3歳:「魔術を使ってみよう!(3)」
「《石よ》、《音よ》、《熱よ》……」
小石が落ちて、「ポン」という音が小さく鳴り、もわっとした熱気が発生した。
コツさえ分かってしまえば、後は簡単だった。
要するに「どんな魔術か」をきちんとイメージしてから、“ルーン”を唱える必要があったのだ。
正確には「魔術を使うことで、“何を起こす”かの明確な意思」を持つこと。
「魔術を使うから水が出る」のではなく、「水を出すために魔術を使う」という考え方をしなければいけなかった。
この考え方は、言葉にすると似ているが、因果関係的には正確ではない。
例えば水が欲しい時、「蛇口の栓をひねって水を出す」のは、正しいようには思えるが「蛇口の栓をひねったら、みかんジュースが出てくる」可能性だってある。
水が欲しいならば、ちゃんと「水が出る蛇口の栓をひねる」必要があるということだ。
「…………《滴よ》、《滴よ》……あれ?」
調子に乗って、魔術を使っていたら、再び何も起こらなくなった。
「《滴よ》、ん~……魔力切れ、かな」
今度の原因はハッキリしている。オレが保有魔力の残量が0点、空っぽになったのだ。
ゲームを始めたての頃はよく「待って、mpe」とか言ってたっけ……。
「mpe」とは「マジック・ポイント・エンプティ」の略で、意訳して「魔力切れ」のこと。
自分の残り魔力を把握できるようになって、一人前の『グロリス・ワールド』ユーザーだ。
魔術が使えることについ夢中になっていたな。
えーと、1回の消費魔力が2点の魔術を10回くらい使ったか? とすれば、オレの最大魔力量は20点くらいということになる。
けど、20点か、ちょっとした魔術1回分の消費魔力しかない。まぁ、時間はあるし、地道に「魔力上げ」をしていくしかないか。
日常的に運動をすることによって体力が増えるように、最大保有魔力量も増やすことができる。
これは『グロリス・ワールド』では、キャラ育成の基本なのだが、保有魔力の残量が0になるまで魔術を使い、そのあとで最大保有魔力量に回復するまで休憩をする。この時に最大保有魔力量がほんの少しだけ増える。
これが「魔力上げ」と呼ばれるトレーニングである。
1回の「魔力上げ」で増える量は、最大保有魔力量の約1%程度、つまりは最大保有魔力量が増えれば増えるほど、1度に増える量は増えていくが……それでもかなりの回数を求められる。
『グロリス・ワールド』で最も面倒な作業と言われ、この仕様が合わずにやめていく新規ユーザーも少なくなかった。
幸いなことに一度増えた最大保有魔力量が減ることはない。この世界も同じ仕様だといいなぁ。
保有魔力の回復はゲーム内で「寝る」というアクションを選択し、1時間ほど放置すれば最大保有魔力量まで全快した。
確かゲーム内の時間と実時間の差は、6倍だったから……実時間で6時間の睡眠か。
幸いなことに、今のオレは3歳児で未来はまだたっぷりある。他の魔術がどんな風に使えるか気になるが、ゆっくりと確認していけばいい。
1日に1回、魔力が空っぽなるまで魔術を使って、一晩休んでが、ちょうど良いくらいだろう。
と、今後の予定が立った所で、そろそろ屋敷に戻るか。初日から心配させて、明日から許可が下りなくなると面倒だ。
けど、このまま帰ったんじゃ面白くないし。
んー、せっかくだから、お花でも摘んで帰ったら、女の子っぽいか?
女の子っぽいで思い出したが、この世界の料理も気になるな。
自炊をしていた分、簡単な料理の知識ならあるし、嬉しいことに食材は「のような物」とつくが、元の世界と変わらない物が多い。
いつか、創作料理として、家族に振る舞うのも悪くない気がする。