第二話 001
○加奈の回想・東京都 田園調布 加奈のマンション・外観(七月・夜)
ライトアップされた、デザイナーズマンション。
○加奈の回想・同・加奈の部屋
加奈(中三)、ベッドに仰向けで写真を見つめている。
パジャマ姿。脇には、手作りのお守り袋。
折り目のついた写真には、建物の前で微笑む、スーツ姿の父。
加奈、ため息。
――写真を折り畳み、お守り袋の中へ。
○加奈の回想・調布女学院中学・運動場(夕)
夕焼けが広がる。
――ポタッポタッと、地面に汗が落ちる。
加奈、膝を押さえ、息を切らす。
ランニングシャツ、ランニングショーツ姿。
首から下げたお守りは、シャツの中に入れている。
部員A「おっ、記録更新!!」
と、ストップウォッチを見て。
加奈「……まだまだいける。私、もう一度走ってくる!!」
部員A「加奈っちがんばるねー?」
と、タオルとスポーツドリンクを渡して。
加奈「ありがとう」
タオルを首にかけ、スポーツドリンクを飲み干す。
加奈「次が三年生最後の大会だからね……」
と、周りの陸上部員たちを見て。
――奥には『調布女学院中学運動場』の看板。
部員A「(ヒソヒソ)ここだけの話、私たちマネージャーから見ても、加奈っちだけが希望の星だから」
加奈「(赤面)ふえっ!? そ、そんな大げさな……でもありがとう」
加奈、折り畳んだタオルと、スポーツドリンクを返す。
――シャツの上からお守りに手を当てて。
加奈「私、悔いだけは残したくないんだ。喜んで……もらいたいから」
部員A「よしわかった。じゃあ悪いけどみんな先に終わるね?」
加奈「うん、おつかれー」
と、手をあげ走り出す。
○加奈の回想・歩道
加奈М「――嘘つき。悔いを残したくないなんて思っていない。本当はこのまま、ずっと走っていたいだけ」
と、歩道を走りながら。
加奈М「走っていると、何も考えなくていいから――」
――ゆっくりと目を閉じる。
加奈の回想終わり。