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episode.7 -The Hanged Man-
episode.7-4「原点回帰」10/19

「湊くん、これなんだけど……」
「ん?」

風花が指さしたディスプレイを見ると、いくつものウインドウが開かれていた。
その全てに、心電図のような波形が示されている。

「これね、音声の周波数を図示したものなんだけど、ちょっと不自然なんだ」
「不自然?」

これはゆかりの父親が残したビデオを風花が解析したもののはずだが、不自然といわれても、自然な状態がどのようなものかすらわからない。

「拡大するとわかるんだけどね、ここがぶれてるの」
「雑音が入ってるとかじゃなくて?」
「うん。雑音じゃこんな形にはならないんだ。もっとも、意図的に分かりにくくされてるけど……」

言われてみれば、他の部分とは確かに形に違いがある。
かなり拡大をしているので、これを見つけた風花には敬服するばかりだが。

「となると、やっぱり……」
「うん。……この映像は、誰かに加工されたって考えていいと思う」

初めてこれを見たときに、感じた違和感。
どこか文面につじつまが合わない気がしていたのだ。
その違和感が、理屈をもって証明された。

「このこと、ゆかりちゃんには……?」
「言わない。絶対正しいってわけじゃないし、それに正しかったとしても……もっとひどい内容かもしれないから」

せっかく吹っ切れてきた彼女を、不確実な情報でまた悩ませるわけにはいかない。

――けど、状況的にはかなりブラックだよな。

不審なのは、ビデオだけではない。
屋久島で資料を探していたときにも、データのファイルナンバーが飛んでいることに気付いた。
触れられたくない情報を、意識的に消去した痕跡である可能性がある。

「……」

思考が、巡っていく。



















episode.7-4「原点回帰」


















「さって、今日は部活も無いし……」

定期試験が終わった次の週の頭。
結果も張り出され、一喜一憂するクラスメイトを尻目に帰宅準備をするゆかり。

――やっぱり成績落としちゃったな……ってか前回だって悪かったのに、これじゃまずい?

先ほど見た自分の成績は、平均点付近。
いつもより低めに位置している。
父親のことで勉強に集中できていなかった前の定期試験と、どっこいどっこいな成績だ。

――もしかして私、他の寮生と比べられたら順平と同類?うわ最悪。

今回も十位以内に入った湊、嘘ではなく確かに優秀だったあずさ、親に医学部を薦められている風花。
アイギスを入れたとしても、成績で特別課外活動部を半分に分ければ自分は順平と同じ側になってしまう。

「ゆかり」

軽く憂鬱になりながら教室を出ようとするゆかりを、呼び止める声があった。
振り返るとそこにはその成績優秀者の一人、有坂湊がいた。

「どうしたの?湊くん」
「今日部活ないでしょ?ちょっと遊びに行かない?」
「へ?」

思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。
今のはつまり、デートのお誘いだろうか。

「実はライブのチケット手に入ってさ」
「ライブ?……あ、もしかして川村ゆみの?」
「そ、知ってたんだ」
「そろそろあるって話はね。すっかり忘れてたけど」

近々、湊が学園祭で歌っていた『Burn My Dread』や『キミの記憶』の川村ゆみのライブがあると聞いていた。
荒垣の件もあり色々余裕がなくて、特に行く予定も立てていなかったのだが。

「ね、行こうよ」
「うん!行く行く!」

彼女のファンとしては、期待せざるを得ない。

「ライブは夜からで時間あるから、ポロニアンモールで時間潰してからにしよ?会場までモノレールで一本だし」










「ね?ね?これかわいくない?」
「テンション高いなあ……かわいいけど」
「いいの!こういう綺麗なものに囲まれてたら仕方ないじゃん」

若干あきれ顔の湊を従え、ゆかりはBe Blue Vというアクセサリーショップに来ていた。
ここに来るまでも、商店街を歩きまわっていろんなものにチェックを入れた。
別に何か買う気というわけではないけれど、こういうものは見ているだけで楽しい。

