呵責の炎 〜炎の愛〜
久しぶりに木ノ葉へ来てみると、案内役が替わっていた。
初めて見る顔だった。
あいつよりは年上だろうか。
もしかすると私よりも年上だろうか。
背がスラリと高く、優しげな瞳が私に向けられていた。
自己紹介の後、たわいもない世間話をしながら、私とその男が繁華街を歩く。
後ろから走ってきた子供から身を守ろうと、手を引かれる自然な動き。
さりげないその行動が、やけに大人に見えた。
どこか少年っぽさの残るアイツとは違う…。
恋人にするなら、断然こういう大人の男だ。
勿論、上忍以上で性格も良く、容姿もいいに越したことはないのだが。
だから、あいつは問題外…のはずだ。
だけど、たった三日間の滞在がこんなに辛いものだとは思ってもみなかった。
街で知らない女と歩くあいつを見かけた。
仕事中だと言われ、面会謝絶もされた。
すれ違っても、目を合わせるどころか他人行儀に頭を軽く下げられた。
私のイライラは募る一方だ。
それなのに、どうしようもなく気持ちが沈んでしまうのはどうしてなんだろう……。
好物の甘い物を食べても美味しくない。
楽しい話を聞かされても腹の底から笑えない。
「どうしたんだい? 元気ないみたいだけど…、疲れちゃった?」
案内役の男が、うつむく私の顔を覗きこんで心配してくれる。
私は無理に笑って、
「いや、そんなことはない…とは思うけれど…、少し休もうかな」
公園のベンチが目に入って、そこへと足を進ませる。
「女の子が一人で三日もかけて来るなんて、幾ら忍と言えど酷な話だよ」
ベンチにほぼ同時に腰を降ろすと、男は私の肩をそっと抱き寄せてきた。
「遠慮しないでお休み。君は疲れてるんだよ」
男の肩にもたれかかると、緊張するどころか何故か安心して、
そのまま私は眠ってしまった…。
だから、その現場をあいつが偶然にも見てしまったなんてことは、
私が知るはずもなかった-----。
すれ違いがてら、あいつはやはり他人行儀に頭を下げ平然とした顔つきで、
私の横をただ黙って通り過ぎて行った。
私は文句を言わなかった。
元はと言えば、前回、自分があんな酷いことを言って傷付けたのだから、嫌われて当然だった。
亀裂が入って当然のことを自分はしてしまったのだから…。
だけど、そう思った瞬間、落ち込んでしまう自分がいた。
こんな風に避けられてしまうなんて、思いも寄らなかったことだ。
だけど、そもそもこんな風になったのも、あいつが変な真似をしてきたからであって-----…。
「元気ねぇじゃねーか。らしくねぇぜ?」
振り向きかけたその時、背後から顎に手をかけられ、あいつに上を向かせられた。
カッとなった私は、その手を払いのける。
「それでこそアンタだ」
ニッと笑って、あいつが再び後ろを向いて歩き始めた。
そうしてどんどん離れて行く。
「あ、ちょっと……」
----待ってよ……。
もう行ってしまうのか? 私を置いて…?
寂しかった。悲しかった。
木ノ葉に来てから、今回はまだ楽しい時間なんて過ごしていない。
任務とは言え、仕事ばかりが人生じゃない。
三日もかけて訪ねて来たんだぞ。
私だって少しくらい楽しむ余裕があっていいはずだ。
なのに、お前はそんなに素っ気無い態度で私を突き放すのか。
「誰だよ!? 友情なんかの枠組みにはめておくことはできなくなった、なんてほざいたバカは!?」
「----オレだよ」
「!?」
振り返ると、今さっき目の前を歩いて行ったはずのあいつが立っていた。
仏頂面なその顔で。
「ありゃ影分身だ。----アンタ…泣いてんのか?」
いつの間にか溢れていた涙を、私は焦って手で拭う。
「泣いてないっ! 目にゴミが入っただけだ!」
下を向いたまま、私は懸命に言い訳をする。
だけどあいつは嘆息すると、自分に正直に言ったのだろう。
「ったく、あきらめるつもりでわざと距離を置いていたというのに。これじゃ水の泡だ。
だけどオレの方ももう限界だった。アンタ、あいつといい雰囲気だったな」
「あいつ…? ああ、案内役の彼か。お前よりはずっと大人だ」
「悪かったな、ガキで」
普段は大人びていても、少年のようなどこか子供っぽいムッとした顔が向けられる。
----ヤバイ…、これでは以前の二の舞だ…。
だけど、いつもはガキっぽいと感じていたその表情も、何故か今はとても新鮮で、
愛しくさえ思えてしまう自分に驚きを隠せなかったのも事実だ。
「だったらこれから先もずっと、あいつと仲良くやればいい。
オレが案内役をすることは、もうないだろうからな」
私の目が見開かれる。
刹那に、心の中にポッカリと大きな穴が開いた心境に陥った。
しばし無言のまま、私は片言の言葉でその場を乗り越えようとした。
「そ…うなのか……」
うわずく声は震えて、明らかに残念がっている様子が自分でも窺える。
それを察したのかどうかはわからなかったが、あいつが再び私の顎に、頬に、指を触れてきた。
「アンタ…、変な真似をしたら二度と会わないって、そう言ったよな?」
まっすぐ見つめられ、私の鼓動が高鳴る。
「あ、ああ……」
「アンタの気持ちがオレにないってのは、充分わかってるよ」
「……」
「二度と会わなくてもいい。だからせめて今は…、オレの望みを叶えさせて----」
「え……」
あいつの唇がそっと近づく。
「これであきらめられる…きっとあきらめるから……」
----あきらめる……?
