第3話.主人公は戦争を根絶したりはしません
「うむ。何とか思い出しました」
とりあえず意識を失う前までのことを思い出し、一息つく。と、足元に何かが落ちていることに気付く。
「……御神刀?」
それは間違いなく自分を呼んでいた御神刀であった。しばらく観察した後、恐る恐る手を伸ばしてそれを掴む。
「何も起こらない……」
自分がこんな所にいる原因と思われるものを手にとって呟く。ふと思いついて刀を鞘から抜いてみる。
「…………」
磨き抜かれた、鏡のような刃に映る自分の顔を見つめる。御新刀は神秘的な光を湛えてそこにあった。まるでこの世の全てを映していそうなそれをじっと見つめた後、刀身を鞘に戻してそれを腰に挿す。
「まあここがどこかも分かりませんし、念のために武器は必要だということで家宝を無断で扱うことは許してもらいましょう」
そう呟くと同時にふと思い出す。
「確かこの刀の銘は……ん」
普段家宝とか、御神刀としか言っていなかったので忘れてしまっていた。記憶の隅に埋もれたその名前を何とか引っ張り出す。
「“蒼天”」
全ての事象を包括し、なおそこに変わらずにあり続ける広大なる空。自分の名前と同じ字を持ったその刀をしっかりと握り締め呟く。
「とりあえずよろしく。相棒」
本来返事をするようなものではないはずなのに、なぜかその呟きに蒼天は答えたような気がした。
「さて、とりあえずの問題はここがどこかということですが」
後ろは森だがちょうど切れ目らしく、目の前にあるのは見晴らしのいい草原である。とりあえず辺りを見回ってみようと思い、草原のほうに歩き出す。周囲の気配に注意しながらゆっくりと首をめぐらせていく。
と、唐突に気付いた。今までどうして気付かなかったのかと自問自答するような“それ”に。
「なんじゃあ……ありゃあ…………」
思わず変な口調になるほどの衝撃を受ける。ポカンと馬鹿みたいに口を広げながら、彼方の空、まるで天を貫かんとするそれに見入る。
それははるか雲を貫いて聳え建つ巨大な塔であった。
兎に角巨大だという言葉しか出てこない。限界まで首を傾けてその白亜の巨塔の先端を見ようとするが視界には入ってこない。どうやら成層圏まで届いているらしい。もしかしたら宇宙空間にまでつながっているかもしれない。
とりあえず現在の人類の科学力ではあんなものの建造など夢のまた夢だということだけは分かる。建造可能であればとっくに青いネコ型ロボットも実用化されているだろう。
「なんたら軌道エレベーターというやつですか?先端に宇宙ステーションでもくっついていそうな」
前に友人に借りたSF小説を思い出す。それほどまでに眼前の光景には現実味がなかった。
とりあえず分かることはここが自分が元いた場所では決してありえないということだ。それに関連して思いつく今の自分の状況は、
「タイムスリップでだぶるおーでソレスタル以下略でしょうか。いや、この場合は異世界召喚か」
ここに来る前に脳裏に閃いた光景を思い出す。広大な海にひとつだけ存在する大陸。その大陸の中央にそびえ立つ常識を打ち砕くような巨大な白亜の塔。どう考えてもそれは自分の元居た世界にはありえないものだ。
小説やゲームの影響を受けすぎだと自分でも思う。しかし、ここの空気や彼方の光景は圧倒的な現実感を持って彼に語りかけていた。
これは、夢や幻ではないと。
「どうしたものか……」
いまさらながら自分の身に起きたことの重大性に気付く天真。しばらく感じたことのなかった、途方にくれるという感覚にどっぷりと浸かっていると、
「きゃあああああああっ!!!」
突然、絹を裂くような女性の悲鳴が聞こえてきた。
「……お約束ってサイコーですね」
手垢のついた王道的展開だが、自分が何をすればよいのか判りやすいのは良い。
展開的に助けるのは王女様か聖女様だよなーと思いつつ、そんな思考とは裏腹に一瞬で精神を研ぎ澄まし臨戦態勢を整えながら悲鳴が聞こえてきた方向へと駆け出した。 |