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気体から
作:晴天



母娘


「さて、副社長の許可も下りたわ。申し訳ないけど杉田くん債務者の居場所を探しだしてくれる。」亜美は取り立て係の中で一番若い杉田に指示をしたのは、亜美の手元にこの案件が半ば強引に転がこんだ翌日の夕方のことである。

昨夜は、この案件についてまゆと話を始めるうちに、学校のことやまゆの将来のこと、挙げ句は亜美の再婚についてなど、久しぶりに娘と夜通し笑い転げながら話をしてました。

「ママは再婚とかは、する気がないの?」
「ないわね。」亜美は、ビールとワインで少し酔った顔は柔和な母親と、まだ37歳の女性の中間といった感じで答えました。
「じゃあ、せめて恋ぐらいすれば。まだ十分に綺麗だと思うよ。」
「そう。でも、おばさんよ」亜美はまんざらでもない顔で続けました。

「パパと出会う前に、命さえ要らないと思うような恋をしたの。ちょうど、まゆと同じ年に出会った男の子とね。大好きだったわ。
毎日逢わないと苦しくて切なくて。でも、二人とも若かったから大切にしなくてはいけないものが分からなくて、傷つけ合うことの方が多かった。
その男の子は、夢を探しながらも見つからなくて、毎日あてもなくブラブラして、挙げ句に借金を作ってママに泣き付いてきたの。
その時にお金を貸したのが、パパだったの」

まゆは、母と父の出会いを初めて聞かされ、興味深々で膝を乗り出しました。亜美もいつか自分達のことをまゆに話をして、生まれたことを喜んで欲しいと思っていました。もう、まゆも恋の辛さや喜びを多少は味わったようなので、この機会に話をしようと続けました。


「その男の子は、仕事をしていなかったから、毎月ママが返済をすることになったの。でも、いずれは結婚するし、そうすれば同じだと思ったから仕方ないと思ったわ。何よりその男の子の心配する顔を見るのも辛かったし、その男の子の為に自分が犠牲になることに幸せさえ感じていたの。でも、それは本当の優しさじゃなかったのね。その男の子は、惨めな気持ちになり捻くれて、会っていてもいつも不機嫌になっていたわ。」
「ママ。」まゆは、優しい眼差しで昔話をする母親がいとしくて、切なくて涙が溢れて仕方がありませんでした。

「パパは毎月の返済を「すいません」って申し訳なさそうに受け取って、その後色んな世間話をしてくれたの。自分の夢とか、学生時代のこととか。ママを笑わせるために色んな話をしてくれたわ。
少しして、ママが返済の日を忘れてしまって、電話をしたら映画に誘われたの、どうしても観たい映画なんだけど恋愛映画だから一人では入りづらいし他に誘える相手もいないので是非にって頼まれたの。でも、観たのはアクション映画だったけどね。」
「ぷっ」まゆは、思わず吹出し、つられて亜美も大笑いしてしまいました。

「それからは、毎日のようにパパは用事を作って家に電話をしてきたの。一人暮らしで、ゆで卵のゆで時間が分からないとか、本を読もうと思うけど、お勧めの本はないかとかね。
そして、ママも少しずつ優しいパパに魅かれて何度かデートをするうちに貴方を授かったのよ。」

「ママは困らなかった?」まゆは心配そうに聞きました。
「全然、これが運命だったんだって思ったわ。パパは大喜びで何度もママのお腹をさすってくれた。」
「でも、結婚式はしなかったんでしょう?」
「パパの両親もおじいちゃん、おばあちゃんも賛成してくれなかったからね。それに、ママも特にしたいとは思わなかったし。」
「何で反対したの?おじいちゃんも、おばあちゃんもまゆには優しいのに」温和な祖父母が反対したことが不思議でなりませんでした。
「二人とも若かったしね。」亜美はそれ以上の事情はまゆに話しませんでした。

その時、亜美の心にはまだ、その男の子がしっかりと居座り、その男の子も亜美を離したくなくて時々電話をしたり待ち伏せをしたりしていたのを、両親は知っていたのです。
「じゃあ、私が生まれるための行為はどんな風だった?」まゆは少し悲しげな母親を励ますように突飛な質問をしました。
「え!?なにそれ?」亜美は酔いと恥ずかしさで赤くなった顔で、聞き返しました。
「だから、パパとの初めての「えっち」はいつしたの?」まゆも少し赤くなりながらも、今更引っ込みもつかず怒ったような口調になりました。
「それは、秘密ね。」亜美は、元夫とのセックスがどんなものだったのか思い出そうとしても思い出せないのです。それまでに多くの経験をしていた訳ではないのですが、元夫とのセックスに何にも思い出らしいものが思いつかないのです。
それは、まゆを生むための行為だったのではないかとさえ思えてしまうくらいに。

その夜は、二人とも話疲れて、ソファーで抱き合うように眠りにつきました。












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