木ノ葉学園 (2)
先週、砂高校から転入してきたばかりの砂野我愛羅は、
番長の鳴門と熱き友情で結ばれたマブダチらしい。
それで今回、鳴門の呼びかけで急遽、
我愛羅・歓迎会がカラオケで開催されることになった。
しぶしぶ鹿丸も引きずられながら参加したが、
そこにあの金髪の少女もいることを認めると、
ブツブツ文句を言っていた口を閉ざす。
カラオケが始まった。
トップバッターはやはり鳴門だった。
既に大音量で、ヒップホップをノリノリでわめき散らしている。
つんざけるようなその声に、皆耳をふさいでいたが、
日向だけはうっとりし、頬を染めながら鳴門を見つめていた。
椅子には男女が交互になるように座っていたが、
我愛羅の隣りにはその姉・手毬がいて、
注文したドリンクをストローで吸っていた。
こうして並ぶと、似ていないと思っていた姉弟も、やはり似ていることがわかる。
歌は次々入れられ、皆それぞれ熱唱して世界に入り込んでいた。
女たちはそれぞれ流行の歌をそれなりに歌っていたし、
正直、特に上手くも下手でもないというところだった。
あの我愛羅でさえ演歌を渋く歌ったというのに、
歌っていないのはポテチを食べてばかりの蝶治と、
だるそうにしている鹿丸、それに手毬だけだった。
「手毬さんって、何歌うんですかぁ?」
桜がなかなか歌いだそうとしない彼女を促すように聞いてきた。
「いや、私は別に…」
「手毬はバンドのヴォーカルをしている。うまいのは当然だ」
「ええーっ!?」
我愛羅が腕を組みながら呟いた。
一同が驚き、一斉に手毬は注目された。
「歌って歌ってー!!」
「是非聴きたーい!! 何ていうバンドなんですかぁ?」
桜と亥野がキャッキャと騒ぎ立てる。
「“kirikiri-舞”だ。今度ライブがあるようだから皆の者は行け」
手毬の横で、我愛羅が命令口調で説明する。
手毬はうっすらと微笑んでいる。
いつのまにか、誰かがそのバンドの歌を転送していた。
聞き覚えのあるメロディーに今までどこか遠慮がちだった手毬は豹変し、
突然立ち上がったと思ったら、鳴門が握っていたマイクを奪って歌いだした。
バリバリのハードロックである。
誰もが口をポカンと開け、見入っていた。
「すげぇ…」
圧倒的な歌唱力と声量と声域。
普段の彼女からは想像もできないほどの、パワフルヴォイスが展開されている。
ゾクゾク来るようなその声に誰もがしびれていた。
鹿丸はあの時のピアノの音色を思い出す。
手毬が歌い終わると、拍手喝采と共に、女たちからため息が漏れる。
「凄い素敵です、手毬さん!! 絶対ライブ行きますね!!
…はい次、鹿丸、あんた歌いなさいよね」
亥野がマイクを手渡す。
鹿丸はため息をついて、仕方なく転送した。
「あんな凄い歌の後で、歌の苦手なオレに回すって心境がわかんねー」
ブツブツ呟いていると、やがて画面に映し出され、聞こえ出した歌声は…
「もしもー…ピアノがー…弾けーたーならー…」
場の空気が、一瞬で張り詰めて固まった。
意外な選曲に、誰もがプッと噴き出して笑いをこらえている。
曲自体というよりも、彼の音痴さというよりも、
棒読みでやる気のないその歌声に。
鳴門は、
「お前ってば、お前ってばよー…」
そこまで言うと、ガハハと笑って足をばたつかせていた。
それでも鹿丸は途中で止めようとはせず、最後まで歌い切った。
無表情な我愛羅でさえ、笑いをこらえて引きつっていたというのに、
一人笑わずにいた手毬は、そんな彼に釘付けだった。
「ほらよ蝶治、歌ってないのはお前だけだ」
何故その曲を歌ったのかは自分でもわからなかった。
ただ何となく、今歌いたかった曲がそれだっただけ。
鹿丸は、ポテチをバリバリとほおばる親友にマイクを持つ手を伸ばした。
「えー、ボクはいいよ…」
と嫌そうな顔を作ったその時、
バーン!!
