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調略




天正四年(1580年)   四月中旬      近江国蒲生郡八幡町 八幡城  

朽木小夜




「華姫は越後に戻られたのですね?」

「はい、敦賀の湊までお見送りしました。船を使えば直江津の湊は直ぐです。直に無事着いたと報せが届きましょう」

「ご苦労様でした」

労うと弥五郎が“有難うございます”と頭を下げた。


わざわざ私の部屋にまで報せに来るとは随分と律儀な事。息子は元服してから急速に大人びてきた。外見は日に日にお若い頃の御屋形様に似てくるように思える。でも内面は違う、御屋形様は政務には熱心であられたが大らかで闊達なところが有った。弥五郎からは生真面目さだけを感じる。疲れてしまうのではないだろうか? 奈津殿が上手く弥五郎の心を(ほぐ)してくれればよいのだけれど……。


「御屋形様の留守を守るのは大変でしょう?」

「はい、今更ですが容易な事ではないと身に染みて分かりました」

「無理をしてはいけませぬよ。そなたは未だ若い、これからなのですから」

「はい」

生真面目に答える息子が哀れだった。本当ならもう少し気儘に過ごせた筈なのに……。今更ながら御屋形様が元服を急がないと仰られた事を考えてしまう。大方様は家督を継いだ御屋形様をどう扱って良いか分からなくなったと仰られていた。私も同じ様な思いを味わっている。男とはこんなにも変わるものなのか……。


「母上、余り御心配には及びませぬ。長宗我部が戦う事無く降伏致しました。父上からは予定通り一条家に向かうと文が届いております。九州では大友と龍造寺が父上の扱いを受け入れる事に大筋で合意したそうです。父上と協力して島津を抑える事を優先した方が得と考えたのでしょう。一条家の内紛を収めるのに一月、島津との交渉に更に二月かけても七月の終わりには全てが片付くと思います」

弥五郎が指を折りながら答えた。


「譲位の方は滞りなく進んでいるのですか?」

弥五郎が“はい”と言って頷いた。

「既に庭も含めて仙洞御所は出来上がっております。これから夏にかけて調度品を整えて行く事になりましょう。それと譲位の後、上皇となられた帝が仙洞御所に遷られます。その辺りの手筈も整えなければなりませぬし仙洞御所への御遷り後は能興行を催す事になります、それも考えなければ……。もっともその辺りは兵庫頭、それに飛鳥井の大伯父上、関白殿下、右府様に相談しながら決める事になりましょう。京へ行く事になるかもしれませぬ」

「そうですか……」


七月の終わりには全てが片付く、となれば御屋形様は八月にはお戻りになる。それならば譲位に間に合うだろう。でも御戻りが無い場合は弥五郎が御屋形様の代理を務める事になる。大丈夫だろうか? 一度大方様に御相談した方が良いかもしれない……。




天正四年(1580年)   四月中旬      近江国蒲生郡八幡町 八幡城  

朽木堅綱




母上が不安気な表情をしている。やはり私では心許ないらしい。確かに父上の代わりは大変だ。評定では皆から報告を聞かねばならない。何を言っているのか分からない事も有れば決断を迫られる事も有る。急を要する物は決断し父上に報告を出しているが父上は如何御思いか……。多少は役に立つと思ってくれるだろうか? それともまだまだ頼りないだろうか?


他にも大友と龍造寺の和睦、帝の譲位、安芸の一向門徒、織田の跡目争い、毛利、徳川、上杉、そして父上の動向など目を配らなければならない事は沢山ある。あ、それと越後の上杉家に譲位が夏に行われるから朝廷に使者を送って欲しいと念押ししなければ……。それに父上が居ない以上弟や妹達、北条、今川の遺族の面倒は私が見なければならない。休む暇も無い程だ。


