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episode.1 -The Priestess-
episode.1-3「奈落」4/19
仲間がいるということは安心に繋がる。

特に帰心の知れた仲ならなおさらだ。

さらにいえば、仲間が多ければ多いほど安心できる。

だが、今自分のもつこの安心とは無縁の感情はなんなんだろう……。


















episode.1-3「奈落」





















湊とゆかりは、玄関から入ってきた男を見つめたまま呆けている。
今日は新たに影時間適正者が一人加入すると聞いたので待っていたのだが。

「昨日巡回してたらたまたま影時間に動く人影を見つけてな、どうやら適正者のようだから連れてきた」

そう真田は言う。
まだ腕に包帯を巻いている真田が、何勝手に影時間に出歩いているんだというツッコミをいれることもできない。

「いやぁ、なんつーの?俺、実は特別な人間だったみたいな?お前らもそうだって聞いたときはびっくりしたけど、俺が加入すりゃ心強いだろ?」
「……」
「……」

無言を貫く湊とゆかり。
仲間が増えることは喜ばしい。
まして自分と同じクラスの友達となれば。
しかし……

「「……不安だ」」

ポツリと二人そろって呟いた言葉は、どうやらその男、伊織順平には届かなかったようだ。













「さて、シャドウの到来騒ぎで先延ばしになっていたタルタロスの捜索を今日から始めようと思う。新メンバーも増えたことだしな」

順平の引越し作業が終わった後、リビングに集合した面々に美鶴は切り出した。

「先日言ってた影時間の手掛かりがある場所、ですね?場所は?」

湊が尋ねる。

「場所は……君達と縁の深い場所だ。実際に見てもらったほうが早いだろう。ついてきてくれ」

美鶴の後を追い、湊、ゆかり、順平、真田が続く。

「明彦、お前は留守番だ」
「……バレたか」

――バレたかって、バレない訳ないでしょ真田さん。

この真田という人物は、なかなかに変わった人間なようだ。












美鶴の指示に従い、たどり着いた場所。
それは、全く予想だにしていない場所だった。
正確には、予想だにしていない建物だった。

「ってここ俺らの学校じゃないスか!?」

順平が叫ぶ。

「ああ。……もうすぐ影時間だ、見てろ」

その次の瞬間、美鶴以外の全員が驚愕することになった。
信じられない、某プロ野球球団元監督ではないが強くそう思う。
それほど現実とは思えない光景が広がっている。
学校だったはずの建物は激しい音を立て変形していく。
そしてその結果できたものは城のように聳え立つ何か。

――タルタロス、ねえ。誰が付けた名前か知らないけど、ぴったりだな。

湊は落ち着きをとりもどしながらそんなことを考える。
タルタロスとは奈落の神であり、かつ奈落そのもの。
そんな不気味な表現の通りの建物だった。

「何だよコレ、俺たちの学校どこ行っちまったんだよ!!」
「こんなことってあるの……」

順平とゆかりはまだ平静を取り戻していないようだ。
仕方ない、と湊は美鶴に向き直る。

「詳しい説明を聞きましょうか、まあ大体は見ての通りなんだとは思いますけど」

そして湊はそう尋ねた。

「ああ。月光館学園は影時間になるとタルタロスに変化する。それから……」

若干苦々しげに美鶴は続ける。

「あの中についてはほとんど何もわかっていない。無数のシャドウがいること、入るたびに構造がかわること。上の階にいくほど強いシャドウがいること。それくらいだ」
「そうですか。まあ調べていけばわかるでしょう。具体的な侵入方法は……あそこに入り口がありますね」

特に落胆した風もなく湊は言う。
そして、まだ呆けている順平とゆかりに対して

「はら、いつまでも驚いてないで行くよ?」
「……お前よくそんな冷静でいられるな。一体どんな心臓してんだよ?」
「……ホントに」

まだ引き摺っている二人を尻目に。
影時間なんてものがある時点で普通ではないのだから、いまさらそのくらいで驚いてどうすると思う湊であった。
この男は、やはり一般人ではない。

「武器はいくつか用意してある。各自気に入ったのを使ってくれ。あと、私はペルソナでタルタロスの外からナビゲートすることになる」
「えっ、桐条先輩は来てくれないんですか?」

美鶴の説明に、一気に表情が不安になるゆかり。
当然といえば当然だ。
新人三人だけで現場に入ることになるのだから。

「そうしたいところなんだが、ナビゲートに使えるペルソナは私のだけだ。明彦が怪我してなければよかったんだが……」
「大丈夫ッス!!俺らだけでなんとかしますから!!」

