第10話.戦う者たち
「まずは礼を言わせてもらおう。我々の仲間を助けてくれて感謝する」
宿屋の地下(秘密の部屋らしい)に案内された天真は、美亜たちのリーダーだと紹介された人物と向かい合って座っていた。
自己紹介によると彼の名前は東堂玲一と言うらしい。見た目は三十代前後の切れ者といった雰囲気の男性だ。その両隣にはごつい欧米人男性とそれとは対照的に細身の日系人男性が控えている。ごついほうがロック、細いほうが竹永だと紹介された。二人ともこの組織のサブリーダーだそうだ。後部屋の中にいるのは天真の隣に美亜、それと守衛らしき人物が1人。
「まあ私も成り行きで助けたようなものですし、そんなに改まってお礼を言われることでもないです」
「そう言ってくれるならこの話はここまでにしよう。それで聞いたところによると君はこの世界に着たばかりのようだが……」
「はい。そういう理由でこれからどうしようかといった時に、美亜さんにこちらに誘われたわけなんですが」
「ふむ……」
天真の話を聞いて考え込む東堂。
「リーダー。この人の腕は実際に見た私が保証します。今は腕の立つ人がたくさんいたほうがこの後の作戦にも……」
そこまで言った瞬間、東堂はギロリと美亜をにらむ。その視線に射すくめられて、うつむいて黙り込む美亜。天真はその様子を横目で観察しながらどうするかを考えていた。だが情報が決定的に不足している。今はまだ大人しくしていようと再び視線を正面の東堂に戻す。
「一つ質問、いやこの場合確認しておきたいことがあるのだが」
「なんでしょう?」
「君は今日こちらに来たばかりだと言った。そしてその後すぐに美亜が襲われている現場に遭遇して襲っていた魔族2人を返り討ちにした。そして美亜に連れられてここに来た」
「はい。その通りですが」
「どうして君はそんなに落ち着いているのかな?」
視線を鋭くしながら東堂が問う。
「いきなり見知らぬ場所に放り出されて次の瞬間には異形の者たちとの戦闘。いくら武術をたしなんでいて腕に自信があったとはいえあまりにも冷静に対処しすぎている。まるでこれが初めてではないかのように」
東堂のその言葉に室内の人間の緊張が一気に高まった。両脇のサブリーダーたちは視線を剣呑なものにし、守衛は手に持っていた槍を心持ち天真のほうに向ける。
そんな一触即発な状況の中で天真は変わらずマイペースに、
「ああ。やっぱり分かりますか」
となんでもないかのように応えた。
室内の緊張感が更に高まる。
「天真……。あなたまさか」
隣の美亜も険しい表情を天真に向ける。
「まあ皆さんが心配していることも分かります。要するに私がスパイではないかと疑っているんでしょう?」
東堂は答えなかったが、表情はその問いを肯定しているように見えた。
「まあ私がスパイではないという証明は出来ませんが、先ほどの東堂さんの疑問になら答えられますよ。と言いますか、すでにある程度予想が付いているみたいですが」
「……リーダー?」
その天真の言葉に室内の全員が東堂に訝しげな視線を向ける。その無言の問いに答えるかのように東堂は口を開いた。
「ということは、やはり君は元々の世界で退魔師をしていたのか」
「はい。うちの家系は全員その手の職業についていますので、小学生の頃から私もそちらの仕事を少々手伝っていました。高校も卒業したので、この春から本格的にそちらに就職するつもりだったのですが……」
「ちょっ、ちょっと待って!?」
どこかのんびりと会話を続ける二人に、あわてたように美亜が口を挟む。ふと気付くと、室内の面々は天真と東堂の二人を除いて唖然とした顔をしていた。
「天真!! 元々の世界で退魔師をしていたってどうゆうことよ!?」
「え? 言葉通りの意味ですけど。あ、ハンターのほうがよろしかったですか?」
「名前の問題じゃないいいっっ!!!」
聞きたいことが伝わらないもどかしさに叫び声を上げる美亜。ついでに天真の胸倉を掴んで前後にシェイクをはじめる。
「落ち着け美亜」
「リーダーもなんで落ち着いているんですかっ? と言うかなんでそんな異常な会話を普通に続けられているんですかっ!?」
「だから説明してやるから落ち着けと言っている。ついでに客人がすごいことになっているぞ」
「え?」
