episode.7 -The Hanged Man-
episode.7-7「決行前夜」11/2
「あの、桐条先輩の戦う理由ってなんですか?」
「……私か?」
今日は生徒会に顔を出そうと思い、生徒会室の手前まで来たところで、聞き慣れた声が中から聞こえてきた。
美鶴と、そして何故生徒会室にいるのかわからないがゆかりの声。
ドアノブに掛けた手を引っ込め、背中を壁に預ける湊。
「……私の戦う理由は贖罪だ。昔も今も、変わらない」
「そう、ですか」
美鶴の、静かな声。
贖罪といっても、彼女の罪ではない。
彼女の父が危惧している通りの言葉。
「私は戦う理由なんて、ないんです。お父さんのこと、わかっちゃったし」
「……」
対して、ゆかりはどこか諦めた風に語る。
「みんなを守るため、っていうのはあるけど、それは自分の理由じゃないじゃないですか。他の人が戦うのを辞めたら、自分も理由を失うなんて」
「岳羽……」
「ハハ、戦う理由なんて、今更探すなんて間違ってますよね。もう、終わるんですから。……終わらせましょうね、先輩」
「……そうだな」
次の作戦が、最後。
その作戦日は、必ずやってくる。
「……っと、そろそろ生徒会の人間が顔を出すころだ。話なら後でも聞くが?」
「いえ、大丈夫です。勝手に部屋使ってすいませんでした。じゃ、失礼します」
美鶴に礼を言ってから、生徒会室を出るゆかり。
当然、すぐ近くにいる湊に気付く。
「……湊くん?」
「ごめん、聞いてた」
「盗み聞きとか、趣味悪いよ?まあいいけどさ」
軽く釘を刺される。
聞かれたくなさそうな話題が出れば立ち去るつもりだったが、あまり褒められた行動ではないのは確かだ。
「戦う理由、か」
「湊くんは、はっきりしてるでしょ」
「まあ、ね」
それぞれが、それぞれのために戦っている。
ゆかりもその一員だったが、彼女の根本を揺るがす事態が起きて。
彼女はまだ父親のことを信じているのだろうが、そう簡単に貫けるものではない。
ゆかりは、迷いながら道を模索している。
「ゆかりも……」
「え?」
「信じてる、でしょ」
「……うん」
再確認の問い。
それに肯定が、上っ面ではない肯定が返ってくると信じた上での問い。
そして、期待通りの答えが返ってきた。
episode.7-7「決行前夜」
「ついに、明日か」
順平が唸る。
最後の作戦を前に、特別課外活動部はミーティングを行っていた。
特に目立った作戦というものは立てていないが、最後の意志統一といった感じだろうか。
「ああ、そうだな。ようやく、最後の戦いだ」
自信たっぷりに返すのは真田。
真田は荒垣の死以来、いままで以上に自分の力を信じている。
「みんな、これまでよく頑張ってくれた」
労いの言葉を告げたのは、美鶴だ。
「君たちがいなければ、ここまで来ることはできなかっただろう。感謝している」
最初は美鶴一人であったという特別課外活動部。
それに真田が加わり、荒垣が加わり、湊たちが加わり……荒垣が抜け。
その特別課外活動部をまとめてきたのはリーダーである湊ではなく、美鶴なのだ。
「最後の大勝負、絶対に勝とう。私たちなら、できる」
力強い美鶴の言葉に、頷く面々。
「……ミーティングはこれで終わりだ。今日はゆっくり休んで、明日に備えてくれ」
寝るには少し早いが、そろそろいい時間ではある。
解散の合図に、それぞれがラウンジを離れていく。
――明日が十二体目のシャドウ、か。
おそらくは、睦とストレガも。
死力を尽くして、自分たちを止めに来る。
「……天田」
「はい?なんですか湊さん」
少し思うところがあり、ラウンジの隅へと移動して本を読もうとしている天田に声をかける。
今までは作戦前に特別コミュニケーションを取ろうとはしていなかったのだが。
「別に何もないんだけどね。最後の戦いの前に、少し話したいなと思ってさ」
「珍しいですね、湊さんがそんなこと言うなんて」
「……まあね」
なんとなくだが、決戦を前に皆の様子を知っておきたかった。
不安のせいかもしれないし、そうではないのかもしれない。
「僕のことは、心配しなくても大丈夫ですよ。ちゃんと色んなことと向き合って、前に進めるようになりましたから」
「……そっか」
そう語る天田の目には、気負いがない。
無理をして大人ぶっていた以前とは違う。
傍らにあるコーヒーがブラックなのは、変わらないけれど。
「明日は、僕なりのベストを尽くします。母さんのためにも……荒垣さんのためにも」
「うん……期待してるよ」
「はい」
しっかりと湊を見つめ返す天田に心強さを覚えながら、湊は天田に背を向けて階段を上る。
二階のフロアにはあずさ、順平、ゆかり、アイギス、そしてコロマルがいた。
テーブルを囲う輪の中に、湊も入る。
「明日で終わりってのも、なんか実感湧かねえよな。いつの間にかシャドウと戦うのが日常になっちまってたから」
「……まあね」
順平が天井を見つめながら語り、それにゆかりが同意する。
