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これは、童話企画小説です。今回のテーマは『眠り』です。「十月の童話」で検索すると、他の先生方の素敵な作品も読むことが出来ます!
眠りの砂
作:春野天使


 子供の頃、私はお祖母ちゃんのお話を聞きながら、うとうとと眠ってしまうことがよくありました。お祖母ちゃんのお話はとても上手で、お話の声が子守歌のように耳に気持ちよく聞こえてくるのです。もっとお話が聞きたくて、眠らないよう瞼を開けておこうとするのですが、自然と瞼が重くなって閉じてしまいます。
 そんな時、お祖母ちゃんは言いました。
「『眠りの精』がお前の瞼に砂をかけたようだね」と。
「『眠りの精』ってなあに?」
 私がどうにか眠らないように頑張って瞼を上げて聞くと、お祖母ちゃんは言いました。
「『眠りの精』は肩に砂袋を背負った小さな小人だよ。眠らない人を見つけると、瞼に魔法の砂をかけて、安らかな眠りに導いてくれるのだよ」
「それじゃあ、今、私の側に『眠りの精』が来てるの?……」
 ふさがりそうな瞼を一生懸命持ち上げながら、私はキョロキョロと辺りを見渡しました。けれど、『眠りの精』の姿はどこにもありません。
「見えないよ」
 不満そうな私にお祖母ちゃんは言いました。
「『眠りの精』の姿は目には見えないんだよ。だけど、ずっと昔は時々姿を現すこともあったらしいよ」
「ほんとうに?……」
「今度そのお話をしてあげようね」
 お祖母ちゃんの声が遠くで聞こえてきます。『眠りの精』の魔法の砂が、私の瞼にたくさんふりかかって、私はそのまま眠ってしまいました。

 『眠りの精』のいない昼に、私はお祖母ちゃんから『眠りの精』のお話を聞きました。夜にお話を聞くと、『眠りの精』がすぐにやってきて、私の瞼に砂をかけてしまうからです。私のお祖母ちゃんもお祖母ちゃんのお祖母ちゃんに聞いたお話だと言っていました。お祖母ちゃんのお祖母ちゃんも、お祖母ちゃんのお祖母ちゃんの、そのまたお祖母ちゃんに聞いたお話なのかもしれません。
 とても、むかしのお話のようです。