その言葉で我に返る。自分の手元を見るとなんだか霊体が半分以上口からはみ出してるっぽい天真が、
「ご、ごめんなさいっ。だいじょうぶ!?」
「ああ、きれいな花畑が川の向こうに……」
「逝くなあーっ!!!」
ドゴッ
「ぐぶっ!?」
捻りの入った拳がいい感じに鳩尾に突き刺さる。傍目には止めを刺しているようにしか見えない一撃だが、そのおかげで蘇生を果たす天真。
「はっ。私はいったい!?」
「い、いやあねえ。話がつまらないからって寝ることはないでしょ」
涅槃から無理やり呼び戻されて記憶が混乱している天真に、視線を逸らしながら誤情報を植えつける美亜。
「え、寝てましたか? それはすみません」
それを疑いもなく鵜呑みにする天真。ちなみになぜか室内の人たちが自分から視線を逸らしているのが気になった。
「説明を始めたいのだが、いいか?」
眼前で繰り広げられたコントを完全に無視して話を始めようとする東堂。色々な意味で強者である。
「まあ説明といっても、元々の世界にも魔術や悪魔、妖怪といった幻想世界の代物が実在しているというだけなのだが」
「ええっ!? そんな頭の痛い人たちの想像上にしか居なさそうなものが、現実にもいるんですかっ!?」
「いや美亜さん。私の目の前で魔術を使っておいて、そんな言い方はないでしょう」
美亜のあまりの暴言に突っ込む天真。
「だってこっちの世界はともかく元々の世界にそんなものが存在するなんて……」
「まあ一応こちらの魔に属する社会のことは一般社会、俗に言う表のほうには秘密になっていましたから。それに、元々の世界からこちらの世界に飛ばされると言う事象そのものが、元々の世界に魔が存在するという証左になっているでしょう?」
「ん……確かに」
ようやく天真の説明に納得する美亜。
「ということは、元々の世界でも私たちの知らないところでファンタジーのような出来事が起こっていて、天真はその当事者の一人だったってこと?」
「その通りです。事実は小説より奇なりとはよく言ったもんだとつくづく思っていました」
未だにショックが抜け切らないのかぽかんとしている美亜。気がつくと、天真と東堂を除いた室内の全員が同じような状態になっていた。
「あれ? ということはリーダーもそちら側の人間だったんですか」
ふと気づいた美亜が東堂に向かって質問をする。
「いや。私はこちらに来るまでは俗に言う表の一般人だった。なぜ裏の事情を知っているかと言うと、裏の社会に属していてこちらに落ちてきた天真氏のような人間の知り合いがいたからだ。あとなぜその話をしなかったかと言うと、元の世界にもそういう社会があると言っても今の私たちにはあまり関係がない。だから特に話す必要性を覚えなかったのだよ」
その説明に納得する一同。
「さて話が多少ずれてしまったが、君がこの世界のことは初心者でも人以外のものと戦う事に関しては素人ではないということは分かった」
改めて天真を正面から見据える東堂
「それで、私のスパイ疑惑はまだ晴れていないわけですけどどうしますか?」
「ふむ……」
自分のことだというのにあくまでのんびりと尋ねる天真。腕を組んで再び考え込む東堂。室内に沈黙が落ちる。
「リーダー」
その沈黙を破ったのは美亜の声だった。
「この人は信用してもいいと思います。確かにスパイではないという証拠はありませんが、話を聞いた限りでは怪しい所はありませんでした。それに助けてくれた時、襲ってきた二人組も含めてこちらを欺こうという様子はありませんでした。私は信用してもよいと思います」
その発言を聞いて東堂は肩をすくめながら応えた。
「まあ確かに嘘をついているようには見えないな。いいだろう、客人葉上天真の我らの組織への入会を許可しよう。」
「ありがとうございます」
その返答にうれしそうな顔を見せる美亜。これでしばらく寝食の心配は要らないかなと考えながら天真はもっとも疑問に思っていることを聞いた。
「あのう、組織に入れてくれることにはお礼を言いますけど結局ここは何をしている所なんですか?」
その問いに動きを止める組織の皆さん。
「……話してなかったのか美亜?」
「すみません。入り組んだ話はこっちでまとめて説明しようと思って、この世界の大まかな事までしかまだ……」
その言葉にため息を付きつつ説明を始める。
