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涙とともに紙吹雪を
ほんの少しだけバラの匂いらしきものがあります。無いに等しいけれど、微臭でも拒否反応が出るならブラウザバックお願いします。
「お前、好きな奴いるんじゃねぇの?」
「いないって! お前こそどうなんだよ?」
「え? あー、いるぜ?」
「……マジ?」

 世界が反転する感じがした。

 あいつの好きな子は平織さんだった。隣のクラスの女子で、テニス部の明るい子。
「つーか、そんな子がタイプだったのか。初めて知ったわ」
「あー、だろうな。好みのタイプとかそういう話は全然してねーし」
 平織さんのことを話す山中の顔はなんだか照れているみたいだった。なんで照れるんだ、とか思いながらもずっと山中が平織さんの魅力について語るのを聞くしかなかった。
「ってか、何でこっちに話すわけ?」
 一息ついて、山中がのど渇いた、ってお茶を飲んでる時に聞いた。まだ昼休みで、このあと体育も控えているって言うのに、山中はペットボトルのお茶を全部飲みほしてしまった。
 後ろの席で友達が宿題を必死にやっている。まだ終わりそうにない。
「あー、なんか他のやつらに話してもからかわれるだけだしさ、折谷は黙って聞いてくれんじゃん」
「黙って、ねぇ。アドバイスができない、とも言うけど」
 制服のポケットから取り出した飴玉を口に含む。リンゴの味が広がる。あ、俺も飴欲しい、と言うので山中に薄荷味の飴を渡した。口に入れた途端しかめっつらをされた。
「それでもからかわれるよりか、マシだろ」
「情報漏洩するかもよ?」
「折谷はこういうことに関しては、やたら滅多ら人に言わねぇだろ」
 変な方向で信頼されているらしかった。
「協力とか、できる気しないし、する気もないけど」
 暇だから、飴玉の包み紙を広げて折り鶴を作ろうとする。手先に集中。
「そんなのいつ俺が求めた?」
「未来のお前」
「いつのまに帰ってきたんだ、過去に」
 のろけ話聞いたらリンゴ飴吐きたくなった。って言ったら、まだ告白してねぇっつの、と叩かれた。頭がジンジンした。それが外なのか、中なのかは分からなかったけれど。

 それ以来、山中はよく恋愛相談みたいなのを話すようになった。どちらかと言えば、恋愛報告みたいな。こっち向いてくれた、とか、体育の時間のこととか。
「あれ? お前、手どうした?」
 数学の授業でユニット折り紙をしよー、ってことになって懸命に部品作りに励んでいたら、山中が手の甲を指差す。見てみると赤い線があった。
「これ? さっきの体育のバスケでやっちまった」
「痛そー、誰だよ引っ掻いたの」
「多分、平織さん。クラッシュしかけたの、それぐらいしか記憶ないし」
 そっと触れると血はもう収まってて、あー、フィブリンが働いてる、って思った。フィブリン。この間、小説で読んだ。
「マジか、え、羨ましい」
「お前、Mか? ないわー、マジでないわー」
 鼻で笑うと、うるせー、って口をとがらせた。手の甲の傷が、早く塞がればいいと思った。引っかかれたのが、折谷じゃなくて山中だったら全部うまくいったのに。ユニット折り紙みたいな感じにきっちりハマっただろうに。
 そんなことが色々あった。そのたびに、イライラした。うぜぇ、もうそんな話聞きたくねーよ、って突き飛ばすこともできたんだろうけど、どうしてもできなかった。山中があまりにも嬉しそうな顔だったから、それを壊すのは忍びなかった。んだと思う。
 多分。
 とりあえず、山中の恋について言えることは何の進展もなかった、と言うことだけだった。あいつはいつも平織さんの所作について報告するけれど、実際に話しかけたりなんかは全然していなくて。大胆なことをする奴だと思っていたけれど、意外に憶病なことを知った。いや、きっと相手を傷つけるのには躊躇しないけど、自分が傷つくのは嫌なんだろうな。
「お前さ、告白とかしねーの?」
 冬休みが明けても一向に、山中の平織さんに対する恋心は沈静することはなく、けれども全然自ら進もうとしない姿勢に思わず聞いてみた。
「どうなんだろーなぁ」
 はぐらかされた。
「ふーん」
 いつまで続くんだろうな、これは。いつまでも聴き続けるのは、苦しい。
 ■■だから。
 あー、そうか。そうなんだ。やっぱりそうなんだ。ふーん。そうだったんだなぁ。
 なんて、走りながら考える。息も苦しい、■も苦しい。あとどれぐらい続くんだろうか、と思ったら卒業まであと二か月もあった。こんなの抱えたまんま受験勉強とか無理だって。
 コースの六週目がもうすぐ終わる。ゴールだ。グッ、と大きく足を踏み込んでラストスパートをかけようとした。でも苦しくてうまくスピードに乗れなくて、微妙な感じでゴール。タイムは伸びなくて、体育の先生に嫌味を言われた。知るか。

