episode.1 -The Priestess-
episode.1-5「多面性」4/27
桐条美鶴は過去に類を見ないカリスマ的存在だ。
押しも押されぬ、月光館学園生徒会長。
彼女の代から生徒会は変化し、生徒教師双方からの絶大な支持を得て様々な改革を成し遂げてきた。
そんな現在は、彼女の生い立ちから見れば当然なのかもしれない。
彼女は巨大財閥である桐条グループの直系。
幼い頃から桐条グループの中心になるために彼女は様々な教育を受けた。
そのスキルを惜しみなく発揮し、今の生徒会がある。
しかし、カリスマの存在というのは同時に困難を生む。
彼女は三年、生徒会から身を引く時期が近い。
できるかぎりその時期は引き延ばすつもりだが、どんなに頑張ったとしても卒業をしないわけにはいかない。
そして、彼女が卒業しても生徒会は残る。
しかし、次代の生徒会が彼女のいたときと同レベルで活動できるだろうか?
彼女ほど能力のある人間はなかなかいない。
次代の生徒会長は彼女と比較され、非常に苦しい立場となるだろう。
様々な重圧を受け、彼女が来る前の生徒会よりもレベルが落ちかねない。
彼女は自分ほどの仕事ができる人間はこの学園におそらくいないことを理解していた。
彼女は今後の生徒会の道を模索し、自分の最後の任期の目標を複数の優秀な人材を育てることとした。
一人で自分に及ばなくても、複数の優秀な人間がいれば今以上の生徒会を作り上げることができると考えたからだ。
その未来を担う中心として、彼女が期待する人間が三人いる。
現生徒会風紀委員の小田桐秀利。
現生徒会会計の伏見千尋。
そして、特殊課外活動部暫定リーダー有坂湊である。
episode.1-5「多面性」
「有坂、君に頼みがある。生徒会に入ってもらいたい」
昼休み、いきなり教室に現れた美鶴に連れ出され突然な要求をされた。
「……いきなりなんですか。なんで僕が生徒会に?」
あまりに唐突で、逆に冷静に答える湊。
「生徒会長になってから、私はいろいろな改革をしてきた。しかし私ももう引退が近い。そこで次代を作る優秀な人材を探していたんだ」
「それで僕が、ってことですか。僕は別に生徒会の経験なんてありませんし、ペルソナを使えなければただの平凡な人間ですよ?」
「もちろん君はペルソナ使いとしても優秀だが、それだけじゃない。確かにそれを感じたのは影時間でだがな」
美鶴が湊を買う理由。それはタルタロスでの戦いぶりにあった。
「敵三体!タルタロス第一層の番人のようだ。今までのものより明らかに強い!注意しろ!」
「了解」
「了解です」
「ラジャ!」
タルタロスの四回目の捜索。
14階はいままでのフロアとは形が全く異なり、シャドウの反応は3つしかない。
しかし、その3つの反応は非常に強いものだった。
「美鶴さん、敵の特徴は?」
湊が通信機を通じて美鶴に問いかける。
「名はダンシングハンド。アルカナは魔術師、四属性すべての魔法を使ってくるようだ。弱点はこれから調べる、もう少し待ってくれ」
「わかりました。伊織、岳羽!自分の弱点への攻撃を喰らわないことが最優先だ。深追いするなよ!?」
「ういッス!」
「わかった」
順平がヘルメスを、ゆかりはイオを召喚し、炎の玉と風の塊をぶつける。
敵の弱点ではないようだが、着実にダメージを与えている。
湊も隙を見て接近し、剣でシャドウを切り裂く。
しばらく拮抗状態が続き、徐々にシャドウの体力を削っていく。
しかし攻めるうちに、ゆかりは不用意に近付きすぎた。
「まずい岳羽、ジオだ!」
「ッ!!」
美鶴の声で気付いたときには既に遅く、電気の塊が自分に迫っていた。
「ゆかりッチ!」
順平が焦った声をだす。
思わず目をつぶるゆかり。
しかし衝撃はこなかった。
「深追いするなっていったろ。……間合いに気をつけて」
ゆかりが目を開けると湊の背中が見える。
湊が身代わりとなったのだ。
「あ、ありが……ってそのペルソナ!?」
湊の傍にはいつものオルフェウスではない、妖精のようなペルソナがいた。
美鶴からアナウンスが入る。
「有坂、まともに受けたようだが大丈夫か!?」
