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気体から
作:晴天



気体から


参列者が、亜美に別れを告げ終わると、亜美の棺から水蒸気のように輝く気体がゆっくりと立ち上り、参列者の周りをクルクルと回りました。
まるでお別れの挨拶をするように、ゆっくりと皆の周りを回りました。

そして、まゆの体を包み込みました。
「まゆ。」まゆに話しかける声が聞こえました。
「ママなの?」まゆは心の中で叫びました。
「そうよ。まゆ、貴方はとても優しくてママにとっては命より大切な宝物だったわ。ママの子供に生まれてくれてありがとう。大好きな、まゆ。」
「ママ、私もママのことが大好きよ。ずっとずっとママ一緒に居たいの。」
「まゆ、それは出来ないわ。また、会えるからね。必ず会えるからね。」
「ママ・・・・」
「まゆは、それまで一生懸命生きてね。まゆの絵で、まゆのアトリエで皆を幸せにしてあげてね。」
「分かったわ。ママ。」
「さよなら・・・・まゆ」


まゆの体から離れた気体は、春人の体を包み込みました。
「ハル、悲しまないでね。」
「亜美・・・・」
「私とハルは300年かかってめぐり逢ったのよ。やっとめぐり逢ったの。」
「やっとめぐり逢ったのに・・・・・」
「これからは、永遠に一緒。だから悲しまないで。愛してる。」
「愛してるよ。亜美。」
春人を包んでいた気体は、

ゆっくりと

抱き合うように

吸い込まれるように

春人の体の中に消えて行きました。



私は、二つの魂が春人の体の中でひとつになるのを見ました。
それは、捩れ合うように絡まり合い、やがてひとつになっていきました。




それから、8年

まゆは、2年前にフランスから帰ってきて、春人と亜美の3人で住むはずだった家に暮らし、春人が作ってくれたアトリエは、才能と情熱の溢れる若き画家たちに開放していました。
画商としても青山に画廊を作り、その地位を少しずつ確保していました。


春人は、司法書士事務所のあるビルの二階に部屋を借りて、平凡に穏やかな毎日を過ごしてました。




「まゆちゃん、30歳の誕生日おめでとう。」
「ありがとう。ハル。」
まゆと春人は、アトリエで2人だけで誕生日を送ってました。
「生きていれば、ママは50歳になるのね。」
「ママは僕の中で生きているよ。」
「そうね。ハルを見てると時々ママに見えるから不思議だわ。」
「僕には見えないのが残念だよ。」


「まゆ、誕生日おめでとう」

まゆには、亜美の声が聞こえたような気がしました。



「まゆちゃんは、恋人は居ないの?」
「ハルが恋人よ」
「ありがとう。でも、恋はしたほうがいいよ。」
「してるわ。ずっと。ファーストキスをした人とね。」
「ヘー素敵な話だね。」
「ハルのことよ。忘れちゃったの?」
「え?」
「ひどいわね。ママより先に私の方がハルとキスをしたのよ。」
「・・・・・・・」
「憶えてないの?病院でキスをしたこと。泣いている私に優しくキスをしてくれたわ。」
「そうだったね」春人は楽しいそうに優しい笑顔で言いました。
「そう。あれがファーストキス」
「それは光栄だね。オデコへのキスだったけどね。」
「そう、まるで赤ちゃんをあやすような優しいキス。」
二人は大笑いしました。
まゆには亜美の笑い声も聞こえた気がしました。
そして心の中で「ごめんね。ママ」そう言って笑いました。







「こんにちは。」まゆが、青山の画廊から帰ってくると、春人とアトリエの片隅で話していた青年が、挨拶をしました。
「こ、こんにちは。」まゆは、その青年を凝視して挨拶を返しました。
「まゆちゃん、こいつは僕の息子なんだ。画家の卵。」
「はじめまして、夏樹です。このアトリエには才能ある画家が集まってるって聞いたていたので、是非来てみたかったんです。」

「そっくりですね。」まゆは春人と夏樹を交互に見て言いました。


「やっと出会えたね。」まゆの頭の上の方で声が聞こえました。


「え?何か言いましたか?」まゆは夏樹に尋ねました。

「いえ、何も言ってませんが。」夏樹も不思議そうに首を左右に振り誰かを探しているようです。



「ハル。」春人には亜美の声が聞こえました。

「ハル。まゆの魂の半分はハルの息子さんだったのね。」可笑しそうに笑う亜美の声

「亜美・・・・」春人も幸せそうに微笑みました。




私の使命も終わりです。
そろそろ天国に戻ります。
そして気体から始まった物語も、これで終わりです。

                                 ミカエル。


お読み頂きありがとうございます。
完結から少し時間が経ってしまいましたが、また、同じ題材で書き直そうと思っています。
是非、感想を頂けましたら次回の参考としたいと思いますのでお願いします。













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