第5話.金色の少年と白銀の少女
朝、意識が覚醒するのと同時に目を開ける前に自分の体の調子を確認する。
(良かった。まだちゃんと生きてる)
それは麗が物心付いてから毎日行われている儀式のようなものだった。毎朝自分がちゃんと生きているかどうかを確かめる儀式。そして、最近はその後に必ず自身を蔑むのも半ばその一部のようになっていた。
(毎朝ちゃんと生きているかをわざわざ確認するなんて、本当に僕の体はポンコツだな)
ベッドに寝ている時間が人生の大半を締めている自分は、人に迷惑をかけることしか出来ない。ならば早くこの世から退場するべきだとは思うのだが、そのくせ死ぬのが怖い。いまだにみっともなく壊れかけの体でこの世にしがみ付いている。
それに、安易に死を選ぶことは大切な人を裏切ることになる。
(姉さん……)
楠美亜。自分の血を分けた姉。この世で家族と呼べる唯一の人。彼女が自分の命を諦めていない限り、自分が諦めることはできない。
(でも……)
それでも時々思う。自分は姉に負担をかけているだけの邪魔者でしかないと。自分さえ居なければ姉はもっと自由に生きられたはずだと。それはいつの間にか自分の心の中心に巣食うようになったあってはならない考え。絶対に言葉にしてはならない考え。
おそらく口にしてしまえば全てが終わってしまう。だが、禁忌の言葉はいつも破滅の甘美さを伴って自分を誘惑してくる。
正直、自分がもう持たないであろうことは自分自身が一番良く分かっている。こちらの世界に来てもうすぐ1年。満足な治療も受けられずによく持ったものだと思う。こういう時だけ生き汚い自分の体が少し恨めしい。だがそれももうすぐ終わりだ。
おそらく短ければ後一月も持たないだろう。今度こそ自分は死ぬ。そのことを自覚してしまうと、あれほど怖かった死も今となっては穏やかに受け入れられるから不思議だ。だが、これでいいのだと思う。最後に自分が取り乱せば、姉はきっと一生自分を責めるだろう。そうでなくても自分が死ねば姉は自身を責めるだろうが、傷は出来るだけ小さいほうがいい。自分が笑って逝くことが出来れば姉の負担も減るだろう。ならば後自分に出来るのはその日が来るまで心安らかにあることだけだ。
(なら今日も一日笑顔ですごさなくちゃ)
そう覚悟を決めて目を開けようとする。その時、不意にベッドの傍に人の気配があることに気が付いた。看護師さんかなと思いながら目を開けてそちらを見ると、
ダー○・ベ○ダーがそこに立っていた。
「なんでっ!?」
さすがに驚く麗。心安らかに一日を過ごすという目標を出鼻で挫かれる。そんな中、驚愕の表情で固まる麗を尻目に暗黒の騎士はコーホーコーホー言いつつじっと麗を見つめている。
その頃になって、麗はようやく最初のショックから抜け出すことに成功した。と、そこで違和感を覚える。
「……小さい?」
その暗黒卿の背丈は思いのほか小さかった。寝たきりで同年代の少年達の平均よりも背が低い自分より更に下だろう。いったいこの人物は何なのかとじっと観察を続ける。
と、不意に黒甲冑が動き出す。それをじっと見る麗。また動く。視線で追う。またまた……
どうやら麗の視線を外すように動いているらしい。それでいて部屋からは出ないのだから自分に何かしらの用があることは確実なのだ。だが、相手はなぜかこちらの視線から逃げるように動き続けている。その時、麗の頭にあるひらめきが。
「あの、もしかしてじっと見られるのが恥ずかしいんですか?」
「!!!」
コクコクと何度も頷く。どうやらミニマムな暗黒卿は恥ずかしがり屋らしい。だったら何でそんな格好をしているんだと言いたくなるが、喉元まで出掛かったその言葉をぐっと我慢する。視線をやや外すことでようやく安堵したのか再びベットの脇にやってくるベ○ダー。そして、麗に話しかけ―――
