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謀神

永禄十四年(1571年)  五月中旬      安芸国高田郡吉田村  吉田郡山城  小早川隆景




「御爺様、宜しゅうございますか」

廊下から甥の毛利右衛門督輝元が声をかけると部屋の中から“入るが良い”と億劫そうな声が有った。右衛門督、兄吉川駿河守元春、そして私小早川左衛門佐隆景が部屋に入ると部屋では老人が臥所で身を起こそうとしていた。側室の中の丸がそれを助けている。寝ていて良いのに、そう思ったが誰も口には出さなかった。言葉にすれば父が不機嫌になるのは分かっている。


父、毛利陸奥守元就。安芸の一国人領主であった毛利家を一代で山陰、山陽の覇者にした男。その父に死が迫っている。後どれだけこの世に居る事が出来るのか……。父の傍に三人で座った。中の丸が隣の部屋に居る、何か有れば声をかけて欲しいと言って部屋を出た。

「如何した? 皆揃って」

「先程まで朽木の使者と会っておりました」

右衛門督の言葉に父の目が鋭く光った。

「朽木の使者は先に新高山城の叔父上を訪ねました。叔父上は日野山に使者を出し此処へ来たのです」

父が私を見た、渋面をしている。朽木の使者が吉田郡山城よりも先に新高山城を訪ねた。朽木は父の病を相当に重いと見ているという事であろう。八門、油断ならぬ。


「朽木の使者は何と?」

「土佐の一条家に援助をするそうです。あくまで対長宗我部のための援助、決して伊予に攻め込むような事はさせぬ、御懸念は御無用にと」

「……」

「土佐統一後は阿波に向かわせると言っております」

「朽木は京の一条家と繋がりが有りますからな」

「そんな事は分かっておる」

兄が右衛門督の言葉を補うと父が不機嫌そうに吐き捨てた。


「それで何と返事をしたのだ?」

「未だ返事をしておりませぬ、待たせております。御爺様のお考えを伺ってからと」

父が目に怒りを滲ませた。

「その方は毛利の当主ぞ。死にかけた隠居に遠慮してどうする」

「……」

右衛門督が俯くと父が怒りに満ちた視線を私と兄に向けた。


睨まれても困る。私も兄も朽木の使者に御丁寧に痛み入るとでも返事をすれば良いと助言した。毛利には朽木が一条に援助を行う事を止められぬのだ。朽木は当然それを分かっている。朽木がこちらに使者を寄越したのはこちらへの好意、あくまで毛利の諒承を得たという形を取ろうとしての事だろう。だが右衛門督は自分の判断で使者への返事を保留した。使者の前で言い争う事も出来ぬではないか。だが此処は謝るべきなのだろうな。


「申し訳ありませぬ、父上」

「我ら両名、殿のお役に立てませんでした」

私と兄が父に謝ると右衛門督が慌てて叔父達には落ち度は無い、自分の過ちであると父に謝罪した。父が溜息を吐くと“以後は気を付けよ”と注意した。歯痒いのであろうな、ここぞと言うところで判断を迷う。決断出来ぬ、人を頼るところが有る。乱世には向かぬ性格だ。


「朽木の使者には御丁寧に忝し、大膳大夫殿に良しなにとでも言えば良かろう」

「御爺様、朽木を信用出来ましょうか? いずれは朽木、一条と戦う事になるのでは?」

「先の事は分からぬ。朽木には三好という敵が居る」

「どちらが勝ちましょう?」

先の事は分からぬと言っているのに……、ん? 父上? 父が考え込んでいる。

「……朽木、であろうな」

思わず兄と顔を見合わせた。兄も訝しげな表情をしている。


「三好は朽木に勝てまい、余程に相性が悪いようじゃ」

相性? 妙な事を言う。私と兄が訝しんでいるのが分かった様だ。父が苦笑を浮かべた。

「もう十五年以上経つ、三好は三千の兵で朽木に押し寄せた」

「覚えております、朽木に滞在されていた義輝公を裏切れ、三好に味方せよと迫ったのでしたな。恩賞は若狭一国」

兄の言葉に父が頷いた。


「三好は畿内の大部分を制し中国にも手を伸ばしていた。朽木は一万石にも満たぬ国人領主、(あらが)える筈は無かった。六角、浅井、朝倉、皆三好を畏れていた。誰も義輝様のために朽木を助けようとはしなかった。本当なら義輝様は朽木を追われる筈だった……」

