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王都ラシクリウス編
10歳:「森の屋敷との別れ(2)」
 
 
 湯船から桶で湯をすくい、頭からザパーッと掛ける。
 もう一度、桶で湯をすくって、手ぬぐいを濡らして、ゴシゴシと身体を磨くようにして洗い、桶の湯ですすいで、また洗う。
 前世と違いボディーソープなどは使わなくとも、これで十分綺麗になるのだ。
 何回かそれを繰り返して、また頭から湯を浴びてから、湯船へと入り手足を伸ばす。湯船は大人が3人並んで一緒に入れるくらい広い造りになっている。
 
 
「はぁ……」
 
 
 稽古で疲れた身体に温かい湯が染み渡る。筋肉を軽く自分でマッサージするようにほぐしていく。
 
 
 
 
 この5年弱で、変わったこと、判明したことが色々とある。
 
 まず、私自身のことで言えば、あの告白から両親の理解を得ることができた。
 お陰で自分を偽ることが減り精神的にもずいぶんと楽になった。
 
 
 6歳になった頃から、自身を守るためにロイズさんから剣術を習い始め、本格的に身体を鍛え始めた。
 私には強力な魔術があるが、いざという時にできることは多いに越したことはない。
 
 おかげで身体は引き締まり、父親似の容貌もあいまって、美少女と言うよりも中性的な美少年という外見になった。稽古の邪魔にならないように短くした髪型のせいもあるかもしれない。
 
 10年も経てば女の子の振りをするのもすっかり慣れたが、男であった頃の意識は未だに残っている。
 服装もスカートよりズボンの方が気楽だし、今でもスカートを履くと変装しているような気分がどうしても抜けないのだ。
 そのうち胸とかが育ってくれば、少なくとも外見的にはもっと女らしくなると思う……多分。
 
 
 お父様が買い与えてくれるのをいいことに、魔術書を始めとし、国の歴史や風俗など、雑多な書物も読み漁ってみた。
 
 結果として分かったことは、私の魔術師としての素養が異常であること、活版印刷や
火薬などいまだに発明されていないものが多くあること、私の中にある『グロリス・ワールド』の知識は、この世界において200年以上前のモノであることなどが判明した。
 
 お父様が所属しており、私が住んでいる国はラシク王国と言い、大陸の東部にあり、豊かな〈キャノン草原〉や〈大森林〉の全てを治め、大陸では3番目に大きな国らしい。
 しかし、『グロリス・ワールド』でラシクと言えば、草原の中にある小さな村であった。王国の歴史を紐解けば、約250年前に初代建国王ラシク1世とその仲間は、ラシクと呼ばれていた村で育ったとされている。
 
 
 本のお礼と言っては何だが、父親やロイズさんと相談して、私の記憶の中にあった幾つかの発明も形にしてみた。
 
 主に農具や上下水道の設置、衛生の概念だ。
 農具は牛鋤ぎゅうすきや千歯こきといういずれ誰かが思いつきそうなものにとどめた。
 上水道といっても、粉挽きに使う水車小屋を利用して村の中央を流れる水路を作っただけだ。もっとも上下水道は国内でも大きな都市では、昔から導入されているらしい。
 
 衛生の基本として、屋敷と村ごとに風呂小屋を造り、入浴の仕方を広めてみた。
 父親やロイズさんに風呂のことを提案するまでは、お湯を沸かすための薪をどうするか悩んでいたが、ロイズさんのアイデアで〈黒熱鋼こくねつこう〉と言う金属を用いることで対処することになった。
 〈黒熱鋼〉は〈蓄光石〉と幾つかの鉱石から作られる合金で、これを使い日光でお湯を沸かすことに成功した。初期投資はそれなりに掛かるが、繰り返し使えるので長期的には経済的であり、とってもエコだ。
 ただし、その性質上、晴れた昼間にしかお湯を沸かすことができず、長雨の時は結局薪で湯を沸かす必要がある。
 
 
「おはよござます、おねえさま! リリアです、リックもいます! はいってもいいですか!」
「……いいですか?」
「おはようございます。いいよ、2人とも入っておいで!」
 
 
 脱衣所の方からゴソゴソと服を脱ぐ音がして、可愛い妹と弟が入ってくる。
 リックの方が少しだけ先に生まれたのでリックが兄で、リリアが妹だ。
 ただ、リックは赤ん坊の頃から病弱気味で少し大人しく、リリアは積極的で物怖じしない性格なので、リリアの方が姉に見える。
 
 
「ほら、目をつぶって~」
「はい!」「うん……」
 
 
 私は湯船から上がり、ぎゅーっと目を閉じる2人に頭から湯を掛けてやる。
 リリアは自分で、リックは私が手ぬぐいで身体を洗う。リリアも背中など、うまく洗えない所は私が洗う。
 その後、3人で湯に浸かる。
 
 母親が「ユリィちゃんは、本当に手間の掛からない子だったのね」とボヤくくらい赤ん坊と言うのは手が掛かるものだった。それも2倍だ。
 特にリックは赤ん坊の頃から、よく熱を出す子で、いざという時だけだが、私が魔術を使って治すこともあった。
 それ以外にもオムツやミルクなど、私も手伝えることをできるだけ手伝った。
 
 そんな感じに私は2人が赤ん坊の頃から面倒を見ており、よい姉をやっているので、2人ともすっかりお姉ちゃん子になっている。
 
 この間など、2人して「おねえさまのおよめさんになる!」と微笑ましいことを言ってくれた。
 ふふふ、育成の成果が現れてきたようだ。
 
 その時、私の横で寂しそうにしていたお父様が、ちょっぴり鬱陶うっとうしかった。
 
 
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