シカテマ疾風伝<外伝>(30/49)縦書き表示RDF


シカテマ疾風伝<外伝>
作:スピリットQ



スターライト・キャッチャー


久しぶりに木ノ葉に来ると、いつもと違う里の雰囲気にテマリは少し戸惑った。
どこがどうとはハッキリしないが、何かがいつもと違う奇妙な気の流れを確かに感じる。
それを気に留めながら受付を済ませると、何かあったのかと受付の男に尋ねてみた。

「----自来也様が亡くなられたのです……」

聞けば、伝説の三忍と呼ばれた内の一人が暗号を遺し亡くなったようで、
一見、街を行き交う人々はいつもと変わらぬ日常を過ごしているように見受けられるが、
里全体から悲しみが滲み出ているのを、到着したばかりのテマリにもひしひしと感じられた。

自来也----

その名を噂には聞いたことがあったが、よくは知らない。
あのナルトの師でもあったというのだから、彼の落ち込みようもきっと計り知れないものだろう。

テマリはため息をつくと、案内人が現れることを今か今かと待ちわびる。
そして、ようやく現れた姿があいつではないことに拍子抜けした。

「アンタ、砂の使者さんだろ? テマリ……さん、だっけ?」


巨大な白い犬に乗った男が颯爽と降り、テマリの前に着地した。

「……ああ」

----でかい……。

後ろに一歩下がって顔を引きつらせる。

「オレは犬塚キバだ。今日、アンタの案内役を急遽任せられた。
悪いな、急に頼まれたもんだから遅れちまった。
砂の三姉弟のことは、今まで何度か見かけて来たが、面前で自己紹介するのは初めてだよな」

キバは淡々と話を弾ませて来るが、テマリが聞きたいのは別のこと。

「あいつは?」
「あいつ?」
「いつもの案内人だよ。何かとめんどくさがり屋な……」
「ああ、シカマルか。あいつは今、暗号解読の件で忙しいんじゃねーの? 
だから、たまたま暇だったオレが代理を頼まれたってわけ。な、赤丸」
「バウッ!」

赤丸と呼ばれたありえないほど体の大きな犬の顔をなでながら、頬に赤いペイントを施したキバは言う。

----そうか、そういうことなら仕方がないな……。

「頼もしいじゃないか。あいつも頼りにされてるんだな」

テマリは喜んだ。
喜ぶと同時に、どこか寂しそうな顔をしていたことをキバは見逃さない。

キバは赤丸を先に帰させ、テマリと並んで徒歩で案内することにした。
かつてシカマルがそうしていたように。


比較的、愛想も人付き合いもいい、次から次へと話を進めるキバのお陰で、火影の元へ着くまでの間、
退屈することなくテマリは時間を過ごせた。
自分の隣りで屈託なく話すこの少年は、シカマルと年も同じで背も変わらない。
けれど、何かが違っていた。

----別人なんだから違って当然じゃないか。

テマリはフッと笑みをこぼす。


「----というわけなんだがアンタはどう思う? …って、おーい、聞いてるかー?」
「……は?」

間を開けて、テマリが聞き返す。

「……ああ、悪い。聞いてなかった。何の話だっけ?」
「はぁ〜? 勘弁してくれよ。オレさっきからずっと同じ話してたぜ?」
「さっきから? ああ、犬の話か。悪い、途中から別のこと考えてた」

シカマルといる時には、一度だってそんなことはなかった。
つまり本当のところは、退屈だという意味なのだろう。
延々と、犬のしつけやら犬の種類やら犬の好物やらを一方的に話されても困る。
そう言いたかったが、さすがに初めて案内してくれた相手にそれを言うのは、
はばかれ遠慮したのだ。

----犬バカとはまさにこいつのことを言うんだな。しかしまぁ、色んな人間がいるものだ。

内心だけにとどめておいて、テマリはそれを口にすることはなかった。
犬と共に在る一族だから当たり前なのだろうが、そういえばあいつは影の他にも鹿を操る一族だったなと、
改めて思い返してみるテマリだった。



                       *



火影室へと続く廊下を歩いていると、一室の扉が開いて誰かが出てきた。
そこは、暗号部と書かれてある部屋だった。
ドアノブに手をかけたままのシカマルの目は、点になっている。