「十五郎にございまする」

部屋の外から声が聞こえた。呼びに来たという事は……、母上に断りを入れて外に向かった。戸を開けると十五郎が片膝を付いて控えていた。

「何が有った?」

屈んで問い掛けると十五郎が耳元で“織田家にて大事が、至急お部屋にお戻りを”と囁いた。織田家か、安芸かと思ったが……。


「母上、申し訳ありませぬが急ぎ片付けなければならない事が出来(しゅったい)しました。失礼いたしまする」

声をかけて部屋から出た。十五郎が後から付いてくるが何も言わない、或いは知らされていないのか……。部屋の前には吉兵衛と与一郎が居た。どうやら外で用心しろと言われたらしい。十五郎も外で控えるのであろう。多分必死になって部屋の外で聞き耳を立てるに違いない。少しおかしかった。


部屋の中には半兵衛、新太郎、小兵衛、五郎衛門、新次郎、下野守、重蔵が居た。皆難しい顔をしていたが私を見ると一斉に平伏した。

「織田家で大事が出来したと聞いた。何事か?」

座ってから問うと皆の視線が小兵衛に向かった。

「三介様が三七郎様を討ち果たしました」

「なんと……」


討ち果たした? 殺したのか……。仲は良くないと聞いていた。だが本当に殺すとは……。跡目争いは一旦起きれば悲惨なものになる、生死を賭けたものになると聞いていたが本当にそうなるとは……。

「戦で討ったのか?」

問い掛けると“そうではありませぬ”と小兵衛が首を横に振った。


小兵衛の話によれば織田家では徳川をどう判断するかで混乱していたらしい。三七郎殿は徳川討伐を声高に叫び三介殿はそれに反対した。三七郎殿への反発も有っただろうが徳川が裏切ったという事に確信が持てなかったようだ。徳川に嫁いだ叔母からは徳川の裏切りというのは徳川と織田を裂こうとする何者かの陰謀だという訴えが届いていたのだという。三介殿はその可能性を否定出来ないと見た。


三七郎殿はそんな三介殿を歯痒く思ったようだ。徳川の離反が真実でも偽りでも良い。徳川を潰して関東に出る、それが大事なのだと考えた。これは父上の考えらしい。三七郎殿はそれに同意したのだ。そして三介殿では乱世を乗り越えられないと判断した。三七郎殿の周辺の人間も同じ様に考えた。彼らは密かに三介殿の排除を策し始めた……。そしてその動きが三介殿に漏れた。先手を打ったのは三介殿の方だった。傳役の小坂孫九郎という男が独断で行った。


「三七郎様だけではありませぬ。三七郎様の母親、その係累、三七郎様に与した者も全て殺されました」

小兵衛の話が終わると新太郎が大きく息を吐いた。

「小兵衛、織田家は三介殿が継ぐ、そういう事か?」

小兵衛に問うと小兵衛が困った様な顔をした。


「三七郎様が亡くなられた事で三介様が織田家の跡取りとなられたとは思いまする。ですが織田家中が三介様で纏まるかどうかは……」

小兵衛の言葉が止まった。三介殿で織田家が纏まるのは難しいと言う事らしい。これが朽木家だったらどうなるのだろう。父上に万一の事が有ったら私を中心にして一つに纏まるのだろうか。松永、内藤、毛利は如何動くのか……。


「小兵衛、織田家中は今回の一件、如何見ているのだ?」

重蔵が小兵衛に問うと小兵衛が首を横に振った。

「織田の家中は余り動じておりませぬ。織田の家中は三介様、三七郎様の跡目争いにウンザリしておりました。ようやく決まったか、そんなところでございましょう。死んだのが三七郎様では無く三介様でも同じだと思います」

つまり誰も期待していないという事か。なるほど、跡目は決まっても纏まるかどうかは分からぬという事はそういう事か。


「三介様が後を継いだとなると織田家と徳川家の関係には変化無しか」

下野守が呟くと“いえ、そうとは言えませぬ”と小兵衛が答えた。

「三介様が徳川との戦に消極的だったのは徳川の裏切りを信じかねた事も有りましょうが三七郎様への反発が強かったという事も有りましょう」

「では三七郎様亡き今、織田と徳川は戦になるやもしれぬと?」

五郎衛門が問うと小兵衛が頷いた。

「はい、三介様は周りの意見に流され易い御方と言われております。そして織田家中では徳川が裏切ったという意見が多数を占めるのです。戦になる可能性は十分に有るかと」

彼方此方で唸り声が聞こえた。


「若殿、小兵衛殿の言う通りでございましょう。ここで徳川との戦を躊躇うようでは三介様は頼り無しとの声が織田家中に上がるのは必定。となれば三介様以外の方を織田家当主にという動きが出かねませぬ」