「はい。それより先輩、弱点は?」
「打撃属性が有効だ」
「わかりました。岳羽!僕ら二人で物理系の攻撃するから使った体力を回復してくれ」
「わ、わかった」
やや上ずった声でゆかりがイオを呼び出す。
攻撃を繰り返した順平の体力を回復させた。
「サンキューゆかりッチ!オラァ!」
再び斬撃の刃が敵の体を貫く。
三体のシャドウはかなり弱ってきているようだ。
「とどめ刺しにいくぞ……オルフェウス、突撃!!」
先程の妖精ではなく、今度は見慣れたペルソナが現れる。
オルフェウスが三体のシャドウに体当たりしていく
「弱点に命中、敵は総崩れだ!」
「よし、ここで決めるぞ!」
湊は二人に目配せをし、シャドウに総攻撃を仕掛ける……。
「あの時は驚いたぞ、まさか複数のペルソナを使えるとはな」
「まあ、ちゃんと使えるか自信が無かったんですけど。オルフェウスも電撃が弱点なんで、それしか手が無かったんです」
湊が苦笑いしながら答える。
「あの日以来、君は伊織や岳羽の弱点属性に耐性のあるペルソナを使って二人を庇ったり、敵の弱点を有効についたり」
「……美鶴さんのサポートのお陰ですよ」
美鶴は首を振る。
「いや、確かに私の補助も多少は役に立っているかもしれないが……それだけじゃない」
美鶴は湊をしっかり見据えて続ける。
「君の状況判断の力には素晴らしいものがある。確かに耐性ペルソナで仲間を守るというのは理論上は可能ではあるが……決して簡単なものじゃない」
基本的にシャドウと戦うときは集中攻撃を避けるために散開している。
相手が攻撃を放った後に味方を庇おうとしても間に合わない。
それを可能にするためには敵と味方の位置関係や能力、体力などを正確に判断した上で敵の攻撃を予測しなければならない。
湊は美鶴からのフォローがあるとはいえ、それを実現しているのだ。
自分も危険にさらされている状況下で、である。
「冷静に周りの状況を判断し、慎重に。ときに大胆に。そんな人間が生徒会に欲しかったんだ。影時間のことを知る人間が生徒会にもう一人いればいろいろと辻褄を合わせやすいこともあるしな。君は部活もあるし、タルタロスの探索もあるから忙しいだろうから、都合のつく日だけでいい。……頼めないか?」
そこまで評価されると、湊としても断る気にはなれなかった。
「……期待に添えるかはわかりませんが、都合のいい日だけでいいというのであれば。」
美鶴はほっとした表情をみせる。
「ありがとう。細かい手続きは私がしておくが、明日にでも担任の先生のところに行って入会届けにサインだけしてきてくれ。今日の放課後にも活動があるから、顔見せと見学を兼ねて生徒会室に来てくれるか?」
湊が頷く。
ちょうど予鈴がなり、バラバラと生徒が教室に戻り始めた。
「それでは、頼む」
美鶴も湊に別れを告げ、去っていった。
「紹介しよう、有坂湊だ。非常勤のメンバーとして生徒会に協力してくれることとなった」
放課後、生徒会室にて美鶴に紹介される。
会長直々の推薦ということで皆湊に興味深々だ。
「初めまして、二年の有坂です。よろしくお願いします」
パラパラと拍手が起こる。
見たところ十人ほどいるようだ。
「今日は彼にはどのような仕事があるのかを見てもらう。皆は気にせず作業に取り掛かってくれ」
美鶴の言葉に、それぞれが作業に入る。
そのうちの一人が、湊の方に寄ってきた。
「初めまして、小田桐という。有坂君だったね?会長が推薦するほどの人間、というのは非常に興味深い」
「はぁ……」
――そこまで大層な言い方をされても。
「今日は私には仕事が余り無くてね。君の考え方を聞いてみたい」
「考え方、というと?」
「率直に言えば、少し議論してみたいということだ。例えば……そうだな。今、学園では制服を廃止するという意見が出ている。この意見についてどう思うね?」
思わぬ話題の展開をされて、少し間を作る湊。
小田桐の雰囲気を見るかぎり、適当に答えることは許されなさそうだ。
しばらく考えてから、湊は口を開く。
「一概には言えないかな。制服というのは一種規律の象徴ともいえる存在だ。それを無くすというのは規律を無くすものと考えられなくもない」
