の国人衆はたちまち三好に協力する筈だ。あっという間に兵力は膨れ上がるだろう。


「兵を京の都に置かれますか?」

「いや、孫次郎、それはせぬ。それでは三好は出兵を取り止めかねぬ。三好には京に攻め込ませるつもりだ」

二人が驚いている。義昭を囮にするつもりかと思ったのだろう。その通りだ、そのくらいしか役に立たん。坂本城には(あらかじ)め三千程の兵力を置いて於こう。三好が攻め寄せて来たら先発として京に向かわせる。多少の時間を稼げる筈だ。

「その方等に訊きたい。安宅水軍が摂津に兵を送っている間に淡路を攻め取る事は可能か?」

新次郎が“それは”と言って口を噤み孫次郎は首を横に振った。


「やはり難しいか?」

「……いささか厳しいかと思いまする。安宅が抑えの兵を残しておかぬとは思えませぬ。手間取れば摂津より安宅水軍の本隊が戻って参りましょう。その際雑賀が後ろを遮断すれば我らは前後から攻撃を受ける事となりまする」

孫次郎の言葉に新次郎が頷いた。

「そうか、だとすると兵を移送する安宅水軍を攻撃するのも難しいだろうな」

二人が“はっ”と頷いて俺の言葉を肯定した。


「御屋形様、やはり現状では淡路攻めは難しいかと」

「そうだな」

分かっていたんだよ、下野守。もしかしたらと思っただけだ。

「新次郎、孫次郎、淡路攻めが整う前提条件は?」

二人が顔を見合わせた。


「摂津、和泉、紀伊の北部が朽木領になっている事でございましょう。欲を言えば播磨も、さすれば雑賀衆も水軍を動かす事に躊躇いを感じる筈」

「その上で摂津、和泉方面と紀伊方面から兵を動かせば必ず淡路は獲れまする」

「分かった、では当分はお預けだな。二人は十分に将兵を休ませてくれ。おそらくその後は土佐方面に行って貰うかもしれん。その覚悟はしていてくれ」

「はっ」


二人が頭を下げた。要するに今の義昭体制を潰さなければ淡路攻略は無理という事だ。そうだろうな、史実でも秀吉が淡路を攻略したのは信長の最後の頃だった。そして淡路を攻略したから四国征伐が可能になった。四国の三好勢力が衰退した一因に長宗我部の勃興が有る。だがこの世界では俺が一条にテコ入れするから長宗我部は大きくはなれないだろう。となると三好の勢力は衰えない可能性が有る。三好は何度も摂津に押し寄せてくる筈だ。やはり摂津、河内、和泉は直接押さえなければならない。そうでなければ畿内は安定しない。次の三好軍侵攻をどう利用するかだな。さて、如何するか……。




永禄十五年(1572年)  二月中旬      近江国高島郡安井川村  清水山城  朽木基綱




「この櫓台から見る風景は何とも言えぬ。雪に覆われて神々しい限りじゃ、この風景を独り占めするとは大膳大夫が羨ましい事よ」

周囲を眺めながら近衛前久が“ほほほ”と笑い声を上げた。同じ“ほほほ”でも義昭よりもずっと不快感を感じない。なんて言うか軽やかで嫌味が無いんだよな。でもなあ、少し寒くないか。昨日雪が降って冷えるんだ。部屋に戻りたいんだけど前久は上機嫌、もう少し付き合うか。


「春から夏は青々と秋は黄金色(こがねいろ)に波打ちましょう。その美しさは豊かさその物にございますれば何物にも代え難い美しさと思いまする」

俺が答えるとまた近衛前久が“ほほほ”と笑い声を上げた。

「それは楽しみじゃのう、見てみたいものじゃ」

「是非にも御覧頂きたく存じます」


関白近衛前久が清水山城に居る。何故関白であるこの男が清水山城に居るのか? 遊びに来たわけではない、実は亡命中なのだ。義昭に疎まれ京を逃げ出して来た。妙な話では有る。義輝、義昭兄弟の母親は近衛家の出なのだから義昭と前久は従兄弟だ。そして義輝の正室は前久の妹だった事を思えば義昭にとって前久はもっとも親しい親族と言える。それなのに京から追い出された。何故疎まれたか?