「……何だ、来てたのか」

一言、呟く。
見慣れた木ノ葉の忍と、ここでようやく対面が叶ったテマリは、その奥に女がいることに気が付いた。
他には誰もいない様子。

----二人きりか……。

「ああ」

メガネをかけた彼女の方を一瞥して、テマリも短く返事をする。

「わりぃ、迎えに行ってやれなかったな」
「お前は忙しいんだろ。気にするな。引き続き、その子と一緒に仕事に励んでくれ」
「今は休憩時間だ」
「だったら、その子と一緒に休めばいい」
「シホはまだ仕事をするんだとよ」

----シホ……。

何かがズキンとテマリの胸に突き刺さった。

「ったく、綱手様も人が悪いぜ。来るなら来るって、一言教えてくれりゃ良かったのに」

シカマルは未だ、迎えに行けなかったことを責任を感じて悔やんでいるようだった。
だから、テマリは言う。

「お前は忙しいんだ。気にするな」
「そうそう、優秀なシカマル君は、そっちの仕事に専念したまえ。砂の使者さんはオレに任せて……」

そう言ってキバがテマリの背中を押しやると、二人は共にシカマルの前から遠ざかって行く。
テマリがシカマルの方を振り向こうとするが、キバの強引な押しでさえぎられてしまった。

「……何だあいつ」

残されたシカマルは眉を寄せて、二人の後ろ姿が見えなくなるまで立ち尽くしていた。




夕方----

砂の使者は、今夜は一泊し、明朝出立するらしい……
そう聞いたシカマルは、暗号部にいながらも窓の外や時計を気にしてどこか落ち着きがない。

「何か用事でもあるんですか?」

分厚い眼鏡越しに、何故か不安そうにシホが訊き出す。

「……いや、何もねぇ…」

しかし、彼の視線はどこか遠くを見つめていた。
途端に、シホのメガネが光った。

「隠してもムダですよ。私にはわかります。……ぶっちゃけ、デートですね?」
「そんなんじゃねーよ」

しかしシカマルは、何だかこの場を離れたがっている。

「…なぁ、オレ、先に帰ってもいいか? 悪いけどよ」

何かが落ち着かない。
テマリが一人ならまだしも、今回はキバがいる。
二人でいれば心配する必要もないと思うのだが、そのせいで落ち着かないのは何故なのか。

「は…、はい……。お疲れ…様でした……」

走って出て行ったシカマルの立ち位置をいつまでも見つめ、つまらなそうにシホはため息をつく。
そして、暗号部にいるだけあって、彼女の勘は鋭かった。

「----やっぱり好きな人いたんだ、シカマルさん……」



                       *



テマリの宿泊先を聞き出しそこへ向かうも、まだ外出中との情報を宿の主人に聞かされ、
シカマルは繁華街を探し回る。
何故こんなにも焦るのか、自分は一体何をやっているのか、自問自答しながらも結局はどうだっていいと思っていた。
その理由や答えをシカマルは求めてはいなかった。
ただ、あいつが今誰といるかが問題であって、
近くにいるのに近くにいない自分へのもどかしさが無性に腹立たしくて----…

いた。

テマリが道の隅に突っ立って、何かを見ている。
勿論、キバも一緒だった。
そこは、テマリの好きな甘味処ではない、キバがよく行くペットショップの前だった。

「よぉ、シカマルじゃねーか。解読は終わったのか?」

子犬を目の前にして、シカマルの匂いに気づいた彼が数メートル先のシカマルに向かって言う。

「……? 何、息荒くしてんだ? 走って来たのか?」

キョトンとするキバ。
その横に立って子犬とキバを眺めていたテマリは、突如現れたシカマルを黙って見据えている。

----この数ヶ月、しばらく会わない間に、また一段と綺麗になったな……。

シカマルは素直にそう思った。
だが、距離が広がったように感じるのは気のせいだろうか。
ずっと会っていない、それだけの理由だけではないことを、シカマルは心のどこかに感じていた。

