飽きたら捨ててやろうと思ってた。まあ、嬉しい誤算ってやつかもしれない。否、やっぱり苦しい。
「誰、さっきの」
放課後の教室、あとは帰るだけ。それを引き止めたのは古文の教師で、原因は俺の居眠りなんだけど。
置いていったのは俺で、待っていたのはこいつだ。待ってくれていたんだけど。
「誰って、知らねーの? 隣のクラスの坂木じゃん」
「知ってる」
「じゃあ何? 早く帰ろーぜ。俺、腹減ったし」
イライラする。白い手首を掴んだ手が、不安から力が抜けていった。それでも離さないけど。
普通じゃないのは俺だけど、こいつだって同じ円の中に立ってるんじゃないのか? それなら俺の気持ち、わかってくれたっていいじゃないか。
「なぁ、もしかして嫉妬してたりする?」
「……うるせー」
俺が目を逸らして呟くと、息を吐くような笑い声が微かに聞こえた。
「あんね、そういうときは誰じゃなくて、何って聞くの。わかる? この違い」
見透かされて、鼻で笑われる。俺は掴んだ手を離す。ムカつく、全部が、ムカつく。でも。
「……何、あいつ。お前にとって、あいつは何?」
「友達。ただの友達だよ。元クラスメート」
「ん」
俺が赦すのはお前だけだよ。誰が赦さなくても、お前にだけは赦されたい。
間違っているといわれても、この感情は消せないんだ。
「帰ろう、暗くなる」
「あぁ」
手は繋げない。キスも、抱きしめることも、できない。偏見が怖いからだ。それは俺だけじゃなくて、こいつも同じで。
「リョウ」
「なに?」
振り返る、やわらかい表情で、なにと紡いだ声がやわらかすぎて、俺は泣きたくなる。ほとんど不意打ちで、ぶつけるように額に唇を押し付けた。
「なんでもない」
「そっか」
くすくすと笑い、あいつは俺の前を歩く。
飽きたら捨ててやろうと思ってた。ただの興味だったから。けど、やっぱりそれはできない。これは、嬉しい誤算か?
苦しいだけかもしれない、未来に堪えられるかなんて、わからない。それでもまだ、手放したくない。
夕日で伸びたリョウの影に、俺は自分の影をそっと重ねた。
手を、繋いだ。
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