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シカテマ疾風伝<外伝>
作:スピリットQ



MAGNET 〜雲のように風のように〜 


「----なぁ、いい加減、オレに寄りかかってもいいんだぜ?」
「…断るっ!」

テマリは、自分の下に仰向けで横たわる少年の提案を拒む。
彼女の表情は辛そうで、額には汗さえにじんでいた。

一方シカマルの方はといえば余裕綽々で、
自分を組み敷くテマリが、いつまで意地を張っていられるのか、
楽しむように眺めていた。 
 
-----どうしてこんなことになったんだ!?



テマリは早く誰か救助に来てくれないものかと祈った。

木ノ葉の緊急任務に出動することになったシカマルは、
その時、砂の使者の見送りの最中だった。
本来、幾人かの仲間とシカマルだけが向かう予定だったのだが、
何故かテマリまでもがついてきた。
彼女は困っている人間がいるとすぐに駆けつけようとする。
「部外者のアンタは関係ない」と言って止めても、
それを受諾しないことはシカマルにもわかっていた。

森の中、木の枝を疾風のように伝っている間、
シカマルとテマリは、そろって何かの力に引っ張られ落下してしまった。
まるで、突如現れた歪んだ時空に落ちて行ったかのように。


「----っつぅー、いってぇ…。----おい、大丈夫か?」
「ああ、何なんだ一体…。ここはどこだ?」

薄暗いそこは、狭い通気坑のような場所だった。
何かの建物のようでもあったが、全くわけがわからなかった。
これに二人は吸い込まれたとでも言うのだろうか?
しかし好奇心も手伝ってシカマルは、その先を確認したくなる。

「ちょっと待ってろ」

身を起こすこともままならない天井の低さなので、
仰向けの体勢のままシカマルはその先へ進もうとする。

「私が行く。お前こそ待っていろ」

そう言って両手を這って少年に近づくと、シカマルを上から乗り越えようとする。
しかしどう考えても、狭いここではそれは余りにも無謀で無理な話であった。
ズズイッとシカマルに迫ってくるが、そのまま進んで来れば、
間違いなく彼女のそれがシカマルの顔面に直撃する。

「ちょ、ちょっとタンマ!!」

テマリの豊満な胸の谷間が、シカマルの目と鼻の先にあった。

「…おまえ、どけっ!」
「あのなぁ! どう考えたってぶつかるだろ、アンタのそれが」

シカマルの指の先にテマリも目を送ると、ギロッと睨み返された。
お陰で、彼女の体がピタリと止まった。
シカマルはホッと息をつくが、どうやらそうではない様子だった。

「-----どうした?」
「お前、術をかけているか? 体が前にも後ろにも進まないぞ」
「かけてねーよ。扇子が引っかかってんじゃねーの? 
…とりあえずアンタはここにいろ。オレはこの先を見てくる----って、あれ…?」
「どうした?」
「オレの体も動かない…」

しかし、手や顔を動かす小さな動作は可能だった。

「どうやら、何か見えない力がここでは働いているとしか考えられねーな」

無言になってしばらく二人は見詰め合った。
だが、それも束の間、パッとお互い目をそらす。
それでもお互いの顔の距離は近い。
体も密着寸前だったが、こうしていると、
まるで、二人の体が磁石のように引っ付いたようだった。

辺りは静まり返っている。
今ここにいるのは二人だけであった。
まるで世界から誰もいなくなったかのように--------



あれからかれこれ10分以上は経過しているはずだ。
いくら心身共に鍛えられてきた忍であるとは言え、
こんな空気もままならない狭い場所で、
腕立て伏せをしているような体勢では余りにも辛すぎる。
しかもよりによって、砂の上忍でもある自分が、
他国の年下の中忍を組み敷いているなんて話は、
自慢話にも笑い話にもならない。

「おい、いつまでこのままでいるつもりだ? お前ほどの頭脳だ。
何かいい考えは閃いてるんだろう?」
「…まぁな。アンタがいつまでも頑張ってないで、いい加減オレに寄りかかれば?
ってことだ。随分楽になると思うぜ?」
「そ、それのどこが楽なんだ! それだけは遠慮する!」
「そんなにイヤがるなよ…」
「男に媚びるのがイヤなだけだ!」

一応、自分も男として見られているらしい。
彼女のことだ、どうせ自分は年下クンだの泣き虫クンだの、正直その程度なのかと思っていた。
確かにあれから数年は過ぎているのだから、男女の差は歴然と開いてくる。
両手で自分の体を支える、テマリの呼吸は乱れていた。
男だってその体勢で耐えるのが至難だというのに、彼女は両手で自分の体を支え続けている。
異性の体に密着する羽目になるのがイヤだというのなら、
さっき自分を乗り越えて行こうとしたのは一体何だったのか…。
何も考えていなかっただけなのだろうか。
それとも、突然自分を意識し出して恥ずかしくなったとでも・・・?

