別れの言葉
「もうすぐ完成ね」亜美が春人の手を握って言いました。
「まゆちゃんはアトリエを気に入ってくれるかな?」
「アトリエが気になって仕方がないのね。」
「まゆちゃんのお陰で僕はこうして、ここに立って居られるんだからね。」
「じゃあ、まゆを産んだのは私だから私のお陰でもあるわけね。」
「もちろん、君のお陰もあるよ。」
「でも、まゆが私を選んでくれたことに感謝しているから、やっぱりまゆのお陰だわ」
二人は、もうすぐ改築が終わる家の前に立って話をしていました。
「ハル・・・・・」亜美は急に春人に倒れかかりました。
「どうしたの?」春人は亜美を抱きかかえるようにして、ゆっくりとその場に寝かせました。
「まゆちゃん。」
「どうしたのハル?パリはまだ夜中だよ」
「亜美が・・・・・」
「ママがどうしたの?」
「死んだよ。」
葬儀は、親しい人だけで行われました。
祭壇には遺影の代わりに、まゆが描いた亜美と春人の結婚式の絵。
まゆがパリに行く前日に、嫌がる二人を教会に連れて行き無理やり挙げた3人だけの結婚式。
牧師も参列者もいない式場で、まゆの前で誓った永遠の愛。
安く借りたウエデイングドレスとタキシードの亜美と春人。
左の薬指には、5年前に春人が準備していたプラチナの指輪。
写真の代わりにまゆが描いた絵は、まだ半分しか完成してない。
亜美を入れた棺の前に集まった人々は1人づつ別れの言葉を述べ花を手向けた。
「所長、石田です。随分と急に逝ってしまったんですね。まだまだ一緒に仕事がしたかった。天国でも事務所を作っておいて下さいね、私が後から行って手伝いますから。」
「所長、小林です。事後承諾になちゃうけど、娘に亜希子って名前を付けたのは、所長みたいな素敵な女性になって欲しかったから。所長の<亜>の字をもらいますよ。いいですよね。」
「所長、杉田です。借金で困ってた僕を雇ってくれたこと。本当に感謝してます。所長に拾って貰わなかったら、今頃生きていなかったと思います。なんでですか・・・・・」
「所長、時子です。2人で温泉に行く計画はとうとう実行されませんでしたね。ずいぶん古くなった旅行のパンフレットを所長がいつまでも机の中に入れていたのが凄く嬉しかった。天国の温泉には必ず行きましょうね。ちゃんと計画を立てておいて下さいよ。」
「さえです。・・・・・・・・・・・・・所長を・・・・・・・大好きでした。」
部下達は、言葉を詰まらせながら最期のお別れを言いました。
そして、元夫は
「亜美、済まなかった」
そして、暫らく棺にしがみつくように泣き崩れていました。
まゆと春人は棺の横に立ち、皆さんの言葉を黙って聞いていました。
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