第十話 001
○夏と音葉の回想・路地裏~歩道~船津登山道歩道橋(3月下旬・夕)
――曇り空。
ポツリ、ポツリと地面に雨が落ちてくる。
路地裏の突き当たりに立つ音葉(中2)。私服姿。
ふちメガネを掛け、髪は肩の前で二つ結び。
――音葉の手前で道をふさぐナンパ男。(男20代)
ナンパ男「ほらー、グズグズしてるから降ってきたじゃんよ!?」
「(腕を掴んで)早く一緒に雨宿りしに行こうよー!?」
音葉「(泣きながら)い、嫌です、離してください……」
ナンパ男「泣き止んでくれないと一緒に楽しめないじゃんよ? ねっ!?」
「ちょっと遊ぼうって言っただけなんだから――」
夏「や、やめてあげなよ!!」
と、ナンパ男の後ろに立つ夏(中2)。
ふちメガネにジャージ姿。バツの髪ゴムなし。
スポーツバッグを肩に掛け、赤い折り畳み傘をさしている。
ナンパ男「(振り返って)んあ?」
音葉「た、助けて……」
ナンパ男「(近づいて)なになにー? キミも一緒に遊びたいのー?」
「僕は大歓迎じゃん――」
夏「やめてあげなって言ってるんだから!!」
――傘を手放し、バッグを抱えてナンパ男に体当たり。
ナンパ男「よふぉっ!?」
と、吹っ飛び倒れる。
夏「(手を取って)早く、こっち!!」
音葉「えっ……」
――夏、傘を拾って走り出す。
傘をさしながら歩道を走る夏、その後ろに音葉。
× × ×
高さ5mの歩道橋を駆け上がる。
歩道橋には『船津登山道歩道橋』の文字。
――歩道橋の真中で息を切らして立ち止まる2人。
音葉「(泣きながら)あ、ありがとう……」
と、夏の背中を見て。
夏「(涙をこらえて)な、泣いちゃダメなんだ!!」
振り向いて傘を押し付ける夏。
音葉「えっ……?」
と、受け取って。
夏「(震え声で)強いと思っている相手に弱みを見せたら、そこで優越感を与えちゃう!!」
「(鼻水を垂らして泣きながら)私は泣かない!! どんなにいじめられても!! どんなに怖くても!!」
「私は……私は……!!」
と、歩道橋の手すりから身を乗り出し、景色を見つめる。
夏「――ハッ!!」
ドクン!! と一瞬景色が二重になる。
――その場にへたり込む夏。
夏「あ……れ?」
× × ×
――雨が上がり、雲間から夕日がさす。
音葉「(しゃがんで)分かった……。私、もう泣かないよ?」
と、折り畳んだ傘を返して。
夏「(受け取って)え……?」
音葉「もう泣かない」
と、メガネを取って微笑む。
――夕日に包まれる2人。
夏と音葉の回想おわり。