「こちらの世界に落ちてきたものの中から姿形が変化するものが現れるという話は?」
「それは美亜さんに聞きました。確か“転化”と呼ばれている現象ですよね。それで人間が魔族になると」
「少し違う。正確に言うと人間から変化する種族は大別して6種族になる」
「そんなにあるんですか!?」
驚く天真に一つうなずくとさらに説明を続ける。
「身体的な特徴や獲得する能力の違いで大雑把に6つに分かれている。それぞれ“魔族”、
“竜人族”、“獣人族”、“樹人族”、“妖精族”、“海洋族”と呼ばれていてそれぞれにその種族を統括する王が一人ずつ存在している」
「もしかしてそれは“魔王”、“竜王”、“獣王”、“樹王”、“妖精王”、“海王”と呼ばれているんですか?」
「その通りだ。ちなみにそれぞれの種族がどのようなものなのかは、まあ名前から推測できる通りだと言っておこう。」
「………本当にファンタジー、というかRPGの世界ですね」
「だから私が言ったじゃない。ここはゲームと寸分違わず同じ世界だって」
本当に中二病的な設定に精神的に少し引き気味になる。
「それでまさかと思いますが、この組織はその6人の王様を倒そうとしている人間達の組織だとか……」
「あら、よくわかってるじゃない」
恐る恐るという感じで口にした考えをあっさり肯定されて悲しくなった。入会は早まったかなーと思いつつもさらに質問を重ねる。
「それで、なぜこの組織は王たちを打倒しようとしているんですか? まさかラスボスだからとか言わないですよね?」
「そこまで身も蓋もない言い方をされるとこちらも返答しにくいのだが、実はあまり間違っていない」
「えっ、本当にそんな電波な理由なんですか?」
「ちょっと! その言い方だと私達が電波を受信してる痛い人たちに聞こえるじゃない!!!」
あんまりな言い方に即座に食いつく美亜。さすがに言いすぎたと天真も反省の色を見せる。とりあえずあやまろうとしたその時……
「正確に言うと、私たちの目的は王を倒して元の世界に戻ることだ」
その一言で一気に室内の空気が硬化する。まるでその言葉に戒めの力が宿っているかのように誰もが微動だにしなくなる。そんな重い雰囲気の中、たった今吐き出された言葉を思考の中で反芻しながら天真は慎重に問いを重ねる。
「つまり6王全てを倒せばゲームクリアー。全員元の世界に戻ってめでたしめでたしのエンディングと、本当にそんなゲームのような展開になるんですか?」
「それは分からない」
この東堂の発言に首を傾げる。目的は元の世界に戻ることだと言い、その方法が王を倒すことというのにそれで戻れるかどうか分からないとはどうゆう事か。
「これはこちらの世界にいつの頃からか流れ始めた噂だ。“この世界は中央のバベルの塔を中心に6人の王達によって支えられている。よって王を倒せば世界に綻びができ元の世界に戻れる”」
「その噂話の信憑性は?」
「調べたが結局どこから流れたか分からなかった。裏付けも取れていない。まさか魔王達に直接“あなたを倒せば元の世界に戻れますか?”などと聞くわけにも行かないしな。だが、6王たちがこの世界にとって特別な存在であるのは事実のようだ。試してみる価値はある」
「噂に命を掛けるんですか?」
「この方法しかできることがない、ということだ。他に方法が無い以上ただじっとしているよりも何かしらの行動を起こしたほうがよいと思わないか」
東堂の言葉をよく考えてみる。確かに他に方法が見つからない以上、たとえどれほど信憑性が低くともこの噂に掛けてみるのも1つの手ではある。そして行動を起こさなければその真偽も確かめることは出来ない。
(まあ、話を聞く限りではあながち的外れというわけでもなさそうですが)
「話をまとめるとこうなるわけですね。元の世界に戻るためには転化した人達の6人の王を倒さなくてはならない。この組織はそのために一般人達が作ったものである。よってこの組織は転化した人たちと戦い続けていると。そうすると私は即戦力として期待されているというわけですか」
「話が早くて助かるよ」
そう言うと、東堂はこの話し合いの中で初めての笑みを浮かべた。
「人外の者達との戦闘のプロフェッショナルとして君を歓迎しよう葉上天真。この世界の全ての人間達のためにその力をぜひ役立ててほしい」 |