後悔
「お誕生日おめでとう。ついに40歳だね」まゆは、大きな四本の蝋燭と小さな2本の蝋燭を飾った小さなケーキをもって亜美に言いました。
「貴方も20歳になったのね。」亜美は自分のことより、自分がまゆを生んだ歳にまゆがなったことの方に喜びを憶えました。
「誕生日が同じ母娘なんて珍しいよね。」
「そうね。」亜美はまゆを生んだ時のことを思い出していました。大好きだった男の子のこと、まゆの父親に助けられた思い。いろんな思い出がいっぱい詰まったまゆの誕生です。
「これで私も成人です。3年前の約束を憶えてる?」
「え?3年前?」
「そうよ、ハルがママに告白した日のこと。」
「なんだ、そんなこと。」亜美は笑い飛ばしましたが、あの日のことを忘れたことなどありません。
そう、思い出さない日はなかったのです。
「私はハッキリ憶えているわ。」まゆも一日も忘れたことはありません。悔しくて悲しくて仕方がなかったあの日を。
あの日亜美が言ったのは、
「追いかけてもしかたないでしょう。答えはいらないって言われたんだから。」
「そんの嘘に決まってるじゃない。答えがいらない告白なんて考えられないよ。」
「そんな告白も大人にはあるのよ」
「馬鹿じゃないの、後悔するよ。後悔したくないからハルだって言いに来たんじゃない。」
「言ったから後悔しないことばかりじゃないでしょ?」
「分かんないよ。ママはハルが好きじゃないの?」
「好きよ。たぶん。」
「たぶん?まゆは大好きだよ。優しくて強くて。ハル以上の人なんて周りにいないよ。」
「貴方がもっと大人になれば秋本さんより素敵なひとが、たくさん現れるわ。」
「じゃあ、ママの周りにはいるの?」
「優しくて素敵な人は、たくさんいるわ」
「じゃあなんでママはその人を好きにならないの?」
「・・・・・・」亜美は言葉に困まりました。
仕事の関係でも素敵な男性はたくさん亜美の周りにいます。時々は亜美を食事に誘ってくれる人もいます。でも亜美が好きになったのは春人だけだったのです。理由は、考えればいくつか出てきます。
周りの人を思いやる優しさ。
まゆを病院に連れていってくれた行動力。
優しく穏やかに微笑む笑顔。
でもその全てが理由のようで理由でないような気がするのです。
なぜだか、どこで会っても春人を好きになった気がするのです。
例え公園のベンチに座っている春人を偶然見つけたとしても。
「まゆも大人になれば分かるから。」そこで話を切りました。
あれから3年です。
「私は大人になったわ、でもハルが好き。今でもハルが大好き。だからハルと暮らします。」
「何言ってるの、まだ大学も卒業してないのに。」突然のまゆの宣言にも似た言葉に驚きました。
「私は、言わない平穏より言わない後悔がしたくないの。」
「秋本さんとは逢ってるの?」なんとなく、時々会っている気配は感じていましたが特に問い詰めるようなことはしないで3年が過ぎてしまったのです。
「うん。時々食事をご馳走になったりしているわ」
中年男が女子大生に食事をご馳走するということは、その後は・・・・困ったことになったと亜美は母親として悩みました。そして女としても悩みました。
「明日、秋本さんと会ってくるから、連絡先を教えて。」亜美は毅然とまゆに言いました。
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