異世界見聞録魔王付き(50/54)縦書き表示RDF


 後書きに重要なお知らせがあります。
異世界見聞録魔王付き
作:朝日光司



第7話.開店! 万屋蒼天その2


「この串焼きの肉、1本もらえるか」

 屋台の主にそう声をかけたのは、20代前後と思われる魔族の若者だった。

 髪と目は藍色。身長180程と思われる長身で細身の男性だ。その目つきは鋭く、抜き身の刃物を連想させるような雰囲気を纏っている。簡素な皮鎧を身に纏い、腰に2本のミドルソードを下げているところから見るに、ハンターなのだと思われる。

「あいよ。お待ちどう」

 主に金を払い、手の内の肉にかぶりつきながら屋台を後にする。その身のこなしに隙はなく、見るものが見ればかなりの腕だということが分かるだろう。

「で、あれがターゲットの一人ですか」
「うん」

 そんな男の背後数十メートルの位置に、なぜか帽子とサングラスで顔を隠し、男を尾行する天真の姿があった。その隣には健一と綾子、その後方になぜかこちらも帽子とサングラスで顔を隠したスノウもいた。

「……あの」
「どうしたの、綾子ちゃん」

 恐る恐るといった感じで声を出す綾子。しかし、スノウが首をかしげながら応える姿を見て、迷うように押し黙る。だが、決心したのか一つ頷くと、きっぱりとした口調で問題点を指摘した。

「その格好は逆に目立つと思います」
「「え!?」」

 その指摘にショックを受ける二人。

「そ、そんな、この完璧な変装のどこがおかしいと」
「……全体的におかしいと思います。特にスノウさん」
「え!? 私おかしいかな?」

 まあ、普通にシャツとズボンの天真はそういうファッションもありかと思われるかもしれない。しかし、スノウはワンピース、テンガロンハット、そして顔の半分くらいが隠れるごついサングラスである。元の雰囲気が深窓の令嬢という感じなのに、頭部に装着された2つのパーツが、すばらしく違和感をかもし出している。

「むう、やはり尾行は黒いスーツの上下でなければ駄目ですか」
「あ、なるほど。そっちなら問題ないね」
「いえ、むしろそちらの方が目立つと思うんですが……」

 そんなステレオタイプな姿をしていれば間違いなく注目の的になる。子供でも分かる理屈であったが、何処かずれている二人は気付かない。

 そんな天真たちを尻目に、綾子が健一に耳打ちする。

「……本当に大丈夫かな?」
「……だって、他に宛てはなかったじゃなーか」

 いまさらながら選択を間違ったかと不安になり始めるお子様二人。もっとも、この天真とスノウの姿を見ていれば、それも無理はないだろう。

「やっぱり止めようよ。お姉ちゃんがこんなこと知ったら」
「じゃああいつらをこのままにしておくのか? あいつらが何時姉ちゃんに手を出すかわかんないんだぞ」
「それは……」

 健一の言葉に俯いてしまう綾子。そう言われれば、反対することは出来なかった。その不安は自分も同じだからだ。

「まあまあ、落ち着いて。如何なる事があろうと男の子が女の子をいじめてはいけません」

 その場の微妙な雰囲気を察して、天真が二人の仲裁に入った。そのまま、安心させるかのように言葉を続ける。

「大丈夫ですよ。お二人の依頼は必ず成功させます。大船に乗ったつもりでいてください」
「……本当に大丈夫だよな?」
「もちろん」

 天真は自身満々という風に頷いた。

「相手がハンターだろうと何だろうと、問題はありません。私に任せてください」





 事の起こりは3日前。健一少年たちの住む孤児院に妙な人物が現れた事が発端となる。

 その孤児院で一番年長のお姉さんはハンター稼業で孤児院の経営資金を稼いでいるのだが、その人物、とある討伐クエストでお姉さんとパーティーを組んだ人らしい。

 その人物とお姉さんは二人で暫く話し合っていたのだが、その内容が穏やかなものではなかったらしく、なにやらもめ始めたそうだ。

 様子が気になって聞き耳を立てていた子の話によると、どうも報酬の分配関係でのトラブルだと言う事。その人物はお姉さんが報酬の分配に関して契約違反をしたと難癖を付けにきたのだそうだ。