いつのまにか復活した順平が能天気にいう。

「また気楽に言っちゃって……」

ゆかりは頭を抱えた。
湊も全くの同感である。

「そこでだ、私はここを離れられないから現場のリーダーを決めてお……」
「はいは〜い、俺に任せてくださいッス!!バリバリやるッスよ!!」

美鶴の言葉が終わるか否かのときに順平が言葉を被せる。
だが、美鶴は順平の存在を無視するように湊に向き直り

「有坂、やってくれるか?」
「……僕ですか?」
「ちょっ!!なんでコイツなんスカ!?コイツなんかよりずっと俺の方が……」

湊が戸惑っている間にも順平は騒ぎ続ける。
美鶴は一つ溜息をつき、順平と向き合った

「彼はすでに実戦を経験済みで、しかも明彦や私でも倒せなかったかもしれない巨大シャドウを倒している」
「え、コイツが……マジで?」

ゆかりに目線を送る順平。

「本当よ。有坂くんがいなかったら、私も危なかったんだから。駄々こねてないで彼に任せなさい」

ゆかりの言葉を聴き、順平はしぶしぶというように引き下がった。

「それでは行ってくれ。くれぐれも警戒を怠るなよ」













タルタロスの中にはいると、不気味な景色が広がっていた。
血塗られた壁、岩石でできたようにごつごつとした床。
所々に月光館学園の面影があることもまたその不気味さを強調していた。

「全員、聞こえるか?今日は初日だからその階の探索だけにしよう。その階にいるシャドウすべてを殲滅してくれ」
「了解」
「了解です」
「ラジャ!」

徐々に歩をすすめる三人

「しっかし気味悪いね。これが学校なんて信じられな……」

信じられなくない?と湊に問いかけようとして、彼の方を向いたところでゆかりは固まる。
湊の雰囲気が普段のそれと明らかに異なっていたからだ。
いつもの明るくて優しい湊ではない。
緊張感に満ちた、全神経を尖らせているような湊の姿。

「ん?まあね」

声だけはいつもの調子で語る湊。
しかし全身から殺気のようなものが感じられる。

――遊びじゃないんだよね

そうゆかりが気持ちを入れなおしたその時。

「前方右四十五度、シャドウ三体くるぞ!!」

美鶴からアナウンスが入った。
見ると影から顔を手を出しているような化物がいる。

「周りを囲むように散って!伊織は攻撃を、岳羽は俺ら二人が攻撃されたら回復して!!」

湊が叫びつつ召喚器を頭に当てる

「オルフェウス!!アギ!!」

火炎の塊が一番近くにいたシャドウを襲う。
シャドウは体勢をくずしたようだ。

「このシャドウは臆病のマーヤ。火炎属性の技がよく効くようだ」

美鶴からシャドウの分析結果が出される。

「了解です。伊織、アギで残り二体の体勢を崩してくれ!」
「任せろ!ヘルメス!」

続けて順平がペルソナを召喚し、二体のシャドウを焼き払う。

「よし、敵が乱れた。総攻撃仕掛けるよ!!」

ゆかりと順平は頷き、全員で三体のシャドウの中に突入する。
シャドウは跡形もなく消滅した。











その後何体もシャドウが現れたが、湊の指揮のもと難なく片付けていく。
美鶴は湊のポテンシャルに底知れぬものを感じていた。

「……ここまでとはな」

素早い動きで敵の攻撃を回避し、適切な攻撃を返すだけでなく、まだ不慣れな感の見える順平とゆかりが危険になればすぐさまフォローをする。
リーダーとしては完璧であった。
もっとも、美鶴は今後彼の内なるポテンシャルを更にみることとなるのだが、それは遠くは無い先の話。
美鶴は三人にアナウンスを行う。

「ご苦労だった、もうその階にシャドウの反応はない。そこを右に曲がったところに脱出ポイントがある。そこから帰還してくれ」













「なんかすっごい疲れた、なんなのコレ……」
「ああ、俺ッチもだ。こんな疲れ方初めてだぜ……」

ゆかりと順平が疲労を口にする。

「影時間での行動は普段よりも体に負担がかかる。それに危険な場所だからな、ここは。今日はもう寮に戻ってゆっくり休んでくれ」

――ん、あれは……?

そう美鶴が告げるなか、湊は青色の扉のようなものを発見した。
それに近付き、ドアをあけると眩い光が身をつつみ……

「再びお目にかかりましたな」

気付くと前回シャドウと戦って気絶していたときに来た青い部屋にいた。

――確かベルベットルームだったか

目の前には老人と女性。
イゴールとエリザベスがいた。

「タルタロスでの戦いを始めて経験されましたな。貴方のご活躍、さすがでございます。ただ……」

イゴールはそれに続けて語る。

「貴方の力はそんなものではございません。本来ペルソナは一人一体しか使えませぬが、貴方は無数のペルソナを使いこなすことがおできになる」

――無数のペルソナ?どういうことだろ……。

「僭越ながら私が新たなペルソナを生み出す手助けをさせて頂きます。あなたの現在の力に応じてより強いペルソナを召喚することが可能です」

――現在の、力?

「貴方の力の源は絆の力。貴方と人との結びつきが、更なる力を生むことでしょう。……そのことをお忘れなさらぬよう」

視界が再び白くなる。
様々な不明瞭な内容を考える間もなかった。
そして、また意識が覚醒する。

「お〜い、有坂。なにやってんだよ。早く帰るぞ!」

順平の声が聞こえる。
目を開けると怪訝な目で湊を見つめる三人がいた。
どうやら他の人間にこのドアは見えていないらしい。

――ベルベットルーム、複数のペルソナ、絆の力……わからないことばっかりだ。

色々なことを頭の中で巡らせながら、湊は他の三人を急いで追いかけた。
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