「女の子は好きだよね~。あずさはあんまり興味ないけど」
「まあ、そんな感じはするね……あ、これいいな~」

今度はガラスケースの中にあるネックレスに目を移す。
シックな質感とデザインが、高貴な雰囲気を演出している。

「なんか大人っぽい感じだね」
「うん、こういうの似合う女になりたいな~」

世に言われる『かっこいい女』というのに、少し憧れがあって。
そのわりに自分の買うものはピンクのかわいい系のものだったりと、実践には至ってないのだが。

「似合うと思うけど、こういうのも」
「ん~、いまいち自信ないんだよね。背伸びしちゃってるんじゃないかな~って」
「じゃあ、こういうのは?」

軽く周りを見渡してから湊が指さしたのは、さっきよりも色使いが少しかわいらしい一品。
個人的には割と好みである。
今の自分に身分相応な感じがするのも、含めて。

「私は好きだな~。この彫刻も素敵じゃない?」

それを聞くと、若干安堵したような表情を浮かべる湊。
自分のセンスが否定されるのが怖かったのだろうか。

「こんなところかな。次、行こ!」
「ん、そろそろ時間じゃない?早めに行かないと混むだろうし」
「え?もうそんな時間?」

時計を見てみると、すでに結構な時間を回っていた。
告白以来、湊と二人で遊びに出掛けたのは初めてなせいか、時間の流れが速く感じる。

「……あ、ごめん、相模さんに頼んでたものあるんだった。ちょっと待ってて」
「わかった」

そう言い残して、湊は骨董屋へと消えていった。
骨董屋ではその主人の相模によって、タルタロス用の道具を調達してもらっている。
数分して、湊が戻ってきた。

「お待たせ、じゃあ行こうよ」
「うん!」

勢いよく返事をするゆかり。
大好きなアーティストのライブに、期待で胸が膨らむ。










「あ~もう、なんなのこの雨は!」
「うん、この雨は……やばい」

どしゃぶりの中、湊とゆかりは駅へと歩く。
もはや服の濡れ具合など気になる次元を通り越して、傘を買おうという気にもならなかった。
もっとも、傘を買ったところでこの雨の浸食を防ぐことはできないだろうが。

「でも凄いライブだったじゃん。雨で逆にテンションも上がったし」
「まあ、ね。ゆみさんカッコよかった……」

野外ライブだったため、途中から降り出した雨を延々と受け続ける羽目になったが、それが雰囲気を盛り上げたのも事実だ。
自分自身も、びしょぬれで気持ち悪い感覚というのを感じたのはライブが終わってからの話である。

「これじゃ風邪ひいちゃうよね。門限もあるし、急いで帰らないと。……ん?」
「……??どうしたの、湊くん。わっ……」

一瞬訝しむような表情を見せた後、ゆかりは湊に左腕で引き寄せられた。
隠す様に抱きかかえられ、冷たい服の奥から微かに彼の体温が感じられる。

「な、なんで急に……」
「別に~、デートらしくしとこうと思って」

軽い口調の湊。
気になって、先ほどまで湊の視線が向いていた方向を見ると、舌打ちするガラの悪い男たちの姿があった。

――え、もしかしてコレが原因?

噂に聞く独占欲、とかいう奴だろうか。
あまり湊がそういうことを気にするとは思えないのだが、そうだとすると少し嬉しい気もする。

――って違うか。私がこういう奴ら嫌いなの知ってるから、だよね。

こういう部分の気配りを、湊はさりげなくこなしてくれる。
時々その過保護さに不満を持たなくもないのだが、基本的には嬉しい。

「げ……」
「どうし……うわっ」

そんなことを考えながら歩いていると、急に湊が立ち止まって呻き声を上げた。
ようやく駅の入口に辿り着いたのだが、その先に大きなボードが置いてあった。
そのボードには『大雨により線路の不良が生じ、列車の運行が不可能となっております。復旧まで数時間を要する見込みです』との記述がある。

「どうしよう。運転再開まで待ってたら門限に間に合わないしこの格好だし、さすがに雨の中ここから歩くのは……。タクシーのお金なんてもってないよ私」
「僕も、さっき使いきったし……」

ただでさえ風邪をひきそうな状態なのに、待たされるとなるとかなり辛い。
なにより、この大雨である。
駅構内で待ったとしてもぎゅうぎゅう詰めの中、不快な思いをしなければいけない。