「…………」
「すみません。被り物のせいで声がこもってよく聞き取れないんですけど」
「!?」
なにやら衝撃を受けた様子の暗黒卿。盲点だったと言わんばかりのリアクションだ。どうやら地声も小さい人らしい。
(なんなんだろう一体……)
こんなことをやらかしそうな知り合いは自分にはいないはずだ。最近知り合った青年はどうか分からないが、少なくともこの中に入っているとは思えない。というか入っていたら彼は人間じゃない。色々な意味で。あるいは気落ちしやすい入院患者のための病院のボランティアか何かだろうか。こんなボランティアはいやだが。
そんなことをとりとめも無く考えていると、目の前の○ース・○イダーが仮面を脱ぎ始める。一体なぜそんなものを被って自分の病室に来たのか小一時間ぐらい問い詰めたいが、とりあえずその人物の顔を見ようと仮面を脱ぐのを待つ。そして、その下から出てきた素顔は―――
「え?」
仮面の下から現れた素顔は、自分と同じかそれより下の年の少女のものであった。
その髪は日に透けて輝くプラチナブロンド。一本一本が細く、肩より少し下で切り揃えられたそれは、光の滝のようにも見える。顔のパーツも理想的に整っていて、その中心で、二重瞼の大きな両目が赤くルビーのように輝いている。つんと形よく尖った鼻に、小さめの口。肌はきめ細やかで抜けるように白い。
そして額には眼を意匠したティアラが付けられていて、少女の神秘的な美しさをよりいっそう引き立てていた。
白子。先天性色素欠乏症。漫画などでその知識はあったが、実物を直接見るのは初めてだった。そして目の前の彼女はまるで絵画から抜け出してきたかのように、神秘的な美しさを秘めていた。
呆然と、いきなり眼前に現れた美少女を見つめる麗。すると不意に少女が頬を染めてぽそりと、
「……あまり見られると恥ずかしい」
「あ、ごっごめん!?」
慌てて視線を逸らす麗。あまり表情に変化が見られなかったが、恥ずかしがっているのは分かった。こっちも顔を赤くしながら勢い良くあさっての方向を見る。だが、完全に視線を外したわけではなくチラチラと少女の顔を伺うようにする。
「そ、それで僕に何の用かな? えっと」
「シェリナ」
名前が分からずに言葉につまる麗を見て少女―シェリナ―が自身の名前を口にする。その口調と表情には殆ど変化が見られない。どうやらあまり表情が豊かなほうではないようだ。
「いい名前だね、シェリナさん」
「……ありがとう。それと、シェリナでいい」
「分かったよ。シェ、シェリナ」
名前を呼び捨てにするだけなのにものすごく気力が必要だった。名前を呼んで彼女が小さく控えめに微笑んだ時には心臓が止まるかと思った。一体自分の体はどうしたというのだろうか。とうとう終わりの日が来たというのか、それとも何か別の厄介な病気にかかったのだろうか。
なぜか彼女の顔を直視することが出来ず、しかし視線は彼女を追ってしまう。何か胸の内がぽかぽかとしてきて、頭がボーっとなる。もしかしたらものすごくやばい病気にかかったのではないだろうか。
「体」
「うえっ!?」
「体は大丈夫?」
「だ、大丈夫! もう元気いっぱいでフリークライミングなんかも出来るくらいなんだ!」
「? 元気ならよかった」
やはり表情を変えないまま首だけ傾げるシェリナ。そんな彼女に錯乱してわけの分からない回答をしてしまったが、ここ最近体の調子がいいのは事実だった。大体2週間前、天真と初めて会った辺りからひどい発作も無く毎日穏やかに過ごせている。医者は小康状態だといっていた。自分自身は最後が近付いているからだと思っていたが。
そんなことを考えている間も、心拍数が急上昇して微妙に興奮状態の麗。そして、その興奮度は更に上がってしまう事になる。突然シェリナが麗の手をとったのだ。
「な、ど!?」
