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気体から
作:晴天



保証人


「これが、負債の総額と返済プランです。」ベテランの女性社員が書類を持って応接室に入って来たのは、お昼の少し前でした。

「ありがとうございます。」春人は、椅子から立ち上がり丁寧にお辞儀をしました。
「負債総額は、3千万323円です。返済は、月々30万円で20年が妥当かと思いますが。」女子社員は、いつも通り冷静に話を進めました。
「やはり、そのぐらいになりますか。」春人は、分かっていたことのように答えました。
「はい、当社としては担保もなく長期にお貸しすると言うのは異例のことなのですが」女子社員は、亜美の顔をチラチラ見ながら話を進めました。
「ただし、条件がありまして・・・・・」女子社員は言いにくそうにに話を途中で切りました。
「分かったわ、ちょっと向こうで話を聞きましょう」亜美は女子社員を引き連れて応接室を出て行きました。



「本社がなんて言ってきたの?」破格の条件には本社の決済が必要であり、その場合無茶な条件がつく場合がほとんどでした。
「あの方の奥様に保証人になって貰うことが条件です。」
「なに!彼は離婚しているのよ。無理に決まっているでしょう。ご両親じゃダメなの?」
「はい、ご両親には返済能力がないとのことです。」
「全て調査済みってことね。で、彼の元奥様は何をされているの?」
「ご両親は既に亡くなり、深川で家業の佃煮屋さんをされています。」
「なるほど、土地建物があるって訳ね。相変わらずシビアね。私が本社に確認してみるわ。」


亜美は渋々とデスクに戻り、本社で電話をかけました。
「副社長、今回の条件は無理過ぎませんか?法律上なんの関係も無くなった人を保証人にしろというのは。」
「他に目ぼしい保証が無かったのだよ。元々、調査しないままに預かった案件だからね。」
「確かに、私の一存で受けた案件ですけど・・・・・」
「損はしたくないのだよ。」元夫の口癖です。
「そうですね。」亜美は諦めたように言いました。


結婚している間に何度も交わした会話です。
「損はしたくないのだよ」・・・・・・「そうね」・・・
いつも会話はそこで終わった。
亜美は心の中でもう一度つぶやきました。
「そうね。」


「お待たせしました。」亜美はファイルをもって応接室に戻りました。
「浮かない顔ですね。僕は諦めていますから気になさらずに、おっしゃって下さい。」春人は先ほどと変わらぬ穏やかな表情で言いました。
「実は、保証人が必要なのです。誰か心当りはありますか?」亜美は元の妻を保証人にしろとは言えませんでした。
「保証人ですか、当然ですよね。でもいません保証能力があって頼める人は。残念ながら。」春人は首を横に振りました。
「元の奥様なんて・・・・・」亜美は言いにくそうに春人の顔をみました。
「彼女?無理ですよ。もう2年も連絡してないのだから。」春人は、可笑しそうに言いました。
「当然ですよね。」亜美はそれ以上言えませんでした。
沈黙が長く続きました。


長い沈黙を破ったのはセーラー服を着たまゆでした。
「秋本さん、いい返済方法はありましたか?当社は親切親身がモットーですから。」まゆは既に亜美がよい返済方法を考えてくれているものだと信じ明るい声で応接室に入ってきました。
「あれ?まゆさんは高校生なのですか?」秋本はビックリしたように言いました。
「貴女は関係ないのだから家に帰って勉強しなさい。試験も近いのでしょう。」亜美は珍しく声を荒げていいました。
「関係なくはないでしょう。」まゆもそんなことで引き下がる娘ではあるません。
「確かに関係なくはないですね。まゆさんがいなければ、僕はここにいないのですから。」秋本は親子喧嘩を面白そうに眺めて言いました。
しかたなく、亜美は事の次第をまゆに話しました。

「そんな酷い話なの!だいたい、月30万円なんて払えるわけないじゃない。しかも保証人は別れた奥さん!!」亜美は応接室を飛び出して父親に電話をしに行きそうになるまゆの腕を引っ張りました。
引っ張られた拍子に尻餅をついたまゆは、スカートがまくれて可愛らしいピンクのパンツが丸見えになってしまいました。
「秋本さん!見たでしょう」
「いや、はい、少し」春人は顔を赤くして下を向いてしまいました。
「バカ娘・・」亜美は、可笑しいやら情けないやらで、呟きました。












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