「……そうだ、今日は家に帰ろっかな」
「だから帰れないから困ってるんじゃない」

湊の言葉に、ゆかりが素早く突っ込む。

「いや、寮じゃなくて実家の方。つまりあずさの家だから、ゆかりの着れる服とかもあると思うし。どう?」
「ここから近いの?」
「うん、せいぜい歩いて十分くらい」

確かに、それなら最良の選択肢かもしれない。

「あの、迷惑じゃない、かな?」
「大丈夫、あの夫婦ならむしろ喜ぶ」

夫婦とはつまり、あずさの両親でもある、湊の叔父叔母のことだろう。

――あ、湊くんの義理の両親でもあるのか。

あまり昔のことは聞いていないが、こんな気軽に家に帰ろうとするのだから、きっといい家族関係なのだろう。

「じゃあ、お邪魔していいかな?」
「了解」

ゆかりの返事を確認して、湊は歩きながら携帯電話を取り出す。

「あ、もしもしおばさん?湊だけど……ちょ、ストップ、ごめんって、顔出さなかったのは悪かったと思ってるから!」

いきなりなにやらどやされている様子の湊。

「で、本題なんだけど」

しばらく押し問答が続いた後、ようやく湊がきりだした。

「今日家の近くにまで来たんだけど、雨で列車とまって立ち往生しちゃってさ。そっちに泊まりに行っていい?……うん、ありがと。急でごめんね」

湊の歩く方向について行きながら、ゆかりは会話の様子を窺う。
どうやらOKが出たようだ。

「あ、あと僕だけじゃなくて寮の仲間の女の子一人も一緒だから……ん、まあそんな感じ。……余計な気は使わなくていいから。じゃ、頼むね。あと十分しないで着くから……はーい」

電話を切る湊。

「……ねえ、両親は影時間の事知ってるの?」

湊、あずさ共に転入で月光館学園に来ている。
となると、理由の説明なしにそんなことは不可能な気がするのだが。

「まあ、はっきりとは言ってないんだけど、大体わかってると思う。僕やあずさが、兄ちゃんのために何かしてるって」
「……そっか。でも、不安じゃないのかな?息子と娘が全員よくわからないことしてて」

寮にいる面々は、なんらかの形で家族との不和を抱えている。
だからこそ寮に来ることがたやすかった面もあるのだが、今の会話を聞く限り、あずさと湊はしっかりとした家族の絆を持っている。
となると、親としては精神を擦り減らす日々を送っているのではないだろうか。

「うん……。でも、それでもおじさんやおばさんは僕たちを支えてくれてるから。あと少し……」
「……」

少し意地悪なことを聞いてしまったかもしれない。
そんなことは、当の湊は間違いなく分かっているわけで。
温かい家庭というものを忘れてしまった自分の、ちょっとした嫉妬だろうか。

――って、本当の両親はもういないのに、こんな考え方は酷いか。

自分で反省して、黙々と歩く。
ほどなくして、湊が瀬野の表札がついた玄関をくぐる。

「ここだよ。ただいま~」
「お邪魔します」

湊は寮の鍵と一緒に括られている別の鍵を取り出して、戸をあける。

「みーちゃん、お帰りなさ……あらあらあらあらあら!!」

とたとたと中から出てきたのは、あずさぐらいの娘を持つにしては若々しい女性。
おそらくはこの人が母親なのだろうが、久々に会った湊よりも先にゆかりの方に駆け寄ってくる。

「え、あの何か……」
「ちょっと何このカワイイ子!地球にいていいレベルじゃないわ!どんな非道な手段を使って落としたのよ!」
「何い?宇宙人だと!?……たまげた、これはホントに別嬪さんじゃねえか。よくやった湊!」

母親の次に出てきたのは、おそらく父親であろう、たっぷりとしたひげを蓄えた中年の男性。
予想外の派手な反応に、ゆかりは思わず目を白黒させる。

「……ゆかりがドン引きしてるでしょうが。もう少し落ち着いてよ」
「これが落ち着いていられますか!赤飯!赤飯の準備よ!」
「おう!ちょっとスーパー行ってくる!」
「いやいや、何のお祝いさ。この雨の中出掛けるんじゃない」