 もちろんお姉さんには身に覚えの無い話。しかし、どうも証拠があるらしく、何かの書類を見せられたお姉さんは真っ青になっていたらしい。

 結局、この日の話し合いは物別れに終わったが、それからもまるで借金の取立てのように押しかけてきて、お姉さんを脅迫しているのだそうだ。

 もちろんお姉さんは無罪を主張しているし、他の子供達もそう確信している。だが、相手の様子を見るにこのままでは何時強硬な手段に出るかわからないとの事。

 事態を憂いた子供達は、お姉さんには内緒で独自に調査を開始(内緒なのは、ばれれば確実に反対されるからだそうだ)。だが、そうは言ってもやはり子供だけでは出来ることに限界がある。

 そんな時、情報通な仲間の一人が新しく出来た何でも屋の情報を仕入れてきたというわけだ。そして、駄目元で依頼を出しに行き現状にいたる。





「君達の調査の結果、相手の人数は3人。いずれもハンターで近くの宿に逗留中。で、あの青年がそのうちの一人と」
「その中で一番若い奴。あいつはどっちかって言うと一人で行動してることの方が多いみたいだけど」

 とりあえずその3人を確認しようということで、一味の宿に向かって移動しようとしていた天真達。途中、その内の一人を偶然発見したので、その後を尾行しているというわけだ。

「相手を確認するのも必要ですが、契約の内容というのも気になります。詳しい内容は分からないんですか?」

 尾行を続けながら、子供達に問いかける天真(ちなみに帽子とサングラスは健一たちの嘆願によってすでに外されている)。だが、その問いに健一は首を横に振る。

「姉ちゃん、俺らに詳しい話をしてくれないんだ」
「私達に心配をかけたくないんだと思います。お姉ちゃん、なんでも一人でやろうとするから……」
「俺達が子供だからって、全部一人でやろうとするんだ。俺達だって手伝いくらい出来るのに」

 そう言って表情を曇らせる健一と彩。悔しいのだろう。子供だからという理由で、大好きなお姉ちゃんの力になることが出来ない事が。

「大丈夫だよ」 

 そんな二人に向かって微笑を浮かべながら、スノウが安心させるように語りかける。

「二人の思いはちゃんとお姉ちゃんに伝わっていると思う。そんな皆だからこそお姉ちゃんは守ろうとしているんだよ」

 その言葉にはっとしたような表情を見せる二人。

「それに、子供だからって何も出来ないわけじゃない。二人が行動したからこそ、天真はここにいるんだから」
「そうですね。スパイの真似事はあまり感心しませんが、大人に頼るというのは間違いではありませんよ。自分達で解決できないなら、誰かに相談するということを忘れないように」

 天真の言葉に素直に頷く子供達。その純真な反応に、改めてこの依頼を成功させようという意気込みを強くする。

「さて、それではここから先は私の仕事です。二人は孤児院に帰ってお姉ちゃんを安心させてあげてください。あ、それと他の子たちにも、もうスパイは止めるように言って置いてくださいよ」
「うん。わかった」
「雪、二人を送って行ってあげてください」
「わかったわ。天真も気をつけて」

 二人を連れて離れていくスノウを横目で見ながら、天真は尾行対象を確認する。彼はちょうど酒場に入っていくところだった。その姿を追って、天真も酒場へと足を踏み入れた。



 少し薄暗い店内にはまばらに人影が見られた。昼は食堂もかねているのだろう。もっとも、昼過ぎだというのに、アルコールを摂取している者が何人か見受けられたが。

 目標は一番奥、カウンター席に座ってマスターに注文をしていた。その左側に細身と太めの魔族が座って何事か話し込んでいる。もしかしたら残りの二人かもしれないと考えながら、天真は何気ないしぐさで、目標の右側に座る。