いきなり手を握り締められ、更に眼を覗き込まれて麗は混乱の極致に。
なぜいきなり手をそんな大胆なでも柔らかくて暖かくていやいや僕は何を考えているというか近くで見るとやっぱりかわいいし眼大きいしきれいだし吸い込まれそうな涙もきれいだって……
「え!?」
その大きな瞳から零れ落ちる雫。シェリナは表情を変えることなく泣いていた。その大きな瞳からとめどなく涙があふれてきている。この反応に更に慌てる麗。
「ご、ごめんなさい!? 僕何か気に障るようなことをしたのというかもしかして握った手が痛かったの僕が悪いのなら謝るからとにかく泣き止んでえええええええええ!?」
わけも分からず始まった謝罪の言葉は途中で驚愕の叫びに変わった。またしても突然、シェリナが麗を抱きしめたからである。もはや頭が熱暴走しすぎて涅槃の彼方に逝きそうになる麗。
と、その時煮えたぎった思考を一瞬で冷ます涼やかな言葉が耳に届いた。
「泣いてもいいの」
「え?」
今泣いている彼女がなぜそんなことを言うのか? いや、それは彼女のことではなくて、
「苦しかったら泣いてもいいの。辛かったら叫んでもいいの。自分の中に溜め込んじゃ駄目」
心の奥深くに手を差し込まれた気がした。さっきまであんなに熱かった体から、一気に血の気が引いていく。
「な、んで……」
「大切な人のために我慢することも必要。でも、それも過ぎれば結局大切な人を傷付けることになる」
「そんなことっ!」
喉元まで出かかった言葉は結局形にならなかった。まるで喉に何かがつかえたかのように言葉が出てこない。そもそも、なぜ君は知っているのか?
「自分を嫌いにならないで。お姉さんが悲しむ」
「できるわけないだろっ!」
一瞬のうちに思考を支配した熱が、喉のつかえをものともせずに言葉を吐出させた。そして激情のままに更に言葉を重ねる。
「僕が居るから姉さんは苦しんでいるんだっ! 僕さえ居なくなれば姉さんは自由に生きられるんだっ! 姉さんに寄生して迷惑しかかけられないこんな僕に生きる価値なんてないっ!! 僕さえ死ねば全部良くなるんだっ!!!」
熱は収まらず、激昂のままに言葉を吐出していく。もはや相手が初対面の少女だということも、なぜ誰にも話したことのない自分の心の内を知っているのかということも頭に無かった。何年も胸の内に溜まっていた言葉は出口を見つけて勢い良く飛び出していく。すでに制止できる状態ではないし、そのつもりもない。
「知った風な口を利くな! 君に僕の何が分かる! 毎日死の影に怯えて生きる僕の気持ちなんて誰にも分からない! 優しい言葉をかけて自己満足するような奴らの戯言なんて聞きたくも無い! もう放っておいてくれ!」
もう自分でも何を言っているのか分かっていない麗。そんな彼をシェリナはただただ強く抱きしめてその言葉を黙って聞いていた。そうしてどのくらいの時間が経っただろうか? 麗は叫び続けた喉に痛みを覚えた。
その頃になってようやく思考の熱が冷め始める。何年も押さえ込んでいたものを吐出して少し落ち着いた彼に、シェリナが語りかける。
「あなたの願いは何?」
「……願い?」
「今までずっと見ない振りをしていた、あなたの心からの願いは何?」
その言葉は溜まっていたものを吐出して空っぽになった胸の中に、染み渡るように広がっていった。そしてそれは、心の奥底に沈めていたかつての願いを呼び覚ます。同時にそれが呼び水となって、その眼からは大粒の雫が流れ始めた。
「僕は、生きていたい」
「うん」
「死にたくないんだ、何も出来ないまま」
「うん」
「もっと丈夫な体になって、姉さんを守りたい」
「うん」
「僕は、もっと、う、ううううう」
その両目から溢れる雫は途切れることを知らずに次々と湧き出てくる。麗は目の前の女の子に縋り付く様に抱きつき、久しく忘れていた涙を流す。