小田桐は頷きながら同意する。
「それは私も同意権だ。一般生徒はそのあたりを理解していない。……ただ、一概に言えないというのは?」
「規律を守る、というのはある意味で非常に消極的な行動だと思うんだ。もちろん、ルールがあるからには破るべきではないけどね。でもルールを守っていればいい、という考え方は甘い、と思う」
「甘い?」
「うん。規律があれば自分で判断せずに正しいと周りから思われる行動を取ることが出来る。そこに自己の判断はない。これは消極的といえないかな?自分の行動に責任を持つことを放棄するなんて」
今度は小田桐少し考えて、反論する。
「だが、集団の中に規律が無ければ集団生活というのは成り立たない。違うか?生徒は厳格な規律の中で社会を学び、適切な生活を送るべきだ」
「違わない。けど、だからといって生徒のすべてを管理しようとするのは違うよ。そんな環境で生まれる生徒は、ただの従順なロボットでしかないでしょう?」
湊と小田桐は互いを見据える。
先に表情を崩したのは小田桐だった。
「面白い。非常に面白い。私の意見を理解した上で、さらに違った視点を教えてくれる。私の意見に理屈で反論してくる人間は今まで居なかった」
皆生徒感情がどうとかそんな理由しかいわないからな、と小田桐は呟く。
「これからの活動が楽しみになってきたよ。よろしく、有坂君」
その様子を美鶴は満足げに見ていた。
行動力と強い信念を持つが、融通が利かなく、王様のように他人を見下した態度が反感をかってしまう小田桐。
彼にいい影響を与えてくれそうだと、美鶴は期待した。
――あとは、こっちの内気な少女がどうかだが。どうやら問題なさそうだ。
美鶴は向かい側に座っている伏見千尋に目をやり、フッと笑う。
千尋は議論を交わす二人の様子に、とくに湊に見入っているようだ。
「伏見」
「は、はいっ!」
わたわたとしながら美鶴に向き直る千尋。
「有坂にいろいろと雑務を教えてやってくれ。有坂は君のサポートにつける。君には負担を掛けっぱなしだったが、有坂が居ればだいぶ楽になるだろう」
「あ、いえ……。わ、わかりました」
「あ、あのっ、有坂さん?」
湊が振り返ると、眼鏡を掛けた女の子がノートを抱えて立っている。
「どうしました?」
「あ、私一年で会計の伏見といいます。えっと、あの……」
言葉を探すのに苦労しているようだ。
湊はそのままの体勢で待つ。
「会長に言われて、有坂さんには私の仕事を一部分担してもらうことになりました。よろしくお願いします」
「うん、わかった。こちらこそよろしく」
「あの、すいません。私人と話すの、特に男の人と話すの苦手で、迷惑かけてしまうかも……」
千尋は申し訳なさそうに俯く。
「気にしなくていいよ。それが資料?」
「あ、はい。こっちが前年度の予算で……」
千尋にいろいろと質問しながら、仕事を理解していく。
気が付くともう夕日が落ちかけていた。
「よし、今日の活動はここまでだ」
美鶴の号令で、皆が片付けを始める。
「私たちも終わりにしましょうか」
「そうだね、ありがとう」
千尋のノートにあったデータは非常に量が多く、しかし丁寧にまとまっているので非常にわかりやすい。
ちなみに美鶴が評価しているのは緻密な作業を正確に素早く行える彼女の事務能力である。
「い、いえ。かえってすいません。私の拙い説明で……。でも、有坂さんは話しやすかったです」
「そう?」
湊は首を傾げる。
「はい。私が言葉思いつくの待ってくれますし、言い切れなかった部分も理解してくれますし……」
千尋は高い事務能力の変わりに、人とのコミュニケーション能力が低かった。
とくに異性相手となると、まともに会話を続けられない。
そんな千尋にとって、落ち着いていて理解力の高い湊は非常に楽な相手なのだろう。
そして、その二人の様子を見て美鶴はまた満足げな表情を浮かべる。
小田桐と千尋という対極な性格をもつ二人のどちらともいい関係を築ける湊を見て、美鶴は自分の判断が正しかったと確信した。
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