「いい加減にしろ。何時まで待たせるつもりだ」

 着席して最初に聞こえてきたのは尾行対象の苛立った声だった。何事かもめているようだ。

「そう言うなって、シン。もうすぐ、もうすぐなんだからよ」
「お前はそれしか言い訳を思いつけないのか? その台詞、何回目だと思っている」

 尾行対象―シン―の様子に内心で首をかしげる天真。どうも健一たちに聞いた話とは微妙に差異があるようだ。更なる情報を得るために、ドリンクとつまみを頼みながら盗み聞きを続ける。

「だいたい、彼女は金を持っているようには見えなかった。払う当てが無いなら交渉するだけ無駄だろう」
「いやいや、そこはそれ。色々方法はあんだよ」
「ジャックの言う通り。まあ俺達に任せてくれればきちんと金を出させて見せるさ」
「お前らのその言葉に従ってもう3日も無駄にしているこっちの身にもなってみろ。ハントに行っていた方がまだ金が稼げる」

 イラついた様にそう言い放つシンの様子を見るに、どうも残りの二人と組んでいるわけではなさそうだ。会話から察するに、ジャックと呼ばれた細身の魔族達が主犯で、シンはそれにつき合わされているだけのように聞こえる。

「実際のところ、本当に彼女は俺達をだましたのか? そんな事をする風には見えなかったぞ」
「だから、ああいう無害に見える奴ほど悪知恵が働くんだよ。こっちが契約とかにほとんど注意を払わないだろうって、内心ほくそ笑みながらやったに違いないんだって」
「あんただって俺達が居なかったらあの小娘に報奨金の何割かを掠め取られていたところなんだぜ?」

 その言葉を受けて、シンは暫し考え込むような姿勢を見せる。やがて顔を上げた時、その瞳は先ほどよりも鋭さを増していた。そのまま、探るかのように言葉を放つ。

「彼女に契約書の管理と報奨金の分配を任せたのはアラン、お前だったよな」
「そうだが?」
「あの時も不思議に思ったんだが、なぜ彼女に管理を任せたんだ? 彼女はどう見ても初心者だった。大事な契約書を任せていい相手には、お世辞にも見えなかったと思うんだが」
「うん? それはその……」

 シンの問いに、なぜか言葉をつまらせる太めの男、アラン。

「し、初心者だからこそ責任感を育てるために、大事な仕事を任せようと思ったんだよ。俺はこれでも面倒見がいいって評判なんだぜ」
「……だったら、お前にも少しは責任があるんじゃないのか? 任せるのなら、その人物の人柄くらいは見極めておくべきだったと思うが」

 シンの視線が刃のように鋭くなる。その視線に射すくめられたかのように黙り込むアラン。殺気すらはらんだ視線にさらされて、額に汗が浮かぶ。だが、そのまま黙っていては負けだと思ったのか、アランはやけくそ気味に声を荒らげて反論を始めた。

「だ、だから責任を取ってあの小娘を問い詰めてるんじゃねーか!」
「それなら今回の件、喧嘩両成敗でもいいんじゃないか。お前も反省しているのなら、あの子も厳重注意で問題ないと」
「駄目だ! これはハンター業界全体のモラルにも関わる問題だ。あの小娘にはきっちり罰を受けてもらう」

 加勢する様に細身のジャックも声をあげる。だが、そんな両者を前にしてもシンの刃のような視線は変わらなかった。やがて、舌打ちをしながら二人が視線を逸らすと、シンは手元のグラスをあおり、一息に空にする。