一方湊は慣れてるのか、あきれ顔で髪をかき上げる。

「ごめんね、こんなんで。久々だからテンションが上がってるわ」
「……どう考えてもあずさが生まれるね、この家は」

DNAは強し、である。
この環境ならあずさが精製されるのもうなずける。

「えと、一応紹介しておくけどこっちが幸久おじさん、こっちが楓おばさん」
「よろしくぅ!」
「よろしくね」
「あ、こちらこそよろしくお願いします」

あわてて頭を下げるゆかり。
なんとも気さくな感じの夫婦である。

「それより、このままじゃ風邪ひくからお風呂準備してあげて。僕はタオルありゃ後でいいから」
「一緒に入ればいいじゃない。ちょっと待ってね、今お風呂プレイ用の道具を……」
「いらん!さっさとゆかりを連れてって」
「はいはい。じゃあゆかりちゃん?こちらにどうぞ」

手招きに従って、ゆかりは風呂場へと向かう。

「寝巻は用意しておくから、もう入ってて」
「すいません、夜分遅くに」
「い~え。久々に楽しい夜になりそうで嬉しいわよ」

心底嬉しそうな楓の台詞に、少し気が楽になる。

「じゃあ、お湯貰います」
「どうぞ。あ、ちょっと鍵壊れてるんだけど、ちゃんと言っておくから心配しないで」
「あ、はい」

まあ、さすがに湊も幸久も覗きにはこないだろう。

「あと制服だけ干しとくからくれる?」
「すいません」

とりあえず制服とカーディガンを脱ぎ、楓に渡す。

「じゃあ、ごゆっくり」

それを受け取り、いそいそと出ていく楓。

――なんていうか、あったかい家だな……。

自分がこんな環境にいたのは、ずっと昔。
まだ父親が生きていたとき。
さすがにここまではっちゃけた空気ではなかったけれど、自分にとって最も心地よい空間だった。

「家族、か」

下着も脱いで、風呂場に入るゆかり。
軽くシャワーで汚れを流してから湯船につかる。
お湯が張ってあるのは、きっと電話があってからすぐ準備をしてくれたからだろう。

「気持ちいー……」

冷え切った体へ、徐々に体温が戻っていく。
このまま寝てしまいたいぐらいの脱力感が、ゆかりを支配する。

「着替え、ここおいておくからね」
「あ、は~い。ありがとうございます」

どうやら楓が着替えを準備してくれたらしい。
おそらくは、あずさが置いて行った服だろう。

「……ねえ、ゆかりちゃん」
「はい?」
「みーちゃん、元気にしてる?」

先ほどまでの騒がしい声と違い、不安げな問いが、ドア越しに聞こえる。

「元気、だと思いますけど」
「あの子が家を出たのはもう半年以上前だけど、なかなか話す機会がなくてね。あずさが転校するって決めたときにも、ろくな挨拶もなし」
「……あのバカ」

あずさの件のときには、湊もタルタロスに閉じ込めらて怪我を負ったりで、余裕が無かったのはわかる。
でも、落ち着いたときに顔を出すぐらいはすべきだっただろう。

「別に文句をいうつもりはないのよ。あの子なりの考えがあるだろうから。でも、親としてはやっぱり不安だから」
「……湊くんもあずさも、しっかり歩いてます。でも……」

ここで気休めの言葉を吐くことは簡単だが、ゆかりはそれが間違ってると思った。

「でも、いっつも自分の辛いことを見せてくれないです。もっと頼ってくれていいのに……」

素直な感情を、ゆかりは吐露する。

「……そう、よかった」
「え?」

しかし、返ってきた反応は、予想外のものだった。

「よかった……ですか?」
「うん。それを理解してくれる人が、傍にいてくれてよかったなって」
「わ、私は何も出来てなくて……」
「いいの。心配してくれる人が傍にいるだけで、救われるものなんだから」

