元妻
「分かっています。今月中には契約を済まして、副社長には迷惑をかけないようにします。今も彼と相談していたところです。」亜美は、春人の件を電話で催促をしてきた元夫にイライラと答えました。
「分かったよ。君のことだから安心はしているよ。所長。」受話器の向こうから元夫の嫌味な口調が聞こえてきました。
「では、カレによろしく。」ことさら「カレ」に力を込めて電話を切った。
今でも亜美のオトコ関係が気になるようで、その手の表現には過敏に反応するのです。
「後3日で月末。」亜美はカレンダーを眺めて溜息をつきました。
「そろそろ、何とかしないといけないですね。」病室で亜美の買ってきてくれたコンビニのサンドイッチを食べながら、春人は亜美に尋ねました。
「そうですね。誰か保証人になってくれそうな人は思い浮かびましたか?」病院の自動販売機で買ってきた紙コップ入りのコーヒーを見つめながら亜美が春人に尋ね返しました。
ベッドには、スヤスヤと寝息をたてたまゆが幸せそうな顔でねむっています。
開腹手術もしていないので、明日の朝には退院の予定です。
「いろいろ友人の顔や親戚の顔も思いだしたのですが・・・・」
「いませんか・・・・・」
「明日、元の妻に会いに行ってきます。さっき電話をしたら話を聞いてくれるみたいだったから。」
「え!?電話したのですか?」
「はい。いつまでも迷惑は掛けられませんから。」
「奥様は・・・いえ、元の奥様はどんな感じでしたか?」
「元気そうでした。事情は詳しく話していませんが、力になってくれるかもしれません。」
「よかったです。」きつい口調で言ってしまいました。
亜美は何故だか不思議な感情に自分でもイライラしてきました。もしも自分が同じように困ったら、きっと元夫は助けてくれるだろう。それは、亜美に対する謝罪の気持ちと、今でも微かに持ってくれている好意から。
そう思えば春人の元妻が保証人になってくれることも考えられる。
女であることを差し引いたとしても。
いや、女で今は独身であるとすれば。
その夜は、二人で亜美のマンションに戻ったが二人とも口をきくことも無く別々の部屋で眠りました。
<おはようございます。佃煮屋が始まる前に会うことになっているので、先に出ます。逃げたりはしないので安心して下さい。 秋本>
短いメモがダイニングのテーブルにおいてありました。
亜美が、眠れぬままに夜を過ごし朝方にウトウトした隙に出て行ったようです。
これで保証人の件が解決すれば彼は二度とこの部屋に来ることはない。
今度会うときは、会社。
所長とお客。
最初から。
亜美は、心の中でつぶやきました。
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