「まるで、どうあっても彼女に罪をかぶせたいように見えるが……」
「な、何が言いたいんだ!」
「別に」

 そう言って席を立つシン。

「明日の昼までにけりが付かないんなら、俺はもう降りるぜ。さっきも言った通り、さっさとハントしに行った方が稼げるしな」

 そう言い残してシンは店を出て行った。その後姿を憎憎しげに見送った後、アランが怒りの声を上げる。

「くそっ! 若造が、ちょっと腕が立つからって調子に乗りやがって!」
「どうする? あいつ、薄々気付いているんじゃないか?」

 怒りが収まらないという風なアランに、ジャックが思案気な表情で語りかける。

「ちっ、腕は立つが協調性の無い一匹狼だってんで逆に信憑性が上がるかと思ったが、とんだ見当違いだぜ。こうなりゃさっさと小娘の方を何とかしねえと」
「だが、小娘もあれで相当慎重だぞ。書類を見せても、なかなか自分がやったって認めねえ」
「問題ねえさ。契約書は“両方とも”こっちにあるんだ。そのうち自分がやったって言い出すに違いねえ」
「まあそうだろうが、シンのやろうが痺れを切らし始めているし、少し別の方法をとった方がいいと思うぜ」
「別の方法?」

 唐突な言葉にいぶかしげな表情を浮かべるアラン。ジャックは下卑た笑みを浮かべながら、相棒に自分の考えを説明し始める。

「要するに、このまま駄々をこねているようだと、周りに迷惑がかかるって教えてやればいいんだよ」
「ああ、なるほど」

 ジャックの説明にアランも気がついたのか、そっくりな笑みを浮かべた。

「あの手のタイプならそういうことを少しにおわせれば問題ねえよ」
「おあつらえ向きに餓鬼が何人も居るし、いざとなったらその中から一人か二人見繕えば……」

 ニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべる二人。しばし、自分達が思いついたアイディアのすばらしさに浸るように、上機嫌でグラスを傾ける。

だが、二人は気付いていなかった。さっきから自分達を観察している視線が、その鋭さを増しているということに。

「そうと決まったらすぐにでもあの小娘のところに行くか? 今日中にけりをつけておかねえと、シンも煩いだろうしよ」
「そうだな。じゃあ俺は念のために宿に戻ってもう一枚の契約書をとってくるから、先に向かってくれや」

 ジャックがそういうのを聞いてから、天真は料金を払って席を立った。

「さて、まずは契約書を手に入れないといけませんね」

 あの二人の話を聞いて、今回の事件の概要は大体理解できた。

 どうやら、契約内容の異なる2種類の契約書AとBが存在するようだ。推測するに、まず偽者の契約書Aを本物と偽りサインを書かせる。次に、何らかの方法で本物の契約書Bにサインをさせる。この時、サインさせるのが契約書だと悟られないようにする。後は報奨金の分配を任せれば、Aを本物と思っている相手は間違った配分をしてしまうというからくりだ。

 そして、後日報奨金の分配に誤りがあると難癖を付けに行く。無実を主張しても、書類とサインは本物。物証を突きつけられれば相手は心理的にも苦しくなるだろう。そこにつけ込めば、見に覚えの無い事実を認めさせることも容易になる。

「しかし、そうだとするとまさか」

 この考えが当たっているならば、看過できない幾つかの可能性が出てくる。どうにも厄介なことになるかもしれない。あるいは……

「雪の力を借りることになりますか……」

 考えをめぐらせながら酒場を出て、人気の無い路地の方へと移動する。出入り口がよく見える場所を確認し、そこであの二人が店から出てくるのを待とうとして―――



 背後から突き刺さる殺気を感じ、後ろを振返る。



 薄暗い路地、その奥から誰かが近付いてくる。

「それじゃあ、何で俺をつけてきたのか話してもらおうか」

 暗がりから出てきたシンが、その刃のような視線を天真に向けながら、腰の剣に手を伸ばした。


 本来ならば50話記念を出す予定でしたが、リクエストのあった過去編がまだ仕上がっていないのでもうしばらくお待ちください。

 そして、突然ですが夏まで更新速度が遅れぎみになる予定です。

 私の作品を楽しみにしてくれている読者の皆様には大変申し訳ございません。しかし、私も社会人ですので会社に果たさなくてはいけない責任というものがあります。そこのところをどうかご了承ください。

 とりあえず今後の予定としては来週か再来週に50回突破記念座談会と外伝小説。その後も2週間に1回ほどのペースになると思われます。

 お盆には再び超更新企画をやりたいと思います。それまでは鈍筆となりますが、これからも応援よろしくお願いします。






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