「竹中様、既にその動きは現れております」

小兵衛が半兵衛の言葉を肯定すると新太郎が“なんと”と声を上げた。半兵衛も驚いている。


「稲葉山城の織田三十郎を三介様、或いは三七郎様の後見にという声が織田家中の一部に有ったのです」

「……」

「もし実現していれば、そして三介様、三七郎様に失敗が有れば、隠居させ叔父の三十郎を織田家当主にという声が上がった事でしょう」

皆が顔を見合わせている。


「若殿、これには裏が有りまする」

小兵衛の言葉に誰かが“裏?”と声を上げた。裏が有る? どういう事だろう。

「どういう事か、小兵衛」

「三十郎を後見にという声を陰から織田家中に広めている者がおります」

「何者か?」

「西美濃三人衆にございます。狙いは三介様、三七郎様と三十郎との間を裂く事。そして三十郎を担いで美濃で自立する事が目的かと」

彼方此方で唸り声が起こった。美濃で自立? そんな事が可能なのだろうか? 半兵衛に視線を向けると半兵衛が頷いた。


「織田三十郎に人望が有るとなれば三介様が三十郎を討てと命じても織田の家臣達は従いますまい。何かと理由を付けて渋る筈。それに三十郎も生きるためには西美濃三人衆と協力せざるを得なくなります。そうする事で美濃を手中に収めようというのでございましょう」

なるほど、そういう事か。


「織田も徳川も難しいところに来ましたな」

ぽつんと呟いたのは新次郎だった。その言葉に皆が頷いた。関東では義兄上が十万近い大軍を率いて鶴岡八幡宮に行った。そして参拝し関東管領への就任を報告したと聞く。これらの事は徳川には何の通達もせずに行われた。義兄上は徳川を敵だと関東の諸大名、国人衆に宣言した事になる。今は小田原城を囲んでいると聞くがどうなるか。そして織田も徳川との戦を避ける事は出来ぬ。果たして三介殿は何処まで織田家中を纏める事が出来るのか。それなりの戦果を挙げられれば良いがそうでなければ……。


如何(いかが)なされます、若殿」

小兵衛が訊ねてきた。如何? 皆が私を見ている。じっと刺す様な視線だ。

「……織田を喰うために動けと申すか?」

声が掠れていた。皆が頷いた。

「私の判断では動けぬ。父上の御指図を仰いだ方が良いのではないか?」

新次郎が“若殿”と低い声で言った。


「織田で大きな動きが有ったのです。迅速に手を打たねばなりませぬ。御屋形様は土佐におられるのですぞ。土佐まで使者を出して御指図を待つなどという悠長な事は出来ませぬ」

「……」

「織田を喰う、それさえ押さえておけば宜しゅうございます。御屋形様もそれを望んでいる筈」

新次郎の言葉に皆が頷いた。当主としての力量が有るか、父の後を継げるだけの力量が有るか。三介殿だけではない、私も試されているのだと思った。


如何する? 織田を喰う、如何すれば喰える? 私に分かっているのは三介殿が家中の信望を得ていない事、織田三十郎が信望を得ている事だ。……邪魔だ、織田三十郎が居ない方が織田を喰い易い筈だ。いや、その前に確認しなければならぬ事が有る。


「西美濃三人衆から朽木家に働きかけは有るのか?」

誰も答えない。無いという事か?