「飯は食ったのか?」
「宿に準備されてあるそうだ」

シカマルの問いにキバが応える。

「これから宿へ送るところか?」
「ああ」
「じゃ、オレも付いて行く」

「……何で?」

キバもテマリも怪訝な顔でシカマルを見つめる。
案内役は二人も要らないだろうと、口にしなくても顔にそう書いてあるキバに対し、
後頭部に手を置きながらシカマルは説明する。

「ま、つまりあれだ、見張り。送り狼にならねぇように----」
「!!」
「----この人が……」

シカマルの人差し指がテマリに向けられる。

「何だと!? 何で私が襲うんだ!!」

目を吊り上げた彼女の片腕が同時に上がって振り落とされるが、
シカマルはヒョイッと余裕でよけた。





「狼と言えばさ……」

相も変わらず犬系の話題を使者に振るキバを眺めながら、だるそうなシカマルが後ろから付いて来る。
一応今回の案内人はキバなのだから、一歩下がって彼に一目置いて任せるつもりでいた。
しかし、ポケットに両手を入れて眠たげに欠伸をしているが、後ろからのその視線はどこかきつい。
そんなシカマルに、悪戯心がうごめき出したキバはニタッと微笑んだ。

「何かいい香りがするな」

キバは鼻をひくつかせ、匂いの在りかを辿る。
そして、テマリの首筋に鼻を近づけると、

「----ここか」
「!!」

テマリは驚くが、シカマルが咄嗟に駆け寄り、テマリの腕を掴んで自分の背後へ彼女を隠した。
睨むシカマル。

「じょ…、冗談だって。……いや、本当のことなんだけど」

それなのに当のテマリは、意外に冷静だった。

「さっきから何ピリピリしてる? 仕事疲れか? 早く帰って寝ればいいものを」

逆にテマリは呆れていた。

「そんなんじゃねーよ」

子供は早く帰って寝ろ----
そんな遠まわしな子供扱いにも聞こえ、更にムッとしたシカマルは口を尖らせる。
そして、年上の使者のしなやかな腕を掴んだまま、シカマルは歩き出した。

「あ、おい、ちょっと!」

取り残されたキバが叫んでいる。

「----この人はオレが送る」

振り返ったシカマルは、まるで奪い返すかのようにテマリの腕を引いて、スタスタと宿の方へ向かい始めた。

「ちょっ…、 じゃ、じゃあなキバ! ----何でそんなに急いで歩くんだっ!?」

何度も足がもつれそうになるテマリが、隣りの男に苦情を漏らしているのが離れても聞こえている。
ニタニタ顔を歪ませるキバは、両手を腰に当て肩で深呼吸をしてからそっと呟いた。

「ヤレヤレ。本命は譲れねぇってか」

----尻に敷かれそうだけどな。

ククッと想像して笑い、さっきの子犬をもう一度見る為ペットショップへ行ってみようと思い立った矢先、
白い大きな影がキバの目の前に現れた。

「あんまり遅いんで、心配になって迎えに来てくれたのか、赤丸?」
「バウバウッ!!」
「オレにはやっぱりお前しかいねぇな」

赤丸を撫でてから大きな背にヒョイッと飛び乗ると、彼らはそこから消え去った。



                       *



宿はすぐそこだというのに、シカマルの歩調はどんどん遅くなり、途中、何故か横道にそれ出した。
そこは全く人気のない、薄暗い狭い小道。

「これでやっといつも通りだ」

----何がいつも通りだと言うのか……。

テマリは背を向けたまま立ち止まった目の前の男に、不審な目を送る。

「つまり、私と二人きりになりたかったってことか?」

テマリの口の端が上がる。
冗談でわざと言ってみただけのことだったが、シカマルもその口車に便乗してきた。

「そうだ。アンタと色々話をしたくてな」

シカマルが振り返り、影と同色の瞳が真摯にテマリの草原の瞳とシンクロする。

「砂は、目下のところ平和だ。木ノ葉は……大変なことになっているようだな」
「まぁ…な。でもオレが今話したいのは、そういうことじゃない」
「じゃあ何だ? 挑戦状でも叩きつけるつもりか?」

シカマルは無言になる。

「上忍になれたのか?」
「いや。……つか、そういうことでもねーよ」

言い出そうとしても、やはりその先が出てこない。
その後は、ため息ばかりが口を出る。

「用がないならもう宿に入るぞ。お前もだいぶお疲れのようだ」
「だからそうじゃねぇって何度言ったら……」

----オレも中に入っていいか?

