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 新章開幕
異世界見聞録魔王付き
作:朝日光司



第4章:新たなる日常、忍び寄る影 第1話.資格を取ろうその1


 はっきり言って、どうすれば良いかまったく分からなかった。

(分かっちゃいたが、これほどとは……)

 木製の棍を構えながら、ハヌマーンは驚愕を必死で押し殺す。もっとも、その程度の事でどうにかなるわけもないが。

 彼の目の前には天真が、こちらも練習用の木刀を構えて立っていた。その構えを見て正直な一言、

(どうすればいいかわかんねえ)

 木刀を正眼に構えた天真は一見、普通に立っている様に見えた。威圧感を覚えるなどということも無い。はっきり言って、簡単に打ち込めるように見える。

 表面上は。

 しかし、ハヌマーンの第六感はそんな天真の姿に、これまで感じたことの無いほどの警鐘を鳴らしていた。

 おそらく、打ち込めば即座に斬り返される。

 そう気付いてしまうと、どこに斬り込んでも返されるイメージしか沸いてこない。だから、先ほどから攻めあぐねている。

 そして、ハヌマーンが自分の思考に没頭している間も、天真の構えは微動だにしない。それは驚愕すべきことだった。

 制止するということは極めて難しい。例えば、直立の姿勢で1分動くなと言われたとする。だが、そんなわずかの時間でも、一般の人々は静止することができない。必ず、大なり小なり動いてしまう。

 それを、この目の前の青年はなんでもないことであるかのように行っている。まるで、大気と一体化しているかのように。

(どんな修行を積めば10代でここまでの境地に到れるんだ?)

 改めて目の前の相手との技量の差を痛感するハヌマーン。

 と、その時、天真の切っ先がわずかに揺れる。

(!?)

 誘われるかのようにハヌマーンが飛び出す。そのまま最速で間合いに入り、鋭く棍の先端を突き込む。

 対する天真は、突き込まれる棍に木刀を沿えるような感じで合わせる。得物がまるで擦り合わさるかのように交差し、棍が天真に突き込まれる―――

 前に弾かれる棍。だがハヌマーンはその力を利用してすばやく切り返し、袈裟懸けに天真の肩を強襲する。

 が、再び木刀が棍に擦り合わさるかのように交差する。今度は軌道を逸らされて目標を外す棍。

 その後も、ハヌマーンは得意の連撃で、手を緩めずにあらゆる方向から天真を攻撃する。

 だが、その攻撃の全てに、どこからとも無く現れる木刀が添えられる。ハヌマーンの攻撃は逸らされ、弾かれ、一つとして天真に届かない。やがて……

「だあーっ! 降参だ降参!」

 スタミナ切れを起こしたハヌマーンが、やけくそ気味にそう叫ぶなりどっかりと地面に腰を下ろした。息は荒く、全身は汗まみれだ。

 対する天真は呼吸を乱すどころか、汗一つかいていない。それどころか、

「くっそー。まさか一歩も動かすことができないなんて……」

 天真はその場を動かず、軸足を固定したままでハヌマーンの攻撃を全て受けきったのだ。ハヌマーンほどの実力者を相手に、これを実践するにはどれほどの鍛錬が必要になるのか。

「なかなかいい感じの攻撃でしたよ。ただ、後半に入ると攻撃が雑になってくる感じがありますね。もっと一つ一つの動きを強く意識して、おろそかにしないように。後、踏み込みはもう半歩深くしたほうがいいですよ」
「的確なアドバイスどーも。くっそー、分かっちゃいたけど、技量に差がありすぎるぜ。純粋に技術だけなら、この世界では一番なんじゃないか?」
「まさか、私はただの一剣士ですよ。まだまだ修行が足りていません。もっと精進しないと」
「ただのって……じゃあ俺様はせいぜい町のチンピラ程度になっちまうぜ」

 どれほど腕を磨いても、そこで慢心せずに練磨を忘れない。天真の強さの秘密の一端に触れたような気がした。

(俺様も最近調子に乗ってたところがあるからな。まずは基礎からやり直すか)

 これほどの達人が傍にいるのに、このままでは終われない。決意を新たにするハヌマーン。

「そういえば、そろそろ朝食の時間ですかね」
「そうだな、さっさと行かないとスノウちゃん達を待たせちまうか。天真は先に行っていてくれ。俺様は少し水浴びしてから行くことにするわ」
「いえ、私も付き合いますよ。では行きましょうか」

