第七話 001
○山梨県 甲府市 小瀬波スポーツ公園・アリーナ内の試合会場・2Fの観客席(午後)
恵介「それでは決勝戦の出場順位を発表する」
――恵介の前には横一列に並んだレギュラー5人。
恵介「先鋒 野宮、次鋒 大木、中堅 夏の三年生組で試合を早めに決めてしまおう」
「大将の柏原まで順番が回ると、うちとしてはやっかいだからな」
みんな「はい!!」
夏「くっ!!」
と、右足首を押さえてしゃがみ込む。
恵介「どうした夏!?」
音葉「まさかさっきの試合で!?」
[音葉は片手に松葉杖]
夏「大丈夫、心配ねえよ」
と、立ち上がり近くのイスに座って。
進道「大丈夫だったか夏うううーっ!!」
――猛ダッシュで駆けてくる進道 拳【しんどう けん】(男・63歳)。スーツ姿。
音葉「え? 誰?」
進道「準決勝の大将戦で、軸足を思いっきり蹴られていたからな!?」
と、しゃがんで夏の足首を見ながら。
北川「(進道を指差して)え……」
進道「んのああ!! これは打撲だ!! 待ってろ!!」
と、スーツから取り出したコールドスプレーをシャカシャカと振って。
北川「どうして山梨学園の顧問が……?」
――スプレーを夏の足首に吹きかける進藤。
進道「これでよおおし!! 応急処置にはなるだろう」
「(恵介を見て)お互い少しでも、ベストな状態で決勝戦を迎えたいからなっ!?」
と、親指を立てる。
恵介「お……」
夏「お……」
真中「お……」
春香「お?」
夏・恵介・真中「お久しぶりです!! 進道先生!!」
と、進道の元へ駆け寄る恵介と真中。
みんな「先生!?」
進道「おう!! 久しぶりだな三人とも!!」
北川「どういう……ことだ?」
真中「私も立花先輩も、中学校まで進道先生の道場で教わっていたんですよ」
北川「そうだったのか」
加奈「でもいま山梨学園の顧問って――」
進道「うむ、北川さんにはインターハイで挨拶をしたことがあったな!?」
「去年から山梨学園大学附属高等学校空手道部の顧問をしています!! 進道です!!」
夏「あれ!? 先生、道場の方は?」
進道「今は息子夫婦に任せている。去年空手道部の先生が引退されてな、それでOBの俺に声が掛かったんだ」
真中「そうだったんですか」
進道「立花コーチ!!」
恵介「はい!!」
進道「(手を差し出して)決勝戦、全力でぶつかり合いましょう!!」
恵介「(握手して)もちろんそのつもりです!!」
進道「(手を差し出して)そして……お帰り夏!!」
夏「えっ?」
進道「よく空手に戻ってきてくれた!!」
「(優しく微笑んで)メガネを外して少しは垢抜けたな?」
夏「(握手して)ありがとうございます!! 応急処置も助かりました!!」
進道「(手を差し出して)真中もがんばれよ!?」
真中「(握手して)はい!!」
進道「(自チームを見て)ああーっ!!」
「そろそろうちの奴らにも喝を入れないとおおお!! 失礼したあああ!!」
と、猛ダッシュで走り去る。
夏「兄貴、進道先生が顧問なら絶対に勝たなきゃな!?」
恵介「(夏の足を見て)……そうだな。俺はちょっと大会本部まで行ってくる」
と、その場を後にする。
加奈「す、すごくエネルギッシュな先生でしたね?」
音葉「う、うん。誰かさんとそっくり」
――少し離れた席で弁当を食べながらくしゃみをする峰山先生。
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