「そいや睦はどうやって助けんだ?」
「……影時間が終わるまで互いに死なないようにする、って策しかない」
影時間がなくなれば、必然的に睦が我を失う時間が無くなる。
となるといつも通り、睦を牽制しつつ巨大シャドウを倒すことが一番確実だ。
もっとも、最後の戦いが死闘になり、その難易度も飛躍するのは間違いないのだが。
「大丈夫だよ~、ウチが愛の力でなんとかしてあげるから」
「おい……」
「噂に聞くラブパワーでありますね。なるほどなー」
「どこから突っ込んでいいやら……」
頭を抱える湊とゆかり。
「いいねえ、俺もチドリンとの愛の力で……」
「ワウッ、ワウン!」
「妄想には付き合ってられない、でありますか?」
「ヒドッ!?……まあこの影時間自体、妄想みたいなもんだけどな。現実とは思えねえよ」
それは、確かにそうだ。
「……そだね。夢だったみたいに、無くなっちゃえばいいのに」
「……」
そう呟いたのはゆかり。
この戦いは誰にも知られることなく……終わりを告げる。
自分たちだけに、様々な爪痕を残して。
「ごめん、余計なこと言ったね。……そろそろ部屋戻ろうよ」
「ああ、そうすっか」
はけていく面々。
それぞれの表情には、緊張や不安、高揚が混じり合っている。
「……風花にも、声掛けておくか」
湊も続いて部屋に戻ろうかと思ったが、思うところがあり階段の方へと足を向ける。
多分彼女は、作戦室でデータ集めをしているはずだ。
三階を通り過ぎ、階段を上りきったところで、少し大げさな扉を開ける。
「あれ、湊くん。どうかしましたか?」
モニターと睨めっこをしながら、十本の指をこれでもかというくらいに駆使しているのは、風花。
湊が現れたのに気付き、その手を止める。
「一応確認をと思ってね」
「……十二体目の巨大シャドウを倒した後、のこと?」
「うん」
正直、聞くまでもないことだっただろうか。
風花に任せておけば、まず問題はない。
そんなことは、よく知っている。
「でも、みんなには言わなくていいの?」
「確実な話じゃないからね。余計な心配はかけたくないし……正直、僕もまだ信じたいから」
「……わかった」
あまり冷静な判断ではないかもしれない。
このことで、余計なリスクが増える可能性もある。
でも、湊はこの判断が最善だと信じている。
「それじゃあね、風花。明日は頑張ろう」
「うん。湊くん、今日はゆっくり休んでね」
絶対に、負けられない……全てに。
――あとは真田さんと美鶴さんだけど……。
どうせなら、全員と話をしておきたい。
確か二人は一階に居残っていたはずだ。
「あれ、天田?」
階段を下りていく途中で、天田とすれ違う。
持っていた文庫本はまだ途中のようで、指をページの間に挟んでいる。
「下、降りない方がいいと思いますよ。別に何かしてるわけじゃないですけど、二人にしておいた方が」
「ん?」
軽く覗き込むと、壁に背を預けて会話する真田と美鶴がいた。
その表情は、二人とも柔らかい。
「……そっか」
踵を返して、湊は自室の方に向かう。
荒垣と真田とはまた違う、固い絆で結ばれている二人。
信頼し、信頼され、長い間二人でこの部を作り上げてきた。
「それじゃ湊さん、おやすみなさい」
「おやすみ」
部屋の前で天田と別れ、湊も自室に入る。
ごろん、とベッドに横たわる。
――明日、か……。
「こんばんは」
「……ファルロスか」
回想を打ち破ったのは内に宿す死神、ファルロス。
少し前にも来たのだが、今日はやはり特別なのだろうか。
「いよいよ明日だね……気を付けて」
「それでいいの?僕は死神を消そうとしているんだよ」
「いいんだよ。僕とキミは、友達なんだから」
矛盾した応援。
ファルロスの心の内は、読めない。
心だけでなく、存在も、何もかも。
結局解き明かすことができないまま、ここまできてしまった。
「でも……」
「ん?」
「でも、永遠に続くものなんてない。僕らの友情も、そうなのかもしれない。元々、相容れない関係なんだから」
「……」
長い間ずっと一緒に居た、死神。
睦と自分の間を行き交いながら、ずっと。
「……また、会えるといいな。それじゃあね」
そう言い残して、ファルロスは見えなくなる。
意識が途切れるそのときまで、湊の思考はぐるぐる回っていた。
どうも、ぬじまきです。
P3P発売&クリスマス&お正月記念と銘打ちまして、『Episode Myself』の作者そうじたかひろ氏とのコラボ作品『巌戸台分寮最強決定戦』が完結致しました。
本編とは違うサイドストーリーを、是非お楽しみください。
巌戸台分寮最強決定戦
死神の破片 ver
http://ncode.syosetu.com/n3110j/
Episode Myself ver
http://ncode.syosetu.com/n1666i/
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。