債権
「まゆ、これからカラオケに行かない?」同級生がいつものようにまゆを誘いますが、
「ごめん、これからママの会社に手伝いに行くから」これもいつものように断ります。最初から分かっていることですが、これも気遣いということですね。
まゆは、美術部が終わるとキャンパスを抱えて、亜美の会社に向かいます。別に頼まれている訳ではないのですが、会社に行って客にお茶を出したり社員と無駄話をするのが幸せなのです。一度、セーラー服のままでお茶を出したら借金の形に娘を置いていった奴がいると評判になったので、最近は辞めていった女子社員のお古の制服を着ることにしました。
最初は来ることに文句を言っていた亜美も最近は人生勉強として容認するようになったのです。他の社員たちも元気よく母親に意見もするまゆを小気味良く思い歓迎していました。亜美の会社は、所長の亜美と取立てを担当する男性社員3名、そして融資担当の女性社員2名の小さな店ですが、亜美はこれ以上人数を増やして売り上げを伸ばす気にはなりませんでした。自分が全ての案件に気を回せるには、これが限界と感じていたからです。
本社にいる元夫は、事業拡大のために人数を増やすことをしきりに指示してきますが、亜美は頑として聞き入れませんでした。元々が亜美救済の支店なわけですから元夫もそれ以上強く言う訳にはいかず、その都度
「君は昔から僕の言うことを聞いてくれなかったね。」と泣き言のような捨て台詞を吐いて諦めるのです。
亜美の評判を聞きつけた人相の悪い男が、訪れ債権を現金化して欲しいと言ってきました。
亜美の店は個人相手のローンを専門としているので債権の扱いは出来ないと答えたのですが。
「この店は、他では扱わない案件も処理してくれるそうじゃねえか。この案件は、最近俺の手元に来てじっくり絞り出そうと思ったんだが急に資金繰りに苦しくなったんで、すぐに現金に換えたいんだよ。安くしとくから頼むよ。」男は、ポケットからタバコを取り出しながらすごんだ。
「この店は禁煙なんです。」お茶をもってきたまゆが男を睨むように言いました。
「ふん、金貸屋が禁煙。変わった店だね。」男は少しダブダブの制服を着たまゆを怪訝な顔で眺めタバコをポケットに戻しました。
「申し訳ありませんが、この手の担当がおりませんのでお引き取り下さい」亜美は目の前に出された債権者からの委任状や明細書の入った封筒を男の方に押し戻した。
「五割にするよ。上手くすりゃ500万の儲けだぜ。」
「分かりました!引き受けます。」まゆが突然男の手から封筒を奪いとった。
担当さんと私は、顔を見合わせてニヤリとしました。 |