 ある国に、エーベルという名前の『眠りの精』がいました。彼は『眠りの精』になったばかりの新米で、とても張り切っていました。
 夜遅くまで遊びに夢中でなかなか眠らない子供達を見つけると、すぐにやってきて『眠りの砂』』をふりかけます。親の言うことを聞かず、いつまでも起きている子供たちも、エーベルの砂の力で、瞼がすぐに重くなります。眠くて眠くて、遊びかけのオモチャを手に持ったまま、ウトウトと目を瞑ってしまいます。
 オモチャを片づけてベッドに行く子供たちを見て、エーベルは嬉しくなってきます。
「僕の砂の力はたいしたもんだ。アッという間に皆を眠らせてしまうぞ」
 子供たちは、ベッドに入るとすぐにスヤスヤと安らかな眠りにおちていきます。人の寝顔ほど、エーベルの好きなものは他にありません。寝息を立て気持ち良さそうに眠っている人を見ると、エーベルはとても幸せな気分になるのです。
 反対にエーベルが大嫌いなのは、眠らない人です。たまに、ベッドに入ってもなかなか眠れない人を見かけることがあります。眠ろう眠ろうとしても余計に目がさえて、全く眠らないのです。ベッドの中で『羊が一匹、羊が二匹……』と順番に数え、頭の中に九百九十九匹の羊を登場させた人もいます。
 そういう人を見つける、エーベルは大急ぎで飛んできては、いつもより余分に『眠りの砂』をふりかけます。そうすると、パッチリと開いていたその人の瞳も、砂の重さに耐えかねて閉じていくのです。そして、千匹目の羊を登場させる前に、ようやく眠りにおちていきました。
「やれやれ、彼の頭の中が羊で溢れるところだった。羊を数える人間ほど嫌なものはない」
 エーベルは眠り始めた人を見て、安心しました。
 眠らない人は注意しておかないといけません。エーベルは翌日もその人の元に、ちゃんと眠るか確かめに行きました。その人は、ディルクという友達と一緒にいました。
「昨日は久しぶりにぐっすり眠ることが出来たよ。おかげで、千匹の羊を数えずにすんだんだ」
 彼は友人のディルクに言いました。すると、ディルクは目を見開いて答えました。
「千匹の羊なんてたいしたことはない。僕は昨日二万匹もの羊を頭の中で描いたよ。ちょうど二万一匹目を数えた時、一番鶏が鳴いて夜が明けたのさ」
 二万一匹の羊! エーベルはディルクという青年の言葉に驚きました。今までそんなに羊を数えた人間は見たことがありません。
「それはすごいな。まだ眠れないのかい?」
「ああ、僕は眠ったことなど一度もない。どうやら僕は眠らなくても生きていけるらしいよ」
 ディルクは、大きく目を開けて言いました。彼の瞼が眠りで重くなることはないのでしょうか? エーベルは、ディルクの言葉に大きなショックを受けました。眠ったことがない人間がいるとは、思ってもみなかったのです。
「僕の『眠りの砂』なら、きっと彼を眠らせることが出来るだろう。眠らない人間などいるはずがない!」
 エーベルはディルクを眠らせようと決心しました。眠らない人間ほど嫌なものはありません。『眠りの精』の名誉にかけても、彼を眠らさなければないらないと、エーベルは思いました。