 そうして、朝の訓練は終わりを告げた。





「じゃあ美亜は、こっちの人間達の組合に入ることになるんですか」
「そのつもり。まだまだ両者の間には溝があるから。何とか橋渡しをできればいいんだけど」
「美亜なら大丈夫ですよ」
「ありがと、天真」

 王族専用に作られた広い食卓の席に、今朝は天真、スノウ、美亜、ハヌマーン、麗、シェリナの6人が集まっている。

 城のコック達が腕によりをかけて作った朝食に舌鼓を打ちながら、天真達はこれからの身の振り方を相談していた。

「それで、麗君はここで魔術の使い方を教わりながら、ゆくゆくは軍へ入隊するんですよね?」
「まだぜんぜん力の制御ができていませんから、いつになるかは分からないですけど」
「大丈夫。私も協力する」
「シェリナ、ありがとう」

 年少組の微笑ましい姿を横目に見ながら、次にその視線をハヌマーンに向ける。

「ハヌマーンも、確か仕官するんですよね?」
「うーん。まあそのつもりもあるけど、一応色々説明を受けてから決めるつもりだぜ。他にやりたいこともあるしな」
「その辺りは本人の自由ですからね。よく考えたほうがいいですよ」
「そう言えば、天真はこれからどうするのよ?」

 ここで美亜が、天真に質問を返す。問いかけにしばらく考え込んだ後、

「私は軍隊とか規律の厳しいところは肌に合いませんから、しばらくこの城に厄介になりながら職探しをしようかと」
「そんなに一生懸命に就職先を探さなくても、天真一人くらいなら私が養ってあげるよ?」
「うーん。心惹かれる言葉ですねえ」

 スノウの申し出に、駄目人間の台詞をはく天真。

 だが次の瞬間、シェリナの一言が朝の団欒を終焉に導いた。

「じゃあ天真は、ヒモ?」





 ドシュッ!!!





 天真の心の大切な部分に、致命的なダメージが。思わずテーブルに額をつけるようにして崩れ落ちる天真。

 だが、ギリギリのところで踏みとどまったらしい。必死に顔を上げて弁明を始める。

「…………シェリナちゃん、古来より武士というものは戦場で獅子奮迅の活躍を見せるために、平時では十分な休息を……」
「じゃあ、平和なら武士ってヒモ?」





 ズシャアッ!!!





 崩れ落ち、そのままびくびくと痙攣を始める天真。その哀れな姿に、誰もが視線を逸らした。

「だ、大丈夫だよ天真! どんなに生活能力が皆無でも、私が養ってあげるから!」
「いや、そんなことになったら、それこそ色々な意味で人として終わると思うんだけど」
「まあ、少なくとも男としては失格だよな」
「すいません。弁護の言葉がありません」

 それぞれ勝手なことを言い合うギャラリー。

 その瞬間、ガバッ! とその身を起こす天真。

「労働は尊いものです。人間は自分自身で糧を得て、初めて一人前になれるのです」

 かと思うと、こぶしを握り締めながら熱弁をふるい始める。 

「そ、そうよね……」
「ですので私も今日から働くことにします。断じてヒモではありません。ええ、そんなはずはありませんとも」
「うん。分かったから。だからね、そんなに涙目にならなくてもいいんだよ?」
「これは労働の意欲に燃える私の心が……」
「でも、働くって言っても何か考えはあるの?」

 そこで、美亜が至極全うな意見を述べる。

「もちろん考えていますとも」
「へえ、ちなみにどんな職業を考えているんだ?」

 自信満々に胸を張る天真を見ながら、ハヌマーンが問いかける。

「理想としては時間に縛られず、高収入で、寝ながらでもできる仕事なんですが」
「お前労働を馬鹿にしてるだろう」
「……天真、さすがにそれは……」

 自信満々にたわけたことをのたまう、人生をなめきっているとしか思えない男に、全員のあきれたような視線が突き刺さる。

「大丈夫です。あてはあります」
「あるの!?」

 驚愕の面持ちで叫ぶ美亜。それはそうだろう。そんな夢のような職業があるのならば、自分だってやってみたい。

 そして、全員の視線を一身に受けながら、自信たっぷりに天真が語ったその職業は!

「雪、とりあえず元金として100万ほど貸してください。株を使って一月で10倍にして見せますから」
「「「「株かよ!!!」」」」

 全力で世界の労働者に喧嘩を売る天真。

「っていうかそれ本物の駄目人間の思考よ?」
「そう言う奴に限って、最後はサラ金に捕まって骨までしゃぶられるんだよな」
「さすがにそれは……駄目だと思います」
「天真、人間の屑?」

 口々に天真をけなす一同。何気にシェリナが一番ひどかった。

 そんな中、スノウは申し訳なさそうな顔で天真の考えの致命的な欠点を指摘する。

「あ、あのね天真、この世界の経済ってまだ熟していないから、株式とかはまだ無いの」
「……マジですか?」
「うん。マジ」

 スノウの答えに、首をうなだらせながら椅子に座る天真。これがなめきった思考で世の中を渡ろうとした人間の末路である。

「なんということでしょう、私の株でもうけて人生ウハウハ大作戦に、これほど致命的な欠陥があったなんて……」
「いや、何でそこまでダメージを受けてるのかが分からないんだけど」
「ていうか労働なめんな」
「あの、やっぱりちゃんと働いたほうがいいと思います」
「野性動物でさえ自分で糧は得ている」

 敗者の傷口に容赦なく塩を塗りこむ一同。というか、シェリナは激薬を塗りこんでるような気がする。

「っていうかだな、そんな難しく考えなくても、お前さんにぴったりな職業があるんだが」

 どこかのアニメの最終回のように真っ白に燃え尽きた天真に、ハヌマーンが救いとも思える言葉をかける。

「え? 三食昼寝つきですか?」
「いや、だからそういう思考からまず離れろ」

 ジト眼でまだ懲りていない天真をにらみつけながら説明を続ける。

「天真は戦闘能力だけなら6王に勝るとも劣らないほどの、正直人間じゃねーだろっていう、ある意味生物かっていう存在なんだから」
「あなたが私をどう思っているかがよく分かりました」
「まあ、それは冗談としてもだな、それを活用しない手はないってことだ」

 ハヌマーンの言葉に、天真は訝しげな視線を向ける。

「さっきも言った通り、軍隊に入るつもりはありませんよ? それとも、用心棒でもしろと言うんですか?」
「あー、もしかしたら用心棒もすることになるかもしれんな」
「あ、それって」

 そこでスノウが納得の声を上げる。見れば美亜も同じような表情を浮かべていた。そんな彼女達を視界の隅に入れながら、ハヌマーンは説明を続ける。

「忘れたか? ここは異世界シナル。一歩街の外にでれば凶悪なモンスターがうろつく世界だ。そんな世界に付物の定番の職業といえばあれしかないだろう」

 その職業の名は、

「ハンター。定番だが、これほどお前向きの職業は無いと思うぞ?」





「まあ確かに、定番といえば定番ですか。とは言うものの、本当にそんなゲームの中の職業があるとは思いませんでしたが」
「この世界では俺様たち人は新参だからな。まだまだ生態系とかに分かっていない部分が多いんだ。で、そんな生態系調査のために、原生物を狩ってくる職業ができたというわけだ。もちろん、毛皮や肉なんかの確保って意味もあるけどな」

 天真とハヌマーンは城下町の通りを会話しながら進んでいた。その目的地は、この魔族の首都ニューオーダーに存在する、ハンターズギルドの本部である。

「とは言っても、できたのは戦争が終わった約3年前。まだまだ手探りな所が多いって言うのが実情だが」
「ハヌマーンはハンターの免許を持っているんですか?」
「一応。路銀を稼ぐのに最適だと思ったからな」

 危険な外のモンスター達と戦うことになるハンターになるには、ハンターズギルドの試験をパスして免許をもらわなくてはいけない。この免許があればハンターとして認められ、ハンターズギルドの依頼を受けられるようになったり、モンスターの一部を換金できるようになったりするらしい。

「まあ試験は実技だけだし、天真なら楽勝だろ。なんたって6王クラスと互角の実力を持っているんだからな」
「“戦闘”に必要なスキルと、“狩”に必要なスキルは若干異なるんですが。まあ、確かに狼の群れとか熊程度なら何とかする自身はあります」
「お前の実力は明らかにそんなのより上だと思うんだが、まあお前ならすぐにランクも上がると思うぜ」
「あ、やっぱりそういう制度もあるんですか」
「ランク別に分けるって言うのは理にかなった制度だからな。逆にこういう仕事ではないほうが危険だと思うが……っとここみたいだな」

 ハヌマーンの声に正面を向くと、そこには石造りで5階建て程の建物があった。なかなか立派な作りだ。

 正面玄関を開けて中に入る。玄関ロビーは広く、中に大勢の人が居るのにもかかわらず、まだ余裕があるように見えた。そのまま正面にある受付へと進む。見渡す限りでは中に居るのは全員転化者、しかもそのほとんどがごついマッチョ系だった。

 やはり荒くれ者が集まりやすいのか、と内心で思いつつ受付の前に立つ。

「こんにちは、ハンターズギルド本部へようこそ。本日はどのようなご用件でしょうか?」

 受付は額から一本角を生やした20代ほどと思われるお姉さんだった。丁寧な口調で対応するのを見る限り、この仕事を始めてそれなりに長いのだろう。

「はじめまして、美しいお」
「すみません、ハンターへの登録をお願いしたいんですけど」
「新規登録ですね? 了解いたしました」
「いや、そんなナチュラルに無視されると、俺様のハートがブロークンなんだけど」

 天真はいつものことだが、この受付のお姉さんもこの手の客のあしらいには慣れているようだ。そういうのが多いのだろうかと少し不安になる。

「ではこの書類に必要事項をご記入の上提出してください。試験は直近のもので本日の午後より行われますので、参加する場合には時間内に指定の場所までお越しください。遅れた場合その時点で失格となりますのでご注意ください」

 その後も受付のお姉さんの説明を聞きながら、書類に必要事項を記入していく。

「えっと、これでいいですか?」
「確認いたします。……あの、ちょっとよろしいでしょうか?」
「何か不備がありましたか?」
「いえその、大変失礼ですが、住所の欄に魔王城とあるのは……」
「あ、実はお城に知り合いが居まして、その人に頼んでお城に部屋を借りてるんですよ」
「そうですか。それでは何か連絡事項がありました時には、お城のどちら宛にすればよろしいでしょうか?」
「あ、それは魔お」
「だあああああ!? ちょっと待て!?」

 いきなり横合いから天真の首根っこを掴んで隅のほうに引っ張っていくハヌマーン。

(どうしました? 何かまずいことでも?)
(大有りだ! あんな所で魔王とか言っても信じてくれるわけねーだろうが!)
(うーん? それもそうですか)
(だろう)
(じゃあ誰宛にしましょうか? 凍夜君?)
(……いや、あいつはお前の印象最悪だろう。こんなこと頼むとまた話がこじれかねん。というかなんでよりによってあいつの名前が出てくる? 後でスノウちゃんにお前宛のメッセージが届くように話を通してもらえ)

 話しがまとまって受付に戻る二人。

「すいません、私宛の連絡は直接私に届くようにしますので、お城の係りの人に名前を出せば大丈夫なようにしておきます」
「分かりました。ではこれが受験者用のバッチになります。そのバッチをつけてこの書類に記してある場所まで向かってください。その他の詳しいこともその書類に書いてありますので」
「ありがとうございます」

 お礼を言いながらバッチと書類を受け取る天真。見てみるとバッチには24番と書かれていた。

「私で24人目ですか。結構人が居るんですね」
「腕自慢なら一度は受けるって聞いたことあるからな。それなりに人気の職業だし」
「まあ、喧嘩してお金がもらえるんですから、それだけがとりえの人達にしてみればおいしい職業でしょう」
「……一応言っておくけど、お前もその一人だからな」

 そんな会話をしながら、二人は次に試験会場へと向かった。


 おまけのとある議事録の抜粋

天「で、何で連休なのに更新速度が上がっていないんですか?」
作「違うんだ、決して徹夜で侵食世界学園伝奇AVGをやっていたわけじゃないんだ。あまつさえ3を購入して某戦乙女をやろうだなんて」
天「久しぶりに、逝っときますか」
作「本当にごめんなぎゃああああああああああ!?」






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