表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

乙女ゲームの神様

作者: 緑名紺

※この話は乙女ゲームに対するメタ・偏見を含みます。




 わたしは今まで何百人もの美男子と恋をしてきました。


 何千回デートをしたでしょう。アルバムは思い出でいっぱいです。

 実は結婚式も何十回かしていて、子どもを産んだこともあります。

 歳の差婚、身分差婚も、他種族婚もしています。


 危ない橋を渡って、命の危機に晒されたこともあるんですよ?

 彼のファンに刺されたり、記憶喪失になったり、異世界に迷い込んだり、タイムリープしたり、暗殺されたり、結構な修羅場を経験しています。

 ああ、愛する人の手で監禁されたり、洗脳されたり、血を吸われたこともありました。

 最後には病んだ彼にしっかりカウンセリングをして幸せになりましたよ。


 ……まぁ、全部、乙女ゲームの話ですけどね。


 そう、わたしは生粋の乙女ゲーマーなんです。

 CERO:Cくらいだと安心します。

 無個性な主人公も、癖のある主人公も、どちらも良さがあって好きです。


 でも、もう大好きな乙女ゲームはできそうにありません。

 わたし、死んでしまったんです。

 ところが。


「お前は不治の病の予防薬を開発し、何億もの命を救った。しかし自らその病を発症して死亡……前世での功績を考慮し、お前を転生させてやろう。もちろん記憶や知識を持ったままでも構わない。さぁ、どの世界がいい?」


 目を覚ますと、白一色の不思議な空間で神様に会いました。

 この展開には覚えがあります。

 異世界転生というやつでしょうか?


「もしかして、乙女ゲームの世界にも行けるんですか?」

「ああ、望むなら」

「悪役令嬢役じゃなく?」

「ヒロインでもいいぞ」


 なんということでしょう!

 大好きな乙女ゲームのヒロインに生まれ変われるなんて、夢みたいです。


 ここは慎重に選ばなければ……。


 なまじ乙女ゲームの知識がある分、選択肢は膨大です。

 名作、超大作、問題作、あらゆるゲームが脳裏をよぎります。

 攻略したキャラクターの顔と声も甦ってきて、俺を選べと甘いマスクで囁いてきます。


 なかなか決められないわたしをみかねて、神様が語りかけてきました。


「アイドルものなんてどうだ? 神様のオススメ」


 アイドルの彼氏を独り占め。

 それはとても魅力的ですが……。


「うーん、アイドルものって基本恋愛禁止で、周囲に秘密にしなくちゃいけないんですよね。事務所やファンを裏切るみたいで心苦しいです」


 バレたら大変です。


「そうか……では、異世界の王国ものはどうだろう? 神様の得意先」


 王子様や騎士様との身分を隔てた純愛。

 それもとても素敵なんですが……。


「異世界に行くのは心細いです。王子様とハッピーエンドになったら、国の政治に関わらなきゃいけないんですよね? 自信ないです。それに未知の病気も心配です。わたし、もう病死は嫌ですし」


 覚えることが多そうで荷が重いです。


「なるほどな……では、シンプルに現代の学園ものはどうだろう? 神様のイチオシ」


 定番ですね。青春の甘酸っぱい感じがたまりません。


「でもなぁ……学園ものって学園の有名人を攻略するじゃないですか。周囲の女子の目が怖いです。わたし、学生時代の女友達は大切にしたいですね。同窓会で気まずい思いはしたくないです」


 三角関係モードが発動したら、譲ってしまいたくなります。


 その後も神様からいろいろと提案を受けた。


 吸血鬼もの。

 血を吸われるのはちょっと……。


 魔法少女もの。

 この年で呪文唱えるのは恥ずかしいです。


 童話もの。

 たまにならアリなんですけど、毎日コスプレするのは抵抗があります。


 あまりに転生先が決まらないので、最後には話が脱線していました。


「ヤンデレには二種類あります」

「最初からヤバい奴と、恋に落ちてヤバくなる奴」

「後者は他のルートだとまともで良い人なんですよね」

「ああ。自分のルートに入ると途端にクズになる」

「でもそこがまた萌えます」


 わたしは神様と熱い握手を交わしました。


「しかし困ったな。どこに転生する?」

「そうですね……」


 思い出しました。

 わたし、研究が忙しくなって、三次元の恋愛が面倒で乙女ゲームにのめり込んだんです。

 だから画面の向こうに入り、実際にヒロインをやるなんて無理です。

 ヒロインと攻略キャラが幸せになっていくシナリオを、ボタンを押して進めるくらいがちょうどよかったんです。

 親指しか動かしたくありません。

 クイックセーブや巻き戻し機能がない恋愛なんて怖すぎます。


「神様、お願いがあります」

「ん、なんだ?」


 わたしは思い切って告げました。


「もし可能なら、わたしを神様のそばにおいて下さいませんか? それで、乙女ゲームの世界に転生していく人たちを見守らせてほしいんです」

「ほう」


 神様はにやりと笑います。


「転生はしないのだな? もう二度と恋愛はできないぞ」

「はい、大丈夫です。わたしは観察者でいたいので」


 転生者という異物が、予定調和の世界に何をもたらすのか。

 フラスコや顕微鏡をのぞくように、外側から変化を見届けたいと思います。

 それが本望、そして本職です。


「よかろう。では、お前を乙女ゲームの女神にしてやる」

「よろしくお願いします、先輩」


 こうして、わたしの新しい人生――いや、神生が始まりました。




お読みいただき、ありがとうございました。

5/24ジャンル改正を機に[その他]にさせていただきました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 面白く読ませて頂きました。 出来れば続編読んで見たいです。
2016/03/01 22:05 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