「半兵衛、安藤伊賀守はそなたの縁戚の筈。何も無いのか?」

半兵衛が頷いた。

「ございませぬ。西美濃三人衆の狙いは美濃での自立、それによって勢力を拡大する事にございます。いずれは従うにしても今朽木に従っては大きくなれませぬ」

「……」

半兵衛がぐっと身を乗り出してきた。強い目で私を見ている。

「若殿、某への遠慮は無用になされませ。西美濃三人衆、懐に入れても邪魔になるだけにございます」

「……分かった」

そうか、西美濃三人衆への配慮は無用か……。


「織田三十郎が邪魔だ、西美濃三人衆も」

また声が掠れた。皆が顔を見合わせた。頷き合っている。間違ってはいない。

「三十郎殿は三介様と噛み合わせましょう。三介様の手で排除させます」

「それが良い、三介様は他人に影響され易いと聞く。噂を流し、三十郎殿への疑心を抱かせる。小兵衛、三十郎殿が西美濃三人衆と共に自立を謀っていると噂を流せ。三十郎殿も怯えよう、三七郎様が殺されたのだからな」

小兵衛、重蔵の遣り取りに皆が頷いた。


「三介殿が殺されるという事は無いか? 三十郎が織田家の当主になるという事は。それでは織田家は乱れまい」

問い掛けると下野守が首を横に振った。

「三十郎殿は本来織田家を継ぐ立場に無かった方。その方が三介様を殺して跡を継ぐとなれば他の織田家の方々にも当主になる権利は有るという事。織田家は内での争いが激しくなりましょう」


なるほど、そういうものか。……つまり織田一族を唆して滅茶苦茶にする。それに乗じて織田家を喰うという事か。

「分かった。小兵衛、頼む。私は父上に文を送る」

「はっ」

小兵衛が(かしこ)まった。掌がじっとりと汗をかいていた。これからもこんな思いをするのだろう。慣れなければならない。




天正四年(1580年)   五月上旬      土佐国幡多郡中村 中村御所  

朽木基綱




「亜相、一体何をしに来た。儂はお主を呼んでおらんぞ」

「御所! 亜相様に無礼は成りませぬぞ!」

家臣が一条左近衛少将兼定を窘めると少将がその家臣、安並和泉守を睨みつけた。まあ面白くないのは分かる。居城である中村御所で上座に俺が座り少将は家臣と共に下座に居るのだ。左側に少将、右側に家臣、国人衆達が並び呼ばれてもいない俺がデカい面をして上座に座っている。面白くない、そう思っても不思議ではないし俺も咎めるつもりは無い。ウンザリはするけどな。


「儂は土佐一条家の当主ぞ。石見寺を焼こうが壊そうが儂の勝手であろう。家臣共が反対するなど僭越ぞ! それどころか宗珊めは面当てがましく腹など切りおった」

少将が吐き捨てると家臣達がざわめいた。中でも一人少将を睨んでいる男が居る。土居伊豆守家通、腹を切った土居宗珊の息子だ。宗珊はこの馬鹿御所を何とか守ろうとして悪戦苦闘した。だが相手には全く宗珊の想いは通じていなかったのだ。腹立たしい限りだろう。


少将が強気な言葉を吐くのは虚勢も有るだろうが長宗我部が朽木に降伏したという事も有る筈だ。朽木が土佐に攻め込む前に長宗我部氏から降伏を申し入れてきた。長宗我部宮内少輔元親は隠居し嫡男の弥三郎英親が長宗我部家の当主となった。史実だと信長から一字を貰って信親なんだがこの世界では英親だ。俺の一字を与えて綱親と改名させた。綱親は改名後に改めて朽木に臣従する事を誓った。


隠居した元親はこれ以降は近江で余生を送る事になる。人質という意味も有るが元親を土佐に残しては火を消しても火種を残す事になりかねない。火種そのものを土佐から取り除かねばまた同じ事が起きるだろう。この辺りは倅の綱親も不安視している。親を近江に送るのは辛いが元親を土佐に置いて問題を起こせば今度は腹を切らさざるを得ない。息子としてそのような事態は避けたい、已むを得ないと判断したようだ。若いが判断力は確かだ。信用出来るだろうと見ている。信用出来ないのは俺の目の前で喚いている阿呆だ。


長宗我部の問題を片付けて仲裁すると言って一条家の中村御所に少将に敵対する国人衆を集めた。だが少将にはそれが面白くないらしい。今も俺を嫌な眼で睨んでいる。俺が仲裁しなければもう少しで攻め潰されるところだった。土佐一条家は滅亡していただろう。その辺りが全く分かっていない。ホント、馬鹿じゃないかと思うわ。こいつが俺に望んでいたのは国人衆を討伐する事だった。そんな事をすれば俺までお前同様の馬鹿だと思われるだろうが!