「いや、アンタに限ってそんなことは…ないか…」
「何がだ?」
「いや、何でもねぇ」

テマリの顔も上気して赤面している。
汗もどんどん増えている。
今では額どころか、首筋や開いた胸元にまで汗が浮き出ていた。
それがどこか艶っぽく、扇情的に見えていることを彼女は気づく由もない。
次第に、肩で息をしていた呼吸に益々色香が加わり、声までもが漏れ出す。

-----はっきり言ってヤバイ……。

シカマルは自覚し始めていた。
テマリよりも、自分の身の方が持ち堪えられそうにない。
間近でそんな顔でそんな吐息と芳香を漂わせられたら、
いくら高い頭脳と忍術を持っていたとしても、何の役にも立たない。
自分でコントロールするしかないのだ。
テマリが眉間にしわを寄せ、苦しそうに、だが見ようによっては切なそうな顔で、
シカマルの上で呼吸を乱す。
その上、呼吸と同時に、かがんでいるせいでほぼ丸見えの胸元も一緒に上下に律動している。
目に毒とはまさにこのことだ。

「----なぁ、マジやべーって。頼むから寄りかかれって!」
「大…丈夫だ…。まだまだ耐えられる。これも忍の修行のうちだと思えば、何てことはない」
「いや、アンタよりオレがやべーんだって」
「はぁ!?」

目を合わせると、自然とそこに目が行かざるを得ない為、シカマルは彼女と目を合わせようとしなかった。
それが気に食わなかったらしい。テマリが睨んで言う。

「さっきから何で目をそらす!?」
「----言えって言うのか? じゃあ言ってやるよ。
アンタのその格好、思春期の男にとっちゃ、どんだけ毒かってことだよ」

はぁー…。
シカマルは相変わらず目をそらしたまま、ため息をつく。
テマリはキョトンとしていた。

「何だ、そんなことか」
「そんなことだぁ? ったく、こっちの身にもなってみろっての」
「修行が足りない証拠だ! 何なら今こそ、その煩悩も鍛え上げてみるか?」

シカマルは口を閉ざした。そして、真顔になってテマリを真正面から見つめる。

「----どうやって?」

その表情が大人びていて、男の顔に豹変して、少々テマリもたじろいだ。

「ふ…ん、どうもこうもないさ。このまま見詰め合っていればそれで済む」
「本当にそれだけ?」
「ああ、それだけだ。----勝負しよう。どっちが先にギブアップするか」
「……だったらオレ、無理っぽいわ」
「情けない奴だな! 勝負はまだ始まって-----あっ!!」

テマリが最後まで言い終わらないうちに、シカマルの両腕が彼女の細腰を抱いたかと思うと、
彼の胸に引き寄せられた。
「い、いきなり何をするっ!?」
そうは言ったが、ようやく両腕の支えが不必要となり内心テマリはホッとはするが、
それよりも頬がシカマルの胸にしっかり当たっていて焦る。
そして、意外に逞しい筋肉質な胸板に驚く。
お互いの体も密着状態で、テマリのボリュームのある二つの膨らみも、
シカマルの板のようにまっ平らな胸によって押しつぶされてしまう。
カッと顔が熱くなり、慌てて離れようとするが、シカマルの両腕がそうさせてくれなかった。

「ったく、オレがアンタに敵うことなんて、この先もきっとねーよ」
「何を言う? 中忍試験の時は、誰がどう見たってお前の方が…」
「-----アンタの胸、想像以上に柔らけーな」
「!!」

テマリがグッと言葉を飲み込む。
そして、二人はしばらく言葉を失った。
静寂が再び訪れる------

テマリの息はまだ正常ではないようで、シカマルの胸に手を置いて、全身で息をしている。
それがまるで、情事を終えた男女のようにも伺え、シカマルは益々困惑した。

これじゃあ、さっきより悪条件じゃねーか……。

自分の体も既に熱い。
それは決してこの場所のせいなどではなかった。
その証拠に、こんなにも熱く硬く反応している。
耐え切れず、シカマルはモソモソうごめきだした。
ちょっとでも彼女の体からずらすために。

「…何をしている?」
「いや、まぁ、その……」

それ以上、口にはしづらく、言いかけて止めた。

「最後まで言え!」
「お互いの体の突き出た部分が当たっているのを、どうにかするためだよ」
「お互いの体の突き出た部分…?」

テマリはまだわかっていなかった。

ああ!! それを言えって言うのか!?

