episode.1 -The Priestess-
episode.1-4「一人ではない故の」4/21
「紹介しよう、彼が新入部員の有坂湊だ」
部活は新たな出会いの場だ。
先輩、後輩、顧問、マネージャー。
その始まりとして、自己紹介的な場は当然設けられる。
この前ためしに射てみたときは練習日ではなかったため、男子弓道部の面々とは顔をあわせていない。
今日は練習日ということで、部員全員と会えるということだったのだが。
――目の前には知ってる奴だけしかいないっていうのは目の錯覚か……?
目新しさを感じないその状況に、湊は頬をかいた。
episode.1-4「一人ではない故の」
目の前には宮本、そして結子がいる。
加えて先程の声の主、弓道部男子部のキャプテン木野勇治が隣にいる。
しかし、この自己紹介という儀式を前に、この場にその他の人間は存在していなかった。
「えっとキャプテン、自己紹介もなにも知ってる人間しかいませんし。他の部員の方は?」
「いない!」
――清々と言い切るな……。
混乱する湊に結子が説明する。
「あ〜、もともと木野先輩の代は人数すくなくてね。その上何人か辞めちゃって。なのに次の年の新入部員は私とミヤだけ。その後結構勧誘頑張って何人か入れたんだけど、ミヤと木野先輩は県でもトップレベルの選手だからついてく自信なくしてみんなすぐ辞めちゃったのよ」
木野が高揚した口調で続ける。
「だからこれまで団体戦はでられなかった。しかぁし!三人目のお前が来た今怖いものなどない!」
「そうッスね勇治さん!次の大会は団体で全国に行きましょう!」
勝手に盛り上がる木野と宮本。
なにか危険な雰囲気を感じる湊に、結子が耳打ちする。
「あらら、この様子じゃ練習ある日は毎日強制連行だよ」
「え、僕きっと毎回くるのは無理だと……」
「あの二人が妥協してくれると思う?おそらく授業終わり次第拉致にくるわね。用事あるときは頑張って逃げるのだよ☆」
☆つきで言われたが、どうやら助けてはくれないらしい。
自分の身は自分で守る必要があるようだ。
「よし、じゃあ早速練習だ!」
左腕を木野に掴まれる。
「はい、キャプテン!行きましょう!」
逆の右腕を宮本に掴まれる。
こもる力は物凄く、身動きすらとることができない。
「今日はお前の実力をもっと見たい。そしてその才能を開花させてやる!」
「俺も最大限手伝うぜ!同じ学年にライバルができんだ、こんな嬉しいことはねえ!」
体に悪寒が走る。
体力には自信のある湊だったが、二人の熱い目を見ていると練習を耐え切る自信がなくなっていく。
「「目指せ全国!!」」
ずるずる。
そんな漫画チックな音をたてつつひきずられていく湊にむけて、結子は十字を切った。
「弓道ってこんな疲れる競技だったか……?」
練習が終わり皆が帰った後、一人玄関で座り込み、ほとんど動かない右腕を押さえながら湊は呟く。
あの後の練習はまさに地獄だった。
まずアップでランニングしたあと体操。
次に腕立てやら腹筋やら筋トレをし何セットもこなす。
そして基本の型の練習をしたあと、実際に的に向かう。
このときにもう少し初心者らしく失敗ばかりしていればここまでしごかれることはなかったかもしれない。
シャドウを相手にした実戦とは多少感覚が違うものの、何本も射るうちにみるみる的中率があがっていった。
そしてそれを見た木野と宮本のテンションが上がってしまい、ひたすらコーチされてしまった結果が今の湊の有様である。
「お疲れ〜、見てたよ。大変だったね」
顔を上げるとゆかりがいた。
弓道場は一つしかないため、人数の少ない男子部は専ら女子部と一緒に練習を行っている。
湊の惨状は、ゆかりにもしっかり確認できたはずだ。
「期待してくれるのはうれしいんだけど、ね」