「大体亜相、お主も比叡山延暦寺を焼いたではないか。お主に儂を咎める資格が有るか?」

得意そうな顔をするんじゃない! 不愉快だ。

「有るぞ。俺は叡山が朽木に敵対するから焼いたのだ。だから家臣達はその事で俺を咎める事は無かった。朽木が大きくならなければ家臣達を守れぬのだからな。お主は如何だ? 石見寺を焼いたのは何故だ?」

「……」

少将が嫌な眼で俺を見ている。


「一条家に敵対したからか?」

「……」

「一条家を大きくするためか?」

「……」

「どちらでもないな。切支丹の為であろう、違うか?」

「……天主(デウス)の教えは素晴らしいものよ。それを理解しようとせぬ者達が悪いのだ!」


集められた家臣、国人衆達が口々に少将を非難し始めた。土居伊豆守家通、安並和泉守直敏、羽生丹波守道成、為松若狭守直行、大塚八木右衛門昌永、加久見左衛門宗頼、大岐左京進康道、江口玄蕃幸貞、伊与木淡路守高康、伊与木弥平次国安、依岡左京進勝康、沖長門守綱枝。大友が耳川の戦いで敗れたのは神仏を大事にしなかったからだ等と言っている。一理有るのは確かだ。神社仏閣を壊した事でその地の住民を敵に回した。島津は大友の情報を得る事に苦労はしなかった筈だ。


「御所様に一条家当主の資格は無い!」

土居伊豆守が叫ぶと同意する声が続いた。少将が“何を言うか!”と叫んで脇差に手を掛けた。家臣、国人衆も身構える。睨み合い、一触即発だ。

「静まれ! 静まらんか!」

声をかけると渋々と脇差から手を放した。ここまで来てはもう駄目だな、収まりは付かない。


「少将、少将は天主(デウス)の教えを捨てる事は出来るか?」

「出来ぬ! 儂は天主の教えに心を捧げたのだ!」

きっぱりと少将が答えた。迷いが無い、本気の様だ。

「土居伊豆守、安並和泉守。その方達は少将を主君として認められるか?」

「出来ませぬ!」

「伴天連かぶれの主君など御免でござる!」

土居伊豆守、安並和泉守が拒否すると他の国人衆が“その通り”、“御免こうむる”と声を上げた。少将が“儂に逆らうか!”と叫んで脇差に手を掛けた。伊豆守達も身構えた。


「止めよ!」

睨み合いながらも脇差から手を放した。

「少将、俺は少将が何を信じようと咎める事はせぬ。それは少将の心の問題だ、俺が立ちいる事では無い」

少将が満足そうな表情をした。馬鹿な奴。

「だが伊豆守達の気持ちも無視は出来ぬ。という事でだ、少将は天主の教えに専心しろ。それが少将のため、皆のためだ」

「何の事だ」

少将が唖然としている。


お前は隠居だ。私人となって天主の教えを信じると良い。それなら誰も文句は言わん。京の一条右大臣もお前の隠居については納得しているから問題は無い。お前はもう皆から見捨てられたのだ。命が有るだけましだと思え。後は息子の内政(ただまさ)に継がせる。内政も家臣、国人衆の信頼を失うとどうなるか、良く分かっただろう。内政が父親同様の阿呆ならこれも廃する。そして京の一条本家から養子を迎えよう。





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これでいうと史実で与えられた信親の信は織田家の通字ですし、別に変なことでもないのでは?
[気になる点] なぜ通字を長宗我部英親に下賜するのか理解に苦しみます。通字はその家の一員であることを示すものであり、偏諱授与をする場合、通字のほうではない字が下賜されることが通例なので、「英親」は「基…
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