待合室の朝
「ママ、お腹が痛い」突然リビングにうめくようにまゆが入って来ました。
「どうしたの」リビングにいた二人は同時にまゆに問い掛けました。
「分かんないよ、急にお腹が痛くなったんだよ」
「食当たりになるような物はなかったわよね」亜美は今日の夕食をあれこれ思い出していました。
「熱も少しあるね。盲腸かな」春人は、まゆのおでこに手を乗せて言いました。
「救急病院はわかりますか?」ただ慌てる亜美に春人は、さっきとは別人のようにテキパキと聞きました。
「はい、分かります。」
「救急車を呼ぶより行った方が早いから、車で行きましょう。僕は飲んでないから運転します。」
「でも」亜美はまゆのお腹をさすりながら、まゆの顔を覗き込みました。
「大丈夫だね、まゆさん。」春人は、まゆに自分が寝ていた布団から毛布を抜き取り肩から掛けました。
「うん。」まゆは小さく頷き毛布を握りしめました。
「さあ、行きましょう」亜美から車のキーを預かると教えて貰った駐車場に走っていきました。
「やっぱり盲腸でしたね」春人はいつもの優しく頼りない表情に戻って病院の待合室に座っている亜美に話しかけました。
「はい。ありがとうございました。」亜美は安堵と情けない気持ちで全身の力が抜けてしまったようです。
自分は気丈で、こんなことぐらいでは動じないと思っていたのに。仕事では、もっと重大な決断を日々しているのに。そんな自信が崩れてしまった気がしたのです。
「大丈夫ですよ。最近は手術じゃなく薬とかで治すのが一般的ですから」春人は、力なく椅子に座る亜美を励ますように肩に手を置きました。
その暖かい手が亜美の気持ちを更に弱きにさせ、何年も流したことのない涙が溢れて止まりませんでした。
二人は、病院の待合室で朝を迎えました。
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