ハイスクール☆フェスティボー
学園祭が近づき、嬉し恥かしフォークダンスの練習を、
体育の授業を使って、この日も生徒たちが練習していた。
「だりぃ……」
お互いの手を握りながら、シカマルの眠そうな顔にいのが呆れ返る。
「相変わらずやる気ないわねー」
オクラホマミクサー。
女子の斜め後方に男子が立ち、男の左手に女の左手を乗せ、
反らせた女の右手を男の右手が掴む、いわば女をリードする体勢でのダンス。
眠くなりそうなのどかな音楽に合わせてゆったり踊るせいからなのか、
シカマルの眠気もピークに達していた。
踊りながら、大きな欠伸が漏れる。
「ちょっと、幾ら何でもこんな時に寝ないでよー?」
「全くやる気起きねぇ……何だってこんなの踊る必要があるんだ?」
「やだぁ、定番じゃない。これがなければ学園祭じゃないわー」
「そういうもんかね」
「そういうもんよ。早くサスケ君と踊りたいわぁ〜」
そう言いながら、いのを右手で回転させ向き合うと、次の女と交代した。
学園祭当日。
シカマルが個人的にも一番面倒臭いと思っていたフォークダンスが始まった。
練習でしたように、各クラスごとに整列して大円を描いて回るのかと思いきや、
学年合同で行われるというアナウンスが流れ、誰もが驚きに発狂した。
土壇場でのサプライズである。
「どうしようどうしよう、憧れの先輩と手を繋ぐことになったら!」
「ええー! 超キモイあの後輩と踊んなきゃいけなくなったら、あたし死ぬ!」
思うこともそれぞれのようである。
シカマルは、自分が誘導された位置で、
ふと知っている先輩がすぐ近くにいることに気づいて彼女の方を見た。
気の強そうな目力のある緑色の目、
これまた性格が表れているかのような豪快に四本に結ばれた金髪。
三年の中でもおっかないと評判の優等生、砂野テマリだ。
中学の頃から彼女を知っているシカマルは知っていた。
彼女の笑顔が最高なことを……。
あともう少しでテマリと踊れることに、
あと一人…あと一人と彼女が近づいてくる度毎に、
自分の気持ちが落ち着かなくなり出していることに、正直戸惑いを感じていた。
他の女と踊りながらも、気持ちは既にテマリの方へ向いていた。
残すところ、あと一人となったその時…、
誰かがテマリの肩を叩くと、テマリはその場から離れてしまった。
そしてそのポジションに突然現れた女が入り込む。
おかげでシカマルはその女と踊る羽目になってしまった。
テマリは、自分のクラスで出したクレープとにらめっこをしていた。
腕組みをする彼女の目に映っているのは、大量に山積みされた自分が焼いたクレープ。
これをどう始末しようかと悩んでいる。
「テマリー、先帰ってるわよー」
クラスメイトが手を振って帰って行く。
最後の後片付けは、学級委員長でもある自分一人が引き受けた。
「はぁ…、捨てるのも勿体無いし、持って帰るとするか……ん?」
教室の出入り口で、誰かの影が伸びていることにテマリは気づく。
彼を知っていた。
一年でも有名なやる気のない天才児、奈良シカマルであることを。
「おお、奈良シカマル、何か用か…?」
何故彼がそんな所に立っているのだろうか?