自分は何もできていないと思うのだが、それでもいいと楓は言う。

「あの子たちは何か隠してることさえ隠せちゃうからね。頭が回るのも困りものよ。でも、ちゃんと理解してくれる人がいるなら……」

表情はわからないが、声からは安堵が窺える。

「長話しちゃったわね。……あの子たちが何も言わないのなら、私は何も聞かないつもり。でもあの子たちが帰る場所は、絶対に無くさない。それが私たちの仕事」

あの子たちとは湊、あずさ。
そしてきっと、もっと昔に家を出た睦のことだろう。

「ゆかりちゃん、傍にいてあげてね」
「……はい」
「ありがとう。じゃあ私はしなきゃいけないことがあるから」

楓の足音が遠ざかる。

「……あっつ~」

ずっと湯船につかっていたので、少しのぼせてしまった。
ゆかりは手早く体を洗ってから、脱衣所に移動する。
用意してあったタオルで体を拭き、着替えを手に取る。

「……何、コレ」

また、ゆかりの目が点になった。










風呂からあがって寛いでいると、来客があった。

「ゆかり、ちょっと入っていい?」
「湊くん?あ、えっと……どうぞ」

カチャ、という音と共にゆかりの部屋に入ってくる湊。
ゆかりの部屋といっても、あずさが使っていた部屋なのだが。

「……なんでバスローブ?」
「し、仕方ないでしょ!これしか用意してくれなかったんだから!」

当然ながら、突っ込みが入る。
そう、楓が用意していた着替えは、なぜかバスローブだった。
曰く、それしか寝巻として使えるものがなかったそうだが、明らかに確信犯に思える。

「って湊くんもバスローブじゃない。どんだけこの家はバスローブ好きなのよ!」
「……わからない」

もしかしてあずさの寝巻はバスローブなのだろうか。

「で、どうしたの?こんな恰好で恥ずかしいから、あんまり見てほしくないんだけど……」
「すぐ終わるよ。はい、これ」

湊が差し出した手には、ラッピングされた箱が乗っている。

「……?何これ?」
「今日、誕生日でしょ。ゆかりの」
「え……あ!」

すっかり忘れていた。
今日、十月十九日は確かに自分の誕生日である。

「覚えててくれたの?」
「ゆかりも誕生日プレゼントくれたじゃん。その時に風花に聞いたんだ」
「ありがとう……開けていい?」
「うん」

包み紙を丁寧に解くと、中から出てきたのはペンダント。
かわいらしさと大人っぽさを併せ持つ、なんともいえないデザインだ。

「わぁ……。湊くん、私ケッコー本気で嬉しいかも……」
「よかった」

そういえば、こんな雰囲気のペンダントを、Be Blue Vで湊に評価を尋ねられた。
好きだと答えたときの湊の安堵は、プレゼントを自分が気に入るかどうかの不安からだったのだろう。

「……あれ、このチェーン。湊くんのペンダントと同じ?」
「え、嘘……あれ?本当だ」

チェーンはシンプルなものだが、形状や質感を見ても、全く同じである。

「相模さんめ……勝手にチェーン変えたな?」
「あ、は。あの人ならやりそう……」

自分同様、湊も骨董屋で注文したのだろう。
そして主人の性格からいって、勝手にペアルックに揃えるぐらいのことはやりそうだ。

「……大切にする。本当にありがとう」
「どういたしまして」

優しい頬笑みを浮かべる湊を見て、ゆかりも表情を崩す。

「じゃ、それだけだから。もう遅いし、明日は朝一で寮に帰らなきゃいけないから、寝とかないと」
「え、あ、そうだね……」
「……」

少し味気ないと思ったのがばれたのか、部屋を出ようとした湊が、戻ってくる。
そして。

「……!!」

そして湊はゆかりの髪を軽くかきあげて、おでこにキスをした。
思わず、身が強張る。

「おやすみ、ゆかり」
「……おやすみ、なさい」

――なんで、こんなことさらっとできるのかな……。

湯上りであることが理由ではなく、体が火照る。
恥ずかしさで、まともに顔を上げていられない。
湊が部屋をでたら、すぐにベットに突っ伏そうとゆかりは決めた。

「……プライバシーって言葉知ってる?」
「今の情報化社会には大切なものよね~」
「そうだな、だが時としてプライバシーは知る権利とぶつかり、駆逐される」

だが湊が部屋を出るより先に、次の問題が降りかかってきた。
湊が冷めた目で見下ろしているのは、ドアの前で聞き耳を立てていた幸久と楓だった。

「何してるんですかぁ!?」

思わず叫ぶゆかり。

「いやいやゆかりちゃん、うちの息子にどの程度甲斐性があるのかと気になって……」
「余計な御世話だ」

だが楓は意に介さず、とくにバツの悪そうな表情も浮かべない。
湊の言葉も、まるで聞こえていないようだ。

「まあ合格点はやれるな。寂しそうにしていたゆかりちゃんのハートにはぐっときたはず……」
「いやあぁぁ!?」

一部始終を見られていたことに対する羞恥で、ゆかりはますます叫び声を上げる羽目になった。
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