どれほどそうしていただろうか? ようやく涙が止まり始めたとき、シェリナが麗の顔を覗き込むようにして言った。
「大丈夫」
その瞳に宿るのは決意。その華奢な体からは考えられないほどの力強さを秘めた。
「私が、あなたを死なせない。必ず救ってみせる」
目の前の少女は確かな力強さをもってそう言い切る。
常識的に考えて、今まで本職の医者達でさえも匙を投げた自分の体がいまさら治るとは思えない。しかもそれを言ったのが自分よりも小さな女の子なのだからなおさらだ。だが、なぜかこの時麗はシェリナの言葉を疑うような気持ちにはなれなかった。
それは、彼女の言葉に確かな力強さがあったからだろうか。それとも他に理由があったからか。兎も角、この時の麗にシェリナの言葉を信じないという選択肢は存在しなかった。
だから、彼女の言葉にこう答えた。
「ありがとう。信じてる」
その言葉を受けて、シェリナが微笑む。その笑顔は、言い表すなら今まで見たものの中で一番きれいだった。だから、その言葉が口をついて出たのも無意識のうちだった。
「きれいだな」
「!?」
唐突に呟かれた言葉は少女の白い肌に赤みを帯びさせた。そのほとんど動かない表情が羞恥に染まる。
「あ、今のは違うんだ!?いや違ってはいないけどつい本音が出てしまったというか何言ってるんだ僕はホストじゃあるまいしでもそう思ったのは事実でってそんな離れないで!?」
麗のフォローになっていない言葉に羞恥の限界を超えてしまったシェリナは、顔を赤くしたまま部屋の隅に逃げてしまう。そんな事態を引き起こした張本人はとにかく落ち着こうともう一度深呼吸。ようやく落ち着いた頃にシェリナも戻ってくる。
「えっと、よく考えてみたらまだ僕のほうの自己紹介がまだだったよね? 僕の名前は麗。楠木麗。呼び方は麗で良いよ」
「分かった、麗」
「それで、まだこの状況がよく分かってないんだけど、一番知りたいことを聞くね。シェリナは何者なの?」
その問いにうつむいて考え込むシェリナ。しばらくそのまま固まっていたかと思うと唐突に顔を上げてこう呟いた。
「医者?」
「……いや無理があるから。第一なんで疑問系なの」
「?」
どう見積もっても自分より年がいっているとは思えない彼女のずれた回答に、どっと疲労感が押し寄せる。もっとも、実はこう見えて二十歳をとっくに超えているとか言われたら自分は即座に首をくくると思うが。それとも彼女は助手で、21を超えるとアウトな感じの無免許の凄腕外科医でもいるのだろうか。
そこまで考えて、そういえば毎朝の回診はどうしたのだろうと思った瞬間に、自分が根本的な間違いを犯してしていたことにいまさら気付く。
「え? というかここ何処!?」
よく辺りを見回してみれば、そこは慣れ親しんだ自分の病室ではなかった。色が全体的に白い所は同じだが、自分の病室よりも大きく、なにやら建物も立派な感じがする。
「ここはお城の中」
「お城? お城って……」
この世界の基礎知識を急いでひっくり返す。確かこの世界には城と呼ばれる建物は一つしかなくて、それが立っている場所は確か……
「あの、もしかして今僕がいる場所の名前はニューオーダーと言うんではないでしょうか?」
「うん」
恐る恐るという感じで尋ねた質問にあっさりと返事を返すシェリナ。ニューオーダー、それは魔族の国の首都の名前である。そしてそこに建っている城と言えば当然魔王城で、
「じゃあここはオリジン城?」
「うん」
またしても即答。なんだか泣きたくなってきた。なぜ自分が魔族の国に、それも首都の中心たる魔王城の中にいるのか。さっぱりわけが分からない。もしかして起きてから今までの事は全て夢だったのではと―――
「夢じゃない」
「えっ!?」