「しかし朽木は三好の誘いを撥ね退けました」

私が答えると父が頷いた。


「あそこで朽木が三好に屈していれば義輝様は行き場を失い流浪の身になった筈。足利の威光は更に地に落ちた、三好が新たな天下を築いたかもしれぬ。だが朽木が踏み止まった。僅か三百の兵しか持たぬ朽木が三好など恐れぬ、たとえ領地を失おうと足利を守ると踏み止まった……」

「……」

父が我ら三人を見た。


「甘く考えるでないぞ。あの時は分からなかった。だが今なら分かる。あれで足利の威光は保たれた。三好は天下を掴み損ねたのじゃ。だから三好は義輝様と和睦せざるを得なかった」

「帝の御意向が有ったと聞きますが?」

右衛門督の言葉に父が首を横に振った。


「そうではない、和睦の話を持ちかけたのが朽木だからじゃ。そうでなければ無視する事も出来た」

「……」

「良いか、右衛門督、良く覚えておけ。例え大身であろうと腰抜けなど誰も畏れん。だが朽木は三好を畏れておらぬ。身代は小さいが心構えは三好と対等なのじゃ。だから三好は朽木の持ってきた和議を無視出来ぬのだ」

なるほどと思った。毛利も大きくなった。だが身代の大きさに油断してはならぬ。


「結局三好は義輝様を弑してしまった。将軍殺しの悪名を背負う事になったのじゃ。今は勢いが有る故誰も声高に責めぬ。だが勢いが衰えれば皆が声高に責めるだろう、それを大義名分に攻める筈。三好の終わりは良く有るまいな、惨めなものになろう。……憎い男よ」

驚いて父を見た。私だけではない、兄、右衛門督も驚いて父を見ている。父が我らの驚きに気付いたのであろう、顔を背けた。


「儂には出来なかった。大内に突き飛ばされ尼子に蹴飛ばされても()(つくば)って頭を下げるしかなかった。大内と尼子が潰し合い大内が自滅した故それに付け込む事で大きくなれた。そうでなければ今でも這い蹲っていたやもしれぬ。……あの男は常に頭を上げている。眩しいわ、憎い程に眩しい」

呟く様な口調だった。右衛門督は分かるまい。物心付く頃には毛利はそれなりの勢力になっていた。だが私には父の気持ちが分かる。兄も同様であろう。


「ですが朽木も六角の前に頭を下げております」

父が乾いた笑い声を上げた。

「何も分かっておらぬな、右衛門督。朽木は六角に頭を下げておらぬ。六角を振り回しておったではないか。機嫌を取っていたのは六角の方よ」

「……」

右衛門督が納得していないと見たのであろう、今度は苦笑を浮かべた。


「浅井の治めていた北近江三郡、朽木が得たのは二郡、六角は一郡。六角が朽木の頭を押さえ付けていたなら逆になる。朽木は六角を利用したに過ぎぬわ」

「なるほど」

「この先、毛利と朽木の関係がどうなるかは分からぬ。だが決して大膳大夫に油断してはならぬぞ。戦うなとは言わぬが好い加減な気持ちで戦ってはならぬ。戦う時は毛利を潰す覚悟を致せ、良いな」

「はっ」

皆で頭を下げ部屋を出た。


朽木大膳大夫基綱、父に言われたが容易な相手ではない。伊勢長島の一向一揆は殆ど何も出来ずに降伏した。一揆勢は長島を追われ石山に戻ったらしい。そして伊賀は朽木に従う姿勢を見せている。当然の事だが大和の松永、紀伊の畠山は朽木の動きに同調しようとしている。朽木と三好が雌雄を決する時が近付いている様だ。