 ――――結局、受験勉強はしっかりとできた。

 滑り止めの私立高校からの合格通知が届いた時に、あいつの存在なんて自分にとっては何の妨げにもならないことを確認した。あーうん、きっとあれは思い込みだったんだ。そう思った。
「で、お前はきっちりと保険をかけることができたと」
「そうさ、不合格のお前とは一味も二味も違うんだぜ?」
 授業中に雑談雑談。もう先生たちも諦めてる。受験の勉強をしてようが、寝てようが、雑談しようが注意すらしない。自分だって今、切り絵やってんのに何も注意されない。子供用の本を片手にチョキチョキなう。
「あ、そうだ」
「あ゛?」
「俺、平織さんに告白することにした」
「…………マジか」
 痛い、って思った。案の定指切ってた。ハサミじゃなくて、紙で切った。
「あーあーあー、何切ってんだ」
「いや、恋に対してヘタレな山中が告白するって言うから」
「そんなに意外か」
「意外」
 というか、せずに卒業するもんだとてっきり。
「で、いつ告るんだ?」
「何で言わなきゃいけねぇんだよ?」
「もちろん、野次馬根性全開で見にいくため!」
 言い方に気を付けた。語尾の雰囲気、ちゃんとからかってたかな、なんて。かすれてないかな、声。なんて。
「うっせぇ、バーカ」
 デコピンされた。地味に痛い。
「でもさ、誰かに宣言したら後には引けなくなって腹くくれるし」
 そんな感じに粘りに粘って説得すると、絶対に言うなよ? 絶対だからな?! と、しつこく念押しをしてから教えてくれた。正直、そんな言い方だと誰かにバラしてくれ、とでも言っているのかと勘違いしてしまう。
「卒業式」
「……へぇ、うわぁ、なんだお前、知らなかった! そんなロマンチストで夢見る乙女だったなんて!」
 今度は物差し使用とか! マジで痛いわ!
 じんじんする額を抑えた。ちょっと涙出かけた。ヤバ、とか思ってまばたきしてこらえた。何かが決壊したら怖いから、こらえた。
「成功したら、爆発するように呪ってやんよ」
 デコピンの怨みは深いんだぜ?! と脅すと、んなもん怖くねぇよ、と笑われた。バカじゃねーの、本当に怖いのは絶対成就しない片思いの怨みだっての。
 休日にはスカート着て、友達とショッピングするような女の子なら、なんて。無い物ねだりにもほどがある。そんな自分は絶対にない。だからこそ、怨む。誰を? 誰でも。
 ずっと切り絵の方に神経を張らなかったせいで、全然繋がらない不格好なものになってしまった。どうしようもなくて、自分にも山中にも平織さんにもクラスメイトにも学校にも世界にも不愉快で、それを発散するように、失敗した切り絵の残骸を切り刻んだ。
 不愉快さはシコリみたいに固くて、解けなくて、家に帰ってもそのまんま。イラついてイラついて、どうしようもなくて、切り絵の残骸だけでなく、飴玉の包み紙で折った鶴も、不格好なユニット折り紙も、全部、全部、切り刻んだ。
 ちょきちょきちょきちょき切った。
 ちょきちょきちょきちょき。ちょきちょきちょきちょき、ちょきちょきちょきちょきちょきちょきちょきちょき。
 赤い折り紙がやけに目に付いた。
 自分の血だと思った。
 どこから出ているのかは分からないけれど。

 イタイ。

「今日で、私たちは卒業します」
 卒業生の答辞は、我らが会長の出番。ちょっと涙声で、すごく気持ちがこもってて、在校生の送る言葉なんか吹っ飛んだ。なんだあいつら、本当に感謝してんのか。
「今までありがとうございましたーっ!」
 2組の最後の終学活は一人ひとりの感謝の言葉とかそんなので満ち溢れていた。自分自身もお別れの言葉とか言ったけれど、なんか支離滅裂だった気ィしかしない。あー、このクラスすげぇ好きだったのに。そんな感じでグダグダやってたら、全クラスで一番最後に終わることとなっていた。
 一通り、友達とも喋り終えた。あとは部室に行って、後輩たちとパーティ。でも、その前にすることが、ある。
「ごめん、先行ってて」
 他の部活の子ともう少し喋りたいから、と同じ部活の子に先に行ってもらった。分かった、じゃあまた後でー、と部室へ向かう友達に手を振り、一人になってから、ロッカーの中から袋を取り出した。
 廊下に出る。廊下には誰もいなかった。
 静かで。
 静かで。
 その分、外の音がよく聞こえた。
「用って何かな? 山中君」
「あ、平織さん……」
 窓の下での告白も。
「あの、さ……、その……」
 山中はなかなか告白しようとしない。ぼそぼそぼそぼそ何か言ってんだろうけど、全く聞こえない。
 吐き気がした。全部に吐き気がした。だから全部、吐き捨てた。
 窓から手だけを出して、持ってた袋をさかさまに。ザラザラザラザラ音を立てて、色とりどりの紙片が落ちていく。喰らえ、山中。これが折谷の怨みだ。
 ちくしょう。
 ちくしょう。
 好きだったんだよ、もういいけどな! ふられろバカ! 紙にまみれろ!
「ちょ、嫌だ! 何これー!!」
 平織さんの悪態を聞きながら、心の中で呪詛を唱える。袋は空になった。慌てて腕を引っ込める。うずくまった。足元に紙が散らばっている。好きな人がいるって聞かされた時の飴玉の包み紙。山中の平織さん観察行為の結果報告を聞き流しながら作ってたユニット折り紙。告白するって聞いた時の切り絵。
 あいつの好きの気持ちが勝手にしみ込みやがった紙たちを、切り刻んで戻してやった。
「俺、平織さんのことが好きなんだ……っ!」
 私に話して広めようとした恋って奴を、まとめて返してやったんだ。折谷特製の呪詛付きだけどな!
 うずくまって、耳をふさいだ。スカートが水玉模様になっていく。
 ちくしょう、頑張れたじゃねーか山中。お前はヘタレだから心配だったんだよ。
 続きが聞きたくなくて、私は走った。女子トイレの一室で声を押し殺して泣いた。

 卒業式以来、山中とは連絡をとってない。
草葉の陰からこんにちは|・ω・)ノシ
玖月あじさいと申します。
すいません、前書きから小説始まってました。というか騙しました。
騙されていただいたなら、幸いです。
それでは。
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