いきなり自分の考えを否定されて驚く麗。と、そこで先ほど抱きしめられた時の記憶がよみがえる。なぜ彼女はああも正確に自分の心の内を言い当てることが出来たのか。ここは魔族の国で目の前の少女はまるでこちらの心を読むかのように……
「……そう。私は魔族。私は他人の心の中を見ることが出来る。厳密に言うと私の力は読心とは少し違うけれど」
「!?」
口に出していないはずの自分の考えに正解を出されて驚く麗。しかし、どこかでその応えに納得している自分も居た。そして、ようやくさっきの出来事の答えに気が付く。
「じゃあ、さっき泣いていいって言ったのは僕の心を読んだからなんだ」
「……」
その言葉にわずかに顔を伏せるシェリナ。その表情は変化が無いなりに暗く沈んでいた。突然暗く落ち込んだ彼女に、どうしたのかと思った矢先、
「……ごめんなさい」
その顔に浮かぶのは悲しみ。涙こそ無かったものの彼女が悲しんでいるということは十分すぎるほどに分かった。
「怖がらせてごめんなさい」
「!?」
その言葉に愕然とする麗。ようやく彼女の謝罪の理由に気が付く。シェリナは自分の力が麗を傷つけたと思っているのだ。
「お面を被っていれば力を抑えられたけど、それでもあなたの心が見えたから。自分が全部悪いって、苦しんでほしくなかったから」
そう言って再び謝るシェリナ。そんな彼女の姿を見て麗は妙に納得してしまった。おそらく、彼女は自分の力が不用意に使用すれば人を傷付けるものであるということを自覚しているのだろう。重すぎるくらいに。
確かに他人に無断で心を覗かれるというのは、普通は忌避すべきことだ。それに力を抑えていたということは、普段は無意識のうちに覗いてしまうのかもしれない。ならばそれが原因であらぬ誤解を受けることも多いのだろう。だからこそ彼女は自分に謝っているのだ。その罪を誰よりも自覚しているから。でも……
「謝るのはこっちだよ。辛い思いをさせてごめん」
「……え?」
まさか逆に謝られるとは思っていなかったのか、シェリナはきょとんとした表情で麗を見つめる。そんな彼女に心配しなくていいという思いを込めて微笑みかける麗。
「シェリナは僕の心を軽くしてくれたんだし怒る理由が無いよ。それにシェリナは僕のためを思って怒られるかもしれないのを承知の上で力を使ったんでしょ? だったらむしろ謝るのは僕のほうだよ」
「そんな事無い。心を覗かれて、気分のいい人なんて……」
「まあ普通はそうなんだろうけど、僕はずっと病院で寝ている生活だったから正直そんなに裏表が出来るほど人生経験をつんでいないし、読まれて困るようなのはさっきので全部かな。さっきのは怒っていないから、後は見られても困るようなものは残っていないし、もう何も問題はないっていうこと」
そう言う麗をシェリナはじっと見つめている。今までに無い対応にどう接していいのか分からないのだ。
「あ、疑うのなら今僕の心を覗いてみてもいいよ」
「……そんなに軽々しく言わないで。心を覗くっていうのは」
「大丈夫」
少し怒気ををはらんだ反論は麗の笑顔によって遮られる。
「さっきも言ったでしょ? 僕はシェリナのことを信用してるから。だったら何も問題ないでしょ?」
心を覗くまでもなく、それが彼の本心だというのは分かった。その反応にシェリナのほうが驚く。こんなことを言われたのは、自分のことを認めてくれたのはあの人たち以来初めてで、なんだかとても胸が温かくなる。
気がつけば涙がこぼれそうになっていた。でも、それではだめだ。それでは自分は何も成長していないことになる。だから今はあの時言われた通りにしようと思った。瞳から零れ落ちそうになる物を必死で押さえて、あの時と同じ言葉を、
「……ありがとう」
「うん」
そして二人はお互いに微笑みあった。
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