 その日の夜、エーベルはさっそくディルクの家に忍び込みました。『眠りの精』の姿はとても小さくて、人間の手の平くらいの大きさしかありません。動きも素早く、人間の目では見ることが出来ないので、ディルクに気付かれることはありませんでした。
 もう夜中の十二時は過ぎていましたが、ディルクはまだ起きていました。欠伸一つせず、ランプの灯りの元で熱心に本を読んでいました。
「さて、さっそく僕の砂をかけてみるか」
 エーベルは手始めに、砂袋から『眠りの砂』を一握り掴み、ディルクの瞼にふりかけてみました。小さな砂の粒は、ランプの光に照らされながらディルクの瞼めがけて飛んでいきます。
 砂は見事にディルクの瞼にふりかかりました。普通の人間なら、眠気を感じ欠伸をするはずです。でも、ディルクは何事もなかったかのように、本を読み続けています。
「チッ、おかしいな。それなら今度はもっと多くかけてやる」
 エーベルはさっきかけた砂の倍の量を、ディルクの瞼にふりかけました。こんなに多く砂をかけたら、眠くてたまらなくなり、すぐにベッドに飛び込むはずです。
 ですが、今度もディルクは何事もなかったかのように、目で本の文字を追っています。これには、エーベルも驚きました。
「……こいつには『眠りの砂』が効かないのか?」
 こんなことは初めてです。エーベルのプライドはとても傷つきました。人を眠らせることの出来ない『眠りの精』なんて、眠りの精失格です。
「今度こそ、絶対眠らせてやる!」
 エーベルは、もう一度、両手いっぱいの砂をディルクの瞼めがけて投げつけました。こんなにたくさんの眠りの砂をかけられては、普通の人ならその場に気を失って眠り込んでしまいます。あまりにたくさん砂をかけすぎると、人は眠り続けてしまい目を覚まさなくなってしまうのです。とても危険なことです。それでもエーベルはかまわず砂をかけました。
 けれど、ディルクには全く効きませんでした。
「……」
 エーベルは言葉を失い唖然としました。エーベルの小さな顔が次第に青ざめていきます。人を眠らせることの出来ない『眠りの精』なんて、皆の笑い物です。
「クソ! こうなったら、ありったけの砂をかけてやるぞ!」
 エーベルの顔が怒りのため、青から赤くなっていきます。エーベルは砂袋からありったけの『眠りの砂』をディルクめがけて投げつけました。『眠りの砂』が煙のように部屋中に広がります。ディルクの瞼だけでなく、顔中、体中にもふりかかりました。
「……フィ、フィッ」
 『眠りの砂』は、エーベル自身にもふりかかってきました。砂の粒がエーベルの鼻をくすぐり、くしゃみが出そうになります。
「ハックション!」
 エーベルは大きなくしゃみをしました。あまりに大きなくしゃみだったので、本を読んでいたディルクの耳にも微かに聞こえたようです。
「ん?……」
 ディルクは本を読む手を休め、薄暗い部屋を見渡しました。
「気のせいかな? なんだか誰かがくしゃみをしたような音がしたけど」
 不思議に思ったディルクが、また本に目を落とした時です。ディルクはビックリして目を見張りました。
「これは!?」
 ディルクが驚いたのも無理はありません。ディルクが読んでいた本の上に、エーベルが寝ころんでいたのです。エーベルは本の上で、スースーと寝息を立てて眠っていました。エーベルがくしゃみをした時、『眠りの砂』がエーベルの瞼にもふりかかってしまったのでした。
 エーベルは、とても気持ち良さそうにぐっすりと眠っていました。リズミカルに寝息を立て、お腹を上下させています。人形のように小さなエーベルが、安らかに眠っている姿を見ていると、ディルクの瞼が次第に重くなってきました。
「ん? なんだろう頭がぼーとしてきたぞ」
 今まで眠ったことのないディルクに、初めて眠気が襲ってきたのでした。
「これが眠いということか?」
 ディルクは大きな欠伸をしました。目を開けていようとしても、自然と瞼が下がってきます。心地よい眠りが初めてディルクにも訪れてきたのです。
「……眠るというのもいいものかもしれないな」
 ディルクは、エーベルが眠っている本の上の側に突っ伏すと、そのまま眠りにおちていきました。
 翌朝。一晩中ぐっすりと眠っていたエーベルは、ようやく目を覚ましました。『眠りの精』が自分の砂で眠ってしまうなんて、今まで聞いたこともありません。
 エーベルは大きく伸びをしました。頭はとてもスッキリとしています。
「おや? 彼はやっと眠ったようだぞ」
 エーベルは、自分の横にディルクの大きな顔があるのに気付きました。彼は机に伏したまま、ぐっすりと眠り込んでいます。ディルクの寝息が、エーベルの小さな体にかかってきます。エーベルはその姿を見て、ホッと安心しました。
「僕の『眠りの砂』が効いたようだな」
 エーベルは、眠っているディルクの顔を見て満足し、笑顔になりました。ディルクが眠ったのは、エーベルの砂のせいではなく、エーベルの寝顔のせいだとは気付かないようでした。使命を果たしたエーベルは、殻になった砂袋をかつぐと、高らかな笑い声を上げながら素早く去っていきました。


 これが、お祖母ちゃんに聞いた『眠りの精』のお話です。どうやら、眠りの精の寝顔は、『眠りの砂』よりも眠りを誘うようです。私もそろそろ眠くなってきました。『眠りの精』が、私の瞼に砂をかけたのかもしれません。私には眠りの砂がよく効くようです。
 それでは、皆さんお休みなさい。                       完






書けるかどうか微妙でしたが、なんとか書けました! 今回は書いていて楽しかったです。ドイツ民謡『眠りの精』をイメージして書きました。書き方も出来るだけ『童話』っぽくなるように意識してみました。不眠症の人の元に『眠りの精』が来てくれるといいなぁと思います。(^^)
最近の私は、ベッドに入ったらほんの数分で眠ってしまうことが多いです。













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