そんなことは口が裂けたって言えやしない。
きっと半殺しの刑だ。
今夜は帰りたくなかった。
離れたくなかった。
シカマルは夜空を仰ぎ見るが、真っ暗な闇と雲に覆われていて星一つ見えない。

オレは一体何がしたいんだ?
自問自答する。
理由さえハッキリ見出せないのに、身体だけは動いてここまで来てしまった。

----一緒にいられればそれでいい……

そう言いたくても、言えそうにもない。
こんなに臆病で不器用な自分は、滅多に感じたことがない。
思わず自分を嘲り笑った。
だから----

「もう少し…、このまま空を見上げていようぜ」

そう言うのが精一杯。

「何も見えないぞ?」

もっともな意見。

「星の光を発見することができたら、退散することにしよう」
「……おかしな奴だな」

それから僅かな雲間から顔を覗かせる星は、見当たらなかった。
このまま沈黙続きの中で二人でいられるのも不思議なくらい居心地が良かったが、
やがて見上げて必死に目を凝らしていたテマリがシカマルの手に触れ、叫んで口にした。

「あ! あれじゃないか? ホラ! あそこ!」

目を輝かせながら触れた手を離そうとするテマリの指を、シカマルが掴み取って軽く握った。
テマリは繋がれた手に視線を落とす。

「どこだよ……? オレには全然見えねー……」

----アンタ以外は……。

テマリの手を離さなかった。
それどころか、その手を自分の方へ引っ張るとシカマルは、
彼女の首筋にそっと唇を近づけ----押し付けた。

「!! 何をっ…!?」
「さっきキバが言ったことが、本当なのか確かめてみたくて」

匂いを嗅ぐふりをして、その白くも細い滑らかな柔肌に彼の唇は吸い寄せられていった。
唇を押し付けずにはいられなかった。
顔を紅潮させたテマリは、バッと首を片手で押さえている。
真っ赤になってシカマルに睨みを利かせるが、

「アンタ綺麗になったよな」
「え……?」
「いい夢見ろよ。じゃあな!」

彼は満足そうに笑い、両腕を頭の後ろで組んで歩き出した。 

「なん…なんだ……?」


いつもと違っていたのは、木ノ葉の里だけではなかった。
シカマル自身も、以前とはどこか違うような気がする。
元々、年の割に落ち着き過ぎていて、妙に大人びてはいるが、強引になった。
けれどそれは、決してイヤではない強引さ。
むしろ、もっとして欲しいような……。

テマリはもう一度確かめる為、自分の首にそっと手を添える。
あいつが突如落としていった温もりに。

首筋が熱い------




明日の早朝、再びテマリを見送りしようと、さっさと帰って早めに床に就くことに決めたシカマルは、
道を歩きながらふと足を止めた。
雲間から見えた僅かな星の瞬きを見つけ、その先に右手を伸ばす。

「いつかは掴まえてみせる」

----お前の全てを……

それまで自分はもっと頑張らねばならない。

「めんどくせーのは苦手だが、これは不思議とそうは思えねぇな」

一瞬、星がテマリの笑顔と重なって見えた。
シカマルはかざしていた手の平をギュッと力強く握り締めると、宙で彼女を掴みかけた気がした。

「きっとすぐだから覚悟しとけよ」





    〜 He can grab it? 〜



--------------------------------------------------------------------------------


『 宣戦布告のシャドウ 』 の兄弟編ですが、続きではなく別物です。 
                ↑「オレとアニキのよ〜♪」兄弟船(笑)。
前回がテマリの影を掴んだのなら、今回はテマリの星を掴まえさせてみました(笑)。
UFOキャッチャーならぬテマリキャッチャーもといスターライト(星の光)キャッチャー。
特別出演のキバさんは、七夕が誕生日ということもあり友情出演で・・・
というわけでもなかったんですが。たまたまです。

やっぱりシカさんの想いの方が強く出てしまう。
テマさんも少しずつ・・・?
お互い惹かれ合っているとは思うのですが、認めたがらないっつーか何つーか。













ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう