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異世界見聞録魔王付き
作:朝日光司



第13話.新たなる誓い


「う……ここは?」
「おお、気が付いたようじゃの。気分はどうじゃ?」
「神裂先生? え、えっと、なんだか頭が痛い気がすること以外は大丈夫です。というより、これまでに感じたことが無いほどに調子がいいというか」
「ふむ、ならば問題ないじゃろう。と言うわけで行くぞい」
「え? あのすみません、何処へ」
「皆おぬしの到着を今か今かと待っておるからの。ほれ、速くせい」
「いや、だから何処にですか?」
「わしも久しぶりに大っぴらに飲めるからのう。もう楽しみで楽しみで」
「だから何処へっ!?」

 そんな感じで宴会が始まりました。










 麗の姿を確認した美亜が大泣きするわ、抱きしめて窒息させそうになるわ、神裂が次から次へと酒をかっ食らうわ、挙句の果てにシェリナにそれを進めようとするわ、それが原因でリーンに絞められるわ、とにかく、開始から大騒ぎだった。

 だが、皆笑顔だった。一人も欠けずにこの場にいることを、皆が心のそこから喜んでいた。

「ふう、少しはしゃぎ過ぎたかな?」

 そんな呟きを漏らしながら、スノウはグラスを口から離す。久々に酒精を体に入れて、少し酔ってきたようだ。そう思いながら辺りを見回すと、全員思い思いにこの宴を楽しんでいるようだった。

 天真は果実酒を飲みながら、ケーキをぱくついている。

 美亜は親鳥が雛に餌を与えるように、せっせと麗に食事を運んでいる最中だ。病が治っても、弟への過保護は変わらないらしい。

 麗もそんな姉の行為に困ったような顔を見せつつ、満更でもないらしい。姉離れできる日はまだ遠そうだ。

 シェリナはそんな麗の横でハムスターのように頬を膨らませながら食事を取っている。相変わらず微笑ましい。時々麗が顔を赤くしながら、シェリナに話しかけているのも含めて。

 ハヌマーンはリーンに次から次へと酒を勧めている。止めようかとも思ったが、リーンならば大丈夫だろう。彼女はこの城でも1、2を争う酒豪だ。本気になれば酒蔵を空にできるかもしれないほどの。どちらかと言えば、飲み比べの様相を呈しているハヌマーンの方に心配を覚える。彼は明日大丈夫だろうか。リーンは絡み酒でも有名だから。

 そんな二人に紛れて、いつの間にか桃子も空のビンを何本も量産している。相変わらず行動が読めない人だ。

 神裂は傍でひっくり返っていた。ようやく再起動がかかったのか、呻き声を上げながら起き上がろうとしている。

 そんな姿を見ながら、ふと心に燻っていた質問をしてみようかと思い立つスノウ。

「先生、少しいいですか?」
「う……おお、雪ちゃんか。どうしたんじゃ? 爺の晩酌に付き合ってくれるのかのう?」
「いえ違います」

 邪気の無い笑顔でばっさりと切り捨てるスノウ。彼女に悪気は無いが、それがかえって神裂を傷付けている事に気が付いてはいない。

「……まあわかっとったよ。所詮わしなんて」
「どうしたんですか? もう酔ったんですか?」
「なんでもないわい。それで、聞きたいこととは?」

 少しいじけたような神裂の様子が気になったが、まあいいかと無視して、スノウは昼間から胸の内にあった疑問をぶつけてみる。

「……“葉上”って一体何なんですか?」
「…………」

 その質問に、神裂の視線が鋭くなった。だが、スノウはその目をあえて真正面から見つめ返して質問を続ける。

「昼間のことは聞いていますよね? あの時、いえ、天真に再会したときから気にはなっていました」

 最初は敵として刃を交えたあの時、すでに胸中にはその疑問があった。

「私は、自分で言うのもなんですけど、自分自身強いと思っています。うぬぼれでは無くこの世界でも最強の一人だと」
「確かにそうじゃな。補足しておくと、元の世界でも雪ちゃんならば確実に上位に食い込むじゃろう。かつて、元の世界の闇の中でも、特に深い部分に居たことのあるわしが言うんじゃから間違い無いぞい」
「……あまり嬉しく無いですけど」

 困ったような表情で曖昧に笑う。だがそれも一瞬、再び真顔に戻る。

「そんな私から見ても、天真の強さは異常でした。確かに彼は“人間”であるはずなのに。転化も行っていないし、かと言って肉体に何か特別な処理を施したということも無い。かつて研究所でもそういう攻撃的な能力は持っていないと判断されていたはず。なのに……」

 コロッセウムではスノウと互角に切り結び、今日は暴走状態の覚醒者と渡り合った。あれが向こうの闇の世界では普通だというのならば驚愕すべきことだが、おそらく天真のほうが普通ではないのだろう。

「私は、天真は元の世界で平穏に暮らしているものだと思っていました。研究所があちらの世界の記憶の中からすらも消えてしまったならば、彼は闇の世界のくびきから解き放たれて、普通の人間の人生を歩めるようになったのだと。けど」

 あの力、あれは決して表の世界の日常を歩んできたものが持っている類のものではない、持っていて良い類のものではない。闇の世界の中でもあれに勝るものは何人も居るかどうか。どのような人生を歩めば、10代であそこまでの力を手にすることができるようになるのだろうか。

「教えてください。彼が居たであろう場所のことを」

 そして、スノウは神裂の言葉をじっと待つ。神裂は手元に持ってきたグラスに視線を落としたままじっと動かなかったがやがて、グラスの中身を一口飲み、ポツリポツリと呟き始めた。

「昨日も話したと思うが、“葉上”の家は1000年以上も前から闇の世界で化物、人外を狩ってきた一族じゃ。その理念の一つに、人という存在のままで在るというものがある」
「人の……ままで?」
「雪ちゃんは、肉体改造の話を覚えておるかの?」
「麗君の病室へ向かっていたときの話ですか? 覚えていますけど」

 確か、天真と再会した時に神裂が発した言葉だ。訓練による肉体改造。スノウは短距離用の筋肉を長距離用に作り変えるようなものを想像していた。

「人の肉体は闇の住人達と比べて脆弱じゃからの。まずは体の“質”を変える必要があると考えられて編み出された方法じゃ。雪ちゃんは“超回復”という言葉を知っておるかの?」
「筋肉は強い負荷を受けて疲労状態となった後、2、3日後に元の水準を超えて再生される。つまり、一度傷付いて修復されると、その分強靭になるという現象ですよね。最新のスポーツ医学にも応用されているって言う」
「その通りじゃ。そして、葉上の肉体改造はそれを更に発展させた、もしくは異常なまでに先鋭化させたものなのじゃよ」
「異常なまでに?」

 その言葉の不吉な響きに、自然に表情が強張るスノウ。

「この肉体改造の方法自体は簡単じゃ。まず、半日で全身の肉という肉を疲弊させ、骨という骨を折り、内臓という内臓を痛めつける。それをもう半日で完治させる。これを毎日繰り返す」
「……は?」

 神裂の説明のあんまりといえばあんまりな内容に、スノウの目が点になる。無理もないが。

「ち、ちょっと待ってください! そんな無茶苦茶な!?」
「確かに無茶苦茶じゃが、その無茶を押し通すために、あらゆる手間暇がかけられておる。まず、この方法は第2次成長が訪れていない12歳以下の子供に施す。その年頃の子供は再生能力も一番高い時期じゃからの。もちろん、怪我をさせるときには後遺症が残るような傷は最初の頃は与えない。更に怪我の治癒は本人の睡眠中に奇門遁甲を応用した治癒術式によって行う。これによって、筋組織の休息時間を大幅に短縮することができる。無駄な時間も省けて一石二鳥じゃしな」
「一石二鳥じゃなくて!? それに、12歳以下の子の全身の骨を折ったりするのって、未成年虐待じゃないですか!? いえ、もうそんなレベルじゃない」
「もっともな指摘じゃが、まだ続くぞ? 鍛錬中は1日1回特性の漢方を飲ませて、内臓系に更に刺激を与える。もっとも、常人が飲めば体の中から爛れる様な劇薬じゃが。そんな生活を1年ほど続ける」
「そんな……」

 それはもはや訓練とは言わない。ただ肉体を痛めつける拷問だ。そんな生活を天真は1年も続けていたというのか。

「まあ、常人ならば一月も持たん。体の前に精神が壊れる。じゃが、1年耐え切ったとしても今度は体の方に変化が訪れる」
「変化?」
「そんなことを長々と繰り返すと、ある時体の方がそれに耐え切れるように変化を始める。細胞、あるいは遺伝子レベルで肉体を作り変えるのじゃ。これにより全身の作り変えが終了するのがおよそ1年後。この時、急激な変化に対応しきれずに拒絶反応を起こして死んでいくものも多かったと聞く。で、これを乗り越えればめでたく葉上の仲間入りというわけじゃ。もっとも、ここまでは入門編。ここから更に地獄のような訓練が待っているのじゃが」

 それは、明らかに常軌を逸した行為だ。確かに、それが本当ならば昨日神裂の言っていた事も理解できる。

「そんなの、おかしいです。いくら人のままで力を得たいからって……」
「雪ちゃんの言っておることは正しい。“人である”ということにこだわり過ぎて、かえって人から外れることになるとは、皮肉なものじゃの。だからこそ、葉上は闇の世界でも異質な存在の一つなのじゃが」
 
 そう言いながら、再びグラスを傾ける。そんな神裂の横で、スノウはじっと手元のグラスに移る自分の顔をにらみ続けていた。その青白い顔色は、聞かされた話の衝撃の大きさを物語っている。

「じゃがこれも、本来の目的の下地作りでしかない」
「本来の……目的?」

 顔を上げて神裂の方を向くスノウ。そんな彼女の顔を見返しながら神裂は語る。

「どのような時にも決して折れない、例え折れたとしても再び蘇る強靭で柔軟な精神を鍛え上げることじゃ」
「強靭な……精神」
「そのような拷問じみた訓練を耐え切ることによって、強大な敵と相対したときでも決して取り乱さない、どのような苦境でも自らを失わない人間を作り出す」

 確かに、そんな苦行と言うのも生ぬるい訓練を耐え切ったならば、滅多な事では動じなくなりそうだが。

「じゃがのう、やはりそんな過程を得た精神が本当に人間のままであるかどうかは疑わしい。だから、もしかしたら“葉上”とそれに連なる者達は内面が既に人とは別の存在になってしまっているのやもしれん」
「……そんな」
「研究所におった子供達はほぼ例外なく転化したじゃろう」
「え、はい」

 いきなり話題が変わり、スノウは少し戸惑う。

「天真も、昔は雪ちゃん達と同じグループに居たのじゃから、こっちに来ておれば確実に転化していたはず。しかし、現在の天真は転化の兆候をまったく見せておらん。これが何を意味するか」
「…………」

 そこまで聞いて、持っているグラスを手が白くなるほど握り締める。つまり、神裂の言いたいことは……

「転化とは力を得るために自らを変質させて、人間とは別の存在になること。それを行わんということは、その必要が無いということ。あ奴はどこかで自分自身を人間とは思っておらんのかも知れん。もしかしたら、すでに雪ちゃんの知っている天真ではな」
「そんなことはありません」

 台詞の途中で割り込み、神裂の言葉を否定する。その口調こそ静かなものだったが、その言葉の内にはとても強い思いが秘められていることを感じさせた。

「彼は……」



 ―――もしかして、雪ちゃん!?―――



「天真は……」



 ―――さすがに、大切な人の記憶を忘れたままでいるというのは私自身が許せませんからね―――



「変わっていない」



 ―――もう一度会えてうれしかったのは、私も同じですからね―――



「私達と一緒にいた頃の、まだ天と呼ばれていた頃の彼と」



 ―――約束するよ。僕は雪を―――



「大切な部分は、何一つ変わっていません」

 強く、言い切った。その口調にも、瞳にも迷いは無い。

 まだ再開して数日だが、それでも彼の優しさ、強さが以前と変わらないものであると断言できる。なぜなら、自分は―――

「ならば、わしから言うことは何も無いの」

 スノウの言葉を聞いた神裂は、満足げに一つ頷く。その様子に、スノウはきょとんとした表情を見せた後、あわてて謝罪をする。

「あ……すみません。心配させてしまいましたか?」
「いや、若者の悩みを聞くのも老人の仕事じゃて。迷いが吹っ切れたならそれで十分」

 その言葉を聞きながら、敵わないなあと内心で呟く。確かに、自分は天真が歩んできた10年を知らない。あれだけの力を身に付けなければならなかった年月を。だから、もしかしたら自分の知っている天真はその途中でどこかに消えてしまって、再会したのは自分がまったく知らない天真ではないのかと、心のどこかで不安になっていた。

 でも、変わってしまった所はあっても、天真という人間の核は変わっていないと、今なら信じられる。今日も、美亜と麗のために命がけで戦っていた。誰かのために動くことができる彼の姿は、あの時のままだ。だから、彼は変わっていないと信じよう。信じなければ、何も始まらない。

「では、悩み相談のついでにもう一つ」
「はい、何ですか?」

 神裂はスノウの耳元まで口を寄せて、何事かを呟く。それを聞いた彼女は、驚きの表情を見せた。










「ふう、やれやれ」

 宴会会場から抜け出して、一人薄暗い廊下を歩く天真。と、

「ぐ……」

 いきなり体をぐらつかせて、壁に寄りかかる。そのまま荒い呼吸で、体重を預けながらじっと佇むこと暫し、呼吸が落ち着いた頃に、ようやく体を壁から離す。その顔色は、お世辞にも良いと言えるものではなかった。

「まったく、ふがいない。あれしきの事でこの体たらくですか」

 昼間、麗が再度暴走しようとしたときに、全身に気を纏った状態の自らの体を使って魔力を押さえ込んだが、思っていた以上に負担がかかってしまった。皆に心配させないように、顔や態度には出さなかったが、そろそろ限界のようだ。

「しかも、私のせいで雪にまで怪我をさせて、どうやら少したるみすぎているようですね」

 自分が攻撃を受けたせいで、スノウはこちらに気をとられ、怪我を負ってしまった。守ると言っておきながら、この有様。言い訳のしようも無い。

「本当に、情けない」
「それはこっちの台詞だね」
「なっ!?」
 
 突然背後から聞こえてきた声に、驚愕の表情で振り向く天真。そんな距離まで相手の接近に気が付けなかった事に内心動揺しながらも、即座に体勢を整えて……

「雪?」
「雪? じゃないわよ、もう」

 暗がりから姿を見せたのは、宴会会場にいるはずのスノウだった。彼女は、呆然とする天真の目の前まで歩み寄ると、そっと手を伸ばす。

「!?」
「……魔力を直接その身で受け止めたことで、負荷がかかったのね。気が付かなかった私もどうかと思うけど、こんなになるまで黙っているなんて」

 体を触られて、ほんのわずかな瞬間反応する天真。それを見逃さず、スノウは呆れと心配を含んだ視線を向ける。

「い、いえ、大した事は無いんですよ? ただ、少し応急処置的なことをやっておいた方がいいかなーと思いまして」
「……天真」
「は、いいっ!?」

 静かな声で名前を呼ばれたと思った瞬間、スノウは天真に抱きついていた。驚いたのと、全身に走った痛みとで上擦った声を出す天真。いきなりの出来事に暫し頭が真っ白になる。と、

「……これは」

 何時の間にか、全身に穏やかな力が流れていることに気が付く。驚いた顔でその力の源である、彼女に視線を向ける。

「治癒魔術。他人を癒すのは難しいけど、こうやって体を触れ合わせて術を使うと、その部分の力の効き方が高まるの」
「あ、ありがとう……」

 あくまで冷静に説明をするスノウとは逆に、天真は内心かなり焦っていた。昼間抱きかかえていたときよりダイレクトに伝わってくるもろもろの事象に、別の意味での衝撃が全身を奔る。具体的にはむ

(ってまずい! それ以上は本当にまずい!)

 ものすごく柔らかいのに確かな弾力を伝えてくるとある部分を必死に意識しないようにしながら、全身に行き渡っている力に意識を集中する。本当は誰にも気付かれないように医務室まで行って、自分で治療を施そうとしていたが、こうなっては仕方が無い。スノウの魔術の流れを阻害しないように、自身の気の流れを調節する。

「天真」
「何ですか? 雪」

 必死で理性を維持したまま、しばらくその穏やかな力に身をゆだねていると、顔をうつむけたままのスノウが自分の名前をポツリと呟いた。

「私はこの世界で転化して、生き延びるためにモンスターと戦ってきた。そして、3年前は皆を守るために戦争にも参加したわ。その結果魔王と呼ばれるようになったの」
「……?」

 スノウの言いたいことが分からずに、内心で首を傾げる天真。そんな気配を察したのか、スノウは顔を上げて、天真と目線を合わせた。お互いの息がかかるほどの距離で見つめあう格好になる二人。

「私はもう、あなたに守ってもらうだけだった小さな雪じゃない。同じ場所で、肩を並べて戦うことができる。だから、そんなに一人で背負い込もうとしないで」
「!?」

 その言葉にはっとした表情を見せる天真。だが、その表情はすぐに苦虫を噛み潰した様なものにとって変わる。

「……ですが、私は守ると約束しました。それなのに、私のせいで」
「自惚れないで、天真」

 スノウは思いがけなく強い口調で、ぴしゃりと天真の言葉を断ち切った。彼女のそんな一面に、天真は驚いた様子で口を閉ざす。

「あなたは確かに強い、けど……」

 瞬間、スノウを取り巻く空気が変わる。それを文字通り肌で感じる天真は、鋭く光る視線を間近で受け止めながら、その重圧に内心舌を巻いた。

「言った筈、私の魔王の称号は飾りではないと。私の全てを背負うなんて、自惚れにもほどがある。だから……」

 と、次の瞬間にはその空気はまるで幻であったかのように霧散した。触れれば切り裂かれそうな鋭い表情から一転、微笑みながらスノウは天真に語りかける。

「二人で一緒に頑張っていこう? 私だって、天真が傷つくのは見たくない。けど、あなたは守るべきものを背に刃を振るう人だから。それならせめて、私も……」

 微笑みはいつの間にか、泣き笑いのような表情になっていた。そんな彼女の瞳の奥、少し輪郭が歪んだ自分の姿を覗き込みながら、天真はやれやれと溜息を吐いた。

「まったく、雪は変なところで頑固ですね。そんなところは昔のままですか」

 そして、しっかりとスノウの目を見据える。

「それは本来ならば私が言うべき台詞のはずだったのに、先に言われてしまうとは。どうやら本気で、修行をし直す必要がありそうです」
「天真、私は……」
「雪こそ、少し背負いすぎなのではないですか? 魔王と呼ばれていようと、雪は私が知っている小さな雪のまま変わっていませんよ」

 天真の言葉に、驚いた表情を見せるスノウ。そんな彼女に、今度は天真の方から微笑みかけながら、

「そうですね、ならばお互いに背中を預けてみますか。荷物は二人で背負ったほうが、楽ができますし。どうですか?」
「……うん、そうだね。そうしよう」

 そう言って、今度こそ心からの笑みを浮かべるスノウ。

「じゃあ、私の背中を天真に預けるね」
「心得ました。よろしくお願いします雪」

 新しい誓いを立てた二人。その顔には笑みが広がって―――

「ぬうわにをやっとるかあーーーーーーーーーー!!!」
「ひゃうっ!」
「おわっ!」

 唐突に響き渡った叫びに、あわてて離れる二人。振り返るとそこには―――

「……美亜さん?」
「あー!? 私がいちゃあ悪いかーーー!!!」

 そこには美亜の姿があった。だが、その顔は赤く色付き、足元もおぼつかない。つまりは……

「美亜、もしかして酔ってる?」
「んなわきゃー、ねーだろっ! あははははははは!」

 確実に酔っていた。というか、明らかに悪い酔い方をしている。 

「つ−か、天真!」
「え? 私ですか?」
「お前いつまで人のこと“さん”付けで呼んでるんだくらぁっ!」
「は? いや、そう言われましても、前に言った通り、これは癖でして」
「じゃかーしいっ! 呼び捨てで呼ばんかい、呼び捨てで!」
「き、急にそんなこと言われましても」
「おら、さっさと呼べっ! でないと……」
「よ、呼ばないと?」
「……吐きそ……」
「わー!? ちょっと待ってください、美亜さ」
「だから呼び捨てで……うっ!?」
「分かりました! 分かりましたから、美亜! とにかくどこかで休まないと……」
「おーやっと言ったか。それでいーんだよそれで!」
「え? 今の演技だったんですか?」
「…………やっぱだ」
「あーもう! 美亜! しっかりしてください! 雪も! 笑っていないで手伝って!」

 二人の様子を笑いをこらえながら見守っていたスノウは、天真の呼びかけに、あわてて口元を引き締める。

「手伝うわ、天真」

 そしてスノウは、天真と共に友達を助けるために歩み始めた。





 第3章終了、第4章へ続く。


 これにて第3章は終了です。応援ありがとうございました。
 
 来週は短いお話を掲載する予定ですので、まあ深く考えずにさらっと流し読みしてください。

 第4章は調子がよければGW中に、遅くとも5月後半にはお届けします。

 それではこれからも“異世界見聞録魔王付き”をよろしくお願いします。






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