胸が締め付けられた。
バッチ-----ン!!
気づいた時には、あいつをひっぱたいてしまっていた。
あいつは呆然と突っ立っている。
無理もない。
けれど、既に私はもうそこから走り出してしまっていた。
あいつからまた逃げ出してしまったのだ、私は……。
結局あの後、私はあいつと顔を合わせることがないまま、砂へ帰って来てしまっていた。
無論、向こうからは何の音沙汰もない。
----酷い女だ、私って奴は……。
これじゃ、どっちが子供なのかわからない。
「----こんなにも臆病だったのか。恋をすると自分は……」
え?
今、何て言った?
そんなことは天地がひっくり返ったって、あり得ない話ではないか。
でもあいつが他の女と楽しそうにしている光景を思い出すと、嫉妬に胸が苦しんだのは確かだった。
いつか自分にしたように、後ろから抱きしめられ囁かれ、
耳を優しく噛むようなことを誰かにしたとしたら、とても悲しくなる。
そう考えると、涙がまたにじんできてしまっていた。
こんな自分は初めてだった。
切なくてどうにもならなくて、わけがわからない。
「嫌いだ! 大嫌いだ!」
----こんな勝手な自分は……。
数ヵ月後、私は再び合同中忍試験の打ち合わせの為、木ノ葉へ赴くこととなった。
思えば、あいつと出会ったのも中忍試験の時だ。
----あの時も、今と同じようなめんどくさそうな顔をして立っていたな。
「お前…、案内役はもうすることはないって、この前言ってなかったか?」
門のそばで待ち構えるあいつに向かって、会った早々皮肉ってやる。
「…代わってもらったんだよ」
その後、つつがなく平和に打ち合わせも終え、いつものようにあいつと並んで街の中を歩いて行く。
もうすぐこの度の私の任務も終わる。
前回のように、ぎこちないまま別れるのことのないよう、今回は穏やかに帰ろう。
そう思っていた矢先、誰もいなくなった場所に差し掛かった時、ようやくあいつの熱い視線に私は気づいた。
目を合わせないよう、気づかないよう、私は急いで大門へと早歩きを始める。
「待てよ。そんなに急いじゃ危ないだろ」
腕を引かれた。
「お、お、お前のそばにいる方が危険だっ!」
目を合わせたら最後、何故かそんな気がした。
「これ以上おかしなことになる前に、もう会わない方がいい! 抑制をかけるべきだ」
「そんなもんに抑制なんかかけられっかよ。益々オレが苦しむだけだ」
「勝手に苦しんでろ!」
掴まれた腕に、グッとあいつの力がこもる。
「忍は恋しちゃいけねぇのかよ? 里が違うからか? アンタが年上だからか? オレがまだ中忍だからか?」
「奈良……」
「シカマルだ」
「シカマル…、腕を放せ」
「イヤだと言ったら? 放しちまったら、どうせいつかのように、また走っていなくなるんだろ?」
「シカマル…、私はお前や自分を…、誰をも傷付けたくはない。だからもう忘れろ。
私もお前のそういう気持ちはなかったことにしといてやる」
「……できっかよ。口で言うほど、そう簡単にあきらめることなん-----」
それ以上言わせないよう、私はあいつの唇を自分の唇でふさいでやった。
軽く…触れる程度だった。
----私もこれで忘れられる、きっと……。
そう思っていた。
だけど……、
「!?」
あいつが強く唇を押し付け、それだけでなく、口の中に舌までをも入れてきた。
「んん----っ!!」
もがいて離れようとするも、あいつの腕がそうさせてくれない。
頭を固定され、背中に腕を回され、強く抱かれた状態で……。
それは、とろけるような熱くも激しい濃厚な、キス------
ようやく放された時には、私の頬や身体は上気していて、まともに立っていられなくなっていた。
それでもあいつは、後悔も反省もしていない顔で、私を熱っぽいまなざしで見つめている。
だから私も怒るどころか、あいつの目を見つめたまま……、
「このままどこかへ行ってしまおうか…? 誰にも邪魔されない静かな場所へ……」
きっとあの時、私はどうかしていた。
いや、本当の素直な自分の気持ちが現れたに過ぎないのかもしれない。
あいつも、信じられないとでも言いたそうな目をしていたけれど、
返事を聞くまでもなく、グイッと手を引かれ、気づいたら一緒に駆け出していた。
そして、森の茂みの中で、私はあいつと激しく求め合い、
炎の愛に身を焦がしたのだった。
----このまま堕ちていくのもいいかもしれない……
そんなことを思いながら。
--------------------------------------------------------------------------------
長い・・・。やっぱりどこか内容が似てきちゃうんだよなぁ。
まぁ、『That's the limit』の姉妹編ということで。
<第二部>(8)あたりにも似てるかな?
最後は、駆け落ち(一歩寸前?)ですか。
やっぱりコテイズや暗部が、こっそりどこかで見ている気が・・・。ムフ
シカテマ観察日記。ムフ
|