シカマルはもうヤケになっていた。

「つまり、アンタの胸と、オレの…股間だ」
「-----…」

テマリが目を大きく見開いて真っ赤になっていた。
ようやく気が付いたらしい。
再び起き上がって離れようとする。
だがシカマルが腰に回していた腕に更に力を込めた。

「おっと、女にこれ以上辛い目にあわせるわけにゃいかねーから、じっとしていなって」
「こっちの方が余計辛いっ!!」

それでも彼女を放そうとしなかったのは何故だろうか。

「オレはそうでもないぜ? 結構、心地いいし、いっそこのまま死んでもいいか…っても思えちまう」
「こんな時に冗談抜かすな」
「冗談なんかじゃねーぜ? オレはテキトーに忍者やって、テキトーに稼いで、
美人でもブスでもない女と結婚し、二人の子供が巣立ったら、
あとは日がなのんびり暮らして奥さんより先に老衰で死んでいくのが夢だからな」
「----じーさんみたいな考えだな。
おかしな奴だ。だったら、こんな所で死ぬのはまだ早いんじゃないか?」
「まぁ、そうだな。でも一つくらいなら、今すぐ叶えられそうだ」
「どれも無理だぞ?」

シカマルはフッと笑う。
テマリも、頭でも打ったかこいつ?…というような顔でシカマルを見上げようとするが、
自分の髪に彼の手が触れていることに気づくと、ビクッ!と驚いた。
彼の左手は自分の腰に添えられていたが、明らかに右手が自分の頭をなでていた。
優しく大事な物をいたわるかのように、愛しげに-----。

まさか……

テマリの胸は高鳴った。
シカマルの右手を通して、彼の心情が伝わってくる。

まさか……

「-----テマリ……」

切なそうに甘く囁くその低い声に、テマリの心臓も一気に跳ね上がった。
いつしかシカマルの骨ばった右手が、テマリの顎にかけられ上げさせられていた。
そして、少年のやや伏せた瞳が近づく。
----が、テマリパンチがシカマルの顔面にお見舞いされた。
ゴスッ! という鈍い音が響き渡る。

「つまり私は、美人でもブスでもない平々凡々女だとでも言うつもりか? ええ?」
「っつぅ〜…、いや、そうは言ってねぇけど…、結婚は合ってる…かもな」
「何だと!? 誰がお前なんかと結婚してやるものか!!」
「まぁ、今は全然頼りねーかもしんねーけど、いつかは上忍になってアンタに追いついて、
そして追い越してみせる。-----こんなオレじゃ、駄目か…?」

どうしたことか、真摯に向けられたその黒い双眸に、思わずクラッとテマリは眩暈を覚えてしまった。
まるでプロポーズとも受け取れるその言い方に……。
テマリはうつむき、シカマルと目を合わせようとしない。
その動作が、シカマルには拒絶しているかのように見え、絶望に近い感覚に襲われた。

「それじゃあ、まるで愛の告白だな」
「おいおい、それ以外、何に聞こえんだよ?」
「そうなのか?」
「あのなぁ〜」

意外に鈍感なテマリに、シカマルも呆れ返る。

「…だって、まだ私は聞いていない」
「今言ったじゃねーか」
「まだ言っていない言葉がある! それが一番重要なんだ!」
「……」

テマリの拳がギュッと強く握り締められる。
どうしてもその言葉が欲しいらしい。

-----ったく女ってめんどくせー…

それを言うのが恥ずかしく、ためらっているシカマルだったが、覚悟を決めた。

「ああ、そんなに聞きたいなら言ってやるよ。耳かっぽじってよ〜く聞け。
オレはお前が----す…」

テマリが息を飲んでその言葉を待っている。

「す…、す…、酢昆布食うか?」 

ゴゴスッッ!!