永禄十四年(1571年)  五月中旬      伊勢国安濃郡桂畑村  長野城  長野祐基




「ついにやりましたな」

「これで我らもようやく安心出来るというもの」

「長島が片付いて直ぐであったな。清水山の殿も北畠には余程に腹が据えかねたと見える」

儂の言葉に細野壱岐守藤敦、分部與三左衛門光嘉の二人が頷いた。二人ともにこやかに笑みを浮かべている。この二人、兄弟だけあって声も似ているが笑顔も良く似ている。


「それにしても真田の兄弟、鮮やかなものですな。大膳大夫様の信頼が厚いとは聞いていましたが……」

「北畠権中納言、大河内相模守は砂で目潰しを喰らったと聞いております。いくら剣の達人でも目が見えねば闘えませぬ。何も出来ずに殺されたそうで」

先日、北畠一族が大膳大夫様の命により誅殺された。北畠一族の殆ど、三十人程が三瀬御所に集められ殺された。


「北畠権中納言は卑怯と絶叫したと聞いている」

「そのようですな」

「愚かな事で」

三人で声を揃えて笑った。あれだけ大膳大夫様に敵意を露わにしておいて許されるとでも思っていたのか。権中納言の官位が自分を守るとでも思っていたのだとしたら笑止な事よ。大膳大夫様は叡山でさえ焼いたというのに……。


「北畠は伊勢で力を失った。我ら長野一族を脅かす者は居なくなった」

儂の言葉に二人が頷いた。もう笑みは無い。

「だが(ゆる)む事は許されぬぞ。我らは長野城の改修、安濃津城の改築と朽木の恩恵を周囲が羨む程に受けているのだ。その事を忘れてはならぬ。忘れれば北畠と同じ目に遭う事になろう」

また二人が頷いた。清水山の殿は我ら国人に対して酷く当たる事は無い。だが決して甘い御方では無い。その事を胆に銘じなければならん。そして多気郡には真田弾正が配されるのだ。弾正は外様とはいえ清水山の殿の腹心、気を弛めてはならぬ。


「鈴が戻って来るぞ。壱岐守、清水山へ迎えに行ってくれるか」

「はっ」

「案外戻りたがらぬかもしれぬ。清水山では大方様に随分と可愛がられていると聞く。それに温井の娘、三宅の娘とも親しくなったらしいからな」

「それは……」

「これまで随分と世話になっている。御礼の品を持って行ってくれ」

「承知しました」


「與三左衛門、その方も祝いの品を持って清水山に行って欲しい」

「祝いの品、でございますか?」

與三左衛門が首を傾げた。

「清水山では御方様、御側室、お二人共に御懐妊との事だ。」

二人が驚いた様な声を出した。朽木家は既に男子が二人、女子が一人いる。またそこに子が増える。先は明るい。


「惜しいですな」

「何がだ、壱岐守」

「いえ、鈴様の御歳が今少し上ならこのまま側室に、そう思ったのでござる」

「真、兄の言う通りにござる。清水山の殿もお困りでありましょう」

「無理を言うな、鈴は未だ十一だ。それこそ殿は困られよう。それより使者の件、頼むぞ」

二人が頷いた。十一か、後一年、二年、確かに惜しいな……。




永禄十四年(1571年)  五月下旬      近江国高島郡安井川村  清水山城  朽木基綱




ようやく少し落ち着いてきた。これまでずっと忙しかったからな。長島攻略、北畠一族誅殺、伊賀接収、堀内新次郎の誘引、土佐一条家への援助。立て続けだった。その合間合間に桑名を朝廷に献上し毛利に使者を出して加賀に配した城代達に領地を与え、真田にも領地を与えた。伊勢の多気郡で石高は四万石、喜んで貰えるだろう。次は能登に居る城代達だな。


長島攻略は思ったよりもあっさりと終わった。どうやら補給を断たれた事で一揆勢の士気は下がる一方だったらしい。おまけに攻めて来るのが根切りの朽木だ。当主の俺は門徒共を殺すのは善行で自分の使命だと宣言する鬼畜だからな、降伏するから殺さないでくれと哀願される始末だった。なんだかなあ、俺ってそんなに酷い奴か? 皆は楽に戦が終ったと喜んでいるが俺は少しも喜べん。凄く心外だ。大体おかしいんだ。極楽浄土は如何した? 何で死を怖がる?


顕如は長島が不甲斐無く降伏した事に大分腹を立てたらしい。また物を投げて暴れたそうだ。気持ちは分かる。北陸、東海道から一向一揆は追い出された。これで残っている拠点は西国だけだ。東から攻めてくる敵に対しては石山が最前線になると言う事だ。不本意だろうな。織田、徳川からは丁重な文が来た。いよいよ東へ向けて進むらしい。今川との決戦だな。


長島には門徒ではない人間も居た。あそこは一種の治外法権だから主家が潰れたとか主君を怒らせて逃げたとか犯罪を犯したとか訳有りの人間が逃げ込んでくる。これが結構面白そうな顔ぶれなんだ。そいつらに朽木に仕官しないかと打診したら何人かが受けてくれた。人間食わなきゃ生きていけないからな。節操が無いとか忠誠心はとか詰まらん事は言わん。


仕官してくれたのは長井隼人正道利、日根野備前守弘就、日根野弥次右衛門盛就。この三人は美濃一色家の家臣だった。日根野備前守弘就と日根野弥次右衛門盛就は兄弟だ。大木弥介兼能は伊勢の国人領主だったが長島の一向一揆に参加した。城と領地は戻さん、本人が内政関係の仕事がやりたいと言うから御倉奉行、荒川平九郎の下に就ける事にした。一から頑張れ。


他には笠山敬三郎久道、笠山敬四郎久長、多賀新之助久秀、鈴村八郎衛門親好を召し抱えた。いずれも手強く戦ったと前線からは報告が来た男達だ。敬三郎と敬四郎は親子だ。敬三郎は四十半ば、敬四郎は十代後半、新之助は二十代後半、そんなところだろう。三人とも浮ついたところの無いしっかりした男だ。適当に何人か下に付けて見ろと言って田沢又兵衛に預けた。結果が良ければ俺の傍に置こうと考えている。


敬三郎と新之助は古い知り合いらしい。どうもこの二人、以前同じ家中に居たんじゃないかと思う。だが息子の敬四郎は仕官するのは今回が初めてらしい。だとすると仕えた家が滅んだにしても十年以上は前の事になる。長島に来たのは八年前だとか。結構苦労したのかもしれん。


鈴村八郎衛門は尾張の出だ。鈴村というのは尾張では結構知られた姓なのだが八郎衛門はその名の通り八番目の息子らしい。兄達は信長に仕えているらしいが八郎衛門は妾腹の出で兄達と仲が悪かったので信長には仕えなかったようだ。年の頃は二十代の前半、俺と同年代なのだが割とイケメンだ。ちょっと羨ましいわ。


北畠の誅殺は真田源太郎と徳次郎の兄弟が実行した。元服して北畠家当主となった北畠具成に俺が嫁を世話する、ついては相談したいという名目で北畠一族を三瀬御所に集めた。内々に京の有力公家の娘を考えていると伝えておくと簡単に集まったらしい。後は一網打尽だ。北畠具教、大河内教通は兵法の達人だが砂で目潰しをして殺したようだ。長島攻略、北畠誅殺が終った時点で伊勢領内に関の廃止と楽市楽座を実行した。領内は街道の整備も進んでいるからこれまで以上に繁栄するだろう。


北畠を誅殺すると大和の義昭がキャンキャン騒ぎ出した。北畠は自分の忠臣とでも思っていたのだろう。笑わせるよ、何も分かっていない。俺が北畠が義助に通じていた事を教えるとピタリと俺への非難が止まった。そして何時上洛するのかと言い出した。夏か、秋か、冬か、出来れば年内に上洛したい……。好き勝手言うよな、全く。その内に、気が向いたら、そう答えておいた。俺は怒っているんだ、覚えておけ。


だが現実に如何するかという問題は有る。土佐に一条という拠点が出来た。協力して東土佐を制するという手も有る。そこから阿波を脅かせば反三好勢力が忽ち蠢き出すだろう。三好は四国からの援軍は見込めなくなる。或いは紀伊水道を制して畠山と共に紀伊西部を攻略する。三好は紀伊方面に兵を取られる筈だ。そこを近江、伊賀から攻め込む。堀内新次郎が傘下に入り熊野水軍を完全に朽木の支配下に置いた今、十分に可能だろう。だが一条が朽木と結べば長宗我部は三好と結ぶだろう。となると……、要検討だな。


