第三話 001
○歩道(四月中旬・18時頃)
――歩道を歩く湖太郎。
[以下、表情は写さない]
湖太郎「うふふっ、明日はいよいよ夏ちゃんとの……」
と、手帳を開いて。
翌日のスペースには『夏ちゃん』の文字。
湖太郎、口元に笑みを浮かべ、キラキラ光る3cmほどのハート型シールを貼る。
シールが一枚地面に落ちるが、気付かずに去っていく。
○喫茶店ノック・外観(午後)
歴史を感じさせる和モダンな建物。
――のれんには『knock』の文字。
○同・店内
店内にはテーブルやカウンター席と座敷。
――座敷に座っている三人。
口元で手を組んだ夏と向かいあう春香と加奈。制服姿。
夏の前にはクリームあんみつとオレンジジュース。
春香の前には本日のケーキセットとアイスミルク。
加奈の前には本日のケーキセットとアイス珈琲。
夏「(真顔で)本日、君たちに集まってもらったのは他でもない……」
――夏、間を置いてからジュースを三分の一ほどストローで飲む。
トン! とグラスを置く。
――ツバをのむ春香と加奈。
夏「実は――」
と、自分の鞄をあさって。
湖太郎「ん夏ちゃーん!! これ、僕からのサービスだよーん!!」
体を回転させてアイスをテーブルに置く河口 湖太郎【かわぐち こたろう】(20)。エプロン姿。
夏「いいよ、気を遣うから」
「てかくっついてくるなよ!! 馴れ馴れしい!!」
と、スリスリと体を寄せる湖太郎を両手でガード。
湖太郎「んもー、夏ちゃん照れちゃってー。本当は嬉しいくせにー?」
夏「うれしくねーよ!!」
湖太郎「夏ちゃん、今日は何の日か分かるかい?」
夏「月曜日」
湖太郎「ぶっぶー!!」
「(髪をかき上げて)今日は夏ちゃんと僕が出会ってから、ちょうど一年記念日なんだよ?」
夏「勝手に記念日をつくるな湖太郎!!」
湖太郎「仕方ないなー、夏ちゃんの好きなカメさんキーホルダーもトッピングするからー」
と、アイスにカメのキーホルダーをさして。
夏「おい、おかしいだろ!?」
「(胸ぐらを掴んで)いくらカメが好きだからって、アイスにキーホルダーをさされて喜ぶ奴いねーだろ!?」
湖太郎「大丈夫だって、夏ちゃんのために徹夜でピッカピカに磨いたんだから――」
夏「そういう問題じゃねーよ!!」
知恵「ごめんね夏ちゃん、うちの弟が会話の邪魔をしちゃったみたいで」
と、アイスを二つ持ってきて。エプロン姿。
夏「(手を離して)いえいえ、もう慣れてますから……」
知恵「湖太郎、夏ちゃんが気を遣うって言ったのは、ハルちゃんと加奈ちゃんもいるから自分だけ貰えないってことなのよ?」
と、春香と加奈の前にもアイスを置いて。
知恵「(笑顔で)湖太郎のバイト代から引いとくから、好きなトッピング頼んでいいわよー」
湖太郎「(知恵を見て)ええーっ!?」
春香「知恵姉ありがとー」
加奈「ありがとうございます!!」
湖太郎「姉ちゃんの鬼ー!! 悪魔ー!! でも見た目は天使ー!!」
と、カウンター上手の厨房に戻る知恵に対して。
夏「後で怖いから最後にほめたな……」
湖太郎М「フッ、まあトッピングといっても所詮は高校生、そんな大胆な注文は――」
春香「(大きく手をあげて)じゃあハルは夕張メロン!!」
湖太郎「ゆ!! 夕張めりょ!?」
夏「言えてないぞー」
――湖太郎、ゆっくりと入口に向い、ガラガラッと扉を開ける。
湖太郎「北海道ー!!」
と、外に叫び、ピシャッと扉を閉める。
湖太郎「(笑顔で戻ってきて)ま、まあうちに無かったらゴメンねー?」
加奈「(小さく手をあげて)私はトリュフで」
湖太郎「と!! トトトトリフッ!?」
夏「言えてないぞー」
――湖太郎、ゆっくりと入口に向い、ガラガラッと扉を開ける。
湖太郎「おフラーンス!!」
と、外に叫び、ピシャッと扉を閉める。
湖太郎「(笑顔で戻ってきて)ま、まあうちに無かったらゴメンねー?」
夏「明らかに動揺してるぞー」
湖太郎「(知恵を見て)二つとも家にあったっけー!? 姉ちゃん?」
知恵「うふふっ、あるわよー」
と、メロンと瓶詰めトリュフを見せて。
湖太郎「(二度見)ええっ!? あるのおおおおお!?」
――ガラガラッと扉を開ける湖太郎。
湖太郎「(髪をかき上げて)姉ちゃんごめん……僕ちょっと、走ってくるよ」
夏「おーい勤務中だぞー?」
× × ×
湖太郎М「(泣きながら)僕のバイト代があああー、あー、あー……(エコー)」
と、歩道をスローモーションで走りながら。
× × ×