湊は苦笑いしながら答える。
「腕、ほっといたら明日惨いことになるよ?……ちょっとごめん」
ゆかりが湊の腕を抱えながらバッグから湿布と包帯をとりだす。
「そんな大げさにしなくても……」
「ダーメ。大事なリーダーなんだから。自分の体は大切に!」
ゆかりは湊の隣に座り込んだ。
湊は観念して腕を預ける。
「……ところで、さ。キミはどうしてタルタロスで変わるの?」
ゆかりが包帯を巻きながら湊に尋ねる。
その問いの意味するところが分からず、湊は首をかしげた。
「この前初めてタルタロス入ったとき、キミの表情見てびっくりしたんだ。いつもの有坂くんじゃない、ってね」
「……怖かった?」
ううん、とゆかりは首を振る。
「むしろ逆、かな。安心できたよ。浮き足立ってた私や順平と違って、有坂くんは冷静で、強さみたいなのを感じた」
でも、とゆかりは続ける。
「同時に不安げにも見えたんだよね。……気のせい、かな?」
少し図星を突かれ、湊は驚いた。
一呼吸おいてその問いに答える。
「一人で戦ってるのとは違う、ってことかな」
「え?」
「ここに来る前は一人でシャドウと戦ってた、ってのは言ったよね?」
頷くゆかり。
「そのときは一人であるが故の不安があったけど、今は一人ではない故の不安がある。昔よりずっと大きな、ね」
「一人ではない故の不安?」
「……僕は、仲間を失うことが怖い」
率直に湊は言う。
いままで自分の周りに、一緒に戦ってくれる人間はいなかった。
それは、湊が一人ですべてを抱えていたことを意味する。
そのため互いに助け合える仲間ができたことは、湊の中で非常に大きかった。
だからこそそれと同時に、その仲間を失うことへの恐怖も生まれる。
「僕は今暫定的ではあるけどリーダーだ。もし誰かが危険になったらそれは僕の責任だ。……僕が仲間を殺すってことだ」
ゆかりは言葉を失う。
影時間で戦うことを軽く見ていたつもりはない。
だが、湊の持つ覚悟は自分のそれを大きく上回っていた。
「んまあ、人のことばっか気にしていられるほど僕自身が強いわけじゃないんだけどね。僕もやられちゃ話にならないし」
いつもの口調にもどって、笑いながら言う湊。
つられてゆかりも笑顔になる。
ちょうどゆかりのテーピングが終わった。
「これでよし、っと」
「ありがと、寮まで一緒に帰ろっか?」
「うん、そうだね!」
湊とゆかりが立ち上がったその時。
「おい、押すな!!」
「だってよく聞こえないんだもん!!」
「結子、静かに、ばれちゃうでしょ!!」
「ちょっ、危ない。どわぁ!!」
声を低めた会話の音とともに、廊下の曲がり角から人が崩れ落ちてくる。
宮本、木野、結子、そして女子弓道部らしき数人。
「……。」
「……あんたたち、一体なにやってんの?」
呆気にとられて無言の湊を尻目に、ゆかりが怪訝な口調で問いただす。
代表して宮本が答える。
「いや、着替え終わって帰ろうと思ったっけ湊とゆかりちゃんがいい雰囲気で話してるからさ〜」
「んなっ!?」
慌てるゆかりを流しつつ女子弓道部の面々が続ける。
「ゆかりが男の子とあんな感じで話すのって珍しいと思ったし、これは観察せずにいられるか!と……」
「あ、あんた……」
「大丈夫、会話はほとんど聞こえなかったから!」
「いや、それ大丈夫と違うし!」
「邪魔してごめんね〜、けど有坂くんとのウ・ワ・サ♪本当だったんだね〜。ついにゆかりも乙女に……」
「だから違うってば〜〜!!」
多方面からのすべての言葉にもれなくツッコミをいれるゆかり。
男子部は男子部で勝手に騒いでいる。
その様子を見つつ湊は彼は投げやりになった時の口癖をつぶやいた。
「……どうでもいい」
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