伊賀は完全に朽木の勢力範囲になった。伊賀の実力者、千賀地保元、百地丹波、藤林長門守の三人が自ら俺に会いに来た。そして伊賀一国、朽木家を主として仰ぎたいと言ってきた。条件は一つ、伊賀の自治を認める事。こちらからも条件を出した。軍の移動の自由、そして伊賀者が他国の仕事を請け負う事の禁止。勿論、その代わりに朽木が伊賀者を雇う。向こうも条件を飲んだ。伊賀者については支配の頭を置いてくれと言うので重蔵と相談して大叔父に頼む事にした。今は土佐、九州方面を調べさせている。九州はこれから騒がしくなる筈だ。


土佐への援助は金と武器、金は二千貫、武器は鉄砲三百丁。既に九鬼が運んでいる。まあ援助しても元は直ぐ取れる、火薬、鉛玉、火縄、兵糧。幾らでも売ってやるからな。戦争ビジネスで大儲けしてやる。それに土佐は材木、御影石の産地だ。伊勢と土佐を結んで土佐から琉球、なかなか楽しくなりそうだ。琉球には今年の晩秋ぐらいに行く事になる。そして来年春先に帰国だ。交易だけじゃない、対島津の問題も含めて琉球側と話し合いをさせようと考えている。


毛利には使者を送って事情を説明した。元就の具合は大分悪いらしい、長くは無いな。跡取りの輝元だが使者の話ではどうも頼りない。毛利の勢いは元就死後は間違いなく鈍る。史実で知っているという事では無く使者の話を聞いて肌で感じた。余り当てには出来んな。三好と組まなければ良し、そう思う事にしよう。何時かは戦う事になるかもしれない。安芸は本願寺の勢力が強いから要注意だ。


長島を制した事で桑名は禁裏御料として朝廷に献上した。朝廷からは官位をという話が有ったが断った。去年の親王宣下から立太子礼でも官位をって話が有ったんだが困るんだ。今だって従四位下大膳大夫なんだ。これって結構高いんだよ。義昭が従五位下左馬頭、将軍になった義助が従四位下参議兼左近衛中将。位階なら俺は将軍と同等で義昭よりも上だ。それに四位って幕府内部の序列で言えば相伴衆に与えられる地位なんだ。朽木は御供衆だぞ。今だって不釣り合いなのだ。これより上に行くと朽木は驕っているとか非難が出かねない。


でも朝廷もしつこいんだ。何か俺に与えないと不安なんだろう。官位が嫌なら桐紋をどうかなんて言ってくる。あのなあ、朝廷が武家に桐紋を下賜するって問題だろう。元々は後醍醐天皇が足利尊氏に討幕の恩賞として与えそれ以降は足利将軍家が功績有る家臣達に与える事で桐紋を使用する家が広まっていった。


今ここで俺が帝から桐紋を貰えばどうなる。何処かの馬鹿が帝は暗に朽木に天下を取れ、幕府を開けと伝えた。或いはそれを望んでいる、なんて言い出しかねない。とんでもない騒ぎになるだろう。特に義昭は僻みが酷いからな、またキャンキャン騒ぎ始める筈だ。気持ちだけで良いんだ、何もしないでくれ。して欲しい時はこっちから頼むから。千津叔母ちゃんに綾ママから頼んだから何とかなるだろう。


戦から帰ると小夜と雪乃が妊娠している事が分かった。同時期に出産するはずだ。頼むから両方とも男は止めてくれよ。織田信雄、信孝兄弟みたいなのは御免だ。男女で産み分けるかどちらも女、そうしてくれ。家庭内にまで問題を持ち込まれたくは無い。でもそういう気持ちを分からない奴もいる。


二人が妊娠していては御辛いでしょうから新たに側室を、そんな事を言って来るんだ。要らない、欲しくない、面倒だ。家臣達にははっきりと断った。今だって結構大変なのにこれ以上の面倒事は沢山だ。大体新しい側室ってどこから選ぶんだ。家臣の中から選ぶのは嫌だぞ、家中に変な勢力は作りたくないし気を使うのも嫌だからな。女達が出産するまでは壺でも磨いて過ごすさ、それで十分だ。





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[気になる点] 西南日本外帯の土佐で御影石というと黒御影でしょうか…
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