と、部屋の扉が勢いよく開けられ、
ガラの悪い学生服をだらしなく着込んだ不良共が入ってきた。
余りにも突然のことで、一同は驚いてその場に立ち上がった。
「お前ら!?」
知っている顔なのか、鳴門がグッと拳を握っていた。
そしてポケットに右手を突っ込むと、ヨーヨーを取り出した。
鳴門の得意技はヨーヨーで敵をやっつけることだった。
「おらおら!! 誰に断ってオレたちの島で下手くそな歌を歌いやがってんだ、
ゴルァーッ!?」
5、6人の他校の不良グループが、ニヤニヤしながら狭い室内に入ってくる。
女たちは不安げな顔で、固まって隅に集まっていた。
「おい亥野、女たちを連れて今すぐ出ろ。何だかやべーぜ」
鹿丸が亥野の耳元でそっと囁きかける。
亥野はうなずき、桜と日向にも伝えた。
「ここは男たちに任せて、私たちはずらかりましょう。手毬さんもはやく!」
そう言って部屋を出て行こうとするが、
一箇所しかない扉は、不良たちが立ちはだかっているので出れそうにない。
「ちょっと! 女子はいいでしょ! そこ通してよ!」
桜がガンを飛ばす。巨体の男がニヤッと笑うと、
「そこの色っぽい金髪の女だけ残して、あとはとっとと行けや」
それは手毬のことだった。
鹿丸が「チッ」と舌打ちした。
「私のことなら大丈夫だから、さっさと行って」
「おっと、警察なんか呼ぶんじゃねーぞ。
そんなことしたら、この女がどうなっても知らねーぞ」
青ざめながら、女たちは出て行った。
しばらくすると、暴れる男たちの声や振動が室外にいても聞こえてきた。
女三人は、トイレに駆け込んで話し合っていた。
「大丈夫かな…?」
「あいつら、ああ見えても結構強いから大丈夫よ」
「手毬さん、無事だといいけど…」
心配になって、そっとトイレから顔を出し、乱闘騒ぎの部屋の方を眺めると、
黒髪の男が走って部屋に入っていった。
「あれって、佐助君じゃない!?」
「え、うそーっっ!? 何でここにいるのー!?」
ほとんど学校に来たことのない佐助が助太刀に出ていた。
案の定、入った途端に不良共が、「覚えてろー!」と叫んで次々出て行った。
「ウスラトンカチ、大丈夫か?」
佐助が、床に仰向けに倒れている鳴門に手を差し伸べる。
「佐助…何で…?」
「たまたまオレも仲間とカラオケに来てただけだ。
それでたまたまお前たちが騒いでいるのを聞きつけたまでだ。じゃあな」
鳴門の手を引っ張り立ち上がらせると、再び出て行こうとした。
そして、壁際に呆然と立ち尽くす手毬の横を去ろうとする時、
「あんたも怪我はないようだな」
「……」
手毬の顎に手をかけ彼女の顔を上げさせ、怪我をしていないことを認めると、
そのまま彼は出て行った。
椅子にもたれながら、鹿丸はハァーッと息をつく。
「ったく、相変わらずキザなヤローだぜ」
「あいつ…佐助って言うのか? なかなかのイケメンだな」
手毬が去って行った男の方を見て呟く。
心なしか、ほんのり顔に赤みがかかっていた。
鹿丸は思わず眉をひそめた。
数日後の夜、ライブハウスに一同は集まっていた。
相変わらず鹿丸は面倒臭そうに、亥野に引きずられながらやって来ていた。
しかし内心は、興味津々でもあった。
彼女の細い体から生まれる、迫力あるステージが見たいと。
kirikiri-舞の出番は、一番最後だった。
それまで数組のバンドがいるのだが、鹿丸と蝶治をのぞいてノリノリに聴いていた。
鹿丸は後ろのバーでウーロン茶を口にし、
蝶治はこっそり持ち込んだポテチをやはり口に放り込んでいた。
さすがの鹿丸も、欠伸はするものの、この大音量の中では眠ろうにも眠れないだろう。
時間は過ぎ、ようやく手毬たちの出番がやってきた。
すると、「キャーッ!!」という黄色い声援があちこちで発された。
大人気らしい。
男が3人と、最後に金髪の紅一点の手毬が出てくると、益々黄色い声援が大きくなった。
どうやら、今日ここにいる客の大半は、手毬が目当てらしい。
そして、もう一人、隣りにいるギターの背の高い見知らぬ男。
二人は時々目を合わせていた。
もうちょっとつづく。
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「もしもピアノが弾けたなら」と、カラオケでの不良との喧嘩沙汰は、
実話をモチーフにしております・・・(するなよ)。
その時そこにいた友人Mは、18才で妊婦さん(しかも数日後に出産)だったんですが、
男たちが喧嘩をおっ始めたので、慌ててトイレに駆け込みました。
怖かったー。
「もしもピアノが・・・」は、ピアノを弾く私に歌ってくれてたらしいんですけど、
正直寒かった(笑)。
周りは「羨ましいー」とかほざくんですが、個人的には却下だった・・・。
だって、寒い念!!
でも結局、そいつと付き合うことになりましたが・・・って、ノロケか!
・・・●年前の個人的な、甘いような甘くないような(?)お話でした。
今回メンバー総出なので、余りシカテマの場面がない。
次回はきっと、ちょっとは甘い・・・はず!!
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