まあ早い話が三好に近いと思われたわけだ。元々前久の名前は晴嗣だった。この晴の字は義輝、義昭兄弟の父足利義晴から貰ったものだ。ところが前久は義輝が朽木に亡命中に晴嗣の名を前嗣と変えてしまう。晴の字を捨てた事を考えれば足利との距離を置こう、三好との関係を改善しようとしたわけだ。足利にとって必ずしも好ましい事ではない。


だが義輝が京に戻った時は前久は妹を義輝に嫁がせる事で関係を改善している。おそらく義輝の母親のとりなしも有ったのだろうが義輝自身、朝廷の重鎮である近衛前久の協力を必要だと考えたのだと思う。だが義昭にはその辺りが強かで信用出来ない奴と見えたようだ。


決定的なのは義輝の死だった。義昭は前久が本当に義輝に逃げるようにと忠告したか疑っているらしい。義輝が一度は逃げようとしたが屋敷に戻った事を考えると本心から説得しなかったのではないか、危険度を正確に伝えなかったのではないかと疑っているようだ。そして義昭の還俗の時の事も有る。還俗の時、力を貸したのは前久ではなく前久の政敵である二条晴良だった。本当ならもっとも近い親族である前久が力を貸すべきなのに何もしなかった、自分を、足利を見限ったと思っている。


それに比べると義昭と晴良の関係は良好らしい。晴良の晴は足利義晴の一字を貰ったものだ。名を変えた前久に比べれば当然だが義昭の好意は晴良に行く。義昭の母親が存命ならとりなしてくれただろうが母親は義輝が殺された時に自害した。とりなす人間はいない、多分関白は解任され次の関白は二条晴良になるだろう。要するに前久は晴良との政争に負けたのだ。近衛家は闕所扱いにされ身の危険を感じた前久は息子の明丸と共に朽木に逃げてきた。


もっとも逃げてきたと言っても落ちぶれたところは全然ない。ごく自然体で朽木での生活を楽しんでいる。息子の明丸は竹若丸より一歳年長だ。直ぐに二人は仲良くなって毎日算盤を弾いたり安曇川で釣りをしたりして遊んでいる。近衛家の息子が算盤を覚えて如何するんだろう? 時々前久も一緒に釣りに行っている様だ。デカいのを釣ったと自慢する事が有る。義昭が知ったら怒り狂うに違いない。


義昭の気持ちは分からないでもない。だが公家なんて武力が無いから弱いんだ。その辺りを考慮してやらないと……。関白の解任は俺も止めないが近衛は傍に置いた方が利用価値が有るんだがな。二条晴良へのカードにもなる。不都合が有ればいつでも関白を解任出来る、近衛を復帰させると言う事を理解させればその分だけ晴良をコントロールし易くなるんだが……。義昭には朽木で前久を預かると連絡している。三好や毛利に行かれたら厄介な事になるからな。もっとも何処までそれを義昭が理解出来るかと言う問題も有る。


「もう少し暖かくなれば鷹狩をと思っているのだが此処は良い獲物が居るかのう?」

「それは居ると思いますが? 問題は鷹でございましょう。殿下の御意に叶う鷹が居るかどうか」

「そうじゃのう、後で鷹を見せてくれるか」

「はっ」


前久の鷹狩好きは有名だ。信長とは同好の士だった。俺も鷹狩はやるが領内の見回りが主目的だ。狩りの成果は上々だと思う。今年は藤堂与右衛門高虎、田中久兵衛宗政、加藤孫六を見出した。田中久兵衛宗政は多分田中吉政、加藤孫六は嘉明だと思う。ちなみに孫六は未だ十歳にならない。元服前だが小姓として召し抱えている。こいつ、苦労している所為か健気で可愛いんだ。周囲からも可愛がられている。


