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心の声

作者: 水守中也

《わたしの名は、グリフィン。あなたに力を授けましょう》

 学校に行く途中の道端で拾った人形が僕、佐藤洋太の心の中に話しかけてきた。

 グリフィンと名乗った人形は堕天使で、僕に『人の心を読める』という能力を与えてくれた。それを使って僕に人助けをさせ、自らの罪を浄化し天に戻るつもりらしい。

 そんなことはどうでもいい。さっそく誰かにこの能力を試してみよう。


 校門前で清楚な藤咲さんと出会った。爽やかな風が彼女の艶やかな黒髪を揺らす。どこか遠くを見つめるような瞳。清楚な藤咲さんはいったい何を考えているんだろう。

 ・・・

(オ○ニーがあたしを呼んでいるっ!)

 ――――え?

(あー、エッチなことしたい、○○したい、『ピーッ』したいっ)

「いまのなにっ?」

「どうしたの。佐藤君?」

 清楚な藤咲さんが天使の笑顔で聞き返す。

「えっと、その」

「ところで、人参とキュウリと茄子、どれが気持ちいいと思う?」

「何に使うのっ」

「ひ・み・つ」

 清楚な藤咲さんが軽やかに去ってゆくよ。いつもなら爽やかな風を感じるんだけど、今はねっとりとした風しか感じないよ!


 靴を履き替えて廊下を歩いていると、小さくっていつもおどおどしている小動物の立川さんの姿が見えた。

 廊下の真ん中に立って、ぼんやりとどこかを見つめている。まるで妖精さんでも見ているかのようだった。

 彼女は何を思っているのだろうか。

 ・・・

(やっぱり天井×床は良いです。二人は平行、どこまで行っても交わることはないです。けれど互いに互いを見つめ合っているのです! でもやっぱり鉛筆×消しゴムです。黒く尖った鉛筆のあとを、いつもずっとついてくる真っ白な消しゴム。やがて彼も汚れていくのです。そしてたまに鉛筆に突っつかれたりして……カップリングには無限の可能性が広がっているのです!)

 ――――BLっ?

「……あ、佐藤君。佐藤君って、その、鈴木君と仲がいいですよね……ふふっ」

 やめてっっ。受け攻め分類しないでっ!


 ダッシュで逃げていたら、別の女子生徒とぶつかりそうになった。

「何よ。危ないじゃないっ。本当にもう、佐藤って馬鹿なんだから。いっぺん死ねば?」

 こいつは小生意気な西森。なぜかいつも僕に突っかかってくる女だ。こいつもきっと心の中では僕のことを……

 ――ん? 待てよ。もしかするとこれ、かの有名なツンデレという可能性も。

 さぁグリフィンよ。その力、我に与えよ!

 ・・・

「何やっているのかしら。馬鹿じゃないの?」

(何やっているのかしら。馬鹿じゃないの?)

 ……あれ? 

「ちょっと、何か言ったらどうなの? お猿さん並に言葉も忘れちゃったのかしら?」

(ちょっと、何か言ったらどうなの? お猿さん並に言葉も忘れちゃったのかしら?)

「心の声と言っていることが同じ。裏表ないのが凄いっ」

「もう手遅れのようね。人間やめた方が良いわよ」

(もう手遅れのようね。人間やめた方が良いわよ)

「でも言われていることはひどいっ。しかもダブルで聞こえるから二倍ひどいっ」

 僕はちょっぴり涙した。


「どうした? 何やらくたびれているようだが」

 教室の机に突っ伏して泣いていると、口調の割には可愛らしい声が耳に入った。隣の席の座る幼馴染の五十嵐だ。声質はともかく、男っぽい喋り方をするクールな女だ。

「心の中の声が聞こえる? そんなわけないだろう」

 僕が説明すると、五十嵐はそう断言した。

 その凛とした口調が、僕の心に染みわたる。

 そうさ、きっとこれは堕天使の情報操作。心の声なんて聞こえるわけがない。ああほっとする。

(あぁん。くーるなあたし、可愛いっ。もーっ、きゅぴきゅぴっって感じ♪)

「きゅぴっ??」

「……なに馬鹿なこと言ってる。空耳か」

(もしかして、ばれちゃう?ばれちゃう? ようたんにばれちゃう? そしたら、あたしもきゃぴるんでびゅー?)

「い、いや、しなくていいですから?」

 ようたん、って僕、そう心の中で呼ばれていたのか。

「そ、そうか、しなくていいのか。……い、いや何を言っているのかわけが分からないがな」

「そ、そーですねー」

 心の声をシャットダウン。これ以上聞いていたら死ねる自信があります。


 これは一体何なんだ? はっ、もしかするとこれはグリフィンの陰謀かっ。

《残念ながら、貴方に説明する義務はありません》

 グリフィンが答える。

 ふふっ。僕は鼻で笑った。

 ぬかったな、グリフィン。僕は人の心が読めるんだぜ。

 …………

 あれ?

《だって、グリフィン堕天使で人間ではありませんし》

「そんなーっ」

 大ピンチ。グリフィンの陰謀とは如何にっ?


 ――――


「――はっ! 夢か……」

 僕はベッドの上で目を覚ました。見慣れた天井と一緒に、見慣れた幼馴染の五十嵐の顔があった。

「あ、やっとようたんが起きたぴょん。いつまでもお寝坊さんしていたらダメダメだみょん。今日もきゅぴきゅぴだよぉ~」

 いつものように勝手に部屋に入ってきた五十嵐を見て、僕は大きくため息をついた。

 今日もまた、藤咲さんにセクハラを受けて、立川さんにBL談義を付き合わされ、西森にいびられる変わらぬ現実が待っているんだろうと思うと気が重くなってきた。


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― 新着の感想 ―
[一言] お久しぶりです。 軽快なコメディでした。素直に楽しませていただいたと断言しておきます。 だが主人公に言っておきたい。 女の囲まれてる時点で幸せだと自覚しろ。というか爆発しろ(笑) それではま…
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