第二のテマリパンチは一回目に比べても威力を増していた。
顎が破壊されるかと思った。

「もういい!! お前は勝手にここで死ねっ!! 私だけは絶対脱出してみせる」

そして分身の術を使って、人を呼びに行くことにした…が。

「おい、無理だって。スタミナねーだろ」
「だったら、お前が行け! 最初にしようと思えばできたはずだ! 
何故しない?」
「そういうアンタだって同じだろう? 何故すぐやらなかった?」
「そ、それは…」
「実はアンタ、オレと二人きりになりたかったんだろう? 
ここって、アンタが作り出した場所なんじゃねーの?」
「な、何を言う!? うぬぼれるな!!」
「だって、考えてみりゃおかしいぜ? 
アンタ、さっきからじらしたりモーションかけているとしか--- オレを試しているのか?」
「ふん、先手を打ってこない方が悪い。
それにここは多分…、『密着してナンボ』という館だ。前に看板を見たことがある」

ふざけたそのネーミングの館が、何故こんな森の中にあるというのか。 
怪訝な顔でテマリを見る。

「つまり、カップルのためのテーマパークだよ。一体誰が作ったのか知らんが、
今は閉館している。だが、どうやらここの重力コントロールだけが作動しているらしいな。
全く迷惑な話だよ。でもまぁ、お陰でお前の意外な一面が見れて楽しかった」
「おいおい、オレは任務中だぞ?」
「仕方がないだろう! 落ちてきてしまったんだから! 
任務はお前の仲間がきっと解決してくれる!」
「まぁ、任務も大事だが、オレたちもピンチだからな」
「だったらはやく分身の術で誰か呼んで来い!」
「それもめんどくせーな。もうちょっとこのままでいようぜ。
何だかいつまでもこうしていたい気分だ…」
「…仕様がない奴だ。もうちょっとだけだぞ」

そして二人は、いつの間にか深いまどろみに包まれ、夢の中へと誘われて行った------。


 
ハッと目が覚めた時には、森の中にいた。
さっきの通気坑のような建物は、影も形もなかった。
幻術か夢でも見ていたのだろうか…?
しかし、彼女の柔らかくて温かい感触も居心地の良いひとときも、鮮明に覚えている。
夢なんかにはしたくなかった。
テマリが隣りで、微かに寝息を立てて眠っている。

「テマリ…」

彼女は起きない。

「テマリ、起きろ!」

無反応。

こいつ、寝起きが悪そうだな…。

ふと、将来テマリと結婚する男のことを思い、その男が哀れにさえ思えてくる。
その男とは勿論、自分以外に考えたくはなかったが。
何故だか起こすのもためらわれた。
起きた際、とてつもなく不機嫌そうな顔をする彼女の顔が浮かんでしまい…。

「起きろって!! 起きねーならキスしちまうぞ、眠り姫!!」

するとテマリがガバッと、勢い良く起きだした。

「…寝たふりか?」
「違う! 意識が戻ったら、お前が変なことを言って------あ…」

テマリが何かに気づく。
シカマルも背後に誰かがいるのに気が付いて、振り返る。
そこには、任務を終えたであろう仲間が、自分たちを探しにきていた。

「よぅ、お二人さん、仲のよろしいことで」

二人をニタニタ見下ろしている。

「ここでイチャついていたとは、いい度胸だなシカマル君?」
「いえ、そんなつもりじゃあなかったんすよ。ど、どうですカカシさんも…?」
「へぇ…。じゃ、お言葉に甘えて、オレもテマリさんとイチャつこうかな」
「それは駄目です!! これはオレのなんで」
「え…」

シカマルが即答すると、テマリを抱えて木の上に飛び去った。
お姫様抱っこである。

「ちょ、放せ!」
「暴れんなって。ちゃんと砂まで大事に運んでやるからよ、テマリ姫」
「ちょっとやだって!! ギブギブ!! ギブアップ!!」
「却下」
「誰かこいつを何とかしろっ!!」

テマリが叫ぶが、どう見てもイチャついているとしか見えない二人だったので、
救いの手を差し伸べることは、勿論するはずもなかった。

「あいつら、いつ結婚してもおかしくないな」
「先に子供ができちまったりして」
「ありえるかもな。なんつっても、妄想の中では既に子供が二人いるあのシカマルがベタボレなんだ」
「時間の問題だな」
「だな」



木ノ葉の忍と砂の忍、国が違えど惹かれ合ってしまえばそんなものは簡単に飛び越えられる。
空ではいつだって、雲と風が自由に絡まり合ってさえいる。
国なんてものは、磁石のように惹かれ合う男女の前では、障害の壁にもならない。
いつか、この二人もそれを難なく乗り越える日が来るだろう。


あの雲のように風のように。






〜Fin〜 














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