第4話.別に登場のタイミングを計っていたわけではありません
「あうっ」
悲鳴を上げながら、少女は地面に叩き付けられた。
衝撃で息が詰まる。意識が遠くなる。体のあちこちについた傷もそれを加速させる。このまま意識を手放してしまおうかという甘美な誘惑が沸きあがってくる。だが、そんな弱気をがむしゃらに跳ね除けて少女は震える足で立ち上がった。
「くそっ」
眼前の敵を睨み付ける。視線で相手を屠れるとでも言わんばかりに。だが現実はそんなに甘くは無く、少女に都合のよい展開にはならない。そのうちに少女の前に立ちふさがっている2人組みのうちの一人が前に出て言った。
「さあ鬼ごっこは終わりだ。大人しく捕まりたまえ。そうすればこれ以上の危害は加えない」
眼前の少女を諭すように告げる。言葉の通り彼からはこれ以上何かをしようとする気配は感じられなかった。だが、
「ふざけるなっ!!!」
少女はその言葉に激昂する。
「お前ら魔族の言葉など誰が信用するかっ! 私達は貴様らを滅ぼして必ず元の世界に戻ってやるんだっ!」
目の前の敵、魔族に言葉をたたきつける少女。実際、彼らの姿は異形であった。
まず、前方にいる少女に話しかけた男性。細身で整った顔をしている。しかし、その素肌は全て紫色だ。髪と眼が金色でさらに耳の先端が尖っている。まるで本の挿絵などに登場する悪魔という容貌だ。
次にその後方にいる男性。こちらは2メートルほどの巨漢で筋骨隆々といった外見である。ただし、その体が本当に筋肉ならばの話だが。その地肌はねずみ色をしており、表面の無数の凹凸が硬質な印象を与えている。まさに岩石。動く岩といった風体である。
そんな人外の者達を正面に見据えて、少女はそれでも戦意を失うことはなかった。
「さて、どうしたものでしょう」
前に出た男は少女の様子に心底困ったという表情をする。すると、後ろの巨漢が口を開いた。
「リック。もういいだろ。あちらさんもああ言っているんだ。多少手荒なことになってもしょうがねー」
そう言いながら前に出てくる巨漢。その表情は暴力を振るえるという、残忍な喜びに満ちていた。今にも舌なめずりしそうなその顔に呆れながらリックは呟く。
「あなたはただ暴れたいだけでしょうダイゴ。まあ確かに向こうに投降の意思が無いことも事実です。しょうがない、あまりやりすぎないでくださいよ」
「分かってるって。くくく……」
暴力を振るえるのがうれしくてたまらないと言わんばかりの相方にあきれながら指示を出すリック。そんな二人を前に少女は握り締めていたナイフを突き出す。
「簡単にいくと思うなよ!!!」
そう叫びながら走り出す少女。
「はあっ」
気合を吐き出すと同時に巨漢のダイゴの首筋に向かってナイフを突き出す。文句なしのスピードで突き出された凶器はそのまま相手の首に突き刺さって血飛沫を撒き散らす―――
ガキンッ!!!
かに思えたが、刃が首に突きこまれると同時に高い音を立てて折れたのはナイフの方であった。ダイゴの肌は外見だけでなく、その性質も岩と同じようだ。
「くっ」
少女は衝撃で痺れた右腕を庇いながら後退しようとするが……
「フンッ」
その動きよりも一瞬早くダイゴが振るった腕の一撃が腹部に突き刺さる。
「かはっ」
まるで羽虫を払うような無造作な一撃だったが、裏拳気味に入った拳は十分以上の破壊力を持って少女を吹き飛ばす。そのまま吹き飛ばされた少女の体は、何度も地面をバウンドした後にようやく動きが止まる。
「あ……ぐ」
少女はかろうじて意識を繋ぎ止めていたが、もう反撃の力などどこにも残っていなかった。そんな少女の姿を見て、リックは呆れた様に呟く。
「やり過ぎるなと言ったでしょう」
「そうは言ってもよう、人間ってのは脆いから手加減が難しいんだって」
相棒の苦言を馬耳東風という感じで聞き流すダイゴ。そのまま地面に倒れ伏している少女の方に向かっていく。眼前に迫る敵の姿を指一本動かせない状態で凝視する少女。もう反撃の手段は残されていなかったが、それでもその瞳の光は強く、まだ心は折れていない。
「お前たちなんかの…………好きには……」
「まだ意識があるのは立派だけどよう、あんまり遊べなかったしもういいぜ。何やっても勝手に連れてくだけだしな」
もう興味は失せたという感じで無造作に少女に手を伸ばすダイゴ。そんな光景を見ていたくなくて、悔しさのあまりぎゅっと目を閉じる。
(誰か……助けて)
それが届かない願いだと知りつつ胸の内で助けを求める少女。だがこの時、神か悪魔かは分からないが確かに何者かが少女に微笑みかけた。
「あのー、少し待っていただけませんか」
どこか気の抜けたような声がその場に響く。あまりの出来事に一瞬思考が真っ白になった後、それがもしかしたら助けかもしれないという考えに至る。痛む体を無理やり声の聞こえてきたほうに向けるとそこには、
「とりあえず、弱いものいじめはやめたほうがいいと思うのですが」
頼りになるとはあまり言えなさそうな青年が一人立っていた。 |