(みやこ)は混乱しているそうじゃな」

「そのように聞いております」

「義助の頃の方が良かったと皆が言っているとか。大膳大夫、そちは如何思う?」

「……」

如何思うって言われてもね。嬉しそうですね、とか言えば良いのかな? 俺が無言でいると前久がまた“ほほほ”と笑い声を上げた。やっぱり嬉しそうですね、殿下。


京で混乱が起きているのは事実だ。義昭の側近達が公家や寺院の所領を押領し始めた。そしてそれに対する苦情、訴訟を幕府は処理出来ずにいる。政所から伊勢氏を排除した弊害が出ているのだ。義昭の将軍宣下は未だ目処が付かない。銭の用意が出来ずにいる。俺に資金援助の要請が来るかと思ったがどうやら義昭はこれ以上朽木を頼るのは嫌らしい。周囲には朽木をこれ以上大きくしたくないと言っている様だ。結構な事だ。


義昭は何とか銭を集めようとしているが中々集まらない。そして公家達は義昭を見離しつつある。朝廷は禁裏修理を義昭に要請した。俺ではなく義昭に要請したところが朝廷の意地の悪い所だ。銭の無い義昭がそれに応えられる筈が無い。例え義昭が将軍宣下の銭を用意しても朝廷は禁裏修理を出来ない男に将軍宣下は許せないと言うだろう。公家達の間では義昭よりも義助を支持する声が上がりつつ有る。前久の言う通りなのだ。そしてその声は四国の三好にも届いている。


「良いのかな、大膳大夫。このままでは義昭の評判は落ちるばかりだが」

そんな試す様な目で見るのは止めてくれるかな。

「義昭を擁立したその方も困るのではないか?」

最初はそう思った。馬鹿が碌な事をしない。その内朽木にまで非難が来るだろうと。


だが今では別な事を考えている、好都合だと。義昭の悪評が高まれば高まるほど三好に対する期待は高まる。それを見込んで三好が京に攻め込んでくるのは間違いない。義昭は囮として使う。見殺しにするつもりはないが義昭が死んでも全然構わない。いやむしろ死んでくれた方が都合が良いな。その時は義昭の仇討という形で三好を討つ。三好孫六郎、松永兄弟とも争わずに済むだろう。ちょっとあざといかな?


「大膳大夫にとっては京よりも土佐が心配かな」

「そのような事は」

「無いと言うか? 一条権大納言は困っておろうの。土佐は一条家にとって大事な所、長宗我部とやらに奪われるのは辛いからの」

近衛前久が“ほほほ”と笑い声を上げた。


その通りだな。土佐一条家は様々な形で京の一条本家を助けている。土佐の材木、海外貿易で得た珍しい品。結構美味しい。それに対する代価は土佐一条家に対して官位等で優遇するように取り計らう事。そして土佐一条家の依頼を受け京の一条本家が土佐の国人衆達が官位を授かるように取り計らう事。要するに土佐では京の一条家本家、土佐一条家を頂点とする秩序が出来上がっていたわけだ。長宗我部の行動はその秩序の破壊だと言える。権大納言が土佐に赴くと言うのも単に分家が心配だという事ではない。


その土佐一条家だが当主の兼定は伊勢に来るのを渋っている。土居宗珊を通して今後の事を話したいと言っているのだが朽木は援助だけすれば良いと言っているようだ。朽木如きに呼ばれて伊勢に行くのはプライドが許さないらしい。一条権大納言とも相談して権大納言も伊勢に来る、三者で今後の事を相談しようと改めて呼びかけている。


「その方の考えは土佐一条家を援助し土佐を統一させ阿波へ攻め込ませようというものであろう。だが権大納言にそこまでの欲が有るかな? 今の土佐一条家が守れればそれで良しとするのではないかと麿は思うのだが……」

結構鋭いな、まあそうかもしれない。その辺りは俺も考えてはいる。土佐一条家を阿波への牽制に使えなくても琉球への交易の中継点には使える。それだけでも十分に価値は有る筈だ。欲張らずとも良い。ここは土佐の長宗我部を抑え一条家をがっちりと掴む事だ。


「大膳大夫、そなた何を考えている?」

「はて、何を考えていると言われましても……」

「天下か?」

「はあ?」

天下? 前久が面白そうな表情で俺を見ている。天下? ピンと来ないな。そんなものを欲しいなんて考えた事無かった。俺が考えた事は生き残る事、自分の領地を豊かにする事だった。天下?


