第6話.彼の実力
いきなり自分の方に突っ込んできた青年に驚愕の表情を浮かべる少女。そんな彼女を無視して、天真はその頭の上に手を載せると彼女を押し倒しながら自分も身を屈める。
「ふぎゃっ」
手の下から蛙が潰れた時の音のような悲鳴が聞こえてきたが無視。視線は今まさに少女を襲おうとしたものに固定する。
ゴッ!!!
唸りを上げて頭上を通過したのはダイゴの文字通り岩のような拳であった。それを身を屈めてやり過ごし、そのまま後方へとバックステップ。ついでに手荷物も同時に後ろに放り投げる。
「ぐげ」
豚の鳴き声のような悲鳴が聞こえてきたがこれも無視。改めて今攻撃を加えてきた相手に正面から対峙する。ダイゴはこちらが体制を整えている間も手を出さずニヤニヤと観察を続けていた。
「ずいぶんと手荒なスキンシップですね。女の子はもっとやさしく扱うものだと両親に習わなかったのですか?」
「あんたが言うな」
そう返したのはダイゴではなくリックの方だ。なんだか呆れているように見える。その言葉を受けて前方に対する注意を怠らないように背後にいるはずの少女を見ると、
「………………」
土と草に覆われながら、何かものすごい殺気を放ちつつこちらを睨み付けている少女の般若もかくやという形相を確認する。刺激しないようにゆっくりと視線を外して(野生動物との対峙)天真は、
「不意打ちとは卑怯なまねを」
「スルーかよっ!?」
何事も無かったかのようにダイゴに話しかけた。背後で少女が喚き始めたがとりあえず無視す
る。
「へっ、かっこいいじゃねーか。実力も有りそうだしよう」
ミニコントを無視して天真にゆっくりと近づいてくるダイゴ。
「だから……、簡単にやられんじゃねーぞ!」
間合いに入ったとたん、豪腕がうなりをあげる。が、この展開をある程度予想していた天真は落ち着いて対処。叩き込まれる攻撃をあるものはかわし、あるものは捌いてゆく。
「ダイゴ! こちらに来たきたばかりの者への暴力行為は禁じられているんですよ!」
「黙って見てろリック! こちとらこんな所まで探索させられて色々堪ってんだ。少しくらい遊ばせやがれ!!」
リックの制止を振り切りさらに攻撃を重ねるダイゴ。そんな中、天真は冷静に相手を観察していた。
(見かけと言葉遣いから、単純なパワーファイターかと思いましたが)
このダイゴとやらはただのゴロツキではない。そう天真は結論した。
最初は単純に腕を振り回すだけかと思っていたのだがどうやら違うらしい。体捌きになにやら訓練の跡が見え隠れしている。確信し、距離をとって話しかける。
「武術を何かおやりで?」
その呟きにダイゴも足を止める。
「おどろいたぜ。見ただけで分かるなんてよう」
「動きに専門的な訓練の跡が見え隠れしていますよ。隠すつもりならもう少し上手く動かないと」
そう言うとダイゴはうれしそうに笑う。
「やっぱり素人じゃなかったか。お前も武術をやるんだろ?剣術みてーだが」
ダイゴは天真の腰の刀を見ながら言う。
「まあその通りです。腕には多少の覚えがありますから本気でやっても問題ありませんよ」
「そうかい。それじゃあ……」
そう言いながら構えをとるダイゴ。両腕を体の前に突き出し左半身を前に、リズムを取り始める。それに対して天真は左の腰に差してある蒼天に軽く左手を添えて右半身を前に出し半身になる。そして―――
「遠慮なく行かせてもらうぜ!!!」
弾丸のようなスピードで飛び出すダイゴ。鈍重な外見に似合わずその速さは驚異的だった。あっという間に間合いに踏み込むと、流れるような動作で左のジャブを放つ。その動きは、
「!? ボクシングですかっ!」
初弾の左ジャブを紙一重でかわすが追撃がやまない。連打でこちらを捕らえようとしてくる。しかも、威力が低いはずのジャブがこの巨漢にかかると本来のスピードと手数の多さに加えてヘビー級ボクサーのストレート以上の威力を持ってこちらに襲い掛かってくる。一撃でも食らえば終わりだろう。
(ジャブでこれだとストレートの威力なんて想像したくないですね)
もし食らったら頭がザクロの様に弾けるかもしれない。いやな未来予想図に内心げんなりしつつ、連射砲のような左を紙一重で見切っていく。
(こいつっ)
その光景を傍からみれば終始ダイゴの優勢で事が進んでいるように見える。だが、その本人は意外な展開に内心驚いていた。
(俺のジャブをここまで見切ってかわすだと?)
同じ魔族ならともかく普通の人間がここまで自分の攻撃を避けている事実に驚きと、そして僅かな苛立ちを感じ始めていた。ただの人間に自分がてこずっているという事実。それは本人も気づかぬ内に攻撃のリズムを荒くしてきていた。
「どうしました? 一撃もかすっていませんよ?」
「っうるせえ!!」
あくまで穏やかな雰囲気を崩さない天真の様子に、さらに苛立ちを募らせていく。
(ここですね)
そんな中冷静に相手の動きを見切っていた天真は、そのわずかな違いに気づいていた。この期を逃さずここで一気に勝負を決めることにする。
(まだ一人残っていますし、あまり手の内を見せないようにしないと)
そう考えながら添えていた左手で刀の柄を握りこむ。
「はっ。刀なんざ俺の肌に傷一つ付けれんねーよ」
その動きを見て取ったダイゴは相手が切りかかった瞬間にカウンターを合わせようと右を準備する。たとえ相打ちになろうとも体には傷一つつかない。自分の体の硬度に絶対の自信を持っているからこそできる芸当である。
「いきます」
そう言い放ちジャブの一瞬の切れ目を狙って右手を柄に持っていく。
(かかった!!)
わざと連続攻撃に隙を作り相手の攻撃を誘発する。まんまと誘いに乗った愚かな相手を撲殺せんと、刀を抜き放つその瞬間に合わせて……
「もらったぁ!?」
右のストレートを放とうとしたダイゴは刀に固定していた視線を―――――
敵が真上に放り上げた刀を追ってそのまま上方に逸らしてしまった。
攻撃されている最中に自ら武器を手放すというありえない状況にダイゴの思考が一瞬停止する。
その瞬間―――
「余所見はいけませんよ」
その声が自分の懐から聞こえてきたと理解するよりも早く、視界が360度回転した。
「なあっ!?」
あまりの出来事に受身もろくに取れずに地面に叩きつけられる。投げ飛ばされたと理解したときにはその衝撃で呼吸すらままならなくなっていた。天真はそんな相手の鳩尾にトドメとばかりに踵を振り下ろす。
「ぐはっ」
全身が岩のように硬くてもさすがにこれは効いたのか、うめき声を上げたダイゴはそのまま白目をむいて動かなくなる。完全に意識を失ったのを確認しつつ、天真は丁度手元に落ちてきた蒼天を空中でキャッチ。そして一瞬の早業にいまだに目の前の出来事が理解できていない様子のリックのほうに向き直ると、
「搦め手ですみませんが、倒させていただきました。あなたはどうします?」
そう穏やかに尋ねた。 |