出逢い
「はい、所長。」若い杉田は、初めて任された大きな仕事に、勢いよく返事をしてファイルをつめた鞄を片手に飛び出して行きました。
「杉田さん!ちょっと待って」地下鉄の入口で杉田を呼び止めたのは、母親のタンスからこっそり借りたダークスーツに身を包んだまゆでした。
「どうしたのまゆちゃん、そんな格好して。学校は?」嫌な予感を感じながら、まゆを爪先から頭のてっぺんまで見上げました。
「素敵でしょう?」まゆは少し腰をひねるようにポーズを作り杉田にウィンクを送りました。
「まだまだ、所長にはかなわないけど素敵だよ。じゃあ急いでるから、デートのお誘いなら、また今度ね。」
「ちょっと、ちょっと、私も連れて行って」急いで立ち去ろうとした背広の後ろを引っ張ったものだから、思わす杉田は、尻餅をつき悲鳴を上げたのです。
「わぁー!何するんだよ危ないなぁ。まゆちゃんを連れて行けるわけないでしょう、どんなヤツがいるか分からない危険なところに」
「そうかしら、だって司法書士事務所に行くんでしょう?」
「もう、あそこは閉鎖になって誰もいないよ。社長の自宅も既に売られて人手に渡ってる。」
「えー、じゃあ誰からお金を返してもらうの?」
「保証人になった所員だよ。」杉田は、得意げな顔でいった。
「なんだか可愛そうな話ね。それに、払えるのかしら」
「そこは、僕の腕の見せ所だよ。他から借りさすなり知り合いに泣き付かせるなりね。」いつの間にか二人で地下鉄に乗りながら話をしていた。
毎日、ハキハキと明るいまゆに日頃から好意をもっていたのだが、母親の亜美の手前、会社ではゆっくり話すことが出来なかったので、ついつい話に夢中になり連れてきてしまったのです。
「凄い扉ね。債権者の方々の督促の封筒が郵便受けに入りきらずにテープで貼ってあるわ」まゆは、これから取り立てを行なう男のアパートの部屋の前で立ちすくんでしまいました。
「まあ、闇金融ならもっとひどいけど、一般の人も金が絡むとえげつないね。」杉田は消えかかった表札の「秋本春人」の名前と資料を確認してから、ドアを軽くノックしました。
「居留守かな?」独り言を言って、今度は強く叩きながら。
ドンドン、ドンドン
「秋本さん、秋本さん」答えはありません。
「あきもとはるじんさん」まゆも大きな声で問い掛けてみました。
「まゆちゃん、はるじんはないだろう。ハルヒトでしょう。」杉田は、呆れたようにまゆの顔を覗き込みました。
「そうだね。はるじんは変だよね。」
「ハルヒトさ〜ん」まゆは、高いトーンで歌うようにドアに向かってさけんだ。
「なんだか変なのが来たな、借金取りじゃないのかな」布団を被って息を潜めていた春人は、おそるおそるドアに近付きました。
「こんにちは〜薬園ローンのまゆです」まゆはなんだかキャバクラ嬢の紹介のようなことを言いだしました。
「あなたが頑張るなら、力になるわよ!」これは、亜美が良く多重債務に苦しむ人に言う言葉です。
春人は、バカが三つも四つもつく程に正直で人の好意を信じて疑わない男。それが、今回の事態を招いたのですが。
ガシャ。
鍵を開け扉を薄くあけて春人が顔をのぞかせました。
春人と目が合ったまゆは、思わずニッコリ微笑えみ
「こんにちは、会えて良かった。」 |