テマリはキョトンとした顔で後輩の顔を見る。
「----先輩、オレ、楽しみにしてたんすよ。あと一人だったってのに……」
「はぁ?」
「何故急に抜け出したりしたんすか?」
それを聞いたテマリは、ああ、ダンスのことかと理解する。
「何故ってこれ作るためだよ。仕方ないだろう、交代の時間が来たんだから……って、
私と踊るのが楽しみだったって本気か?」
教室に入ってきたシカマルは、それには応えずテマリと向き合うと、
黙ってクレープを一枚つまんで口に放り投げた。
「----うっ…!」
口を押さえて悶絶するシカマルに、テマリの怪訝な顔が向けられる。
「どうやったらこんな激マズ----いや、先輩…、料理作んないだろ?」
「生意気な奴だな! 罰としてこれ半分食え!」
クレープ塔を指差して、無理矢理押し付けられる。
しかしシカマルは、まずそうな顔をしながらも、次々売れ残ったクレープを食べていく。
チョコレートやクリームなど何一つ付けずに。
「でも、噛めば案外いけるかもな」
舌が慣れてきたせいか、彼の味覚感覚も失われつつあった。
テマリも呆れて呆然と眺めている。
自分が料理を余り得意としないのも自覚している。
作っても、美味いと言われた試しがほとんどない。
テマリが鼻で笑って微笑んだ。
「食ってくれたお礼に、踊ってやろうか…?」
シカマルの口の動きが一瞬止まる。
そして再び動き出し、ゴクリと飲み込んだ。
「マジっすか?」
「ああ、マジっす」
テーブルの上に置いてあった布巾で手を拭うと、
テマリの目の前にシカマルは自分の手を差し出した。
微笑んだままテマリも自分の手を乗せる。
シカマルは、教室の真ん中に彼女を誘導し、両手を絡め取ってテマリの斜め後ろに立つ。
「----お前、また背が伸びたな。……私より小さかったくせに」
「ったく、いつの話をしてんだよ」
「成長期の少年ほど、見ていて頼もしいものはないな。こんな腕も背も大きくなって」
まるで年下扱いするテマリに苛立ったのか、突然シカマルは、
力を込めると彼女の腰を抱いて自分の方へ引き寄せた。
「成長したのは外見だけじゃねーぜ」
「!?」
テマリを後ろから抱きしめる。
余りにも突然のことでテマリもパニックになるが、身体を動かすことができない。
それほどがんじがらめに強く抱きしめられていた。
「あの男と----付き合ってんっすか?」
「あ、あの男…? あっ…!」
更にグッと力を込める。
-----渡したくない……
夕日に照らされた教室は、独特の柔らかな雰囲気をかもし出していた。
床に、重なり合う二つの影が伸びている。
そこへ、誰かが入って来た。
「テマリ、そろそろ帰----…」
テマリの傍にいつもいるあの男が姿を現した。
それでもシカマルは、そのままテマリから腕を解かない。
羽交い絞めにされているテマリを見た男は、しばらく唖然として突っ立ったままでいたが、
「----さ、先に行ってる…」
そう言い残してさっさとその場から消えてしまった。
「オレ以上に、逃げ腰じゃねーか。あんな男のどこが……」
「奈良シカマル! いい加減に放せっ! あれは弟のカンクロウだ! 何ライバル視してるっ!?」
唖然としたのはシカマルも同様だった。
「マジかよ……」
「マヌケな奴だな」
「いつも何かと一緒にいるし、帰りだって……」
「シスコンなんだ、うちの弟二人は」
「……もう一人いたのかよ」
ホッとしたのも束の間、
「わかったならもう離れろ。暑苦しいだろ!」
「----先輩の身体…やわらけー…、いい匂いもする…」
一向に放す気配を見せない。
「お前っ、おかしいぞ! 何か悪いもんでも食ったか!?」
「先輩の作ったクレープ」
「うっ…!」
そして顔だけ振り返させようとすると、彼の顔が、唇が迫ってきた。
「ま、まだ早い! つ、付き合ってもいないのにっ!」
「じゃあ、オレと付き合ってくれるんすか……テマリ」
「!!」
初めてシカマルに呼び捨てにされ、テマリは焦った。
後輩のくせにとかそういうことではなくて、何だかまるで-------
「ク、クレープを全部食べたら…、考えてやってもいい…」
途端に、パッとテマリの身体は解放された。前によろめく。
シカマルがクレープの盛られた皿に歩いて行くと、
それを手にして黙々と食べ始めた。
「お前……、やる時はやる男だな」
「惚れたろ?」
「バーカ…」
赤面するテマリは、横を向いて、そして笑った。
あの飛び切りの笑顔が、夕日に負けず劣らず輝いていた。
カンクロウが、門の横で待っていた我愛羅に事情を説明すると、我愛羅の様子が豹変した。
「あいつ……殺ス!!」
テマリがシカマルに奪われたことを聞いて、我愛羅は殺気立った。
「やれやれ、これで三姉弟トリオも見納めかぁ?」
少しだけ寂しく思うカンクロウだった。
「お前もオレも彼女作るじゃん?」
「オレにはテマリだけだ!!」
「おいおい……」
おわりだよん。 チャンチャン!
|