「気付いておらぬのか? 今天下に一番近いのはその方であろう。東には織田と上杉、どちらも朽木とは友好関係に有る。その方は西に集中出来る」

「朽木は足利の忠臣と言われておりますが?」

前久が“ほほほ”と笑い声を上げた。何処かに嘲笑を感じた。何を言っていやがる、そんな感じだ。


「麿にはそうは見えぬな。能登の畠山、伊勢の北畠、どちらも滅ぼした。そなた、真に足利の忠臣か?」

「……」

いや、違うんだけどね。面と向かって言われたことは無いな。それに織田、上杉は足利にうんざりしている朽木に同情はしているが敵対した場合如何出るかは未知数だ。織田、上杉が敵に回れば天下に一番近いどころかあの世に一番近くなる。義昭は大喜びで朽木包囲網を作るだろう。


しかし、今なら織田は動けない。織田はこの正月に東三河の柳生川の付近で徳川軍と共に今川・武田連合軍と戦った。ざっと十日くらい陣を敷いて向き合ったらしい。兵力は織田が二万、徳川が二千、今川が一万、武田が六千だから織田・徳川連合軍二万二千対今川・武田連合軍一万六千となる。兵力的には織田・徳川連合軍が優位なんだが戦いはどちらかと言えば今川・武田連合軍の優勢に終始したようだ。


この柳生川の戦いでは大軍を率いた織田、今川よりも武田、徳川の働きが目立ったようだ。信長はちょっと油断したな、今川氏真も武田信頼も実戦経験が少ない。その所為で甘く見たようだ。信長からの文には今回の事で相手方の手並みの程は十分に分かった。次は油断せずに戦うと書いて有った。信長には手伝える事が有ればいつでも言って欲しいと返事を書いておいた。


もしかすると織田・徳川・朽木の連合軍で戦う事になるかもしれない。家康にも文を書いた。今回の御働き真に見事なもので感服しましたと書いて送ったら家康から積年の恨みを晴らしたいと返事が来た。東海戦線はこれからが本番らしい、どちらかが潰れるまで続くだろう。今なら織田は朽木との同盟を維持する筈だ。


「麿には三好などよりもずっと大膳大夫の方が強かで油断ならぬ存在に見えるが」

「……」

「義昭は気付いておるぞよ」

「……」

前久が俺の顔を覗き込んだ。

「あの男はそういう事には(さと)い。猜疑心が強いからの」


なるほど、実感がこもっている。義昭の天下じゃ前久は一生亡命者のままだ。死んで欲しいぐらいの感情は有るだろうが三好の天下では面白くないとも思っているだろう。もしかすると俺を焚き付けているのかもしれん。うっかり返事は出来んな。しかし二条晴良が廟堂のトップになるのは面白く無い。二条よりも朽木に近い近衛の方が何かと都合が良い。


「殿下、殿下の御力をお借りする事になるかもしれませぬ」

「ほう、麿の力とな」

声が弾んでいるぞ。

「左馬頭の為かな?」

「いえ、朽木、近衛両家のためでございます」

「……ほほほ、良いぞ。その日が楽しみよな」

朽木・近衛同盟の成立だな。同盟の目的は……、ま、同床異夢という事も有るよな。






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― 新着の感想 ―
史実だと近衛前久は顕如の長男である教如を猶子としていましたが、さすがにこの世界線だとそれはないか……
[気になる点] 都合の悪いことは意地でも口にしない。 この主人公、長所がかけらも見当たらない。
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